華家
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No.697
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.16
#お題 #片思い
体を壊さないか、と心配になる。 跡部景吾は、とても忙しそうだ。 次の世代に引き継いだとはいえ、まだ…
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン
お題:リライト様 /束の間の休息
favorite いいね ありがとうございます! 2025.03.16 No.697
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体を壊さないか、と心配になる。
跡部景吾は、とても忙しそうだ。
次の世代に引き継いだとはいえ、まだ頼られる氷帝テニス部前部長。
生徒会の方も会長職についているし、この合宿所ではものすごい量の練習メニューが組まれている。
それをこなした後でさえ、あの男は家の仕事を手伝い、さらに自主トレを行っている。
キャパシティというのは、人それぞれで違うのは理解している。だが、彼のは限度を超えているのではないだろうか。
それでも、彼が疲れた表情をしているところを見たことがない。若干眠そうにしているところを目撃したこと位はあるが、それだって片手で足りる。
睡眠はちゃんと取っているのだろうか? と声をかけようとして足が止まる。肩に置こうと持ち上げた手がそこで止まる。
いつでもそうだ。どうして彼に、「休め」と言えないのか。
友人、だとは思っている。
向こうはどうだか分からないが、俺の方は少なくとも友人として接しているんだ。友人の心配くらい、してもおかしくないだろう。
今もたった一人、氷帝のメンバーに誘われたトランプとやらを断って、コートでラケットを振るっている。力強いインパクト音は、疲れを感じさせない。
跡部のパフォーマンスはいつも派手だが、その裏にはこうしてちゃんと努力が隠されているんだ。
頬を伝う汗が、ライトに光る。ボールを打つ時の息づかいが聞こえてくる。
ああしまった、心配だからといって見に来るのではなかったな。
あの球を受け止めたくなってくる。休ませたいのに、打ち合うことになってしまう。それは駄目だと、陰でふるふると首を振った。
「おい、手塚ァ」
気づかれていないと思ったのに、跡部の俺を呼ぶ声が聞こえてハッとする。
「覗き見とはいい趣味してんじゃねーの」
ぐいと手の甲で汗を拭いながら、こちらを睨みつけてくる。
これはもう隠れている意味がないと、俺は跡部の方へと足を踏み出した。
「すまない跡部、別に覗き見をしていたわけではないんだが。タイミングの問題だろう」
「フン」
跡部が、納得したようなしてないような顔で腰に手を当てる。
おかしいな。いつもならここで、もう二言三言返してきそうなものだが。やはり今はその気力がないのかもしれない。
「……お前は、何をそんなに急ぐんだ? 忙しいだろうに、いつも自主トレまでしている。体は問題ないのか」
「あァ……?」
跡部は、訊ねた俺の言葉に驚いたようで、大きく目を見開く。その目を瞬いて、考え込むように口許に手を当てた。俺はそんなにおかしなことを言っただろうか。
「急ぐ、ね……」
「急ぐという表現が正しいのかどうかは分からないが、普通はキャパシティを超えるだろう」
「テメェに言われたかねーなぁ、手塚よ」
不愉快そうに眉間にしわを寄せて、傍のベンチにドサリと腰を下ろしてしまう。
跡部にとって、それは指摘されたくないことだったらしい。しかも、俺には。どういうことだ、俺は別に急いでいるつもりなどない。
「テメェのテニスだって、他人から見りゃ充分キャパ超えてるように見えんだよ」
睨みつけてくる視線を、俺も視線で押し返す。十秒ほどだっただろうか。跡部が先にそれを反らした。
「……俺は、そういうつもりはなかった。だが、どこかでそう考えちまってんのかもしれねえ。テニス、やれるときにやっとかねえと、ってな」
跡部は苦笑交じりに、俺の問いかけに答えてくる。
指摘されたくなかったことにさえ、真面目に返してくるところは、跡部の誠実さの表れだろう。
「そうなのか。しかし、あまり無理をしない方がいいのではないか? 見ている方は心配になる。氷帝のメンバーは、何も言わないのか」
俺も跡部の隣に腰をかけ、正直に告げた。心配していると。俺なんかよりずっと親しいはずの連中は、何も言わないのか、言っても跡部が聞かないのか。
だが跡部の誠実さを考えると、周りが真剣に心配しているのを無意味に撥ねのけるわけがないな。誰も、言わないのか。
跡部景吾なら、こなせてしまうと思っているのかもしれない。
体力のある内ならできるかもしれない。だけどこんなことを続けていたら、それが〝跡部景吾の当たり前〟になってしまわないか。
時間や体力的な制約ができた後にも、「跡部ならできる」と周りに思わせてしまう。そして、何事にも全力で挑む跡部のことだから、期待には全力で応えてしまうに違いない。
「心配、……してんのか。お前が」
「それはそうだろうう。友人の心配をして何が不思議だ」
「お前が俺を友人だと思ってることが、すでに不思議の領域なんだが」
跡部はそんなことを言ってくる。おいどういうことだ。
「……それ」
そうして、俺の左肩を指さしてくる。まさかとは思うが、あの試合で俺が肩を痛めたことを、まだ気にしてるんじゃないだろうな。
跡部との試合が原因であることは間違いないが、それで跡部に対する思いが変わると、どうして思うんだ。むしろあれがきっかけでお前のがむしゃらさを知って、嬉しかったというのに。
「別に、肩のことは関係ないだろう。そもそもここは完治している」
「ホントに、完治してんのか」
「医者にそう言われた」
「……触れても?」
心配そうに、跡部が手を伸ばしてくる。俺はすぐに頷いた。俺のことを心配するのに、どうして自分のことは心配されないと思うのか。
「痛みも、違和感も特にない。お前の手が触れても、何の問題もないだろう」
「……そうか」
跡部がホッとしたような顔をしてくれる。
肩は本当に問題ないんだが、なぜ今、俺の心臓が鳴ったんだ?
「問題ねえなら、ちょっと……肩貸せ。確かに少し疲れている」
言いながら、俺が了承をする前に跡部が左肩に寄りかかってくる。心配しているという俺の言葉をちゃんと受け止めてくれて、嬉しい。
「十分で起こせ」
「ふざけるな、せめて十五分だろう」
「変わんねーよ」
くっくっとおかしそうに喉を震わせながらも、跡部が俺の方に体重をかけてくる。二十分にしてやるか。
束の間の休息でも、取らないよりはずっとマシだ。
俺の心臓がさっきからひどくうるさいのは、気にしないようにしようと決めた。
今はただ、ゆっくり休んでほしい。
跡部、起きたら一緒にテニスをしないか――そんな言葉も、今は飲み込んだ。
#お題 #片思い