華家
-HANAYA-
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No.694
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.13
#お題 #片思い
ラブ・イズ・ブラインド。 不二がそう口にしたのは、屋上で弁当を食べている時だった。 どうして知られ…
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン
お題:リライト様 /盲目な程、一途に
favorite いいね ありがとうございます! 2025.03.13 No.694
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ラブ・イズ・ブラインド。
不二がそう口にしたのは、屋上で弁当を食べている時だった。
どうして知られてしまっているのだろう、と食が進まない。俺が跡部を好きなことは、誰にも言っていないのに。
「跡部のこと好きなんだよね、手塚は」
正直、勘弁してほしかった。他に誰もいないのならいい(いや良くもない)が、大石や乾、河村や菊丸だっているというのに。
だってそうだろう。
跡部は男だ。俺も男で、あまり歓迎はされない想いのはず。叶わないのは分かっていて、応援もしづらい。気色が悪いと言われることだって想定している。
男子中学生に色恋沙汰は楽しい話題かもしれないが、俺は楽しくない。ナイーブな問題のはずなのに、何をそんなに、夕食の献立でも話すように暴露してくれているんだ。
「……否定はしない」
だけど、好きじゃないとは言えなかった。事実だからだ。
あの男を好きじゃないなんて噓は、どうしてもつけない。
「あ~、やっぱりそうなんだ?」
だが、大石からは拒絶でも軽蔑でもない柔らかな音が返ってくる。
「ここのところ、ずっと跡部の話ばっかりしてたもんね、手塚は」
「フフ、手塚、跡部のパーソナルデータを教えてあげようか。もちろん、このドリンクを飲むという実験に付き合ってもらうけど」
河村もうんうんと頷きながら大石たちに賛同するし、乾はどこから出したのか、怪しい色をしたドリンクを差し出してくる。
「いらん、結構だ」
それにどんな効果があるのかは知らないが、分からないからこそ危険だ。リスクは回避するべきだろう。
それに、
「知りたければ自分で聞く」
パーソナルデータというのがどこまでを指すのか。だが誕生日や好きなものは、直接跡部に聞いた方が早い。それをきっかけにして会話もできる。
皆が「わあ」と感嘆しているような声が聞こえるが、何かおかしなことを言っただろうか。
「手塚って割とぐいぐいいくタイプ?」
「強引そうではあるよね」
「そんなことはないと思うが」
「でも今日も逢う約束できたんでしょ?」
訊ねられて、こくりと頷く。デートか、と乾は言うが、そんなに嬉しくて色っぽいものではない。ただテニス用品を見にいくというだけだ。
そう答えたら、菊丸が「デートじゃん」と返してくる。そうなのか。
「あのさ~、手塚って女の子は駄目とかそういう感じなの? クラスにも可愛い子いっぱいいるじゃん」
「英二、そこら辺はちょっとセンシティブな内容になってくるよ……」
大石が菊丸を諫めているが、今さら何だ。人の恋路を勝手に話題に挙げておいて。
「特にそういった指向ではないと思うが。興味がないというわけでも……ない」
考えてはみるが、菊丸の言う「クラスにもいる可愛い子」というのが浮かんでこない。クラスメイトの顔くらいは思い出せるが、恋愛という意味で好意を持つ相手がいるかと言うと、そういった胸の高鳴りはない。跡部のことを考える時の方がよほどドキドキする。
「じゃあ、跡べーだから好きってだけなんだ。ふーん」
なるほどね~と菊丸が頭の後ろで手を組む。
どうして皆は、俺が跡部を好きなことを当然のように受け入れているんだろうか。誰か一人くらい、「青春の過ちだ」と言ってきてもいいようなものだが。
「具体的に、どういうところが好きなの? 手塚」
不二が首を傾げながら訊ねてくる。
「顔とか」
「跡部目立つからにゃ~」
「声もカッコイイよね。よく通るっていうか、すぐに分かるし」
「でもやっぱり、いちばんはテニスじゃないのか?」
好き勝手に想像されるのはありがたくないが、どれもこれも、好きなもののうちのひとつではある。それだけが、というわけではない。
「跡部のテニスはもちろん好きだ。あのしたたかさには、誰でも惹かれるだろう。だけど打ち合ってみると分かるが、ラケット捌きが繊細なんだ。勉強にもなる。それと」
「それ、長くなるのかな」
訊いてきたのはそちらだろうに、何を呆れているんだ。具体的にと言うから、挙げてみただけなんだが。
「強いてひとつ、というのなら……あの瞳、だろうか。青くて涼やかそうに見えるのに、熱い。跡部の凜とした雰囲気を際立たせている」
恐らく、最初に惹かれた部分だ。まっすぐに前を……いや、上を見据えている瞳は、心地が良い。いつか俺の方にもその目が向けられないものかと思ってはいる。
「手塚がそんなに饒舌だとは思わなかったな。データを書き換えておこう」
「情熱的だね」
「テニスが好きってのはなんとなく分かるけど、それ以外はちょっと俺は分かんないや。応援はするけどにゃ~」
いや、応援は結構だ。否定をしないでいてくれただけでいい。
知られたら、気持ち悪がられると思っていたんだがな……これも個性派揃いだからということなのだろうか。
「跡部の方は、どうなんだろうね。手塚のことどう思ってるのかな」
それは俺も気になるが、訊けるわけがないだろう。俺のことをどう思っているか、なんて。ライバルだと返ってくるのがオチだ。
「好意は持ってるんじゃないかな。嫌いな相手とデート……じゃないか、逢う約束なんてしてくれないよ」
「手塚のテニスには、執着してるっぽいけどな~。恋愛って意味だとどうなんだろ」
「ちなみに跡部には、今まで特定の親しい相手はいないようだよ、手塚」
「えっ、そうなのかい、乾」
乾の話に、興味深そうに食らいつく面々だが、俺だって気にならないわけではない。
もしそういう相手がいるのなら、たびたび逢う約束を持ちかけるのも申し訳ないからだ。
「あぁ~、でもあの跡部に〝付き合ってください〟とか告白するの、無理かも。気圧されちゃうよ」
「それはあるだろうね。手塚も、ためしに言ってみたらいいんじゃない? 新鮮に感じてOKしてくれるかもしれないよ。応援するから。からかってるわけじゃなくてね」
からかっているわけではないと言うが、他人事だと思って、無責任なことを言うのは感心しないな。
「俺は、この気持ちを跡部に告げるつもりはない。混乱させたくないんだ」
ライバルだと思っている相手から、恋なんて告白されたら、困るだろう。
跡部は優しいから、頭から否定して拒絶するなんてことはしないだろうが、だからこそ余計に、困らせたくない。下手をしたら、「お前が望むなら」なんて、好きでもないのに受け入れてしまいそうなフシがある。
「俺は確かに跡部が好きだし、できればそういう関係になりたいとも思うが、中途半端な気持ちで受け止められても困る」
新鮮だからとか、ライバルを無下にできないだとか、そんなことでこの気持ちを受け入れてほしくない。いつかどこかで壊れてしまうだろう。
「俺の恋情のせいで、アイツのあの凜とした青の瞳が迷いに揺れるところは、見たくないんだ」
俺はそう続けて、弁当箱の蓋を閉める。
この恋は叶わないだろう。だがそれを嘆くことはない。ただ俺が、跡部景吾を好きだというだけなのだから。
「先に戻る。ないとは思うが、お前たち、跡部に余計なことを言うんじゃないぞ」
一応の釘を刺して、背を向けた。
「跡部のことが好き過ぎて、見えてないのかな」
「うん……跡部も、どう見たって手塚のことが好きなのにね」
「え~、そうなの!?」
「両想いである確率、74パーセント」
「微妙な数字だね……」
そんな会話が繰り広げられていることも知らないで。
#お題 #片思い