No.692

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止め処ない蒼

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.11

#お題 #両想い

 あ、と吐息のような喘ぎが耳に留まる。 何度目だろうか。跡部景吾を胸の下に抱くのは。 好きだと言った…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

止め処ない蒼

 あ、と吐息のような喘ぎが耳に留まる。
 何度目だろうか。跡部景吾を胸の下に抱くのは。
 好きだと言ったのは、確か十五になったばかりの秋。跡部の誕生日パーティーに招かれて、そこで自分の気持ちを自覚した。
 三日後だった俺の誕生日に、プレゼントは何がいいんだと車で乗り付けられて、「跡部景吾」と言ったのをまだ覚えている。
 正直、もっと気の利いた告白があっただろうと思う。配慮もなければムードもなくて、ただ跡部ともっと親しくなりたかったんだ。
 跡部は困ったような顔をして、視線を泳がせていた。綺麗な蒼が右往左往するのは見ていて楽しかったし、ああやはり綺麗だなと思ったけれど。
 それをもっと近くで見たい。そういう距離にいられる関係になりたい。
『俺のことが好きなのか?』――そう言われて初めて、好きだと言っていないことに気がついたんだ。
 ハッとして頷きながら『そうだ』と返せば、こういう展開は考えてなかったと跡部は長く息を吐いた。まあそうだろうな。俺自身が気持ちを自覚したのはその三日前だったんだから。
『お前が望む物をくれてやりたい』
 そう言ってくれた跡部に、その日はキスだけもらった。それだけでも驚いたのに、『じゃあ今日から恋人ってことで頼むぜ』と付け加えてきたんだ。
 今思い返しても、何から何までおかしい。
 あの時点では、跡部は俺を好きなわけではなかったはずなんだ。それなのにキスを許してくれて、恋人にまでなれた。
 困惑はしたが、取り消しや言い直しなんて聞かないと腕を掴んだんだったな。それも振り払われなかった。
 ただあの蒼の瞳が、面白そうに俺を見ていたのだけは分かる。
 そして――今現在も。
「おい手塚ぁ。何考えてやがんだよ、この俺を組み敷いておきながら考えごととは、随分な話じゃねーの」
 不機嫌そうな声が下から聞こえた。しまったと思う。これは機嫌を損ねてしまっただろうか。
「すまない、今のお前に集中する」
「今のってなん……ん、ぅ」
 中学生の頃の跡部を思い起こしていた、と説明する前に、唇を覆った。閉じられないままの瞳が俺の動向を見守っていて、心地が良い。
 俺はたぶん、跡部のこの蒼の瞳が好きなんだろう。跡部が思っているよりも、俺自身が自覚しているよりも、もっと、ずっと。
 唇の中で舌を絡めて、舌を吸い上げる。びくりと肩が揺れて、跡部の目蓋が落ちてしまった。もったいないなという思いと、濡れた睫毛も綺麗だなという思いが交錯する。
 つまりは、跡部景吾であればなんだっていいのだが。
「ん、んん……」
 気持ちよさそうな声が聞こえてくる。その音だって俺には興奮剤だ。唇を解放して、頬に、鼻先に触れながら体のラインをなぞっていく。
「手塚……」
 吐く熱い息とともに名を呼ばれ、きゅんと胸が締めつけられる。跡部に呼ばれると、昔からこうなるんだ。何か魔法でも使っているのだろうか。
「跡部、そう可愛い声で呼ぶな……せっかく今日こそは優しくしようと思っていたのに」
「名前呼んだだけだろうが……」
「自覚しろ」
 ぐっと強く抱きしめる。胸に食らいついて、立ち上がった乳首を丹念に愛撫し、歯を立てた。
 跡部の唇から断続的な喘ぎが漏れる。体が疼いて仕方がない。やっぱり今日も、優しくなんてできないぞ。
 責めるように、抱く腕に力を込めたら、跡部は蒼の綺麗な瞳で面白そうに笑っていた。


「何が面白かったんだ? 跡部」
 終わった後、髪を梳きながら訊ねてみた。どうして跡部は、ことあるごとにああも面白そうに笑うのか。
「ん?」
「さっき、笑っていただろう。あの表情はよく見かける」
「あー……」
 自覚がないのかとも思ったが、どうやら心当たりはありそうだった。跡部はごろりと寝返りを打って、高い天井を見上げる。
「面白いっていうか、嬉しい、の方だろうな、お前が言ってんの」
「嬉しい?」
 起こした上体を枕で支え、跡部を見下ろす。跡部はこくりと頷いて、綺麗な手を持ち上げた。
「まずお前が俺に欲情してんのが嬉しいだろ。次に、可愛いなんて言われてまあ嬉しくないわけもねえしな。後は優しくできないって言っておきながらも丁寧な指先が、嬉しいんだよ。後は、俺を呼ぶその声がもう、嬉しくて、幸せでしょうがねえ」
 言いながら、指を一本一本折り曲げていく。どうやら、笑っている理由を挙げてくれているらしい。こちらが赤面するようなものを。
「お前も忙しいのに、俺に逢うために時間作ってくれてんのも、嬉しいしな」
「いや、それは俺の台詞なんだが」
 中学生だった頃の方がまだ、自由に使える時間があった。それこそ毎日のように逢っていたな――と思い起こして、ふと違和感。
 跡部に好きだと言ったあの日。
 あの日も、跡部は面白そうに笑っていたのだ。それは今抱いた時の顔とまったく一緒。さっき、よく見かけると言ったのは噓じゃない。あの頃からだ。
 待て。
 じゃああの頃のも、「面白くて」ではなく「嬉しくて」笑っていたというのだろうか?
「……跡部、さっき、俺は考え事をしていたな」
「ああ、ムカツクことにな」
「いやそこで妙な心配をするな。考えていたのはお前のことだ」
 へえ? と跡部の蒼の瞳が揺れる。それこそ、面白そうにだ。なるほど、面白いと思っている時と嬉しいと思っている時は、よく見ると確かに違うようだ。
「ずっと聞きそびれていたんだが、跡部。もしかしてお前、俺のことを前から好きでいてくれたのか? 俺が告白したあの時も、お前は同じ顔で笑っていた」
「……お前は俺を、好きでもねえヤツとキスするような男だと思ってたのかよ」
 呆れたように目を細めて、俺の額を爪の先ではじいてくる。
 俺は、跡部は徐々に俺のことを好きになってくれたのだと思っていた。俺にほだされたと思っていた、というのが正しいかもしれない。
「跡部は優しいから……あるいはそうなのかと。困ったように目を泳がせていただろう」
「そりゃ、驚いたからに決まってるぜ。片想いだと思ってたところに、プレゼントは跡部景吾が欲しいなんて言われてみろ、混乱もする」
 ぐっと言葉に詰まった。逆の立場だったら、それはやはり驚くだろう。
「それでもお前はまっすぐ俺の瞳見つめてきやがるし、噓じゃないんだと思って、嬉しかった」
 言いながら、跡部は笑う。嬉しそうに、幸福そうに。細められた目蓋の奥に揺れる蒼は、やはり俺の好きなもの。
「気づいてなかったんなら言ってやる。ずっと好きだったんだぜ、手塚」
 理由を指折り数えた手を、跡部が伸ばしてきてくれる。その手を取って指を絡め、俺は跡部の方へと身を寄せた。
「そうか。想いの大きさは俺の方が上だろうがな」
「アーン? 聞き捨てならねえな。勝つのは俺だ」
「俺は負けない」
 本当に、止め処なくあふれてくる想いがある。それを、跡部の蒼の瞳に訴えかけて、目蓋にひとつキスを贈った。



お題:リライト様 /止め処ない蒼
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