華家
-HANAYA-
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No.691
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.10
#お題 #片想い #両片想い
流れた星が消える前に三回願い事を唱えられれば、それは見事に叶うらしい。 そんな馬鹿げた迷信を信じる…
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン
お題:リライト様 /流れ星に願いを
favorite いいね ありがとうございます! 2025.03.10 No.691
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流れた星が消える前に三回願い事を唱えられれば、それは見事に叶うらしい。
そんな馬鹿げた迷信を信じるほど純粋ではなかったし、大抵のことは自分自身で叶えてきた。
そんな跡部ではあるが、これは叶わないだろうなと思う願い事もある。
天体観測をしようと言い出したのは、いったい誰だったか。向日か、鳳か、それとも菊丸だったか。
合宿所の屋上で、満天の星を見上げる。
ロマンチックでいいですねと観月も満足げだし、沖縄とは見える位置が違うという比嘉中の連中もいる。日吉は星よりUFOを探してくださいなどと言っているし、一氏はあの星とあの星は番やなんてわけの分からないことをほざいている。
気づけばちらほらと高校生の姿も見えて、いったいどこ繋がりだと不思議にも思えてくる。
「昼間は練習ばかりであまり実感もできないが、ここは自然が多いな」
かけられた声に、うっかり胸が高鳴る。
惚れた相手に話しかけられたくらいで胸が躍るとは、なんとも純情なものだと、浮かれたがるのを必死で抑えて、跡部は手塚国光を振り向いた。
「そうだな。こんなに遠くまで広がってる星空を見るのは、久しぶりだ」
跡部の声に頷く手塚の手に、何か握られているのが目に入った。ペラペラのクリアファイルのようにも見えたが、どうも違うようだ。
「手塚、なんだそれ」
「これか? 星座の早見表だ。季節ごとに星の見え方が違うからな。こうして盤を動かすと、星の位置が分かるようになっている」
それは空の星を描いた薄い表。内側に一年分の星の位置が載っていて、季節を合わせてくるくると回すらしい。跡部は初めて目にするものだ。
珍しそうにしていたら、それに気づいた手塚が早見表とやらを貸してくれる。
「おい、これはどうやって合わせんだ。ああ、こっちが北か」
「そうだな、この矢印を向こうの方角に合わせるんだ。今は秋に差しかかる頃だから、季節としては……このあたりだろうか」
使い方を教えるためだろうが、手塚との距離が近くて困る。いや困らないが、……やっぱり困る。心臓の音を聞かれてしまいそうだ。早見表が一枚しかないというのが問題なのだ。
「これ、一枚しかねえのか? お前も見たいだろうが」
「あるが、他の連中も使うだろう。俺はお前と使うので問題ないが」
回避しようとしたが、失敗に終わる。顔が赤くなっていそうだ。どうか気づかれませんようにと、跡部は早見表に視線を落とした。
「これ、何か有名な星座らしいな。アンドロメダ座だってよ」
「位置でいうと……あの辺りだな」
早見表を覗き込んだ手塚が、次に空を見上げてぐるりと指で囲う。
「あのオレンジっぽい星だろうか」
「おお、冴えてるじゃねーか手塚ぁ。ミラクって名前がついてるようだぜ。そこからこう……繋げて、横に広がってる」
そうして、二人で早見表と空とを見比べる。同じように、そこかしこで「見つけた、見つけた」などと楽しそうな声が上がっている。
「しかし、今見ている光が何億光年も離れた場所の物だというのは、不思議なものだな」
「宇宙の神秘は計り知れないからな。ロマンじゃねーの」
「ああ」
夜空を見上げる手塚の横顔を、そっと盗み見る。綺麗だなと胸の中でこっそり思うだけなら、誰にも気づかれずにひっそり想うだけなら、許されるだろうか。
「流れ星が消える前に願い事を唱えれば叶うと言うが、もしかしたらそういう神秘的な力がどこかで働くのかもしれないな」
「なんだ手塚、そんなの信じてんのか?」
意外だなと続けると、そうだろうかとそっぽを向かれる。気を悪くしたのかもしれないと、慌ててフォローを入れた。
「信じていそうにねえお前までそうなんだから、星の力ってのはあるかもな。信じさせちまう、何かがよ。手塚は何か願い事あんのか?」
「…………あるといえばあるが、叶えるのは難しそうなものだ」
「へえ?」
同じだなとは言えなかった。そう言っても、手塚はこちらの願いが何かなど、気にも留めてくれないだろうと分かるから。
想っているのはこちらだけで、手塚はそんなこと欠片も思いはしない。
「頑張ればどうにか叶えられんこともないかもしれないんだが、勝手が分からん」
「なんだよ、弱気じゃねーの。らしくねえぜ。いつもみたいに強引にいけばいいじゃねえか」
ため息交じりに呟かれる泣き言を、珍しく思う。およそ手塚から泣き言など吐かれそうにないのに、どうしたことだろう。
そんなに難しいことなのか。跡部の思考は瞬時に、何か力になれることはないかと、さまざまな可能性に分散していく。
金銭的な援助ならいくらでもしたいが、それは手塚に対して失礼だろうか。それとも、テニスの技術的な問題なのか。練習に付き合うくらいはできるし、トレーナーやドクターが必要な状態ならば、すぐにでも最高のスタッフをそろえたい。
何にしろ、手塚の望みがなんなのか分からない限りは空回りになってしまう。
「強引にいって叶うものなら、とっくにそうしている」
「そんなに難しいのかよ……俺じゃ、力にはなれねえのか?」
星を眺めていた手塚が、跡部を振り向いてくる。それは驚いたような、困ったような表情で、どうしてやればいいのか分からない。
「俺は、お前のことを、その……大事なライバルだと思っている。そのお前が何か叶えたいってんなら、力になってやりたいと思ってんだぜ」
これくらいなら、気づかれないだろうと、ドキドキしながら言葉を紡ぐ。ライバルだと思っているのも本当だし、おかしくはないはずだ。
せめてその願いがなんなのか知りたいと、手塚の肩に手を置く。このまま抱き寄せてしまえたらと思う気持ちを、理性で必死に抑え込んだ。
「ライバル……でしか、ないか」
手塚が、小さく、本当に小さく呟く。聞き逃しそうになって、小首を傾げたその時。
「あ! 星! 流れた!」
ある一角から、大きな声が上がった。思わずそちらを振り向くと、よほど嬉しかったのか、相棒である大石に飛びついている菊丸の姿が見えた。その声を聞いて、周りは一斉に空を見上げていた。
手塚と跡部も、例に漏れず。
待って、待って、待って、流れてくれと願ったその直後。
「――あ」
視界の端を、小さな星が流れていった。
それはすぐに消えてしまって、願いを唱えるどころの話ではない。こんなにすぐに消えてしまうのか。
それを考えると、唱えることができたら奇跡のようなものだ。そんな奇跡には、やはり神秘の力が働いて、本当に願いが叶うのかもしれない。
「手塚、今の見たか?」
「ああ、見れた。願い事を唱える暇などなかったが」
「ハハッ、だろうな」
「――だが、お前と一緒に見られたのは嬉しい。背中を押されたような気分だ」
「アーン?」
一緒に見られて嬉しいのはこちらの方だ、と返しかけて、はたとおかしなことに気がついた。なぜ手塚が嬉しがるのだと。
「跡部、俺の願いを知りたがっていたな」
「あ、ああ、うん?」
「困ることになるかもしれないが、構わないか?」
「力になりたいって言っただろうが」
「では、俺の恋人になってくれ。それで俺の願いは叶う」
「――――は!?」
一体何を言われたのか分からない。どうして、なぜ。跡部は願い事を唱えられなかった。それなのに、何がどうなって相手からそんな申し出が成されるのか。
「いや、こ、恋、……はァ?」
混乱して、困惑して、単語として成り立たない。イエスしか返せないが、はたしてわけが分からないまま返していいものかどうか。
「困らせているな、すまない」
「困って……ああ、困るのか、困るね、いや困ってねえ。全然、ちっとも」
ふる、ふる、と首を振る。珍しく少しも要領を得ない跡部の反応に、手塚の方こそ困っているように見えた。跡部はもう一度ふるふるっと首を振り、深呼吸をひとつ。
「あのな、手塚。俺も同じことを流れ星に願おうとしてたんだ。手塚に、俺の恋人になってほしいと」
唱えてないのに叶っちまったみたいだが。そう続けると、ひどく驚いた顔で手塚はぱちぱちと目を瞬く。先ほど跡部が感じていた困惑を、今度は手塚が感じているようだ。
「そ、…………そうなのか。ではぜひよろしく頼む」
「こ、こちらこそ……?」
思いがけない恋の成就に、お互い心の整理がまだできていない。
嬉しさで暴走してしまわないように、己を律しているのがせいぜいだ。ごまかすように夜空を見上げれば、ちょうど流れる星の欠片。
「跡部、また星が流れた」
「ああ、見えたぜ。でも何も唱えるつもりはなかった。これからは、俺の願いを叶えてくれる男が傍にいるからな」
太腿の横で、指先を触れ合わせる。絶対誰にも気づかれないように、そっと、そっと。
「そうだな。お前の願いは俺が叶えるし、俺の願いはお前に叶えてほしい」
頷き合って、叶った恋を確かめる。今なら三度唱えたら、どんなことでも叶ってしまいそうだと、二人の口の端が自然と上がった。
お前が俺の、たったひとつの流れ星。
#お題 #片想い #両片想い