No.313

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金色の曼珠沙華-030-

金色の曼珠沙華 2017.10.01

#シリーズ物 #ウェブ再録

 冬組の演目が決定して、連日連夜稽古に励む彼らをサポートしようと、フライヤーの制作や配布、衣装や道具…

金色の曼珠沙華

金色の曼珠沙華-030-


 冬組の演目が決定して、連日連夜稽古に励む彼らをサポートしようと、フライヤーの制作や配布、衣装や道具の材料調達にと、他の組のメンバーも奔走した。
 それは左京にとってありがたいことで、忙しければ忙しいほど、十座のことを考えなくてすむ。あえて幸と予算についてやりあったり、一成とホームページの更新について話し合う。
 学生組は、学校に通いながら自主練を中心にこなし、時には本読みに付き合う。
 紬と丞についてはさすがの経験者で、日に日に掛け合いもスムーズになっていくようだった。
 紬はたまに万里とカフェにでかけているようだが、いい息抜きになっているのならと、特に万里に忠告はしていない。
 冬組の――紬が主演の舞台が成功することを祈っているのは、万里も同じだろうから。
「ただいまッス~」
「っす……」
 その時、太一と十座が寮に帰ってくる。天馬は撮影に向かったらしく、久々に徒歩で帰ってきたようだった。
「あ、おかえりなさい太一くん、十座くん。もうすぐご飯だからね」
「着替えてくるッス~。あ、幸チャン帰ってるッスか? 昨日衣装縫うの途中だったんスよね~。今日もお手伝いでいーのかな」
「あ、少し前に帰ってきたよ。今は部屋にいるみたい」
 いづみの返答に、太一はウキウキしながら自分の部屋へと向かっていく。最近は衣装を作りの手伝いをしているようだが、以前やむを得ず、衣装を台無しにしてしまったことを許してくれたことが、嬉しいらしい。
「あ、監督。すまねえが冬組の公演チケットってまだあるのか?」
「えっ、チケット? どうだったかな、確認してみるね。観に来てくれる人がいるの? 十座くん」
「今日……ちょっと声かけられて。二枚あれば嬉しいんすけど。初日じゃなくてもいいって言ってたから」
 十座が、もうすぐ始まる冬組公演のチケット状況を訊ねている。
 しかし十座に声をかけてくるなんて、豪胆なヤツもいたもんだ、と左京は複雑な思いだった。環境が変わるのは喜ばしいことだが、そうやってだんだんと自分の手など必要なくなっていくのだろう。
 芝居も、恋も。
 これ以上振り回されるのはごめんだと、左京は口唇を噛んだ。




 左京は、校門からあふれるように出てくる人の波を、運転席から眺めていた。
 友人たちと楽しそうに笑う高校生。女同士、男同士、男女、それは様々だが、見るからに健全な一般人だ。自分が高校生だった頃とはやっぱり違うなと苦笑する。
 そうして、目当ての人物が視界に入ってくる。兵頭十座だ。
 下りて声をかけようとしたその瞬間、気づく。彼は誰かを探しているようだと。左京ではない。何しろ今日ここに来ることを、十座には言っていないからだ。
 なのに、十座は携帯端末を片手に、きょろきょろと辺りを見回している。
 校門で探しているということは、校内の人間ではないらしい。同じ校内にいるのなら、校門なんて人が多い場所で待ち合わせる必要もない。
(ああ……もしかしてチケットの相手か?)
 昨日いづみに訊ねていた、空席チケット。
 運悪く席はすべて埋まってしまっていて、立ち見となってしまうのだが、それを渡したい相手なのかもしれない。
 左京は、ダッシュボードの上に置いていた紙切れを目に映し、当初の目的を果たそうと、その紙切れを手に運転席のドアを開けた。
 左京がドアを閉めるのとほぼ同時に、十座に駆け寄っていく影。
(えっ……)
「遅れちゃってごめん、こっちから頼んだのに」
「ああ……いや、別に」
 欧華高校のではない制服、スカートをひらひらさせた女の子。
 周りの生徒がざわついた音が聞こえるが、左京の胸はそれ以上にうるさかった。
(おん、な……?)
 まさか、チケット購入を希望して声をかけてきたというのが、女だなんて思わなかった。よほど度胸があるのか、それとも――。
「立ち見でもいいか? 席、埋まっちまってて」
「あっ、いいのいいの、観られれば。ありがとう。ねえ、秋組? だっけ? の次公演ていつなの?」
 どうも彼女の本命は秋組のようだ。というより、やはり兵頭十座が目当てなのだろうか。あの強面に怯みもせずに話しかけるなんて。
 親しい知り合いなのか、周りが驚いていることにも気がついていないらしい。むしろ十座の方が周りを気にしている。
「それは分からねえが……決まったら知らせる。アンタあんまり俺に近寄らねぇ方がいいぞ……」
 きょろり、と見回し辺りの反応に気がついて、気まずそうに眉を寄せ――そして、左京の存在に気がついた。
「左京さん」
 小さくそう呼んだだろうことが、口唇の動きで分かる。左京はそれでようやく我に返り、手にしていた紙切れの存在を思い出す。
 左京はため息の後に足を踏み出し、十座と、仲の良さそうな女の方へと歩み寄った。
「さ、左京さん? どうして」
「えっ、だ、誰――あ、秋組の!」
「……話の途中で邪魔して悪いな。チケット、二枚都合つけたから。日程に縛りがないなら、座って観られた方がいいだろう」
 左京の手にしていたものは、二枚連番の観劇チケット。もともと関係者席として空けていた分だが、どうせなら一般客に回したい。もちろん関係者に話を通した上でだ。
「え、え、いいの? 一緒に行く子も超楽しみにしてるの、嬉しい。あっ、じゃあお金、二人分」
 彼女はそう言って財布を取り出す。
 左京は不思議に思った。本当に観劇を楽しみにしているようで、十座に声をかける口実にしては、熱のベクトルが違う。
 思い違いだったのかと、左京は気まずそうに口を引き結んだ。
(ああ、でも。親しいようだし、これを口実にしなくても、いつでも逢えるってことかもな)
「ありがとう、ホントに! 友達にも超宣伝しとくね!」
「あっ、ああ、おいそんなに走んな、転ぶだろうが!」
 スカートを翻して嬉しそうに駆けていく彼女に、十座が声をかける。大丈夫ー、と振り向きもしないで返してくる彼女の後ろ姿を見送りながら、十座は心配そうに眉を寄せていた。
「相変わらず危なっかしいな……」
「あれ、お前の女だったヤツか?」
 そんな十座に、思わず言葉がこぼれ落ちる。左京はハッとして口を押さえるが、え? と振り向いてきたあたり、聞こえてしまっているのだろう。
「な、なんでもねえ。帰る」
「帰るって、左京さん……あれ、わざわざ持ってきてくれたんすか」
「観たいヤツには観せてやりてぇだろうが」
 左京は居心地が悪くなって踵を返し、車へと歩く。慌てて、十座が追いかけてきた。
 その後ろで、あれスジもんじゃねーの、兵頭のアニキってヤツじゃねーの、さすが兵頭さんっすよ! などと囁かれていることに、二人ともが気づかないで。


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