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金色の曼珠沙華-012-
携帯端末の画面に、ピョコンとメッセージが浮かんでくる。
【よぉ、補習だって? ダッセぇな兵頭。メシ前の稽古早々に切り上げたから、てめーが帰ってきたらもっかい集まるぞ】
秋組のリーダーである摂津万里からのLIMEだ。十座は自分の机で、ノートを広げたままため息を吐いた。
【こら万里。まあ十座、そういうことだから、稽古のことは気にしないで補習受けてこいよ。なんか万里にも用事あるっぽくて、さっき切り上げたんだ】
【十座サンお疲れッス~】
稽古のスケジュール合わせにと、全員でグループ登録したものだ。臣と太一からもメッセージが飛んでくる。自分から何かを提案したことはないが、なるほどこういう風に使うのかと、今さらながらに考えた。
誰もいない教室で、十座は教科書を見るともなしに眺める。
本当は補習なんて受けていない。
一応単位は足りているはずだし、テストなら他にも何人か赤点になった連中を集めて追試、という形になるはず。
たとえ十座オンリーの追試なのだとしても、教師が試験管として居るはずだ。
補習にしても時間の制限があるのだから、十座がのんびりしていていいはずはない。
まだ左京と顔を合わせる覚悟ができていない十座が取った、馬鹿らしい策だ。
こんなことで逃げ切れるわけもないのにと、グループLIMEに【分かった】と返信した。
いつまでもこんなことで逃げているわけにはいかない。十座は額の前で指を組み、祈るように目を閉じた。
できるかぎり時間を引き延ばして寮に戻れば、久し振りにカレーではない夕食が待っていた。
料理の名前を聞いても覚えられやしないが、臣が作ってくれた料理が美味そうなことだけは分かる。
「ほら十座、育ち盛りなんだから目一杯食え。お前朝食抜いただろ?」
「あ、あざす……」
「万里が帰ってくる前に食べておけよ。稽古途中だったからな」
「え、摂津……どっか出掛けてんすか」
「ああ。どうも最近、冬組の紬さんと仲がいいみたいで、二人ででかけてったよ。大変なときになぁ……」
そう言って臣は肩を竦める。気分転換に連れてったんスよきっと~という、太一の笑い声も聞こえる。
そうだ、今は自分の恋心なんかで悩んでいる場合ではない。冬組が大変なことになっているのだ。
「答えの期限……もうすぐでしたよね、臣さん」
「ああ、そうだな……監督も悩んでるみたいだが、決めるのは俺たちじゃないし、冬組は冬組でなんかモメてるみたいだしな」
何もできない自分が歯がゆいよと苦笑する臣に、十座は自分が恥ずかしくなった。大変な時に、自分のことしか考えられなかったなんて。
だからガキだと言われるのだと、臣の作ってくれたスープを口に運んだ。
数日前、冬組があのGOD座にタイマンACTを申し込まれた。
タイマンという言葉は十座の耳に慣れていたが、ACTがつくと分からない。その疑問に答えてくれたのは左京だったが、どうも同じテーマで演目を行い客の票数によって勝ち負けを決めるサシの勝負らしい。
秋組公演の際に、太一が送り込まれてきたことからも思うが、どうもGOD座は、MANKAIカンパニーを目の敵にしているように思う。業界トップクラスの劇団が、どうして無名の劇団なんかを、とは思うが、十座が考えたって仕方のないことだ。
秋組がしかけられた勝負であれば、一も二もなく受けて立っていただろうが、臣が言ったように決めるのは挑まれた冬組だ。
その彼らに必要ならば、何にだって力を貸そう。
そうだ、今は望みもない恋のことを考えている時ではない。
リビングのソファで、新聞を読んでいる左京のことを考えている場合ではないのだと、ほんの少し視線をやって、そして逸らした。
漏れてくるため息は、どうしても止められなかったけれど。
万里が冬組の月岡紬と一緒に寮へ帰ってきてすぐ、じゃあ稽古再開~と、面倒そうに言い放った秋組リーダーに、紬がえっ、今からもう一回!? と驚いていた。
まーなと楽しそうに笑った万里が、どこか今までと違って見えた。
どこがどう、というわけでもないのだが、迷いを吹っ切ったような顔をしている。
「おー兵頭、どーだったんだ補習は。俺も一回受けてみてーわそんなん」
どうやったら受けられんのか教えてほしいくらいだ、とむやみやたらに突っかかってくるのは相変わらずで、気のせいだなと十座はため息だけで、馬鹿がと返してやった。
「万里、先に左京さんのシーンからの方がいいんじゃないか?」
「あ? なんでよ、さっきの続きからなら俺と兵頭の」
「ほら十座はさっきメシ食ったばかりだろ、少し休憩を」
「臣クンさすがッス~、そういうとこやっぱモテ男の鉄板ネタッスよね!」
「いや俺はモテたことなんかないぞ?」
「あー、なら俺と左京さんのシーンからで」
「いい、摂津――」
「甘やかすな摂津、さっきの続きからだ」
食べたばかりでは、アクションシーンの稽古はキツいだろうと気遣ってくれる臣に、自分はすぐでも大丈夫だと十座が言い掛けた時、左京の声が割り込んでくる。
全員の視線が左京へと向かって、十座も思わずそうしたが、左京と視線が合ってしまって慌てて逸らした。
「補習受けてたのも、稽古に遅れたのも、兵頭の責任だ。メシ食ったばかりだからってサボんじゃねぇ」
「さ、左京にぃ厳しーッス~」
「さすがに手厳しいですね……」
「まー俺は別にどっからでもいーけどよ。お前合わせられんの?」
万里が振り向いて訊ねてくる。十座はああと頷いて、レッスン室の真ん中まで歩みを進めた。
「左京さんの言う通り、稽古に出られなかったのは俺の責任だ。気を遣ってくれた臣さんにはすまねぇが、いつも通りでいい」
「そうか、余計な口出しだったみたいだな、すまん。あ、十座。今日の差し入れはシュークリームだからな」
「……っす」
臣の言葉に息を深く吸い込み、兵頭十座からランスキーに変わる。
それを見て、万里が楽しそうに歩み寄ってきた。
なんてことない、いつもの稽古だ。
いつも通りの台詞、いつもと同じ立ち位置、いつもと変わらない仕草。
だけど今日は、いつもと違うものがひとつだけあった。
(なんで……っ!)
ランスキーになりきることができない。
台詞を紡いでも、銃を抜いて敵を狙う仕草をしても、昨日までできていたランスキーになれない。
「兵頭、台詞!」
「あっ……、……悪い、もう一回……」
台詞が詰まって、万里の声が飛んでくる。
台詞を間違えることはもうなくなっていて、アドリブにだってスムーズに返せるようになっていたのに――そこまで思って、先日左京に褒められたことを思い出してしまった。
(駄目だ、こんなんじゃ……集中しろ、呆れられんだろ!)
十座は歯を食いしばってふるふると首を振る。
台詞だけで役に入り込めるような技術は、まだ持ち合わせていない。集中しなければ、兵頭十座を捨てることができない。
それなのに、左京の視線がそれを邪魔してくれる。
レッスン室に入る少し前から、左京の視線を全身に感じていた。気のせいではすませられないほど、あからさまに、左京の視線が突き刺さるのだ。
そんな状態で、ランスキーにはなれない。
気が逸れているというのも理由のひとつだが、左京の視線が注がれているのなら、兵頭十座でいたいのだ。
その視線に、どんな意味が含まれているのかは分からない。間違っても好意ではないのだろうが、嬉しがってしまう自分に気がついていた。
『逃げ道なら、ちゃんと確保して、……――っ』
そして、また台詞が続かなくて詰まらせてしまう。
普段であれば、たとえ少し詰まっても、殺陣中なのだからと呼吸でごまかせるシーンだというのに、それにさえ頭が回らなかった。
#シリーズ物 #ウェブ再録
金色の曼珠沙華-011-
朝練でレッスン室を使えるのが一日おきだというのが、今日は有り難かった。
レッスン室ともなれば、メンバーが全員集まるはずで、つまり左京もくるはずだ。
今は顔を合わせづらい。どんな顔をしていればいいのか分からない。
寮内もそう広くはないし、どこかでばったりと逢ってしまう可能性はあるし、その時自分がどんな顔をすればいいのか分からないという以上に、左京の顔を見たくない。
恋をしている現状、相手の顔を見たくないというのもどうかと思うが、本音だ。
左京がどんな顔をするか分かるから、見たくない。
眉間にしわを寄せてあからさまに顔を背けて、舌を打って、一声もくれずに違うルートをたどるのだろう。それが分かるから、逢いたくない。
十座はベッドの上で寝返りを打って、大きくため息をついた。
(言ったことを後悔はしてないつもりだったが……正直、しんどいな。あの人の顔が見たいのに、見たくねぇなんて……)
夕方の稽古は、予定通り秋組がレッスン室を使う。それまでに心の準備を、覚悟をしていなければならない。
十座はベッドの上に起き上がり、結局一睡もできなかった体をフロアへと下ろす。
眠気覚ましに外を走ってこようと、ウェアに着替えた。重い足取りを自覚して、廊下で左京の部屋を振り返る。
きっとまだ眠っているのだろう。
ちゃんと眠れただろうか。
自分が昨日言ったことなんて、気に留めていてくれないんだろう。
寂しい。
……いろいろな想いを混じらせて、十座は体を翻す。
登校に間に合うギリギリの時間まで走っていれば、左京に鉢合わせることもないはずだと、玄関のドアを静かに開け放した。
「天チャン、ちょっと待って待って、ねえ、十座サンがいないんすよ~」
「はァ? いねえって、なんでだよ。あのガタイで目立たねぇわけねーだろ?」
学生組の朝食が終わって、そろそろ登校の時間だ。
咲也は朝から元気だし、真澄は監督にいってらっしゃいのキスをおねだりしているし、万里が一限から行くわけもなくて、いまだにテーブルでのんびりしている。社会人である至も、トーストだけちょうだいなどと、手っ取り早く朝食をすませようとしている。この後に、特に早い時間の制限があるわけではないまったり組が起き出してきて、各々の朝食をとるはずだ。
欧華高校に通う太一は、いつも天馬を送り迎えしている井川氏の車に、十座とともに便乗して登校している。十座の強面は、いつの間にやら天馬のボディガードの役目も果たしており、暗黙の了解のようになっていた。
だが今朝は、一緒に行くはずの十座の姿が見えない。
「万チャ~ン、十座サン見てないッスか?」
「あぁ? 朝っぱらから胸くそ悪くなる名前聞かせんじゃねーよ、見てねーし。起きたらもういなかったぜ」
ルームメイトである万里に訊ねてみるも、そっけない答え。
犬猿の仲とはいうが、そろそろもう少しくらい打ち解けてもいいのになあと、太一は肩を竦めた。
しかし万里が起きた時にいなかったということは、もう先に学校へ行ってしまったのだろうか? 別に歩いていけない距離ではないのだ、何らかの理由でそうしてもおかしくはない。
だがそれならそれで、十座なら声をかけていくはずだ。あんな強面であっても、いや、だからこそか、十座は律儀な男だった。
「どうする、もう行かないと――」
天馬が困り顔で太一に話しかけたその時、玄関のドアが慌ただしく開いた。ジャージ姿で首からタオルを下げ、この寒い時期に汗まみれの十座だ。
「悪い、天馬、太一。先に行ってくれ。シャワー浴びてから行くから」
「じゅっ、十座サンもしかして早朝トレッスか? いったい何時に起きて……」
「十座さん、待ってるから仕度してきてくれ」
「え、あ、いや、でも……遅れんだろ」
「いーよ、ちょっとくらい。どーせ俺は撮影とかでしょっちゅう遅れてるしな」
「そーッスよ~三人で行きましょ~」
置いていけるわけないと、天馬や太一が十座に声をかける。ざっと汗を流すくらいなら、そんなに時間もかからないだろうし、何より天馬は、こうして友達と登校することを貴重なものだと思っている。多少の遅れはなんでもないのだ。
「あ、ああ……なら、すぐに。悪いな」
十座はその厚意を受けて、浴場へと駆けていく。その背中を見送って、太一は少し首を傾げた。なんだか十座の元気がないなあと。
「ねえ万チャ――」
「万里さん、コーヒー淹れてくれよ。太一の分も」
「あぁ? なんで俺が」
「いいだろヒマしてんだし。アンタのコーヒー、結構美味いし」
「ふざけんな。結構、じゃなくてめちゃくちゃ美味いって言え」
十座が来るまでリビングで待っていようと、天馬が万里にコーヒーを頼む。
十座の様子がおかしいことを、万里に訊ねそこねた太一だったが、まあ朝っぱらから元気がいいのは、シトロンとサックンくらいかなあ~と位置づけて、万里の淹れてくれる美味しいコーヒーにありつくために、ソファに腰をかけた。
ざっと汗を流し、体の水分を拭き取る。まだ湿る髪を乱雑にかき上げて、Tシャツに袖を通し学校指定のシャツと学ランを羽織った。
もうこれでいいと、浴場を後にした十座の視界に、廊下の向こうから歩いてくる人物が入ってきた。
ビキ、と体が硬直したかのような感覚を味わう。十座に一瞬遅れて、相手もこちらに気づいたようだ。
「……んで、まだいるんだ? いつもならもうとっくに学校行ってんだろ、兵頭」
「っい、今、から……行くっす……ちょっと、ランニングしてて」
相手――古市左京は、眉間に深くしわを寄せ、ちっと舌を打ち、顔を背ける。
十座が想像した通りの仕草で、いっそ笑ってしまいそうだ。なんでまだいるんだ、ということは、登校したことを見越して部屋から出てきたのだろう。
(怒ってんな……まぁ当然だが……)
ズキンズキンと心臓が痛む。こんな左京を見たくて想いを告げたわけではない。想像通りではあるが、現実にそうされると――つらい。
十座は太腿の横で拳を握り、足を踏み出した。見ていたくないなら、早々に視界から消し去るべきだ。
天馬や太一を待たせているのだし、こんなところで立ち止まっているわけにはいかないと、足早に左京の横を通りすぎた。
締めつけられる心臓を制服の上から押さえ、できる限りの距離を取って。
そうしてリビングに足を踏み入れれば、万里と談笑している天馬、太一が見えた。
「悪い二人とも、待っててもらって」
「あっ、十座サン! 速かったッスね~」
「おー、じゃ、行こうぜ」
「二人とも、カップはそのままでいいぞ、片付けておくから。ほら、万里もそろそろ学校行けよ」
いつの間にか臣まで加わっていて、変わらない日常の風景にホッとしてしまう。
「あっ左京にぃ、行ってくるッス~」
「行ってきます」
「あー、じゃあ俺も出るわ~、なんか朝っぱらからカミナリ落ちそうだし~」
「おはようございます左京さん。たまご、目玉焼きでいいですか?」
ようやっと登校する学生組と入れ違いに、左京が入ってくる。
一限は休講だという臣は、左京に朝食を準備しようと腰を上げた。
ああ、といら立ちの含まれた声を十座は背中で聞いたけれど、聞かなかったことにしようと口唇を引き結んで、寮を後にした。
#シリーズ物 #ウェブ再録
金色の曼珠沙華-010-
十座はこの先一体どうすればいいのか、何も答えが見つからないまま自分の部屋に戻る。
ルームメイトである万里が使っている方のベッドから、慌てたような音が聞こえたけれど、そんなもの気にしている余裕もない。
「な、なんだよ兵頭、遅かったな。今まで自主練してたってのかよ」
よくやるわと笑いを含んだ声が聞こえた。普段だったらお望み通り突っ掛かってやるところだが、そんな気分になれるわけもない。
十座は万里に何も答えずに、着替えとタオル片手に浴場へと向かう。十座の珍しい態度に、面食らった万里に見向きもせずだ。
十座は乱暴に服を脱ぎ捨て、風呂の扉を開ける。この時間帯はさすがに誰も入っていなくてホッとした。
頭から湯を被り、ボディタオルに無心で泡を立てる。体を洗う間中ずっとずっと喉が痛くて、何度も何度も唾を飲み込んだ。
離れていってくれない。頭から離れていってくれない。ふざけるなと怒鳴りつけたあの時の、左京の表情。
(ふざけてない……ふざけてねえ、……ふざけてねえんだよ……!)
好きだと言う恋情に、果たしてふざけたものがあるのだろうか。真面目に捉えてくれなかった左京が、憎らしくさえ思う。
だけど真面目に考えられない気持ちも分かるから、責めきれない。自分がもし男に恋なんて告白されたら、同じような態度を取るだろう。
それでもこちらは真剣なのだ。
左京に分かってもらいたい。左京に触れたい。あの口唇に。あの髪に。あの肌に。
十座は泡を流した指先で、そっと口唇に触れる。感触を味わっている暇などなかった。それでもこの口唇は、左京に触れたのだ。
「……っ」
まずい、と瞬間的に感じる。十座は自身の中に生まれてしまった欲望を自覚して、自己嫌悪に陥った。あれだけ派手に拒絶された後だというのに、どうして劣情というものは膨れ上がってしまうのか。
「ん……っ」
立ち上がりかけた自身を見下ろして、触れてみた。こうなってしまっては、おさめる方法はひとつしかない。包み込み、扱きあげ、こすり、撫でて、上り詰めていく。
「……っは、はあっ……ん、う……さ、きょ……さん……ッ」
思い浮かべるのは、悲しいかな左京しかいなかった。
あの顔で、どんな風に乱れるのか。あの声で、どんな風に喘ぐのか。
あの瞳が情欲に濡れたら、あの口唇に求められたら、あの声で呼ばれたら、きっとそれだけでイけてしまう。
汗に濡れた左京を想像するだけで、あの厚くない胸板を思い浮かべるだけで、眼鏡を外した左京が、ベッドの上で髪を乱している様を考えるだけで、言葉にできないほどの背徳感と罪悪感と、快感が波のように押し寄せる。
「左京さん……ッ」
白濁とした体液が飛び出していく。
風呂の天井を見上げ、湯気の向こうに左京を浮かべ、十座は肩で大きく息をした。
「っはあ、はあー、は……はぁ……」
額を流れた汗が目に染みて痛む。十座は項垂れて、シャワーで汚れを洗い流した。
ぽたり、ぽたりと髪を、顎を伝い落ちていく雫。それは十座の顔を隠し、小さな呟きさえ洗い流していく。
「……すんません、左京さん……」
吐息のような、小さな小さな呟き。
十座はぎゅっと強く拳を握りしめ、泣きたい衝動を押し込めて、しまい込んで、鍵をかけた。
#シリーズ物 #ウェブ再録
金色の曼珠沙華-009-
『うぐっ……』
「左京さん! ……――あ」
痛みにうずくまった彼を振り向いて、思わず叫んでしまったのは、主人公の名ではなく、左京の名。倒れ込む左京の姿に、一瞬で役から抜けてしまった。
「すんません、左京さん……」
「ああ、いや、構わねーさ。どこで止めるか決めてなかったしな」
倒れ込んだ左京に手を貸すと、素直に握ってくれる。無意識だったが、そこで十座はハッとして、内心慌てた。
(左京さんの手……案外でけぇっつーか……成人した男って感じなんだな……)
この手のひらに握られるのは、プライベートなら、恋人だ。いったい何人の女が、この手の感触を知っているのだろう。街中で、車の中で、ベッドの中で、手に触れる機会は多いのだろうなと、思わず強く握りしめた。
「おい、兵頭?」
「あ」
「離せ」
「す、すんません……」
その力強さに顔をしかめた左京が、諫めるように呼んでくる。十座は慌てて手を離し、ちょっと役の心情考えてたんでと言い訳をした。苦しいかなとは思ったが、
「ああ……この後のシーンは、主人公の腕引っ張り上げるとこだしな」
さすが芝居バカの左京だ、騙されてくれている。
「だが兵頭、お前何かあったのか? 台詞は台本のままだったが……あの、銃にキスするところ、なかっただろ」
「……アドリブっす。言えない想いだから、まさか彼女本人にするわけにもいかねーだろうって……思って。おかしかったっすか?」
「いや……いい演出だ。そのままラストシーンで同じことやりゃあ、ぐっと深くなるだろ。ただ、もうちょっと、仕草がな……」
貸してみろ、と手を出され、十座は持っていた銃を左京に手渡す。
本当に役に入り込んでの仕草だったが、左京のお墨付きをもらえたのだ、仕草への指導が入るだろうとはいえ、素人の十座にしてみれば合格点だろう。
「もうちょっとこう……優しくしてやれ」
左京の指先が、フロントサイトから銃身を滑り、シリンダーを撫でる。
『だから、帰んだよ、生きて、二人で』
一緒に、と囁いた口唇が、指先の軌道をなぞるように銃身に降る。左京の口唇が押し当てられたそこは、先ほど十座が口づけた部分――。
「なっ……さ、きょ、う、さ……!」
十座の頬がボッと染まる。意図していない間接的な口づけだ。しかも意識していない方からの。とんだ爆撃を受けたような感覚だ。ドックンドックンと胸は跳ね、顔から火が噴き出そうである。
左京は目蓋を少し伏せて、本当に優しい仕草で銃に触れる。大切な女に触れるための仕草だ。
そうやって目蓋を持ち上げれば、いつもの左京の表情に戻っていた。
「いくら戦闘中とはいえ、大事な女に触れる時くれぇ、ありったけの優しさくれてやれ」
ほらやってみろとばかりに、銃を手渡される。やはり左京の方はかけらも気に留めていない。間接的な口づけなんて、彼にとってはなんでもないことなのだろう。
「だ、大事な女ったって……」
「いるんだろ、好きな女が。稽古ん時とは段違いだぜ、お前の仕草。色気とまではいかねぇが、客の目を惹きつけるな」
「あれだけの演技で、分かるんすか。前と違うって」
「まあ……摂津と息の合った演技してるなってだけのよりは、今の……惚れた女と一緒に大事なダチ守ってるって演技の方が、ぞくぞくきたぜ? 演目が違うから、そわそわしたってのもあるんだろうが……違ったか?」
秋組の稽古よりも、意識して演技をしていたというのは間違いないだろうが、やっぱり分かってもらえないかと十座は眉を下げる。愛用の拳銃なんかに、惚れた女の名をつけたせいじゃない。
(アンタと一緒にやってたからだ、左京さん)
左京との立ち回りは新鮮だった。違う演目の、違う演技を見てほしかった。何より、ふたりきりで演じる世界が嬉しかった。
「お前が惚れた相手ってなぁ気になるが。ああ摂津のもだな。ハハ、若ぇよなお前ら。羨ましい限りだ。お前は不器用そうだがな……初恋なんじゃねーのか」
「……確かに、左京さんの言う通りっす。こんなん初めてで、どうしたらいいか分からねぇ。どうやったらあの人の目に留まるのか、どうしたら喜んでくれんのか……好きになってほしいなんて贅沢、夢にさえ思えねぇ状態なのに」
見てほしい。観ていてほしい。よくやったと笑って褒めてほしい。
本当は好きになってほしい。触れたい。抱き締めたい。この腕に閉じ込めて、口唇に触れてみたい。
「お前……まだその強面だってこと気にしてんのか? 怖がられたくないって、素直に認めて――」
『だから、帰んだよ、生きて』
十座は両手で銃を握って、祈るようにフロントサイトを額に当てる。
そうしてリアサイトに、シリンダーに、グリップに、フロントサイトに、そうして左京が口づけた銃身に口唇を落としていった。
『ふたりで、一緒に――守ろう』
願うように、彼女を撫で、口の端を上げる。
そうして見つめたのは、親友である主人公。
銃を下ろす。演技が終わった合図だ。いや、今のを演技と言っていいのかどうか。半分お役で、半分十座自身だった。
「……今の俺がやれるとしたら、こんな感じっすかね」
「怖ぇなお前……」
「怖い、すか」
「ああいや、お前が怖いんじゃなくてな。たった一回のアドバイスで、そんだけ上手くなんのかって……吸収の速さに驚いただけだ」
左京が口許を押さえて少し視線を背ける。もしかして、ドキドキしてくれたりしたのだろうか。もしそうなら嬉しいと、十座は無意識に微笑んだ。
「言っただろう、俺がお前を怖がることはねぇって。悩みがあるんだったら話せばいいし、アドバイスが欲しかったら遠慮しねーで言え」
十座は目を瞬いた。
左京は、十座が「怖がられることが怖い」ことを知っている。怖くないと強がっていたことも知っている。怖いという単語に、反応してしまったからか、弁解をしてきたようだ。十座としては、左京が言ってくれたあの言葉ひとつで、とっくに怖さなんてなくなっていたのに。
(左京さん……左京さん、俺は、アンタが……)
「俺も、アンタに言ったはずだぜ左京さん。アンタを怖いと思うことはねぇって。稽古中に怒られんのも、摂津とのケンカで怒られんのも慣れたし、下手くそな俺の自主練につきあってくれるし、すげぇ分かりやすいアドバイスくれる。アンタには、感謝しかねぇよ」
「……おい、どうした急に。俺は怖がられてなんぼの商売だって――」
「怖いと思ってるひとに、惚れたりできねぇ」
怖がられることは怖い――その感情を知らない人間に、無意識だった自分の感情を悟ることなんて、できるわけがない。
怖がられてなんぼだと言う左京こそが、怖がられることが怖くて仕方がないのだろうに。
「……あァ?」
怖がられることが怖いと思っている自分に、気がつきたくなくて、わざわざ怖がられる世界に身を置く左京に、どう言えば伝わるだろうか。
怖くなんてない。職業も、演技に対する思いも、技術そのものも、全部ひっくるめて、古市左京というひとが、好きなのだと、どうやって伝えたら。
「左京さん、好きだ」
どうやっても何も、答えに行き着く前に口唇が奏でていた。
言ってしまった。
言えるわけない、言ってもどうにもならない、言ったら終わりだ――そんな風にさえ思っていた言葉を、なんの躊躇いもなく口にしてしまった。
「何言ってんだ? 別にそんな持ち上げなくても、アドバイスくらいしてやるぞ?」
だけど、左京は理解してくれていない。
その気持ちは分からないでもないのだ。突然告白なんてされて、しかも同性にだ。すぐには信じられないだろう。何か裏があるのではと思ってしまっても仕方がない。
だが十座には、好きだと言う他に、どうやって言葉にすればいいのか分からない。
左京が言った通り、初めての恋なのだ。
「そうじゃねぇ、俺は本当に左京さんが好きなんす」
「お前なあ……役とごっちゃにすんな。今お前がやってた役は、親友の幼馴染みが好きで――」
「左京さん、聞いてくれ!」
飽くまでも信用しようとしない左京の肩を掴んで、揺さぶった。一度口にしてしまったのなら、今さら嘘でしたなんて言えない。言いたくない。左京への想いを嘘にしていいはずがないのだ。
「俺はさっき、あの銃に女を重ねてたんじゃねえ、主人公を大事に想ってる同士、一緒に守りたかったんだ! アンタを守る銃が大事なのは当然だろうが!」
「おい兵頭、正気に戻れ。お前は兵頭十座で、普通の高校生で、日常的に銃ブッ放す危ねぇ男じゃねえんだ」
「普通の高校生じゃなかったら、アンタと同じ世界にいたら、信じてくれたんすか」
「馬鹿なこと言うんじゃねえ! こっちの世界きやがったらそれこそブッ殺すぞ!?」
「だったら! だったら今信じてくれ、左京さん。俺は本当にアンタに惚れてるんだ」
左京の世界がどんなものなのかは分からない。世間的に受け入れられる場所ではないと分かっていても、同じ世界にいられるのならと、馬鹿なことを考えてもみる。
だけど左京はそうすることを拒絶してくれた。
怖がられることを怖がっていたお前が、わざわざこちらに来るなと。
それは都合の良すぎる考えかもしれないが、左京の優しさはちゃんと知っている。
そんな左京を、心の底から、体の芯から好きなのだ。
「……信じてくれ、左京さん」
もうこれ以上、どうすればいいのか分からなかった。
十座は掴んだ左京の肩をそのまま抱き寄せ、口唇へと口づけた。
銃身に口づけた時よりも、そっと、そっと。
押しつけた口唇を離せば、すぐさま体を突き飛ばす腕があった。当然左京のものだ。
「てっ……め、なにしやがる!」
十座の口唇が触れた部分をぐいと拭って、あからさまな拒絶を示してくる。ああそれはそうだろうなと、十座は眉を寄せた。
「言わなきゃ、分からないわけでもないだろう、いい大人が。俺はアンタに触りたい、キスをしたい。もっと言えば抱きてえんだ」
「ふ、ふざけてんのか! いくらなんでもこんなっ……頭冷やせ!」
「ふざけてねえ! これ以上どうやったら、アンタに伝わるんだ!」
珍しく、万里以外を相手に声を荒らげる。
好きだと言った。押しつけるだけのキスもした。これ以上なにをどうやれば、左京に信じてもらえるのか。
受け入れてくれとは言わない、せめて信じてほしい。
「どうやるも何もあるか! てめぇ、いくら摂津と対等張りたいからって、恋してる振りまでしやがって……!」
「なんでここで摂津が出てくるんだ! アイツの演技観る前から俺はアンタがっ……」
「うるせえ、俺がお前に目ぇかけてんのは、芝居への情熱が気持ちいいからだ! こんなことで汚してくれんな!」
「左京さん、だから俺は……!」
どうにか想いだけでも信じてもらおうと、踏み込んだ十座に、さっきまでやっていた演目の台本が飛んでくる。十座はとっさにそれを受け止めたせいで、背を向ける左京を引き留めることができなかった。
「演じてるお前のことは、信用してる。……裏切ってくれるなよ、兵頭」
左京は振り向きもしないままそう呟き、レッスン室を後にしてしまう。
とりつく島もないとは、このことだろう。十座は項垂れて、ぐしゃりと髪をかき混ぜた。
受け入れてもらえるなんて思っていなかった。そんな贅沢、夢にも思っていなかった。だけど、信じてもらえないとも思っていなかった。
「どうすりゃよかったんだよ……」
言わなければよかったのだ。それは理解できる。
だけどあの瞬間、想いがあふれて、あふれ過ぎて、しまいこんでいられなかった。
真剣に芝居に取り組んでいる自分に対して、嫌な顔ひとつせずつきあってくれる左京に。間接的とはいえ触れてしまった口唇に。
何を思って演技していたか、知ってほしかった。見てほしかった。
「左京さん……俺は、本当に、アンタが」
好きなんだ。
それはもう、小さな呟きでさえ音にはならなかった。
#シリーズ物 #ウェブ再録
金色の曼珠沙華-008-
『来るんじゃない、邪魔だ!』
十座は古びた台本に書かれた文字をそのまま追って、声に出してみる。
時刻は二十二時、稽古の時間はもう終わっていたが、十座はここ数日、頼み込んでレッスン室を使わせてもらっていた。
以前の秋組が使っていたという台本を貸してもらい、旗揚げ公演とは違う役もやってみているのだが、なかなか難しい。
何しろ一人でやるものだから、間の取り方が分からないのだ。
「……何か違うな。えーと……こいつはこの女好きなんだろ? 邪魔だ、って……頭ごなしに突き放すんじゃねぇんだよな」
敵地に向かう男を、幼馴染みでしかなかった女が引き留めるというシーンだ。
台本を読み進めれば、「生きて帰ってちゃんと好きだって言うんだ」という男の台詞があり、ここで引き留めた女のことが好きなのだと分かる。
それを振り切って、親友の敵討ちだと敵のアジトに乗り込む。勝てるわけがないと、涙ながらに引き留める女の腹を殴り気絶させ、意気込んできた男を助けたのは、死んだと思われていた親友の男。
油断させてたんだよと、窓ガラスを割って飛び込んでくるシーンは、舞台で見たらさぞワクワクすることだろう。
アクションが組み込まれていることもあって、この脚本を選んだのだが、十座にはやはり難しい。
「死ぬかもしれねぇのにな……なんで、言ってから行かなかったんだ?」
「験担ぎってヤツじゃねぇのか」
「うわっ」
しゃがみ込んだ背後から声が降ってきて、十座は心臓が飛び出そうなほど驚く。思わず前のめりになった体で振り向き、相手の名を呼んだ。
「さ、左京さん、驚かさないでくれ」
「ハハ、悪い悪い。電気がついてたから、まだやってんのかと思ってな」
「あ、だ、駄目ならもう……」
「いいさ。せっかくのやる気に水を差しちゃあ、野暮ってもんだろ」
左京は節約を団員たちに課している。レッスン室の電気だって、タダではないのだ。まあ聞くところによると、誰が払っているのかは分からないようだが。
左京のストップがかかるなら、今日はこれで切り上げようと思ったのだが、珍しく左京の怒鳴り声は飛んでこなかった。
「やけに熱心だな兵頭。さては、摂津の演技に刺激されたか」
「あ、いや……まあ、そうっすけど」
「お前は摂津がいねぇと素直だな。しかし懐かしいな、この演目……」
ひょいと十座の手から台本を持ち上げて、ぱらりとめくる。その穏やかな笑い顔に、十座の胸は性懲りもなく高鳴った。
芝居のこととなると左京はとてつもなく厳しく、そして優しい。本当に芝居が好きなんだなと、嬉しくなった。
「左京さん……この演目知ってんすか。前の秋組がやってたヤツ」
「ああ、練習を何度かな。そん時ゃあガキの子守させられてたんだが、どうしても耳に入ってくるだろ」
昔を懐かしむ口許に、やはり悔しさがこみ上げてくる。どうしてその時、左京と一緒にいられなかったのか。ガキのお守りが上手いのは、その時からなんだろうかと、震える口唇を噛みしめた。
「けど、お前にこれはまだ早くねぇか、兵頭。主人公の心情、読み取れてるか?」
「……いや、分かんねぇっす。そんなに好きなのに、どうしてこんな状況になるまで、黙ってたのか」
「言っちゃいけねぇと思ってたんだよ。これ、台本全部読んだか?」
ぱたりと閉じた台本を十座に差し出してくる左京は、とても厳しい表情をしていた。十座は頷き、一通りは読んだと返す。
ならば自分で考えろと言わんばかりの視線に、分からないから悩んでいるんじゃないかと、眉を寄せた。
(言っちゃいけねぇ……? なんでだ、これラストでこの女とちゃんとくっつくってことは、両想いだったんだろ……)
十座はそう思いながらも、台本をぱらりとめくりラストあたりを再度確認した。
結局アジトに来てしまった女を、親友と二人で守りながら敵を倒していく。
最後の一人を撃ち抜いた後、主人公は女を怒り、それでも無事で良かったと抱き締める。こっちの台詞だと大泣きしながら女は男を抱き返し、お前がいつまでも煮え切らねぇからだよと、親友の男が腕を叩き、二人に背を向けて煙草に火をつける。
そうしてやっと想いを告白し合って、スポットライトが当たり、暗転。
「今思えば、このストーリーもありきたりなもんだがな。ラスト読めるだろ。そんでも短い公演の中で、主人公抜いて人気かっさらってったのは、親友の男の方だったらしいぞ」
「えっ、こっちの男っすか?」
「台詞読むだけじゃ分からねぇか……ヒント出すぞ。ここの照明」
「……主人公とヒロインにスポット」
の他に、もう一つ書き加えてある。
「親友の男に、スポット……?」
そしてト書きには、親友の男は二人をほんの少し振り向き寂しそうに笑う、とあった。
十座はそこでようやく気がつく。
「こっちの男も、女を好きだったってこと、……っすか」
疑問符は、あえて付けなかった。その理由しかなかったからだ。
親友も、同じ女を好きだった――抜け駆けはできなかったということかと。
「親友の方は、知っていたんだろうな、女が誰を好きなのか。だから男の背を押したんだ」
「身を引いたっつーか……最初っから言う気もなかったんすね……」
「そうなるな。言ってたら、何か違ってたかもしれねーのに、臆病なヤローだよ」
左京は自嘲するようにも笑う。十座はそれを見て、視線を落とした。
(言ってたら、違ってた? それでも、女の中には主人公がいたんだろ。……変わんねぇよ、左京さん。少しは、少しは意識してくれるかもしれねぇが、結局……アンタの中に俺が居座る場所はねぇ)
「相手、してやろうーか、兵頭」
「えっ!?」
聞こえた左京の声に、思わず驚いて素っ頓狂な声を上げてしまった。
「女の役は台詞覚えてねーからな、親友の方なら……なんだ? 妙な顔しやがって」
「あ、い、いや、そっちか……驚かすな……」
「あァ? 何言ってんだ」
十座は何でもないっす、と片手で顔を覆い、頬の赤らみを隠してみせる。
好意を寄せているひとから「相手してやろう」なんて言われたら、よからぬ方に思考がいってしまう。瞬時に性的なことを思い浮かべてしまったことに、自己嫌悪に陥り、ふるふると首を振った。
「左京さん、主人公やってくれねえか」
「主人公でいいのか? まあ、台詞は入ってるが……」
「頼みます」
「じゃあ、ここから。銃使ってるシーンだから、摂津とので慣れてんだろ」
「……っす」
左京が指定したシーンをもう一度確認して、十座は台本を床に置いた。それを見て左京が目を瞠ったのには気がついたけれど、十座は構わずに口を開いた。
『仕方ねーだろ。こっちは死ぬほどの怪我してたんだぜ』
『それにしたって、連絡くらい入れたっていいだろ。俺もアイツも、どれだけ泣いたと思ってんだよ!』
台詞入ってんのかと十座の行動に驚きつつも、瞬時に台詞を返してくる左京をさすがだと思い、十座は口の端を上げる。物陰に隠れるために二人してしゃがみ込んで、敵の動きを確認した。
『てめーも泣いたのかよ。気色悪い』
『お前なっ……』
『まあてめーはともかく、アイツには悪いことしたな……泣かせるつもりじゃなかったんだ……』
愛用の拳銃からイジェクトした薬莢が、カンカンと音を立てる。弾を装填して、シリンダーを戻した。身を隠したドラム缶に後頭部を預け、星の瞬く夜空を見上げる。
『女の涙なんて、止める術も知らねーからな』
『お前に分からないンだったら、俺なんかもっと分からないだろ、頼むからここ抜けてアイツのこと守ってくれよ』
『御免だな、なんでふたりで帰ってこないんだって殴られんのがオチだよ。だから、帰んだよ、生きて、二人で』
そう言って銃身にちゅっと口づける。内緒で彼女の名前を付けた、愛用の銃に。
『頼むから、アイツのこと泣かせんじゃねーよ』
彼女が愛しているのは自分ではない。彼の方だ。早いところくっついてほしい、こちらのためにも。
そうじゃないと、死んだふりまでしてふたりの前から姿を消そうとしたのに、とんだ無駄骨だ。この気持ちは、胸の奥にしまっていくから、どうか、どうか幸せに。
『俺にはコイツがいるからな』
立ち上がり、サイトで照準を合わせて引き金を引く。愛するひとの名前を冠した銃で、愛するひとが想っている相手を守る――最高の気分だ。興奮さえしてくる。
この戦闘が早く終わってくれと願う裏側で、終わってくれるなと思う、もうひとつの感情があった。
自分の撃った弾が、親友を助ける。親友が撃ってくれた弾が、背後の敵を倒してくれる。
それらがすべて、彼女の泣き顔を見ないですむための必要事項だ。
が、撃ち漏らした敵が放った弾丸が、彼の足を止めてしまった。
#シリーズ物 #ウェブ再録
金色の曼珠沙華-007-
「それと兵頭、摂津の演技……何か気づかなかったか?」
左京は視線を万里に向け、そう訊ねてくる。
「え? 演技……っすか?」
左京は何を求めているのだろう。純粋に万里の演技に対してなのか、その演技から何かを気づけという自分への課題なのか。
そのどちらにしても、左京は今、自分に問いかけてくれているのだ。それには応えたい。
「ど、どうって……」
しかし十座自身も夢中で演技していたのだ、注視できていたかどうかと言われれば、答えはノーだ。
「今日もアドリブは多くて……や、それはいつもだから不思議なことでもねぇし省くとして……アイツ勝手なヤツだからな……」
だけど今日、明らかに昨日までとは違う部分があった。左京が、それを答えとして望んでいるのかは分からないけれど、告げて悪いことはないだろうと、十座は口を開いた。
「左京さんが言いたいことに適ってるかは、分かんねぇけど……」
「なんだ」
「なんか、丁寧っていうか……細かい仕草が目についたかな、とは思います。目についたって言葉が正しい表現とは思えねぇけど」
昨日までになかった仕草があった。
台詞ならば、今までもアドリブで仕込んできたことはたくさんあった。勝手に流れ変えんじゃねぇと衝突したことだって、何十回あったことだろう。
そんなやり取りの中で、切り返しがスムーズになったと左京に褒められたのだから、悪いことばかりでもないのだろうけれど。
だけど、撃たれた腕を庇う仕草は昨日までなかった。気づけと言わんばかりの派手なものでなく、流れを崩すようなものでもなく、むしろ、ここでルチアーノとランスキーの絆が深くなったのだと周りに気づかせる、上手い演出になっていたと、今なら思う。
「ああ、良い意味で目立ってるんだな。色気がある。指先の動きひとつ、視線のやり方ひとつ。弾の装填にぞくりとしたのは初めてだ」
「あー……」
あの時感じた感情を言葉にされて、納得したような、納得したくないような。
色気、という言葉を、あの男に使うのは癪というか、気にくわない。それでも、あの仕草に胸が鳴ったのは本当だ。
「色気っていうか、あれは……」
「あれは、そうだな」
「艶、っぽい」
「艶っていうか」
呟いた声が左京のものと重なって、十座は思わず左京を振り仰ぐ。そうすれば左京の方も驚いたようで、視線が重なってしまった。
「……っふ、は、まさかな、お前の口から艶なんて言葉が出てくるとは思わなかったぜ。摂津相手になぁ」
パチパチと瞬いた後、左京はおかしそうに笑う。
その顔があまりにも幼くて、貴重なものを見たと十座は頬を赤らめた。左京の、皮肉も諫める意味も込めていない笑顔など、滅多に見られるものではないのに。
左京にそうされるほど、らしくないことを言った自覚はある。似合う言葉でもない上に、言った対象が対象だ。どうにもバツが悪くて仕方がない。
「左京さん、それアイツにはぜってー言うなよ。あんなのにちょっとドキッとしたとか、知られたくね……、あ」
「したんだな」
「う……」
笑う左京に、忘れてくれ、と十座は項垂れる。
ドキドキなら、あの時よりもっと強いものを、速いものを、左京の傍にいるときにずっと感じているのに。変な誤解をされたらどうしよう、なんて考えるだけ無駄なことを心配してみたりもした。
(でも、なんで左京さんは嬉しそうなんだ? 摂津の演技が変わったからか?)
「リーダーの自覚が出てきたのか、それとも芝居の楽しさに気がついたのか……いい傾向だがな」
レッスン室の真ん中で、太一と殺陣でじゃれあっている万里を見やり、左京は穏やかに口の端を上げる。
ああやっぱりそういうことなのか、と十座は俯いた。万里の演技が良い方向に変われば、秋組の可能性はもっと広がる。左京はそれを嬉しがっているのだ。
「摂津の成長に、俺はついていけるんすかね」
「何言ってんだ、兵頭。お前も艶のある演技ってヤツ目指せばいいだろう」
「そんなの、簡単にできるもんでもねぇだろう。アンタと違って、俺はまだ……力が足りねぇ」
秋組の中で、自分がいちばん下手なのは知っている。旗揚げ公演が成功したのは、場の雰囲気と、演じたいという強い気持ち、そして何より、根気よくアドバイスしてくれた左京のおかげだ。
目指せばいいだろうと言われれば目指してみたいが、はいそうしますなんて、簡単に返事ができるものでもない。
「ま、そのうちな。しかし摂津のヤツ……女でもできたのか? 良い傾向ではあるが……」
左京は腕を組んで、先ほどの万里を思い出しているようだった。
あの丁寧な艶が出てきたのはどうしてだろう、と思っていたところへ、左京のこの言葉。
(摂津に、女……?)
女、ということは、特別に交際している相手がいるということか、と十座は考え込む。
摂津万里は、中身はともかく外見を考えれば、女性に人気があるのだろう、ということくらいは察しがつく。
学校が別なせいで、普段の万里が女生徒に人気かどうかまでは分からないが、ないわけはないのだろうとも思う。強面でいつも避けられている自分とは違ってだ。
それにしても稽古づけな毎日の中で、どうやって女性と交際ができるのか。
いや、それも器用になんでもこなしてしまう万里なら可能か、と十座は顎に手を当てて考えた。
(好きな女ができたから、演技が変わった……?)
そういえば、ここ数日万里の様子がおかしかったような気もする。
ため息が多かったり、朝食の時間にどことなくそわそわしていたり、おかしなタイミングで携帯端末を落っことしたり。もしかして、相手の女性のことを考えていたりしたのだろうか?
「――い、おい兵頭?」
「えっ、あ」
「どうした」
左京に声をかけられて、十座は気づかれないように舌を打った。万里のことなんかに気を取られて、せっかく左京の傍にいるのに、声を聞いていなかったなんて。
「そんなに考え込まなくても、お前も経験を積めば――」
「あの、女できると……ああいうのやれるんすか」
万里の演技が変わった理由がそれならば、できるはずだ。古市左京というひとに恋をしている、十座だって。
違いは、異性であるか同性であるかというところ。うまくいきそうな関係かそうでないかというところ。
ただ、想う気持ちは変わらないはずだ。それが演技を変えていくというのなら、できるはず。
「別に女作れってんじゃねぇ。プライベートの変化は、芝居にも出てくる。誰かを真剣に想う気持ちってのは、人を成長させるんだ。それくらい理解しろ、ガキ」
ズキンと、心臓が痛んだ。
ため息交じりに呆れた口調で呟く左京を見ていたくなくて、十座は顔を背けて俯いた。きっと、まだ恋も経験したことがないと思っているのだろう。それはいい。こんなナリで真剣に恋をしていると言っても、笑われる確率の方が高いことは分かっているのだ。
(ガキって、左京さん……それ、結構つらいんだぜ……)
演技は、これから力をつけていくつもりだ。経験はいくらだって積める。
だけど左京との歳の差は、どうやったって埋められなくて、何年経とうが彼にはガキ扱いされてしまうのだろう。
(相手にしてもらえるわけがねぇ。分かってる。分かってんのに……なんでどんどん好きになっていくんだよ、くそっ……)
分かってる、分かってる、と何度も自分に言い聞かせて、これ以上想いが大きくならないようにしているのに、どうしても増えていってしまう。
こんな想いで、本当に演技に磨きがかかるものなのかと、疑問にさえ思った。
(なんか、違う演目やってみたらいいのか……旗揚げ公演は、どこにも恋愛要素っての、ねぇからな……)
万里がまたひとつステップを上がったのなら、自分だって。
追いつきたい。置いていかれたくない。
仲間にはもちろん、ライバルにも、大切な師匠にも。
(上手くなれば、左京さん褒めてくれんだろ……)
十座は目を閉じて、ああ、馬鹿みてぇだと苦笑した。
#シリーズ物 #ウェブ再録
金色の曼珠沙華-006-
周り中が敵だらけだ、と顎を伝ってきた汗を拭う。背中を合わせた男からも、緊張が伝わってきた。生きるか、死ぬか。今自分たちはその狭間にいた。
『ランスキー、表はやっぱり固められてるぜ。どうする』
『……どうするもこうするも、突破するしかないだろう。ルチアーノ』
そう返せば、男は口の端を楽しそうに上げて、弾の装填をした。こんな状況で笑っていられる神経が理解できないと、小さく息を吐く。
『だーな。早いところこんなとこ抜け出して、いい女抱きてーわ』
『生きて帰って美女を抱く者こそが勝利者、か。お前そればっかりだな』
『うるせーよ』
もう一丁の拳銃にも装填を終えて、セーフティを外す。その小さな仕草が、昨日とは違っていた。
何げない仕草のはずなのに、少し胸が高鳴ったなんて、とてもじゃないが認めたくない。
これはそうだ、あれだ、敵の中を突っ切らなければいけない状況で、アドレナリンが放出しているせいだ。そうに決まっている。
『行くぞ』
『うっせ、指図すんな!』
二人で、同時に床を蹴る。銃身から飛び出していく弾丸は、敵の心臓を貫いた。
だけど向こうも怯まない。数に物を言わせてこちらを始末する気だ。
弾にだって限度があると、ランスキーは突破口を探す。その頬の数ミリ横を、ルチアーノの放った弾丸が掠めていった。風圧でか、頬が切れて血が流れ落ちてくる。
その弾を撃ち放った張本人は、それくらい避けろやとでも言わんばかりに笑っている。ランスキーは仕返しにと、ルチアーノに銃口を向けた。
それでもルチアーノが慌てることはない。知っているからだ。ランスキーの銃口が狙っているのは自分ではないことを。
『右!』
ランスキーの声とともに、ルチアーノは頭を右へと傾ける。それと同時かもしくはそれよりも早く、引き金を引いていた。
ルチアーノの後ろにいた敵が弾丸に倒れ、ルチアーノは避けた勢いで、右側に身を転がして敵からの弾丸を避け、ランスキーの足下を狙った。
彼が敵を蹴り上げるタイミングに合わせ放った弾丸は、その向こうにいた敵の足を撃ち抜いた。
素早く身を起こし、タ、タ、タンとまるでダンスでも踊るかのように、床の上でステップを踏む。無防備な背中を、敵を蹴り飛ばしたランスキーが自身の背で守った。もっとも、ルチアーノの背中でランスキーの背も守られているわけだが。
ルチアーノが左腕をそっと押さえる。言葉にこそしなかったが、打たれたのだろうと推察したランスキーは、そこをさらに狙われたりしないように、庇って体をズラした。
『ランスキー、五秒、援護しな!』
『あァ!? なに言ってやがんだ、ルチアーノ、おいっ!』
答えも聞かずに、ルチアーノは突破口にできそうな場所を突っ走っていってしまう。
勝手な男だ、と思いつつも、ランスキーは彼の進路を邪魔する敵たちを撃ち抜いていった。
「なあ、ちょっと休憩挟まねぇ?」
「あ、ああ……ちょっと走りすぎたな……」
ルチアーノとランスキーから、摂津万里と兵頭十座に戻る。
熱が入りすぎたのはふたりとも自覚していて、自分に戻った途端汗が不快に感じられた。今すぐここで冷たいシャワーを浴びたいくらいだ。まあそんなことできるわけもなく、シャツの襟でぱたぱた仰ぐくらいしかできないのだけれども。
(足首……やっぱりちょっと痛むな)
十座はわずかに眉を寄せ、ジクジクと痛む足首に視線をやった。役に集中している間は気にならなかったが、兵頭十座に戻った途端痛みを認識してしまった。
「かっけ~ッス二人とも~!」
「あ? トーゼンだろ」
「ああ、タオル悪いな太一」
これくらいヨユーだよ、と太一からタオルを受け取る万里を尻目に、十座もまた太一からタオルを受け取り、鏡張りになった壁の傍に腰を下ろす。
そこにドリンクを置いていたというだけで、別に――左京の傍に腰を下ろしたわけではない。
十座はそうしてから気がつき、気まずい思いを隠そうとタオルで汗をかいた顔を拭った。
(頭ん中でこの人どうこうしてるなんて……誰にも知られたくねぇ)
左京をネタに欲を放てば、終わった後は、罪悪感と背徳感と情けなさと、嫌悪感さえ襲ってくる。夜を越えてしまえば、また左京を欲してしまう自分が、なんとも浅ましい。
「随分入り込んでたな、兵頭」
その左京に声をかけられて、十座は飛びはねそうな心臓をジャージの上から押さえ込んだ。気づかれないように、ゆっくりと左京を振り仰ぐ。
「せ、摂津のヤローがアドリブ入れてくるんで、なりきらないとやってらんねぇんす」
「ああ、切り返しがスムーズだったな。上手くなったじゃねぇか」
左京の声のトーンが少し上がる。演技指導をしている弟子の成長が嬉しいのだろうか。いくら十座が鈍くても、それがお為ごかしでないことは分かる。
上手くなった。たったそれだけの言葉が、嬉しい。昇天しそうなほど、嬉しい。
(左京さん……)
もっと観てもらいたい。もっとアドバイスしてほしい。同じ舞台で、同じ世界で演じていたい。
一回りも歳が違う自分が、左京とつながっていられるものはこれしかない。だから誰に笑われようと、そしられようと、演劇の世界からは離れたくないのだ。
たとえ、生涯に一度の恋を押し込めて我慢して、諦めてでも。
「そういやお前、足首は大丈夫なのか?」
「え?」
「さっき左足庇ってただろう」
十座は、左京を振り仰いで目を瞠る。確かに今日、いつの時点かで足首を痛めたのは事実だが、それは誰にも言ってない。
「俺に休めって言う前に、自分の心配するんだな。足の痛みを甘く見んなよ」
「し、湿布は貼ったんで……多分大丈夫だと思うっす。まだできる」
「まあ言っても聞かねえだろうとは思ってたが……続けるんだったら、殺陣は控えろ」
左京だけが気づいてくれたのかと思うと、浮かれそうなほど嬉しい。心配してくれる左京が、やっぱり大好きだ。
(我慢しようって決めた直後にこれだ……勘弁してくれ、左京さん)
胸が締めつけられる。
左京の気遣いは、純粋に仲間への想いであって、十座のような恋情があるわけではない。
それは分かっているのに、また左京への想いが大きくなってしまった。
#シリーズ物 #ウェブ再録
金色の曼珠沙華-005-
違和感に気づいたのは、四限が終わりを迎える頃。
昼食前の体育は空腹感を煽って、体力的にも精神的にも疲弊感が募る。
チームを組んでのバスケットボールは、いつも十座のいるところが勝ってしまう。というのも、誰もディフェンスに来られないからだ。
ドリブルをしても、シュートをしても、誰も手を出してこない。パスを受けるチームメイトさえが眼力で怯え、ろくにアシストしてやれない。
チーム戦が苦手だというのは以前からで、あまり楽しいものでもなかった。それでも体を動かすのは好きで、何とかコート上を走ろうとしたのだが。
「……?」
足首に時折鈍い痛みが走る。軸足にして体を翻すとき、足を踏み込むとき、ズキリと痛む。
我慢できないほどではないが、普段にはないせいで、意識がそちらに向かってしまった。
(足、もしかしてどっかでひねったのか……?)
今の授業でか、それとも朝のランニングの時か。
十座はほんの少し考え込み、ハーフタイムまで待とうとボールの行方を視線で追う。こちらにパスは回ってきそうにないと、歩調を緩めた。
(稽古までに治るか……? あんまり動かさない方がいいんだよな、多分……)
体育の授業よりも、断然稽古の方が大事だ。今日は朝の稽古がなかったし、夕食後の稽古に参加できない事態など御免である。
もっと上手くなりたいと朝思ったばかりなのに、鍛錬を怠ることはできない。
十座は休憩になったのを機に、チームを抜けた。「先生」と話しかけた教師までもが、ビク、と体を強張らせたのには、思わず苦笑してしまった。
「ぬ、抜けるのか。じゃあ誰か交代……田崎、お前入れ。保健室行かないでいいのか?」
「……平気っす」
ハーフタイム終了とともに、コート外でプレーを見ていたクラスメイトが、代わりにコートに入っていく。
それまで十座と組んでいたチームメイトたちの顔が、明らかに安堵したものに変わった。たとえ勝てなくても、のびのびプレーしたいのだろう。
その気持ちは、十座にもよく分かる。たとえどんなに下手くそでも、のびのびと芝居がしたい。
(秋組の連中は、俺を怖がるとかしねぇもんな……他の組のヤツらも、会話の中に入れてくれっし……)
十座は体育館の隅に腰を下ろし、どちらのチームを応援するでもなく、再開したゲームを眺めていた。
ボールが床を叩く音、シューズが床をこする音、ボールを受け止めてゴールネットが音を立て、歓声が上がる。
(殺陣がうまくいくたびに、客席から歓声が上がる。それに気づくのは最初の方だけで、夢中になってくると全然聞こえなくなるけど……幕が下りて、でけぇ拍手が聞こえるんだ。あれは、すげぇ)
一度知ってしまったあの快感を、忘れることなんてできない。
誰になんと言われようと、この先何があろうと、芝居を続けていたい。
(似てんな、どれもこれも。一度知ったら、抜け出せねぇ……)
あんみつの美味しさを知っている。
芝居の楽しさを知ってしまった。
恋情を覚えてしまった。
十座はじっと手を眺め、あんみつを食べるための、芝居の仕草のためのこの手で、左京を抱き締められたらいいのにと眉を寄せて、口唇を噛んだ。
できるわけもないと、ぎゅっと握りしめてゆっくりと息を吐き出す。
(あのひとを抱き締めたら、どんな感触なんだ……。なんか芝居の役の上でも、そういうのありゃあいいんだが、……って、んなこと考えてるって知られたら、張り倒されるな)
大好きな芝居を、そんなことのためには使えない。
そこまで思って、項垂れた。
そんなことでは済ませられないほど、気持ちは大きくなってしまっている。
芝居をすることが好き。古市左京が好き。
芝居をすることで、より深く左京を好きになってしまう。
左京を好きになることで、より広く芝居に興味が出てしまう。
それらを切り離して、どちらかを諦めることなどできやしない。もうそんなところまで、想いは成長してしまっていた。
(どうすりゃいいんだ……いっそ言っちまった方が楽になれんのか? 抱き締めたいって、触れてみたいって、……アンタが好きだって?)
言えるわけねぇ、と大きく息を吐く。
良くて殴られて終わる。悪くて劇団から追い出される。
どう考えたって、幸福なことにはなりそうもない。
(今は、傍で見ていられるだけでいい。稽古の時だって一緒だし、時間が空いてりゃ自主練につきあってくれる。……それで、満足してろ)
いつかそれだけでは満足できなくなるのだとしても、今十座が左京に求めていいのはそこまで。芝居に打ち込んでいれば、少なくとも左京の不興を買うことはないはずだ。
(夜の稽古は……一緒にできればいい……)
それだけでいい。何度も何度も自分に言い聞かせて、呟きそうになる好きだの三文字を、無理やり飲み込んだ。
#シリーズ物 #ウェブ再録
金色の曼珠沙華-004-
ランニングの途中、お気に入りの店に差しかかる。お気に入りといっても、入ったことはない。いつも店の前で立ち止まって、精巧な造りのメニューサンプルを眺めているだけの、甘味屋だ。
学校帰りや休日に店の前を通ると、いつも賑やかなほど客が入っている。その大半が女性客で、同じ年頃から年配まで、層は幅広いようだ。
あまり言いたくはないが、十座は甘い物が好きだ。
特に、あんこたっぷりのあんみつなんかは大好物なのだが、強面であることが邪魔をして、店でそういう物を食べたことがない。
通販を行っている店であれば、取り寄せてこっそり食べられるのだが、実店舗となるとそうもいかないのだ。
強面の高校男子が、ひとりであんみつなど、果たしていいものかどうか。
いや、悪いわけではないのだが、注文をする時に、怖がられたらどうすればいいのか。
オーダーを運んでくる店員を怖がらせたら、どうすればいいのか。
怖がられることは今まで多々あったけれど、怖がられたくないときにどう対処すればいいのか、十座には分からない。
だからこうして、早朝誰もいない店先のサンプルを眺めるくらいしかできないのだ。
以前、勇気を出して入ってみようかと店先でうろうろして、失敗したこともあった。誰もいなければ、迷惑をかけることもない。
(怖がられることは、怖い)
十座はひとしきりサンプルを堪能して、またランニングを再開する。
こんな時に浮かんでくるのは、左京に言われた言葉だった。
『怖がられることには慣れてるって、強がるな。怖がられることを怖がったって、なんにもおかしいことはねぇんだぞ。まあな、俺は怖がられてなんぼだが、お前はただ強面ってだけで、一般人なんだから』
いつだか、学校の帰り偶然に出逢った時だ。
誰もが友人たちと連れ立って下校している中、十座はたった独りだった。天馬も太一も用があるとかで、時間が合わなかった時。
足を踏み出すごとに、周りの人間が十座を避けていく。怯えは充分に伝わってきた。
それを、いつから左京に見られていたのか分からない。けれど、学校を離れて少ししてから声をかけられた。恐らくは自分の職業を気にして、すぐには声をかけてこなかったのだろうことが窺える。
自販機の前、左京の指から離れて投入口に入っていく硬貨の音が、やけに大きく響いたことを覚えている。
何がいい、と訊ねられて、思わずミルクセーキを頼んでしまったのだが、左京は特に不思議に思うこともなく、ボタンを押してくれたのだ。あざす、と受け取った缶は程よい温度で、ささくれた心を癒やしてくれた。
別に、逃げ出したいほど辛いわけでも、泣き出したいほど悲しいことでもなかったのだが、左京に指摘されて初めて、自分が考えているよりも、重く心にのしかかっていることに気がついた。
そして、怖がられてなんぼだと言った左京の横顔が、寂しそうだったことにも。
怖がられることが、嬉しいはずはない。
左京はそれでも、左京の世界で生きていくために必要なことだと受け入れている。
抱き締めたいと思ったのが、多分最初の感情。
それからずっと、左京を目で追ってしまっていた。
それを恋情と自覚して、劣情を自覚して、左京への態度が少しぎこちなくなったこともあったが、幸いにも旗揚げ公演とかぶっていたせいか、全員が全員、気づく余裕もなかった。
旗揚げ公演の千秋楽、左京の迫真の演技は本当にすごかった。
何度も飲み込まれそうになって、ラストのアドリブが、それまでの気迫を殺すほど優しさに満ちていて、また、古市左京というひとを好きになった。
少しでも近づきたい。同じ舞台で演じていたい。できることなら、あの時味わった感覚を#十左 左京に味わわせたい。
自分以外の誰かになれる――その憧れで始めてしまった芝居に、理由が新たに付加された。
芝居をしていれば、どこかで左京とつながっていられる。
まるで絶望的な想いでも、その小さな幸福は誰にも阻ませたくない。
(もっと、うまくなりてぇ。もっと……もっとだ……!)
鍛錬は、裏切らない結果をくれる。十座は気を引き締めて、ぐっと地面を蹴った。
#シリーズ物 #ウェブ再録

「おーい、何度目だぁ~?」
相手役である万里が、呆れ八割と怒り二割で振り向いてくる。こう何度も詰まってしまっていては、万里がそうするのも仕方がない。十座はぐしゃりと髪をかき混ぜて、小さく息を吐き出した。
「悪い摂津……もう一回頼む」
「…………ンだよ、気色悪い」
十座は素直に謝って、稽古の続行を促した。
万里とはケンカばかり繰り返してきたが、今回ばかりは自分に非があるだろう。補習だと嘘をついて稽古に出なかった挙げ句、こんな状態では稽古になっていない。
先ほど隅の方からも、十座サン調子悪そうッスね~、そうだなあ……なんて心配そうな声が聞こえてきた。
(集中しねぇと……)
臣や太一に気づかれているということは、当然左京なんかはとっくに気がついているのだろう、と気持ちを切り替えようとしたその時――。
「摂津、退いてろ!」
左京の怒鳴り声が耳に入った。それとほぼ同時に、隣にいた万里が左京の方を振り向く。
「はぁ? うわっ、なっ、おい!」
万里が声を上げるのと同じタイミングで飛び退く。
バシャリ。
十座は息を飲んだ。痛いと思う方が先で、冷たいと思ったのはそのすぐ後。
「……っ」
水だ、と認識したのは、髪からしたたり落ちる雫が冷たかったから。
受けた衝撃をやり過ごして目を開ければ、青ざめた顔の太一や、目を見開いて驚く臣、何が起きたのか把握しきれずに、呆気にとられながら見つめてくる万里。
そして、怒りを隠しもせずに睨みつけてくる左京が見えた。
ガゴンガゴンと、左京が放り投げたバケツが床にぶつかって、乱暴な音を立てる。あれに入っていた水をぶちまけられたのかと、そこでゆっくりと認識した。
「な、……にしてんだ、アンタ」
「左京さん、いくらなんでもこれは」
「ホントにやるとは思ってなかったッスよ左京にぃ~」
稽古中、まさに水を差した形の左京を、三人が責める。
だけど十座には、左京の怒りの理由が分かるから、責めることはできない。自分が左京の立場だったら、拳に物を言わせていただろうなとさえ思うのだ。
太一の動揺と、臣の戸惑いと、万里の不審。それを全部足した以上の怒りが、まっすぐに向かってくる。
「兵頭……てめぇ、昨日俺が言ったこと忘れたわけじゃねぇよな。あァ?」
十数センチの距離を開けて、左京が十座の目の前で立ち止まった。それを受けて、十座はあれ以降ようやく、左京をまっすぐに見つめ返した。
「……っす」
――演じてるお前のことは、信用してる――
もとより左京の言葉を聞き逃すはずもない。一言一句、覚えている。
左京の戸惑い、拒絶、何もかも。
「芝居に集中できねえなら、色恋にうつつ抜かしてんじゃねぇ!!」
ひゅ、と息を飲んだ。それとほぼ時を同じくして、三人の驚く声。
「は、え、いろこ……色恋って、マジかお前」
「十座、お前……」
「えええええマジッスかああああ十座サン……っ」
縁がないと思っていた、とでも言わんばかりの、万里の視線。
大人になったなと言いたげな、臣の穏やかな口許。
恋という単語に、異様に興味を示す太一の赤い顔。
できれば知られたくなかった。特に、いつもケンカばかりしている万里には。きっと笑われるに決まっている。
恋なんてどうにでもなんだろ。そう言われそうで怖い。
万里ならどうにでもなるかもしれないが、こちらはどうにもならないのだ。
「左京さん……」
好きになってしまったことを後悔はしていないが、こんなところで言わなくてもいいだろうと、初めて左京を責めたい。
怒るのなら、突っぱねるのなら、自分だけの時にしてほしい。
これからどう接していけばいいのだろう。恋も、失恋も、初めて味わったせいで分からない。こんな時周りは、放っておいてくれるのか、くれないものなのか。
だが恋をしているという事実は知られてしまっても、まだ相手が左京だということは知られていないのだ。どうにでもごまかしてしまえる、と口唇を引き結んだ矢先。
責め合うための視線が、空中で絡み合った。
「左――」
「俺を好きだなんだとほざくヒマがあるなら、殺陣の一つや二つこなしてろ!!」
「左京さん!!」
十座は思わず叫んでいた。
どうして。どうして今、ここで、それを言わなければならないのか。
頭のいい左京なら、それがどんな影響を及ぼすかくらい分かりそうなものなのに。
それとも、そんなことに考えが及ばないくらいに、怒っているのだろうか。
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
知られてしまった。恋の相手が左京だということが。
男が、男になんて――普通じゃない。
いったい何を言われるか分かったもんじゃない。弁解しておかなければ、秋組の崩壊につながるかもしれない。それだけは避けたい。
避けたいのに、口唇が動いてくれない。
違うんだ、左京さんの思い違いで、昨日のことは、ほんの冗談で――ただそう言えばすむだけのことだ。
左京に思いきり殴られて、驚かすなと臣や太一に心配されて、アホかよと万里に笑われて、それで終わるはずだ。
なのに、歯がぶつかってカタカタと音を立てるだけで、言葉はひとつも出てきてくれない。
嘘じゃない。嘘にしたくない。冗談だなんて、言いたくない。
(好きになってくれなんて言ってねえだろ、左京さん。アンタを好きな俺のことを、見ててほしかっただけだ、アンタはそれさえ許してくれねぇのか……っ!)
十座は口唇を強く噛む。そうしていないと、左京を困らせる言葉だけが出てきそうだったからだ。
「あ、の……それは、左京さんの芝居に惚れてるって意味じゃあ、ないんですか。あるでしょ、そういうの」
「そっ、そうッスよ、俺っちだって左京にぃのガラの悪い……あわわわ凄みのある演技好きッスよ~」
「演技に惚れてるってだけじゃ、キスなんかしてこねぇだろうが。……気色悪い」
「えっ」
「え……」
「……えぇ!?」
さあっと血の気が引いていった。
三人の驚愕と、突き刺さる視線が痛い。けれど、それとは比較にならないくらい、体が冷たくなっていくようだった。
いったい、どれだけさらけ出されればいいのだろう、この、初めての恋は。
左京がそこまで暴露するとは思っていなかったが、もう何をどう弁明しても無駄だろうことは分かった。
拒絶され、信じてももらえず、仲間にこんな形で知らされるなんて――そこまで思って、十座はあることに気がつく。左京が、昨日と違って十座の気持ちを否定していないことに。
色恋にうつつを抜かすな、好きだなんだとほざくヒマがあるなら、演技に惚れてるってだけでキスなんか――拒絶に変わりはないけれど、一度も否定をしていない。
ざわりと肌があわ立った。
これは紛れもない、歓喜だ。
(ああ、馬鹿みてぇだな、俺は、たったそれだけで……)
左京に、どんな心境の変化があったのか分からない。だけど、否定をしないでいてくれる。それだけで、何もかもが帳消しになったかのような感覚に襲われた。
そんな風に感じて、俯く十座を見つめる万里の視線は、やがて左京へと向かっていく。
「おいオッサン、てめーにはデリカシーってもんはねぇのかよ。他人の前で言うこっちゃねぇだろ。そういうことはてめーら二人でカタぁつけろや」
怒りにか、左京の胸ぐらを引き掴み、全力で睨みつける万里。十座がハッとして顔を上げた時には、その手を振り払う左京がそこにいた。
「ヤクザ相手にメンチ切るたぁ、いい度胸じゃねーか、摂津。……ガキが生意気言ってんじゃねぇ!」
「んだとてめっ……」
「万里!」
「万チャン!」
手を振り払われた万里は、ケンカ慣れしているせいなのか、反撃に出る。
止めようと万里の名を呼ぶ臣と太一がいたが、そんなもので止まる勢いではなかった。
だが万里の反撃は、左京の膝によって軌道を逸らされ、万里を驚かせることになる。
そして十座は、左京のその涼しい顔に見惚れてしまっていた。
止めなければと思った一瞬あとに、負けず嫌いの万里の拳が握り直される。
「はっ、そういやアンタ、現役ガチだったっけ。マジで相当修羅場くぐってきたんだろ、――なァ!」
万里の拳が左京の顔に向かっていく。なぜ万里がそんなに怒っているのか理解ができないが、十座はとっさに足を踏み出した。
「やめろ摂津!」
パシリとその拳を手のひらで受け止めて、左京を庇う。
万里が目を見開いたのを、至近距離で確認した。
「な……」
「やめろ。役者の顔をなんだと思ってやがんだ」
「はあぁ~? おいあのなあ、俺はてめーのっ……」
万里の言葉が半端なところで途切れる。それを不思議には思ったけれど、十座は万里の手を下ろさせ、左京に向き直った。
「……すんませんっした、左京さん」
そう言って頭を垂れる。
礼を期待したわけではないし、そんなものもらったら困るところだった。
今、左京を万里の拳から庇ったのは、左京を守ったわけではない。左京なら上手く避けるだろうと思った。
それでもあれ以上繰り広げられる喧嘩で、左京に見惚れていたくなかった。
「…………金輪際、ふざけたこと抜かすんじゃねーぞ」
「……っす」
左京を今以上に好きになりたくない。なれない。左京が困ることが、今回の件で充分に分かったからだ。
ほうっと息を吐いた時、やってられっか、と小さく呟いて万里がレッスン室のドアへと向かっていく。それに気がついた臣が、慌てて声をかけた。
「あっ、おい万里、どこ行くんだ」
「こんなんで稽古になんかなるわけねーだろ、やってられっか!」
「万チャン!」
「おいオッサン! ガキだってなあ、マジな恋くれーしてんだよ!」
ドアのところで振り向いた万里は、左京を指さしてそう叫ぶ。そうして乱暴にドアを開け、出ていってしまった。
十座は力なく笑う。
まさかいちばん言われたかった言葉を、万里に言われるなんて。
ガキだって、真剣に恋をしている。
どれだけ望みがなくても、どれだけ拒絶されようと、これは恋だと胸を張って言える。
(まさか、てめーがなぁ、摂津……)
相容れない相手だと思っていたその男が、誰よりも先に許してくれた。万里にそのつもりがなくても、今、十座が救われたのは事実だ。
そんな十座の横で、息を吐く男がひとり。
「……摂津の言う通り、今日は稽古にならねーだろ。リーダーが抜けた上に、腑抜けたままのガキがいるんじゃな。休ませてもらうぞ。……なんだ伏見、なんか言いたそうな顔だな」
「……いえ……おやすみなさい、左京さん」
そうして左京までもが、稽古にならないとレッスン室を出ていってしまう。
取り残されたのは、どうしよう臣クンとおろおろする太一と、眉間にしわを寄せてため息を吐く臣と、びしょ濡れのままの十座。
「太一、俺はここ片付けておくから、十座と一緒に風呂行ってこい。あのままじゃ風邪を引くかもしれないからな」
「えっ、あっ、そ、そうだよね、十座サン濡れたまんま……大変ッす!」
そんな会話の後、ぱたぱたと太一が十座に駆け寄ってくる。それはまるで、散歩に行こうと飼い主にしっぽを振って寄ってくる、ワンコのような仕草だった。
「十座サン、お風呂。お風呂行きましょ! 風邪引いちゃうッスよ~」
「あ、臣さん、俺がやるんで……」
「いいから、お前は風呂だ。大事な秋組のメンツなんだからな、風邪なんか引いてくれるなよ。まあ……いろいろあるだろうが、愚痴くらいならいつでも聞くから」
元気出せ、と臣は十座の背中をぽんぽん叩いてくれる。左京とのことを言っているのだろうと簡単に推察できて、十座は俯く。左京を困らせたどころか、臣や太一にまで気を遣わせてしまっている。
やっぱりこの恋は、ここで終わらせてしまわないといけないと目を伏せた。
「……っす」
十座は臣にぺこりと頭を下げ、厚意に甘え、冷えた体を温めてこようと、太一とともに浴場へと向かった。
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