華家
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No.508
永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10
#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー
全国大会が翌日へと迫ったその朝、跡部景吾は珍しく跳ねるように起き上がった。「な、んっ……」 カッと…
永遠のブルー,塚跡WEB再録
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全国大会が翌日へと迫ったその朝、跡部景吾は珍しく跳ねるように起き上がった。
「な、んっ……」
カッと目を見開いて、荒い呼吸を繰り返す。心臓はドッドッと騒がしく音を立て、胸が動いているのさえ確認できた。
なんだ、今の夢は。
じんわりと汗が浮かぶのを自覚する。今見た夢をすぐには認識したくなくて、シーツに爪を立てた。顔が赤くなっているのは分かっているが、あまりにも生々しいそれが青ざめさせもする。
困惑した。視線があちこちへと泳ぐ。叫び出しそうで、とっさに口許を押さえた。
ドクンドクンと胸が鳴る。
酷い夢をみたものだ、とローブを引き掴み、どうにか冷静さを取り戻そうと試みた。
はだけていた胸元には何の名残もなくてホッとする。夢なのだから当然ではあるが、どうして、――どうして手塚に抱かれる夢なんか。
荒い呼吸のせいで、肩が上下する。
――――て、手塚のことが好きかもしれねえってのは百歩、いや一万歩譲って認めてやっていいにしてもだ! なんで俺様がっ、だ、抱かれる側なんだよ!
キスをされて、抱きしめられて、自分からもキスを返して、二人でベッドに倒れ込んだ。首筋に唇の感触。胸に手のひらの感触。素肌のすぐ近くで吐息を感じて、のけぞって、声を上げた。
――――違う違う、思い出すんじゃねえ! あんなっ……!
跡部と呼ぶ手塚の声が、何度も自分を高めていった。
絡む指先と、視線と、脚。欲情する獣のような瞳に興奮して、背に立てられる爪。揺さぶられる感覚は心許ないけれど、それ以上にどうしようもない快感が襲ってきた。はしたない格好で、あられもない声を上げ、欲をほとばしらせる。
あれは確かに自分だった。触れてくる男は、確かに手塚だった。
ガッと大きな枕を鷲掴み、ブンと投げる。完全に八つ当たりで、それは何もない空間にぽてりと落ちていった。
――――俺が女役ってのは納得いかねえ。いや、だからって俺が手塚を抱きたいわけでもねえんだが……待て、惚れてんなら抱きたいだろ? ってことは、俺は別にアイツを好きなわけじゃねえってことだ!
万事解決じゃねーの! とばかりにハッと笑ってみせるが、何となくモヤモヤが残る。
跡部は眉間にしわを寄せて、唇を引き結んだ。
手塚には、惹かれていると思う。プレイヤーとしては確実に。だが恋愛対象かもしれないとは、まだ認めたくない。
自分たちの間には、テニスがある。そこに何も挟みたくない。純粋にテニスをして、強欲に高みを目指したいのだ。
あの日の試合さえ、余計なものにまみれていきそうで恐ろしい。
ぞくりと半身を這った悪寒に、跡部は自身の腕を抱く。そうして気がついた。ああそれが怖いのかと。
今の気持ちがどうであれ、関東大会で交わしたボールにそんな感情は含まれていなかった。こんな馬鹿げた恋情みたいなもの、欠片も混じってはいなかった。そう声を大にして叫びたい。
――――お前という人間を知った日だ。こんなわけの分からねえ感情を持ち込んじゃいなかった。それは揺るぎのねえ事実だ。
色恋にうつつを抜かしている場合ではないと分かっているし、そう思っていることは彼にも知っていてほしい。それを疑われたくない。
だから、こんな想いはあり得ないのだ。
呆れられるだけならまだしも、軽蔑でもされたらたまったものではない。
きっと疲れていたのだ。
連日の練習、その後さらに手塚とのラリー、自主トレ。
部活のことや休み明けの学校行事のことなど、考えることは山ほどあって、それらを疎かにするのは性に合わない。
睡眠時間を削ってはいけないという思いから、必然的に起きている時の作業は密になる。疲れてしまっても無理はないと自分を納得させた。
跡部はベッドを降り、先ほど投げてしまった枕を拾い上げてベッドに放り戻す。
あんな夢は何でもない。自分も健康な男子中学生だっただけだとゆっくり息を吐く。相手と立場がおかしいけれど、大した問題ではない。
そうやって無理やり意識の奥底に追いやり、閉じ込めてカギをかけた。
「坊ちゃま、お目覚めでいらっしゃいますか?」
ノックの後に、聞き慣れた執事の声がする。跡部は「ああ」と返事をしながら、カーテンを開けた。
「おはようございます、坊ちゃま。……おや、ご気分が晴れないご様子ですな。昨夜はご機嫌麗しくいらしたのに」
何かございましたので? と続けてくる執事に、跡部は肩を竦めた。長年仕えてくれているミカエルには、やはりごまかしは利かないようだ。それでも、かけたカギはかけたままでいなければいけない。
「おはようミカエル。少し夢見が悪かっただけだ、大したことはねえぜ」
「さようでございますか。では、今朝のお食事はご気分を変えるためにもハーブティーでも御用意いたしましょう」
「……ああ、頼む」
変わらない日常と思うためにも、いつもの紅茶でいいと言おうとしたけれど、ミカエルの気遣いを無下にもしたくない。跡部は今日の予定を告げながら着替えをすませ、朝のロードワークへと向かう。
明日からいよいよ全国大会が始まるのだ、余計なことは考えていられない。
夢の中で触れた唇の感触なんて、もう思い出すべきではないと足を踏み出した。
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