No.502

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永遠のブルー-006-

永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

 手塚が歩み寄ってきて、互いの間にあった距離が縮まる。跡部はじっと見つめてくる手塚の強い瞳を見つめ返…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

永遠のブルー-006-

 手塚が歩み寄ってきて、互いの間にあった距離が縮まる。跡部はじっと見つめてくる手塚の強い瞳を見つめ返して、口を開いた。
「肩、どうなんだ」
「治療は終わった。もともとそんなに酷いものではなかったのでな」
「どの口が言いやがる」
 あんな試合をしておいて、と跡部は目を伏せて顔を背け、小さく舌を打つ。激痛に耐える表情を正面から見た跡部に、そんなごまかしは通用しない。
「いや、本当のことだ。どうも、心の方が重症だったようだが……イップスも克服してきた」
 イップスと聞いて、跡部は目を瞠った。
 肩が上がらないかもしれない。またあの激痛を味わうのかもしれない。ボールが打てなかったら、どうしたらいいのだろう。
 早い話が、心的障害トラウマだ。跡部は愕然とした。手塚ほどの男が、恐れたというのか。あんなに強い心を持っていながら。
 そんな恐れを味わわせたのは自分だと、唇を引き結んだ。
 そうして、ゆっくりと頭を下げる。
「悪かった」
 自己満足だろうと何だろうと、そんな思いをさせたことは詫びたい。
「何の謝罪だ?」
 少しの沈黙の後、手塚の声が降ってくる。
 嫌みでなく、心底分からないといったような口調に、跡部は思わず顔を上げた。珍しく引きつった顔をだ。
「あぁ?」
「……跡部、まさかとは思うが、気にかけてくれていたのか。ずっと」
「なっ……てめ……、気にかけるだろうが、普通は! テメェの怪我は、元は俺がっ……」
 あり得ないとでも言いたいのだろうか、この男は。腹が立って声が荒れる。行儀が悪いとは思いつつ手塚の左肩を指さしたが、手塚は強い瞳で押し返してきた。
「跡部、言っておくがこの怪我は俺の責任だ。俺が選択した結果だろう。お前には関係ない」
「――」
 跡部の体が硬直した。関係ない――これは明確な拒絶だ。関わらせてもくれないのかと、全身が凍りつく。
「いや、関係ないというのは語弊があるな。お前に責任はないと言いたかった」
 そんな跡部に気がついたのか、手塚がそう続けてくる。凍てつきが溶けた瞳で、跡部は手塚を見やった。
「……責任がねえわけねえだろ」
「ないと思うが」
「あるんだよ」
「ないと言っている」
 同じ意味のことを繰り返し、平行線だ。跡部は得心がいかない様子で片眉を上げる。
「テメェ、そんなに頑固なヤツだったのかよ。いや……あのプレイからすりゃ分かるような気もするが。ともかくだ、テメェのその怪我は」
「お前が直接俺に何かしたわけではないだろう。もともとこれは俺が無意識に肘をかばっていたせいだ。そしてその肘の怪我にお前は関わっていない」
 手塚は頑なだ。確かに直接敵には関わりがないかもしれないが、間接的には充分関わりがある。
 償いもさせてくれないほど嫌われてしまったのだろうかと、気分が沈む。それでもプライドが、顔を背けることを許さなかった。
「……俺がテメェに対してできることはねえのか」
「肩はもう治っている」
「だが、リハビリのせいで練習時間は奪われただろう」
「それは仕方がない。跡部、本当に気にしないでくれ」
 視線はお互いの真ん中で重なり合ったままだというのに、心が少しも重ならない。
 それがもどかしくて、伝わらないことに腹が立つ。苛立たしげに目を細め、跡部は口にした。
「逆の立場だったら、テメェは気にせずにいられるのかよ」
 その問いかけに手塚はわずかに目を瞠り、次いで眉を寄せた。それはそのまま答えとなったけれど、向けた瞳と同じほどの力を持った瞳が見返してくる。
「では逆の立場なら、お前は気に病んでほしいのか」
 質問に質問で返してくるのはずるいと、跡部は舌を打つ。手塚もそれを答えと捉えたようだった。
 逆の立場なら確かに、気にかけてくれるだけならまだしも、それを気に病まれるのは本意ではない。
「しかし跡部。そんなに心配したのなら、一度くらい顔を出してくれても良かったんじゃないか?」
「……アーン? 俺様が見舞いに行ってやらなかったからって拗ねてやがんのか、手塚ぁ?」
 ため息交じりにやんわりと責められて、跡部は困惑する。
 見舞いに行っても良かったのか――来てほしかったのか? と。
 そんな困惑を隠すために、いつものようにふんぞり返って煽ってみせた。跳ねた胸のことは気に留めないようにして。
「……」
 予想通り、手塚は面白くなさそうにわずかに眉を寄せる。そんなわけがないだろうという声が聞こえてきそうで、跡部はその愉快な光景にようやく自分を取り戻した。
「まあ、テメェがそう言うんだったら気にしねえようにしてやる。できるだけな。けど力になれることがあるようならいつでも言ってこいよ。何でもいいから」
「何でも……その方がお前の気持ちが軽くなるのなら」
「だから、俺のことがどうこうより、自分のためにって考えろよ」
「分かった。だがそれを要求しようにも、お前の連絡先を知らないのだが。個人的なことで氷帝に電話をかけるわけにもいかないだろう。都合が悪くなければ、何かしらの連絡先を交換しないか」
 そういえばそうだったと跡部も思い出す。散々悩んだことだったのに、こうして直接話せたことで頭から抜け落ちてしまっていた。「構わないぜ」と跡部はポケットから携帯端末を取り出す。幸いにも、今日持ってきているのは友人用の端末だ。今日からここに手塚が加わるのかと思うと気持ちが落ち着かない。
 ふと前を見やると、同じように携帯端末を手にした手塚が、困ったように画面を覗き込んでいた。
「……跡部、すまない。やり方が分からないんだが」
 まるで世界の終わりとでも言うような声で呟く手塚に、跡部は目をぱちぱちと瞬いた。連絡先を交換したいと言いながらやり方が分からないとは、何とも間抜けなものである。跡部は肩を震わせて笑った。
 きっとそこには家族や青学のメンバーの連絡先くらいは登録されているのだろうが、相手主導でやってもらったに違いない。
 それほどに慣れていないのだろうなと思うと、その数少ない登録先に自分を加えてもらえるというのが、やはりどうにも気分を落ち着かなくさせた。
「貸してみな」
 バツが悪そうにしている手塚から端末を受け取る。画面もデフォルトのままのそれが手塚らしいと、口許に笑みが浮かぶ。背景を氷帝の校旗にでもしてやったら面白いだろうなと思いつつも、大人しく連絡先の相互登録だけにしておいた。
「ほらよ」
「ああ、すまないな。ありがとう」
「手塚、本当に……試合、出られるんだよな」
 手塚に端末を返しながら、跡部は再度確かめる。
 激痛を耐えた男は、勝つためなら不調を隠してでも試合に臨むかもしれない。
 手塚の率いる青学と勝負したいのは確かに本音だが、この先のテニスをつつがなくできるようにと祈っているのも心の底からの本音だ。
「肩は治ったと言っただろう。全国大会に支障はない。氷帝とも、準々決勝で当たるな」
 当たる前に敗退するとは欠片も考えていない手塚に、跡部はホッとした。
「楽しみだ」
 そう続けた手塚に、目を見開く。言葉と表情が少しも一致していないが、こんなことで嘘を吐く男ではないと思いたい。本当に全国大会に出られることを嬉しく思い、そして楽しみにしているらしい。
 氷帝の出場についてまだ少しプライドが邪魔をして、純粋に喜べていなかった跡部は苦笑した。
 気持ちの上で手塚に負けたくはない。自分も高みを目指して力を付けようと、拳を握りしめた。


#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー