華家
-HANAYA-
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No.474
千至WEB再録 2020.05.31
#ウェブ再録 #両片想い #ウェブ再録
コンビニに車を駐めて、茅ヶ崎を送り出す。「あれ、先輩は行かないんですか?」「買う物ないからな。さっ…
千至WEB再録
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コンビニに車を駐めて、茅ヶ崎を送り出す。
「あれ、先輩は行かないんですか?」
「買う物ないからな。さっさと行ってこい」
「じゃあ、なるべく早く戻りますね」
「ごゆっくり」
バタンとドアの閉まる音。
ゆっくりしてきてくれ、本当に。思考が処理できない。こうやってステアリングに両腕を乗せてため息をつく間にも、俺の目はコンビニに入っていく茅ヶ崎を追ってしまう。
冗談だろ? 気のせいだ。
茅ヶ崎があんまりおかしなことを言うから、思考がそっちに傾いてしまっているだけだ。サブリミナル効果かな。――って思い込もうとするのに、俺の中の何かが否定する。
さっき手を握り締めてしまったのは、触れたかったからだ。指を絡め返してみてほしかったなんて思ってる時点で、もう駄目だろう。
「恋じゃない理由が……見つからない……」
恋だと思える理由ならいくらでも見つかるのに、そうじゃない理由が見つからない。恋をしないと決めているなんて意志だけでは、ひどくもろいんだ。
認めたくない気持ちの方が大きいけどね……。だって茅ヶ崎は普通に女を愛せるノンケだ。そう言ってただろ。万に一つもこの恋みたいなものが叶う可能性はないんだから。諦めるしかない。間違っても手なんか出すんじゃないぞ。それだけは絶対に駄目だ。
ああ……そうなると茅ヶ崎にも言っておいた方がいいのかな。自衛してもらわないと、万が一ってこともあるだろ。同じ会社で、同じ組で、同じ部屋。いいんだか悪いんだか分からない。そもそも俺は茅ヶ崎をどうこうしたいと思ってるのか?
茅ヶ崎と、キス……とか、セックス、とか……。
………………………………アリだな。
いや、アリだな、じゃないだろ、駄目だ。やっぱり茅ヶ崎に言っておこう。
キスをしたいって。セックスをしてみたいって。いやその前に――好きみたいだって。
この期に及んで「みたい」ってなんだ。往生際が悪い。でも仕方ないだろ、認めたくない。茅ヶ崎が言った通りになるのが癪だ。あれだけ外岡のあからさまな感情を拒絶してやったのに、まさか自分も同じ感情を抱いていたなんて、笑い話だろ。
ノンケに惚れても叶うわけでなし、やっぱり押し込めておくべきかな、この恋は。
そう思ったとき、ちょうど茅ヶ崎がコンビニから出てくる。小走りに寄ってきて、いそいそと助手席に乗り込んだ。
「早かったな」
「そうですか? 食玩の前で結構悩んでたんですけど」
ガサガサとビニール袋のこすれる音がする。コイツはどれだけ買ったんだ。でも、そんなに時間が経ってたなんて気がつかなかったな。俺もそれだけ茅ヶ崎のことを考えてる時間があったってことか。
はあ、とため息をつくと、呆れられたと思ったのか、茅ヶ崎がすいとペットボトルを差し出してきた。
「待たせちゃってすみません。先輩、それ好きでしょ」
それは俺の好きなジンジャーエール。ぱちぱちと目を瞬いた。
これは、俺に? なんだろう、この気持ち。
どうしようもなく――嬉しい。
自分の好きな物を買う間にも、茅ヶ崎が俺のことを考えてくれた。
それだけで、口許が緩む。
こんな些細なことで浮かれてしまえるなんて、恋というものはなんてお手軽な感情だろう。
「ん、ありがとう。もらうよ」
ちょうど喉も渇いていたし、とボトルの蓋をひねりかけて、はたと手を止めた。
「振ってないよな?」
これは炭酸飲料だ。もし思い切り振ってでもいたらスーツとシートが大惨事になることは間違いない。茅ヶ崎がそういう悪戯をしかけてこないとは限らないだろう。俺みたいに。
「振ってませんよ」
「じゃあお前が明けろ」
「信用なさすぎワロタ。振ってないって言ってんのに」
そう言いながらもしぶしぶ受け取る茅ヶ崎。カシュ、と音がして、蓋が開けられる。中身が噴き出すこともなく、どうやら本当に振ってはいなかったらしい。
「は~、惚れた男にする仕打ちですかね~」
「……構ってもらいたかったから、――っていうのはどう?」
ボトルを茅ヶ崎から受け取るときに、わざと指先が触れるようにした。ほんの少しでも触れてみたいっていうのは、立派な恋心?
「あれ、否定しなくなりましたね。ようやく観念しました?」
茅ヶ崎は何でもないように笑う。それはそうか、俺が茅ヶ崎に恋してるって、ずっと言い続けてたんだもんな。今さら驚くこともないんだろう。
「ああ、負けを認めるみたいで癪だけどね。どうやら俺は、茅ヶ崎のことが好きらしい」
「敗北オメデトウゴザイマス」
人生で初めての恋の告白ってヤツも、軽く流されてしまう。気持ちを否定されなかっただけ、マシかな。さてこれからどうしよう。好きでいることは許可されるんだろうか? 手を出さなければ平気かな。
「じゃあ残念賞あげましょうか」
「え? なんだ残念賞って……――」
日本では告白したら賞がもらえるのか? いや、でも残念賞なんだから、フラレるのかな。そんなことを思っていた俺の手からジンジャーエールのボトルを分捕り、茅ヶ崎が口を付けて中身を含む。喉が動く様がどうにも色っぽく感じられたのは、気づいたばかりの劣情だろうか。
だけど解せぬ。そのジンジャーエールは俺のために買ってきてくれたんじゃないのか。残念賞ってそういうこと?
「茅ヶ崎」
「はい、残念賞。間接ちゅー」
真意を訊ねようとしたら、飲みかけのペットボトルをぐいと押しつけられた。ぺろ、と唇を舐める仕種には、俺じゃなければ理性が焼き切れていただろう。何をしてるんだコイツは。
「今はそれで我慢しといてくださいねー」
「お前ね……。え、今は、って……? 直接の可能性があるってことか?」
「さあ? それは先輩次第ですかね。頑張って落としたらいいでしょ」
「お前ノンケだろ」
「基本的には、たぶん」
基本的には……? 口説いてみれば、努力次第でこの恋が叶うってことか? 茅ヶ崎は本当に恋というものを分かっているんだろうか。
「茅ヶ崎、俺の感情には劣情も含まれてるんだけど、理解してるの?」
「ついさっきまで恋を否定してた人の台詞とは思えん」
「直接のキスも、セックスもしたいって言ってるんだ。それでも平気なのか?」
「平気だって思うくらい惚れさせればいいんじゃないですかね」
まるで他人事のように携帯端末でゲームを始める茅ヶ崎。面白くない。当事者だろお前。
「……好きな女いるだろ。現在進行で甘えてみたいひと」
「どこからどう勘違いしたのか知りませんけど、好きな女はいませんよ。良かったですね」
そうなのか? だって、あんなに幸せそうに恋について語っていたじゃないか。でも、今さら俺に嘘をつく必要もないか……なら、心身ともにフリーってことなんだな。
こうなったら、振り向かせるしかないだろ。
「じゃあ、遠慮なく口説かせてもらうよ」
「はいどーぞ。今んとこ外岡より一歩リードですね」
「そうなの? なんで。アイツの方が長いことアプローチしかけてきてるだろ」
「俺に一度も好きって言ってないんで。男らしくないじゃないですか」
なるほど、あれだけあからさまなのに、それは確かに男らしくないね。
そうなると、焚きつけてくれた茅ヶ崎には感謝かな。ずっと気づかないで傍にいるとこだったよ。
恋なんてしないとハナから決めつけて、大事な感情を見過ごすところだった。
「でも、この気持ちには気づいたばかりだからな。初心者だし、判定はお手柔らかに頼むよ」
ないと思っていた感情が自分の中にもあったことを知るのは、これで何度目だろう。予定外の気持ちは慣れるのに一苦労だと思うけど、茅ヶ崎絡みならそれも楽しいかもしれない。
「茅ヶ崎。教えてくれてありがとう」
そう言って、俺は茅ヶ崎が口を付けたペットボトルにキスをした。
恋は唐突にやってきて
急速に
転がり落ちていくものである
やっっっと聞けた。
やっと言ってくれた。
あからさまに俺のこと見て、幸せそうに笑って、構いたがってるのに、どこが「恋じゃない」んだか。
先輩が俺のこと見過ぎたせいで、こっちまでその気になっちゃったんだから、責任取ってほしい。
俺を好きって言って。俺に構って。俺だけ見てて。
嫌だなんて言わせない、だって先輩は俺のことが大好きなんだから。俺が言ってあげないと気づかないくらい日常的に、俺に恋してたんだから。
まったく、俺が恋するうさぎはメンドクサイ。
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