No.467

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恋するうさぎはメンドクサイ-003-

千至WEB再録 2020.05.31

#千至 #片想い #ウェブ再録

 そんなこんなで、ナイランのキャラとしてPR活動をしてみたけれど、やっぱり茅ヶ崎の様子がおかしい。い…

千至WEB再録

恋するうさぎはメンドクサイ-003-


 そんなこんなで、ナイランのキャラとしてPR活動をしてみたけれど、やっぱり茅ヶ崎の様子がおかしい。いつもなら俺たちに駄目出しするくせに、今の茅ヶ崎は逆に駄目出しされかねない。それは他のみんなも気づいていて、テンポが狂う。
 PRはなんとか無事に終えたけど、主演をなんとかしろとみんなに頼み込まれて、茅ヶ崎を連れ戻す役目を仰せつかった俺の身にもなってくれ、あの馬鹿。
 茅ヶ崎は誰にも何も言わずにどこかへ消えていたけれど、ああ、うん、たぶんあそこだろうな。
 いくらかの確信を持ってパーク内を歩く。まったく世話の焼けるヤツだ。主演があんなふうじゃ、成功するものも成功しやしない。
 なんだか悩んでいるような茅ヶ崎を見たくない――わけじゃないけど。面白いからね。
 でも、だからっていつまでも見ていたいわけでもないんだよ。俺の相棒である彼は、何事にもまっすぐで、純粋で、高潔な騎士だ。そうだろ? 茅ヶ崎。
 ああやっぱりここにいた。王の間だ。王座の前で、茅ヶ崎は跪いて何かを祈っているように見えた。その祈りを邪魔するのは心苦しいけど、みんなが心配するし早く連れ戻そう。
「やっぱりここか、茅ヶ崎。心配するから、一言くらい残していけ」
 茅ヶ崎が振り返る。ランスロットではない、茅ヶ崎の顔だ。……コイツ、顔だけはいいんだよな。
「咲也や監督さんが、でしょ」
 俺も心配するとは欠片も思わないわけか。可愛くない。
「……まあね。俺はお前の親父ってことらしいから、仕方なく迎えにきたんだよ」
 本音を隠して返してみれば、茅ヶ崎はなんでか苦笑する。
 よくここが分かりましたねと茅ヶ崎は言うが、なんで分からないと思うんだ? だってここ、あのランスロットの限定SSRの背景にそっくりだろ。茅ヶ崎なら、ここしかないと思ったんだけど。
「……ちょっとパワーをもらいにきたんです。ガチャの」
「ガチャの、ね……」
 茅ヶ崎は猫かぶるのは上手いけど、嘘は下手だ。ガチャのパワーをもらいにってのも嘘ではないだろうけど、大部分はそれじゃないだろ? こんな時くらい、素直に頼ってくれてもいいのにな。茅ヶ崎の中で、俺はまだ頼れる存在じゃないんだろうか……。
 俺では頼りにならないというなら――。
「捜したぜ――ランスロット」
 ごめんガウェイン、お前を貸してくれ。
 緊張しているランスロットに発破をかけるエチュードを仕掛ければ、茅ヶ崎――ランスロットが返してくれる。俺の大事な相棒だ。
「どんなことがあっても、お前ひとりじゃねえんだ。安心して楽しめよ」
 その言葉が、ガウェインのものなのか、それとも卯木千景としてのものなのかは分からない。でも、彼はハッとしたような顔をしてくれた。
「そろそろ時間だ。行こうぜ相棒。――新しい旅に」
「ああ」
 彼は肩の力を抜いて頷いてくれる。緩んだ口元が嬉しかった。
 これでもう、大丈夫だろう。茅ヶ崎は分かったはずだ。一人ではないのだからと。
「急にエチュード仕掛けてくるなんて……。先輩、いつからそんなに演劇好きになったんです?」
 素に戻った茅ヶ崎が、むくれて睨みつけてくる。さっきまでの高潔な騎士はいったいどこへ行ったのやら。
「さあね。でも演劇馬鹿のお前には負けるかな」
「……そうですね。俺の方が少し長いんだし、そう簡単に負けちゃたまんないですよ。ここでは俺の方が先輩です。そんなわけで、さっきの芝居に駄目出ししていいですか?」
 いいですかと訊ねておきながら、駄目だと言っても聞きそうにない勢いだ。俺は一応はいはいと返しておいた。
 こういう負けず嫌いなところがあるから、茅ヶ崎は構い甲斐があるんだ。
「手の角度もう少しこっちに。ガウェインのかっこよさを最大限に活かしてください。あと台詞、もう少しランスロットを心配してるみたいに、あ、でもそれとは気づかせちゃ駄目なんで、そこんとこさじ加減が――」
 矢継ぎ早にぽんぽん飛び出してくる駄目出しに、思わず笑ってしまいそうだった。完全復活かな、茅ヶ崎。良かった。こっちの方がお前らしくて好きだよ。
 ……ん? ……んん。……間違ってはない。俺は別に茅ヶ崎のこと嫌いじゃないし、ちゃんと家族として大事に思ってるからな。
「ようやく終わったか。はぁ……それにしても、さっきは不意を突いたのに全然キャラがぶれなかったね、茅ヶ崎は。さすが」
「そりゃあ、長年ナイラン愛こじらせてるんで。誰にも負けませんよ」
「それだけ熱くて重いナイラン愛があれば、星井ディレクターにも届くんじゃないか。あのプレ公演の時みたいに。オズとのクロスオーバー公演、許可もぎ取ろうとしてたプレゼンみたいにね」
 真実の心というものは、ちゃんと届くのだと、俺はこの劇団に入って知った。教えてくれた茅ヶ崎が忘れちゃ駄目だろ。
「……ありがとうございます」
「……何が?」
「いーえ、別に」
 まったく素直じゃないな。いや、素直な茅ヶ崎は慣れてないから勘弁してほしいけど。
「さあ、戻ろう。みんな心配してた」
 ぽんと背中を叩いて、足を踏み出す。星井氏がくるからって変な緊張してPR活動もろくにできなかった――なんてことは、内緒にしておいてあげるよ。



 明日の公演に向けて、他のみんなは早く休んだようだった。でも茅ヶ崎はまだ落ち着かないらしくて、ホテルの部屋に戻ってこない。俺もね、一応は心配するんだよ。一言くらい残していけっていうのに、アイツときたら。馬鹿なの?
 また何か悩んでるんだったら、ちゃんと助けてやりたい。相棒として。
 とは言っても、捜すところなんてたかが知れている。ホテル近くのコンビニか、ホテルのロビーか、それともバーラウンジか。
 ロビーのソファにはいなかった。コンビニにもいなかった。一応二軒回ったんだけどね。となればあとはホテル上階のバーラウンジ。
 俺はエレベーターでその階を押し、飲んでるなら一杯くらい奢ってやろうかとも思う。飲みすぎてるなら引っ張ってこようと思う。
 まったく、俺がこんなだから過保護って言われるんだ。知ってるよ。万里や東さんがそう言ってるの。でも、仕方ないだろう。……大切なんだ。大切な、家族……なんだから。
 案の定、茅ヶ崎はバーにいた。カウンターでロングのグラスを握る姿が見える。他にも客はちらほらいるようなのに、アイツは目立つな。一人で飲んだりしたら、女から声かけられたりするんじゃないのか?
 だけど、俺の予想に反して茅ヶ崎の隣に女はいなかった。俺は想わず目を瞠る。
 断ったのではない。隣にちゃんと連れが――外岡がいるからだ。
 なんでだ? どうして、仲違いしたヤツと一緒に仲良くバーなんかにいるんだ? 茅ヶ崎の神経が信じられない。いや、そりゃ俺だって密と仲違いしていたことはあるけど、それは誤解だったわけで、そもそも今だってそんなに仲良くない。仲が良かったことなんて一度もないし。
 だけど話を聞く限りではアイツと外岡の件は誤解ではない。せっかく育んだ友情を粉々にされたんだろ。それなのに、どうしてそいつの隣で笑えるんだ?
 それに、気づいてないわけないだろ、茅ヶ崎。外岡はお前に気があるんだぞ。ちゃんとまずい方面でだ。あからさまに俺に敵意なんか向けて、独占欲丸出しの子供のまま成長してないじゃないか。
 そんなヤツと二人で酒だと? 危機感がないにもほどがある! 飲み過ぎて部屋に連れ込まれるのがオチだ。それどころか変な薬でも入れられてたらどうするんだ!?
 おいふざけてるのか外岡、その手はなんだ。茅ヶ崎も振り払え、腰の手を……っ!
 胃液がせり上がってきそうなほどの不快感。気がついた時には、二人が俺の目の前にいた。外岡が無害なら、邪魔するつもりはなかったんだけどな。


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