華家
-HANAYA-
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No.250
俺のCandy Star! 2017.07.17
#シリーズ物 #ウェブ再録
「……やめろ。役者の顔をなんだと思ってやがんだ」「はあぁ~? おいあのなぁ、俺はてめーのっ……」 十…
俺のCandy Star!
favorite いいね ありがとうございます! 2017.07.17 No.250
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「……やめろ。役者の顔をなんだと思ってやがんだ」
「はあぁ~? おいあのなぁ、俺はてめーのっ……」
十座のためだなんて言いたくないけれど、多少なりともそういう思いがあったのは本当だ。
望まない形で自分の想いを晒されて、拒絶され、十座は左京に、文句のひとつも言ってやっていいはずだ。
それなのに、なぜ当の本人が止めてくるのか。万里はいら立ちを隠しもせずに十座を睨みつけた。
「……兵、頭……」
だけどそこで言葉を失う。
(な、……んて顔、してやがんだよ……)
十座とは、言い争いの中で、殴り合いの中で、芝居の中で、寮生活の中で、それなりにいろんな表情に接してきた。
ほぼ九割が不機嫌そうな表情だったけれども、それでもこれはない。見たことがなかった。
泣き出しそうな顔なんて。
なんと声をかければいいのか分からない。
左京を責めもせず、十座は頭を下げる。すんませんでした、と呟かれる言葉を傍で聞いていて、万里の怒りは最高潮に達した。
(……んでだよ! なんでてめーはそうまでして、あんなことまで言われて、そんでも左京さん好きなんだよ!? アホか!)
やってられるか、と万里は踵を返し、レッスン室のドアへと向かう。
「あっ、おい万里、どこ行くんだ」
「こんなんで稽古になんかなんねーだろ! やってられっか!」
「万チャン!」
万里は乱暴に稽古場のドアを開け、左京を振り返る。そのすぐ傍には水に濡れたままの十座がいて、さらにいら立ちが増した。
「おいオッサン! ガキだってなぁ、マジな恋くれーしてんだよ!」
そう吐き捨てて、万里は稽古室を後にする。
首にひっかけていたタオルを引き下ろして、ダンダンと足音をとどろかせ、部屋に向かいながら、気づく。
別に十座のために怒ったわけではない。
確かに腹は立ったし、文句くらい言えよとは思ったが、いちばんの理由は、ガキ扱いされたこと。
ガキが恋をしてはいけないのか。そもそもどこまでがガキなのか。成人していたらよかったのか。
ガキだから、と拒絶されるのは気にくわない。
「くそっ……」
まるで自分の恋を笑われているようだった。
十座と左京ほどではないにしろ、万里も紬と年が離れている。
紬にこの恋を打ち明けても、子供だからとやんわり拒絶されるのだろうか。
そう思うと、悔しくて辛くて腹立たしくて、思わず声を張り上げていた。
「馬鹿にしてんじゃねーぞ……!」
万里は部屋に戻るなり、ロフトベッドに乗り上がり、ドサリと体を投げ出す。腕で目元を覆えば、泣き出しそうだった十座の顔が浮かんできて、自分のベッドなのに居心地が悪い。
まさかこんな身近に、同じような恋にハマった男がいたなんて。少しも気がつかなかった。いや、万里が紬のことしか見ていなかっただけだろうか。
十座はどんな言葉で気持ちを告げたのだろう。どういった経緯でキスまでしてしまったのだろう。
なんだか、十座に先を越されてしまったような気分になって、悔しい。
「アイツも……悩んだんかな……」
左京に気持ちを告げるに至るまで、どれほど悩んで、葛藤して、口唇を噛んで、拳を握って、我慢してきただろう。
それでなくても不器用な男だ。色恋方面には疎そうに見えて、自分の気持ちを受け入れるにも、時間がかかったかもしれない。
それでも十座は、左京に伝えたのだ。伝わるように、伝えたのだ。
はあ、とため息をつく。
カレシに立候補してもいいか。
そう紬に告げた言葉は、本気にしてもらえなかった。笑われたのではないと考えれば、マシな方かもしれないが、芝居だと思われたのは正直悔しい。
シチュエーションが悪かったのもあっただろうが、もっとちゃんと、真剣に気持ちを打ち明ければよかった。
「もっかい……ちゃんと言わねーと……」
せめてこれが本当の恋なのだと、紬に伝えたい。
演技ではなく、摂津万里として月岡紬が大好きなのだと伝えたい。
叶わなくてもいいなんて、消極的なことはもう考えない。この体の中にある言葉全部で伝えてみよう。
ガキだろうがなんだろうが、マジな恋をしているのだから。
そうして決意を新たにした頃、ルームメイトである十座が部屋に戻ってくる。
万里はベッドの上で体を起こし、髪を下ろしたままの十座を見下ろした。さすがに風呂に入ってきたらしく、顔色は悪くなかった。
ベッドの上と、下とで、視線がぶつかる。
それは珍しく十座の方から逸らされて、万里は目を瞬いた。どうしても気まずいのだろう。いちばん知られたくなかった相手に、あんな形で知られてしまったのだから。
何も言わずにはしごを上がる間も、意図的に顔を背け、ごろりと横になり、ばさりと布団をかぶった十座に、万里は声をかけた。
「なあ兵頭、お前さ」
「うるせぇ黙れ」
まだ何も言わないうちから、ドスの利いた声ではねのけてくる。だが万里はそんな声など慣れている。構わずに、言葉を続けた。
「左京さんのことマジなんだろ?」
「……うるせぇ黙れ、寝る」
「怒んなよ、なにもからかおうってわけじゃねーんだからよ。協力するつもりもねーけど」
仲のいい友人だったら、協力くらいはしたかもしれないけれど、十座ではそんな面倒なことしたくない。しかも相手があの左京では、二人して返り討ちに遭うのがせいぜいだ。
「ただ、てめーが悩んでた気持ちは分かるつもりだから。そんだけ」
「…………は?」
「ヤケになるんじゃねーぞっつってんだよ」
「おい摂津、まさかてめぇも左京さんのこと――」
「なんでそーなるんだよ、ふざけんな!」
十座が慌てて起き上がり、続いて万里もがばりと体を起こした。
気持ちは分かる、という言葉だけではそう誤解するのも仕方ないかもしれないが、冗談じゃない。そこは誤解をといておかないと、面倒でたまらない。
「…………俺もおんなじような感じだっつってんだ。理解しろや、アホが」
「おんなじ……? てめーまさか、劇団内に……?」
ベッドの柵越しに、珍しく十座と言葉を交わす。鈍い男もさすがに察したようで、目を瞠ったのがよく分かる距離だ。こんなことでもなければ、この男とコイバナなんてしなかっただろう。
「誰だ……?」
「ハ、当ててみな」
「…………至さんか?」
「分かるけどちげぇ」
やっぱそうくるかぁと、万里は項垂れて髪をガシガシとかき混ぜる。確かに仲がいい相手ではあるけれど、恋愛感情なんて持てやしない。
「臣さんとか……メシもデザートもうめぇし」
「胃袋掴まれてんのはてめーの方だろが」
「天馬……太一?」
「年下にキョーミねぇ。あ、年上でも東さんとかもちげーからな」
どうして、肝心な相手が出てこないのだろう。自分では分かりやすいと思っていたのに、そうでもなかったのだろうか。安堵する反面、この分ではやっぱり紬にも伝わっていないのだろうなと、落ち込みもした。
「……紬さん……?」
「やっとアタリな。てめーと好み合わなくて安心したぜ」
やっと紬の名前が出てきたけれど、十座は特に驚いた顔をしていない。分かってしまえば、不思議でもなかったということなのだろうか。
「つきあってんのか」
「まだちゃんと告ってもねーよ。まさか、てめーに先を越されるとは思ってなかったけどな。なあ、なんつって告ったんだよ。あの人のこった、ストレートに言わねーと信じちゃくれねぇだろ」
昨日想いを告げたということは、万里が紬に告白したのと同じ時間帯なのだろう。
いくら同じ劇団内、同じく同性相手、年上を好きになってしまったからといって、そんなところまでかぶらなくてもいいのになと、万里は口の端を上げた。
「……ストレートに言っても信じちゃくれなかった。まあ、その気持ちは分かるけどな……」
「あー、だから実力行使ってか。下手打ったんじゃねーの、それ」
「うるせぇ、黙れ」
十座はまた布団をかぶってしまって、会話が途切れてしまう。思ったより落ち込んではいないみたいだと、万里もベッドに体を沈めた。近い天井を眺め、ひとつ、問いかける。
「なぁ」
「……んだよ」
「諦めんのかよ。左京さんのこと」
あれだけ派手に拒絶されて、望みもないだろう恋を、このまま続けていけるのか。
協力するつもりも応援するつもりもないけれど、諦めてしまえとは、かけらも思わない。親近感とでも言えばいいのか、妙な仲間意識が生まれてしまっていた。
「簡単に諦められるくらいなら、最初っから言ったりしねぇ」
「……――だよなあ」
万里はホッとして、息を吐く。同じく望みもないのに、紬を好きでいることをやめられない自分を、許されたような気がして。
(明日、ちゃんと言おう。振られるんだろーけど、俺が紬さんのこと好きなのは変わりねーし)
そうして目を閉じたら、珍しく十座の静かな声で呼ばれた。
「摂津」
「……んだよ。寝んじゃねーの」
「少し……気が楽になった。俺だけじゃねえのかって、まだ左京さんを好きでいていいんだって思ったらな。……そんだけだ」
「てめーに礼言われるなんざ気色悪い」
「礼なんか言ってねぇ。耳悪いのかてめー」
「あァ?」
「んだコラ」
「やんのか」
「寝んじゃねーのかよ」
「てめーが突っかかってきてんだろうが!」
「寝かせろよ、昨日眠れなかったんだ……」
同じような境遇でホッとしつつも、結局はいつも通りの自分たちに戻って、互いのため息で言い争いを無理やり打ち切る。
やっぱり馴れ合えるもんじゃねーなと、万里は髪をかき上げて目を閉じた。
紬ももう眠っているだろうか。それとも、GOD座とのタイマンACTで悩んでいるだろうか。
まさか、自分が今日言ったことで、悩んでくれたりはしていないだろうけれど、明日に響かない程度に睡眠を取ってほしいと、祈るようにゆっくり息を吐いた。
(おやすみ、紬さん)
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