華家
-HANAYA-
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No.233
NOVEL,A3!,万紬 2017.06.24
#両片想い #ワンライ
あんまり美味しくねぇ。 飲み慣れたはずのコーヒーを、その日に限って俺はそう思った。 時刻は午後11…
NOVEL,A3!,万紬
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あんまり美味しくねぇ。
飲み慣れたはずのコーヒーを、その日に限って俺はそう思った。
時刻は午後11:00。終夜営業のカフェの外、飲み屋の電気がきらきらと無責任に灯っている。俺には入れない場所だ。いや、入れてもアルコールは飲めない。まだ、そういう年齢。一切飲んだことがないかと言えばそれは嘘になっちまうけど、積極的に飲みたいもんでもなかった。
今はコーヒーの方がいい。好みの味に出逢うとホントに嬉しいんだよな。その店の場所と名前は秒で覚えられるから、リピートすることだって多々ある。
ここもそういう店のひとつだ。
だから、ここのコーヒーがまずいわけねぇ。
なのに今日は、まずい……いや、まずいんじゃねーな。美味くねーんだ。おんなじだろって言われそうだけど、全然違う。
俺はカップを静かに置いて、ため息を吐いた。原因は分かってんだ。ただ、認めたくないだけで。
だってさ、好きなひとが合コン行っちまってるってだけで、こんだけコーヒーまずくなるとか、超ガキっぽくね?
演劇に関する男女混合の意見交換会だよって言ってたけど、いやそれめっちゃ合コンだし。
分かってんのかなあのひと。分かってねぇんだろうな、芝居馬鹿だし、演劇に関することって言われたら、なんでもほいほい行っちまうんだろ。
その中にどんだけアンタ狙いの女がいると思ってんだ、紬さんは!
は~……しんど……。なんでヤローなんかに惚れちまったんだろうな。しかも年上。いや年上は好きなんだけど、性別がな。どう考えたって上手くいくわけねーじゃん。
どうにかカフェ友ってポジは維持できてっけど、それじゃ意味ねーんだよな……いや意味なくはないんだけどさ、紬さんが意見交換会って名前の合コン行くって時、止められねーの、すげえ悔しい。酒の席じゃなかったら、俺も絶対ついてくのに。飛び入りなんてよくあることだろ。
未成年なことを、これほど悔しいと思ったことはない。もどかしい。今すぐ成人して、紬さんと飲みに行ってみてぇ。酒は別に飲まなくてもいーけど、他のヤツら牽制しときたいんだよな。
だって紬さんとなら、酒よりコーヒーだしさ。
あー、ここのコーヒーが今日美味くない理由、もひとつあったわ。
正面に紬さんがいねぇ。
紬さんとカフェ巡りし始めてから、一人で飲むことがなくなったせいか、ちょっと、……さみ、しい。
紬さんのやわらかい笑い顔もないし、なんか照れくさそうに呟く声もない。万里くん、て呼んでくれるあの声、たまんなく好きなのにさ。
それがひとつもない店内は、今の俺にとってヘブンじゃなくなってる。
逢いてーな……今LIMEしても、見てねーだろうな……。アプリ立ち上げてみるけど、やっぱりやめとこ。
そもそもあのひと慣れてねーから読む習慣もついてねーし……おい俺の指勝手に動いてんじゃねーよなんだよこれ、送れるわけねーだろ。
逢いたい。
なんて。
……は!? なんで勢いで送信ボタン押した!? 削除削除削除!! やっべ、セーフセーフ、既読は付かなかった、全然よゆー。
……もし、万が一にでも読まれてたら、ごまかそ。他のヤツに送る予定だったって。誰にって、誰でもいーし。んなもん送るような相手いねーけど。
はー、も、マジしんどい。紬さん相手だとホント何もかもが上手くいかねぇ。
紬さんを好きになってなきゃ、ここのコーヒーも美味いはずだった。紬さんのいない寮に帰りたくなくて、こんなとこで時間潰したりもしなかった。LIMEのメッセひとつに言葉選んで悩んで、送信タップする指が震えたりもしなかった。
調子が狂う。いつもの自分でいられない。
「万里くん?」
ほら、幻聴まで聞こえてきた。さすがにこれはやべ、…………は?
「つ、……紬さん?」
なんで、どうしてここに紬さんがいるんだ? 幻覚か? いやそれにしてはすっげぇリアル。……本物?
「なにしてんすか、こんなとこで。アンタ今日、合コンだったろ」
「合コンじゃないってば。っていうか万里くんこそ何してるの、こんな時間まで。未成年なんだから、駄目じゃない……?」
本物……本物!? なんで……っていうか、偶然、だよな? 合コンの店、ここから近かったんか? さすがにそれは聞いてなかったけどさ。
「万里くんがここのコーヒー好きなのは知ってるけど、夜遊びは駄目だよ」
言いながら、紬さんは俺の正面に座る。えっ……と、コーヒー飲んでくつもりってことで、いいんだよな。
「すみません、アメリカン。万里くんは?」
「あー、じゃ、俺もアメリカンで」
そうして店員に追加オーダーを頼み、ふうっと息を吐いた。まったくゲンキンなもんだぜ、紬さんが来た途端にここはヘブンに変わる。
「いいんすか、未成年と夜遊び・・・・・・・とか」
「えっと……じゃあ、俺が保護者ってことで」
「頼りねぇ保護者だな」
気まずそうに紬さんは視線を泳がせて呟いてくる。二人でいると、どっちかっていうと俺の方が上に見られる。その紬さんが保護者って、ウケるわ。
それを抜いてもな、保護者かあ……って気分だわ。
紬さんには、保護者じゃなくて恋人になってほしいのに。
「でもびっくりしたな、コーヒー飲んでいこうと思って入ったら、万里くんがいるんだもの。ドア開けてすぐに目に入ってきたんだよ。目立つからなぁ、万里くん」
「そんなに目立つっすか? ん~……自分じゃ分かんねーけど」
「えっ、あっ、そういうものなの? ……なら、やっぱり気をつけなきゃね」
運ばれてきたアメリカンをすすりながら、紬さんがため息を吐く。それって俺が補導されたりとかそいうこと心配してんのかな。んなヘマしねーのにさ。
「紬さんも、今日の合コンで目立ってたんじゃねーの? 誰かと連絡先交換してきたんすか?」
「真面目な意見交換会だよ? っていうか俺が目立つわけないじゃない……交換したくても俺、やり方分からないし」
「…………合コンの意味なくね、それ」
「あのね万里くん、俺、今はお芝居で精一杯で、女の子とおつきあいするつもりは全然ないんだよ」
ため息交じりに呟かれた言葉に、俺は心の中でガッツポーズ。それなら、積極的に「夜遊び」行ったりしねーよな? まぁ芝居に夢中ってことは俺も眼中にはねぇんだろうけどな……。
「万里くんとこうやってカフェ巡りする方が楽しいしね。万里くんは、いいの? 女の子と一緒の方が嬉しくない?」
マジでか。今のマジでか。紬さん、合コンより俺とのカフェ巡りの方がいいって! どんな殺し文句だよ。やっぱこの人、無自覚で人たらしだわ。
「俺も別に。今はキョーミねぇっつか、もともと恋愛方面にキョーミねぇからさ」
「あ、……そうなんだ……」
だから、紬さんを好きになったのは俺的に予定外っていうか、おかげで空回りしっぱなしなんだよな。
「紬さんとこうやってコーヒー飲んでる方が、俺も楽しーしな。夜はまた店が違った雰囲気になるし」
紬さんの言葉を真似て返した俺に、紬さんが満面の笑みを返してくれる。マズった、可愛い。
「ホント? じゃあ、またこうして夜遊びしようね、万里くん」
続いた紬さんの言葉に目を瞠って息を止めて、危うくカップを取り落としそうになった。何言ってんだ。何言ってんだこの人!
「ちょ、なに、言って」
「あ、でもたまにだよ、たまに。そうそう未成年を連れ出せないよ」
大事なとこそこじゃねーし! ほんとにこの人は、無自覚でどうしようもない、危なっかしい!
そんなとこも可愛いって思っちまうんだよな。
ああ、これだから恋ってヤツは。
◇ ◇ ◇
そっかぁ、万里くんは恋愛に興味ないんだ……。じゃあしばらく女の子とつきあう予定もないわけで。目立つ自覚がないってのほんとどうしようもないなって思ったし、女の子に牽制する必要なくなったのかな。それは有り難いけど、当然俺なんか眼中にないよね。手放しでは喜べないよ。
万里くんには知られたくない。あの交換会を途中で抜けて、万里くんと巡ったカフェ探してたなんて。まさか本人がいるとは思ってなかったけどさ。
夜遊びしちゃいけない年齢の子に、なんでこんな恋しちゃったんだろう。
困ったなあ……叶う見込みなんて全然ないのに、止められない。
だって、万里くんが俺とのカフェ巡り楽しいなんて言ってくれるから。浮かれちゃうじゃない……。
……でも、さっきの・・・・は見間違い、だよね……? スマホの画面にポップアップで出てきたメッセージ……。
逢いたい。
なんて。
びっくりしてアプリ立ち上げたら新規メッセージなかったし……恋愛に興味ないなら、他の人宛でもなかったはず。やっぱり俺が万里くんを好きすぎて生み出しちゃった幻だったんだ。
その瞬間はがっかりしたけど、ここで万里くんを見つけた途端天国に来た感覚にさえなったんだから、ゲンキンだ。
ああ、これだから恋ってものは。
#両片想い #ワンライ