華家
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No.481
塚跡WEB再録 2021.10.02
そうやって想いを受け入れてもらった形で、交際を始めた。 手塚は公表するつもりはなかったのに、跡部が…
塚跡WEB再録
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そうやって想いを受け入れてもらった形で、交際を始めた。
手塚は公表するつもりはなかったのに、跡部が堂々と宣言してしまったのは本当に驚いたものだ。
今日は[[rb:氷帝 > ウチ]]のコートで打つぞと迎えに来られて、「強引だね」とどこか含みのある言い方をした不二に、何ら悪びれることなく「手塚を振り回せんのは恋人である俺様の特権だろ、アーン?」と返したのだ。
大石は固まっていたし、菊丸は興味津々だったし、河村は感心しているようだったし、乾は何故かノートを取り出したし、海堂はどう反応するべきか困っていたし、桃城は腰を抜かしていたし、越前は「さすがっすね」などと言っていたし、不二は「手が早いな」と開眼していた。まだ出していないと否定もできず、視線をあさっての方向に逸らしたのを覚えている。
跡部は氷帝のレギュラー陣にも報告したらしく、コートに着くなり祝いと「跡部に捕まったら逃げられない」という憐れみを次々投げかけられた。
捕まえたのはこちらの方なのだがと弁解したかったが、「どっちでもいいじゃねーか」と楽しそうにラケットを構える跡部に、何も言えなくなったのだ。
順調だったと思う。何度か唇を重ねて、視線も重ねて、手のひらも重ねた。連絡がくるのはいつも跡部の方からで、リードするのも跡部の方だった。
そんなふうだからか、周りには跡部からの想いを手塚が受け入れたと捉えられていた。実際は逆なのだと知っているのは、手塚の気持ちを知っていた不二くらいだろう。
不二曰く、周りがそう誤解するのも無理はないのだそうだ。
何かというと絡んでくるし、ライバル視してるし、唯一無二の相手として明け透けにアプローチしているからね、と不二が言う。
それは色恋を抜いても自分も同じだ、と手塚は返した。
あの関東大会、唯一の相手と対峙できた幸福。跡部でなければ駄目だったし、跡部にとっても手塚でなければいけなかった試合だ。
そこまで考えて、ふと思い当たる。
あの試合で、手塚は肩を痛めた。元々の怪我を無意識にかばっていたのが原因だが、跡部の言葉で認識し直したのも事実だ。にも拘わらず、唯一無二で永遠の宿敵との対戦に全力で挑んだ結果である。誰のせいでもない、手塚自身の責任だ。
だけど、跡部はそう思っていないかもしれない。自分が弱点を攻めたせいで肩を壊したのだと思っているかもしれない。
一因ではあるけれど、彼が責を負う必要はなかった。
だけど、もし。
――――もし、贖罪の意味でこの不埒な想いを受け入れてくれたのだとしたら。
ざあっと血の気が引いていった。
そんなことは望んでいない。もし好意がないのに交際してくれているのなら、すぐにでも断ち切るべきだと思った。
だから、もし贖罪の気持ちがあるのなら別れてほしいと告げたら、左手で頬を殴られた。
右手でなかったのは、彼の利き手が右手だからだろう。右手はラケットを握るためにあるという彼の高潔さが、この期に及んで嬉しかった。
「俺を見くびるなよ、手塚。そんなもんで俺が唇を許すと思ってんのか」
顔を上げれば、当然いつもの勝ち気な笑い顔が待っていると思っていた。しかし手塚が目にしたのは、泣き出しそうな顔だった。
その時初めて、跡部の気持ちに気がついただなんて、なんて愚かだったのだろう。
「お前の肩のことは悪かったと思っている。だけどあの時の試合、全力で打ち合ったのは俺たち二人の責任だ。お互いが応えた以上、どちらがどれだけ悪いという認識はなかったぜ」
目を瞠った手塚の中で、すとんと腑に落ちるものがあった。
全力で応え合った。そうだ、それだけのはずだ。だから、リハビリから戻ってきても彼とその話をしたことはなかったのに。
「確かに俺がお前の気持ちに応えた形ではあるが、なんとも思ってねえヤツに落ちてやったりしねえ。俺に触れるものがあるのなら、お前であればいい……お前にしか許してねえ。これでも足りないってんなら、一晩かけて教えてやろうか」
手塚の肩に顔を埋め、跡部は静かにそう告げてくる。
「跡部……」
手塚はそんな跡部の背を抱いて、「よろしく頼む」と耳元で囁いたのだった。