華家
-HANAYA-
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No.155
NOVEL,マクロスF,ミハアル 2012.07.27
#ミハアル #両片想い #誕生日
早乙女アルトは、いつになくそわそわしていた。ちらちらと隣の親友を横目で盗み見て、いつ切り出そうかと考…
NOVEL,マクロスF,ミハアル
favorite いいね ありがとうございます! 2012.07.27 No.155
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早乙女アルトは、いつになくそわそわしていた。
ちらちらと隣の親友を横目で盗み見て、いつ切り出そうかと考える。
――――……やべェ、やっぱりこいつカッコイイ……。
その合間にやってくる、なんとも言えない波のような恋心。
こんなに近くで見つめていられる幸せと、眼鏡のレンズ越しに眺められているモニターへのつまらない嫉妬心。
あの緑の目にじっと見つめられたら、自分だったら茹で蛸になってしまうに違いないと小さく息を吐いて、また切り出せなかった情けない自分を心の中で詰った。
――――簡単なことじゃねえかよ、いつもと変わりねえって。
今日買い物つきあってくれないか。
ただその一言を言うだけだ。
放課後に街へ繰り出すなんてことは今までも何度だってしてきたし、友人同士の他愛のない戯れだ。
一緒に街へ行って目的もなく歩いて、喉が渇いたらカフェでお茶して、学校のことやバルキリーのことを話す。
そうだ、なんてことはないはずだ。
別にそれ以上を望んでいるわけではない。
恋人同士になりたいなんて、そんな大それたことは。
ただ近くで過ごしていたい。
手なんかつなげなくてもいいから隣を歩いていたい。
時には笑いかけてもらいたい。
それを思うだけで幸せになれるのだ。
だから今必要なのは、ほんの少しの勇気だけ。
「あっ、あのさあミシェル」
勇気は出せたけど、案の定声が上ずってしまった。できることなら時間を戻してみたいけど、そんなことはできやしない。
「ん? なに、アルト」
それでも親友はなんでもないように振り向いてくれて、そんな些細なことはどうでもよくなった。
「今日さ、放課後……空いてるか?」
「んー、特に予定は入ってないな。なに、なんか買い物?」
「あ、ああ、そう、そうなんだ。えっと……携帯のバッテリーとか、そういうの見たくて……どういうとこ行けばいいのか」
相手の方から切り出してくれて、アルトはホッと胸をなで下ろす。
しかし、うまく口実になっているだろうか。
本当はバッテリーなんか買う必要もなくて、ただ単にミハエルと一緒にこの日を過ごしたいだけ。
「ああ、いいぜ。暇だしな。ついでにどっかでアイスでも食いたい。今日暑くない?」
「えっ、あ、ああ、うん、そうだな、暑いな。アイスとかかき氷とか、そういうの食いたくなる感じ」
「決まりな。確かシスコのソフトクリームが美味いって話だぜ」
「……どこからの情報だか」
内緒、とミハエルはウインクなんかしてくる。それだけでアルトはノックアウトだ。どこの女からの情報だろうが、やっぱりもうどうでもよくなってしまう。
今日ふたりで、ソフトクリームを食べられるなら。
「容量多い方がよくないか?」
「え、でもこれだって結構もつんだろ?」
放課後、アルトの希望通りふたりでアイランド1にやってきた。買い物をするならやはりこのストリートがいちばんである。ミハエルと過ごす口実にした携帯端末のバッテリーは、専門のショップで。
しかしながらやはり口実なので、どうしても入り用というものではない。容量が多ければコストパフォーマンス的にもよいのだろうが、アルトはいちばん安いものを選んだ。
「とりあえずの予備ってとこかな。こんなにあるなんて思わなかった」
「俺も久々にショップ来た。新しい機種いっぱい出てんだな。機種変更しようにも、目移りするぜ、これじゃ」
目的の買い物を終えて一安心、ショップに展開されている様々な端末を眺めて呟いたミシェルに驚いて、アルトはえっと振り向いた。
「き、機種変更……するのか?」
アルトは自分の携帯端末をぎゅっと握りしめる。
スタンダードモデルのおかげか、ミハエルと一緒の機種だ。狙ってそうしたわけではないのだが、せっかく同じなのにと残念な気持ちになってしまった。
「あー、しばらくはしないかな。もうこれに慣れちゃってるし」
「そ、そうか」
同じ機種だからといってどうなるわけでもないのに、心臓が震える。嬉しいと、音を立てて。
「……アルト、さてはお前」
「えっ!? な、なんだよ?」
ミハエルの神妙な面もちに別の意味で心臓が震えて、思わず振り向く。
聞こえるほどの心音ではないはずだ。表情だってうまく隠しているはずで、バレてしまうわけがない。
――――バレてないよな? バレるわけねえよな!? 俺がお前を好きなこと!
ドックンドックンと鳴る心臓を押さえて、挑むようにミハエルを睨みつけた。
「充電器とかの規格一緒だからって、貸してもらおうと思ってんだろ」
ため息混じりに返ってきた言葉に脱力しかけ、どうにか踏ん張って耐える。
「え、あ、そ、そうそう、お前のと一緒だし、もし壊れても大丈夫かなーとか」
――――そんなわけあるか、バーカバーカ。
気づかれなかったことにホッとして、やっぱりちょっぴり残念で、出口から足を踏み出す。
でも本当は、気づいてほしかったのかもしれないと少しだけ俯いたら、
「まぁ、お前に頼られるのは嫌いじゃないけどな」
ぽん、とミハエルの手のひらが頭を叩いて通り過ぎた。アルトは目を見開いて、ミハエルの背中を視線で追った。
「こーら何してんだアルト、アイス食いに行くんだろ」
「あっ、うん、行く!」
ミハエルの触れてくれた髪を撫で、タッと駆け寄る。振り向いて待っていてくれるミハエルを、やっぱり大好きなんだなあと苦笑しながら。
そうして、女の子たちの間で美味しいと評判のソフトクリーム屋を見つける。行列ができているということは、評判に間違いはないのだろう。
「美味そう」
「どれにしようかなあ、俺。……アルト、買ってやろうか」
「えっ、い、いいよ自分で払う」
「……そう? しっかし、結構並んでんなー」
「美味いからだろ? 今日暑いってのもあるだろうけど」
行列のいちばん最後に並んで、アルトは視線を泳がせた。どれにしようか迷う意図でなく、こんなに近い距離では落ち着かないのだ。歩道とは言え人通りは多く、通行の邪魔にならないように並ばなければいけない。
ということは、密着とまではいかなくても距離はそれなりに近くて、熱が上がってしまう。
気づかれませんようにとあさっての方向を眺め、心を落ち着けようとはしてみるけれど、うまくはいかない。
「アルト、決まったのか?」
「えっ、あの、チョ、チョコかかったヤツっ」
メニューを見てもいないことに気がつかれたのか、ミハエルがひょいと覗き込んでくる。飛び退きたいほど驚いて、とっさに目に入ったカウンターのポップを指さした。
「ははぁ、アルトが好きそうなヤツだな。俺やっぱヨーグルトのにしよう」
「え、それも美味そう。さっぱりしてそうだよな」
「あっは、一口やるからチョコのにしとけよ」
「えっ、…………ああ、うん、もーいいやお前」
アルトはミハエルを振り向いて、そして頭を抱える。
意味をちゃんと理解して言っているのだろうか。そんな、嬉しいこと言われても。こちらは困ってしまうのに。
「なに、何か言いたげ?」
「別に。ほらもう順番回ってくるぞ」
言いたいことはたくさんあった。気になるとか好きとか大好きだとか。
だけどそんなこと言えるはずもなくて、アルトはただひとときのこの時間を幸福に想うだけにしておいた。
「ほらアルト、ヨーグルトの」
木陰のベンチにふたりで座って、冷たいソフトクリームで喉を冷やして潤す。周りのベンチにも、友人同士で来ている可愛らしい女の子たちや、恋人同士がたくさんいた。
レジでもらってきた使い捨てのスプーンでソフトクリームをすくい、ミハエルはアルトの口許へ持ってくる。一口やると言っていたのは本当だったのかと思うが、そんなことよりこの動作はつまり、あれなのか。
【食べさせてあげる】ということなのか。
「いっ、いいよバカっ」
「早く食えって、溶けちまうだろ」
恥ずかしくて何か後ろめたくて拒んでみたが、ミハエルはなおもズイとスプーンを差し出してくる。どうあっても退かないようで、アルトは困ったように眉を下げた。
今にも溶けて落ちてしまいそうなソフトクリームをじっと眺め、息を止めてかぶりつく。冷たさとヨーグルトの酸味が口の中に広がった。
「美味い?」
ミハエルが優しい瞳で覗き込んできて、アルトは両手で口を押さえてコクコクと頷くくらいしかできない。うっかりドキドキが飛び出してしまいそうだ。
「そ、良かった。アルトのも一口ちょうだい」
「す、好きに食えよ」
「ふーん、食べさせてくれないんだ」
「知るかっ」
アルトは頭を抱えて、自分のソフトクリームを差し出してやる。まともに顔も見られないのに、あんな恋人同士みたいな仕種ができるものか。
ミハエルは仕方なさそうに、差し出されたソフトクリームをスプーンですくって自分の口へと運んでいく。甘い、と眉を寄せる彼を横目で盗み見て、少しだけ口許を緩めた。
「……アルト、あのさ」
それを見計らったかのように、ミハエルの視線が飛んでくる。ドキッと跳ねた心臓を押さえて、ゆっくりとミハエルを振り向いた。
「な、なに」
「何か欲しいもんない?」
「……は?」
唐突に何を言い出すのだろう。アルトの頭の中に、クエスチョンマークが押し寄せてくる。
――――え、……え? 欲しいものないかって……うそ、まさか。
「お前今日、誕生日だろ。何かプレゼントしてやるよ」
「ミ、ミシェル」
顔の熱が急激に上がっていくのが分かる。
そうだ、今日は早乙女アルトという人間がこの世に生まれた日。
一年に一度のその日を、好きな人と過ごしてみたかった、アルトの恋心。
「な、んで……知ってんだよ」
「ふふん、そりゃあ俺は早乙女有人のファンだからな」
「茶化してんじゃねえっ」
ミハエルが得意げに眼鏡を押し上げる。それにさえ胸が鳴った。
だけど、期待をしすぎてはいけない。ミハエルは、有人として誕生日を祝ってくれるだけなのだ。間違っても、アルトと同じ恋ではない。
「茶化してねーよ別に。ホントは今日俺から誘おうと思ってたんだぜ。けどお前の方から来てくれたから、手間省けたと思ってたのに」
「い、意味わかんねーし。それに男って、友達同士で誕生日プレゼントとか、やらねえんじゃねーの」
「………………にっぶ」
小さな呟きと、大きなため息が聞こえてくる。
その理由が分からなくて首を傾げたら、
「友達じゃダメだっていうなら、恋人ならプレゼントやってもいいのか?」
「は、…………はァ!?」
「恋人になれば、お前にプレゼントやってもいいのかって訊いてんの」
瞬きができなくなる。ミハエルの言った言葉を何度も何度も頭の中で反芻して、ひとつひとつ、飲み込むように理解していく。
その意味のすべてを理解した途端、アルトの顔が真っ赤に染まった。
「な、ななななな何言ってんだお前! 寝ぼけてんのか!?」
「告ってんのにその言いぐさ、ひどくない? 遠回しにフッてんの?」
「フッ……てねぇし!」
そもそもフるだのフラれるだの以前の問題だと思っていたのだ。
まさか。
まさかこんな結末……いや、始まりが待っていたなんて。
「じゃあ、答くれよ。これ以上こんな気持ちでお前の隣にいんのってマジ生殺しっていうか。お前だって悪いんだぜアルト、ちらちらこっち見たり恥ずかしそうにデート誘ってきたり、思わせぶりな態度とるし」
「デート!? って、これ!?」
「いや、そこは俺の願望っていうか、だったらいいなっていう……でも、うぬぼれだけじゃないとも思ってんだけどな」
目の前がチカチカと光る。
何をどこまで信じて期待して、想いを返せばいいのか。
「アルト。好きだよ」
ミハエルが、一語一語を大切そうに紡ぐ。
嘘ではないのだと、夢でもないのだと、改めてその言葉がアルトの中に入り込んでくる。
「だから、今日も来年もその先もずっと、お前に特別なプレゼント買いたい」
こんなに優しい声をしていたなんて、とアルトは目蓋を伏せて、口唇を開いた。
「い、……いらない」
ミハエルが息を呑んだのが聞こえた。残念そうに、そうかと呟いたそのすぐあとに、アルトは。
「今年はもう……もらったから。あ、あの、来年から頼む」
顔を真っ赤に染めて、精一杯伝えたつもり。
形に残るモノよりも、心に残る嬉しい言葉をくれた、大好きなひとへ。
「……――アルト……!」
それで理解してくれたのか、嬉しそうな声が耳に届いた。
はふーと長く息を吐いたあとで、ミハエルはいつものようにキザったらしく言ってみせる。
「リクエストは当日デートの直前までな」
その日初めて、手をつないでふたりで歩いた。
#ミハアル #両片想い #誕生日