華家
-HANAYA-
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No.129
NOVEL,マクロスF,ミハアル 2011.10.01
#ミハアル #両想い #ラブラブ
ずいぶん増えてしまったな、とアルトは携帯電話の画面を眺めてそう思った。 日々増えていくメールの表示…
NOVEL,マクロスF,ミハアル
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ずいぶん増えてしまったな、とアルトは携帯電話の画面を眺めてそう思った。
日々増えていくメールの表示件数が、嬉しくもありまた恥ずかしくもある。
アルトは普段、あまり自分からメールをするという習慣がない。もちろん来たものには返信をするし電話だってする。ただ、特別に好きというわけではなかった。
この携帯電話だって、ないと不便だからと家を出てから購入した。初めは使い方さえ分からず、取扱説明書を片手に利用していたものだ。
今ではもう、無くてはならないものになってしまった。
友人たちとの交流に、緊急の召集に、そして、恋しい人とのやり取りに。
友人たちのメールが二割、職場関連一割、恋人七割。
“ミシェル”
そう名づけたフォルダには、すでに三桁の受信メール。他のフォルダもあるというのに、このフォルダだけが異様に受信が多かった。
少し前まではこのフォルダ名も、“ミハエル”としていたのに、より深く彼を知って、頬を染めながらも名前を変更した。
その名を見るだけで胸が鳴るなんて、こんなに不思議なことはない。
何度も読んだメールを読み返して頬が緩むなんて、他人から見ればさぞ不審なことだろう。だけどここはミハエルと二人の自室。他に誰がいるわけでもなし、アルトは思う存分頬を緩め染めた。
メールとは言っても他愛のないもので、課題終わっただとかちょっと買い物に行ってくるだとか、マニューバのことだとか。
学校も職場も、部屋まで一緒で、それこそ四六時中一緒にいるというのに話題は沸いて出て、その度に笑いながら時間を費やす。
学校では隣の席だからか、口に出して論争を繰り広げることもあるが、それは主にマニューバのことで、少しも色気のある話題ではない。だけど、机の影で、隠れてそっと触れ合う指先がくすぐったくて、伝わってくるわずかな温もりが嬉しかった。
「ミシェル……」
まだ帰ってこないのかな、とアルトは枕に突っ伏す。
勤務時間はとうに過ぎているはずだが、ミハエルはまだ帰ってこない。バルキリーの調整だとかで、メカニックに呼び出されていたのは知っているから、何かを疑う余地もないのだけれど。
メカのことは専門でないとはいえ、SMSのパイロットをして恥ずかしくないだけの知識はある。メカニックと相談しながらバルキリーを作り上げていくのは、アルトだって好きだった。
先に帰ってて、と言われて帰ってきたけど、こんなに遅いのならあっちで待っていた方が顔も見られるし良かったかななんて、女々しいことを考える。
今ミハエルは何をしているだろう。弾き出されたデータとにらめっこの最中だろうか。それとも、調整の終わったバルキリーでテスト飛行でもしているだろうか。それだったら、今メールをしても返ってこないだろう。
アルトは大きく息を吐いた。
学校の課題も終わってしまったし、この増えすぎたメールの整理でもしようかなとメールボックスを開く。受信メモリだって無限ではないのだ。
「…………」
ミハエルから来たメールを最初のものから読み返して、必要なものとそうでないものを分けようと思った。
思ったのに。
アルトの指は、このメールは取っておきたいと次へのボタンを押し、そしてまた。
「無駄じゃね?」
二十通くらいまでを終えて、気づく。
全部、消せない。
全部嬉しくて馬鹿らしくて愛しくて、不要なものだなんて思えない。きっと今みたいにミハエルがいない時に見返して、笑ったりするのだ。消したりなんてできるはずも無い。
長い文章でも、たった一言のメールでも。
「消せねえよ、ミシェル」
呆れ気味に笑って、携帯電話を持った手の甲で額を押さえた。
こんなに好きになってるなんて。
こんなに、大好きになってるなんて。
彼なしでは生きていけないなんて言うつもりはないけれど、傍にいてくれたら幸福だとは思う。
溢れる、と思った。
恋しすぎて、溢れてしまうと感じた。
ミシェル、と名を呼んでゆっくりと息を吐き出す。閉じていた目蓋を持ち上げ、起き上がってカバンの中からブランクの記録媒体を取り出した。
小さなそれは、ケーブルで繋げばすぐにデータの移動ができる。こちらへ移し換えておこうと、アルトは携帯電話に繋いだ。
シュン、とドアが開く。やっとご帰還の、ミハエルだ。
「アールトーひ、……め」
ただいまのキスをしておかえりのキスをもらおうと思ったが、部屋の中は静まり返って、小さな寝息だけが聞こえていた。ミハエルはアルトのベッドを覗き込んで、肩を竦めた。
「眠ってたのか……どうりでメールが返ってこないわけだ」
今から帰る、とメールをしたのに、いつもは返ってくるはずのメールがこなかった理由を知って、やはりどこかホッとする。
彼に何かしてしまっただろうかと不安になるなんて、本当にこのお姫様に落ちてちまっているのだなと、ミハエルは眼鏡を上げた。
今まで付き合ってきた女性たちとは勝手が違って、日々が驚きの連続だ。これが恋なんだろうかと、初心なことを考えてみたりもする。
なにせ、今まではこんなこと無かったのだ。メールはいつも、来るのを待っていればいいだけだったし、期間が開いたって気にも留めなかった。メールボックスがその人のもので埋まるなんて、無かったのに。
今ではアルトからのものが半数以上を占め、三桁を優に超えていた。
四六時中一緒にいるというのに彼とのメールは楽しくて嬉しくて、つい何度も返信してしまう。他人から見たらひどく馬鹿馬鹿しい話でも、ミハエルにとっては大切なものだった。
ベッドの端に腰をかけて、アルトの髪を撫でる。相変わらず手触りがいいなと微笑んだ。
枕元の携帯電話はメールの受信を知らせてチカチカと光っており、読んでもらうのを待っている。きっとさっき自分が送ったものだろうなと、ミハエルは携帯電話に手を伸ばした。
その発光で彼が目を覚ましてしまわないようにと思って、受信確認をしようと思っただけだった、のに。
「……あれ?」
発光を止めるために新着メールを確認すれば、必然的に受信ボックスに画面が切り替わり、既読数と未読数が表示される。
おかしいなと思った。
他人の携帯を覗く趣味はないため、自分の名前のフォルダが作られていることを知って嬉しくなったが、メールが少ないのだ。表示は24/1となっており、既読24、未読1と見て取れる。
こんなに少ないはずはない、とミハエルはらしくなく慌てた。自分の携帯電話からアルトに宛てたメールも三桁を超えており、ならば彼の携帯電話にも三桁入っているはずで。
それが二桁になっているということ、は。
「あー……消した、の、かな」
受信のメモリだって無限ではない、許容量に限界がくれば、古いものから消えていってしまう。それを見越してメールを整理することはミハエルにだってあったし、メールを削除するのは何ら不思議なことではない。
そう思っているのに、それがこんなにショックだとは思わなかった。
自分が彼とのメールを楽しんでいるのと同じように、彼も楽しんでくれていると思っていただけに、ショックは大きかったようだ。
アルトには、自分のメールは必要ないのだと。
「ちょっと自惚れてたかも、俺」
大きく息を吐いて、額を押さえる。
好きだと言ったら驚いた後にうんと頷いてくれて、何か訊きたいことはないのかと訊ねたら特にないと返されて、手に触れて握ったら指を絡め返してくれた。
どれだけか後に言葉ももらったしキスもしたし身体だって繋げたけど、結局は自分の方がずっと多く彼を好きなのだろうと感じてしまう。
いまさら後には引けなくて、彼を閉じ込めておきたいと思う反面、自由に飛ばせてやりたいとも思う。
だけどまだ、手放す勇気は出そうにない。
アルトの携帯電話を握り締めて俯くと、人の気配に気づいたのか、彼がもそりと寝返りを打って目を開けた。
「……ミシェル。帰ってたのか」
「ああ……さっき。起こしてごめんな」
女々しいなと思っても、上手く笑うことができなかった。それに気づかないアルトではなく、起き上がって不審げに首をかしげる。
「ミシェル? 何かあったのか?」
「いや、別に何もないよ」
「嘘をつくな。じゃあなんでキスしない。いつもだったら起こしてごめんなんて言う前にしてんだろ」
そんな遠慮のないキスが好きだなんて、絶対に言ってやるものかとアルトはミハエルの肩を掴んだ。
だけどミハエルは振り向いてくれなくて、胸が鳴った。何か悪い予感がする、とシーツを握り締める。
「ミシェ……」
「なあ、姫はさ、……もうイヤになった?」
不安になって名を呼んだら、遮るように呟かれた。だけど何のことを言っているのか分からずに、訊き返す。
「何の……ハナシだ」
「俺とのこと。イヤになったんなら、遠慮せずに言ってくれていいぜ」
「……ミシェル!? お前っ、何言って」
どうしてそんなことを言い出したのか、アルトには分からない。イントネーションのないしゃべり方がいつものミハエルらしくなくて、余計に不安だった。
「イヤなまま続けられても、俺困るし」
言ってほしくないと願いながら、ミハエルは俯いたままでぎゅうっと携帯電話を握り締める。いっそ壊しかねない力強さで、手がカタカタと震えていた。
「引き止めるとかそういうことは、しない……つもりだから」
そこまで言って、ミハエルは急に視界が動いたのに気づく。気がつけば、背中にベッドを感じていた。
突然の事態を把握するのに数秒を要したが、いちばん初めに認識したのは、泣きそうな顔をしたアルト。
「なんだよそれ! お前こそ、イヤになったんなら言えばいいだろ!」
必死で堪えて、ギリギリまで我慢しているときの表情、だった。
「ふざけんなよ、引き止めてもくれねえ男にホレてたって思わせたいのかよ! 好きなんだぞ、俺、お前のことッ……!」
「え、でも、アル……」
それ以上聞きたくない、とアルトはミハエルの唇をキスで塞ぐ。
息を止めて、叫びだしたい声を押しとどめて、触れたがった口唇でキスをした。
あ、とミハエルは気づく。ベッドに引き込んで押し倒すなんて大胆なことをやってのけたアルトの身体が、震えていることに。
アルトから仕掛けられるキスが幼いのはいつものことで、だけど震える肩はいつもと違う。
今好きだと言ってくれた彼を、疑うことはしたくない。そう思って肩を抱いたら、ふっと力が抜けていくのが分かった。
「ん……」
力が抜けたのをいいことに、中へと入り込んで奪う。それを嬉しそうに反応するアルトに、ミハエルの胸が鳴った。
「んっ……ふぁ」
ちゅ、ちゅっとキスの音が響いて、ようやくいつもどおりに戻る。
満足したように口唇を離したアルトは、最後にぺろりとミハエルの口唇をなめて身体を起こした。
「今のキス、信じていいんだろ?」
「伝わった? 俺もアルトのこと好きって」
「なんで……あんなこと言い出したんだよ……心臓痛くて死ぬかと思った」
伝わったよと視線だけで返し、ミハエルの前髪を払う。気持ちを疑わせるようなことは、していないつもりだったが、相手にとっては違ったのかも知れない。
「いや、女々しくて情けないんだけどね」
「なんだよ言えよ、気になるだろ。俺の方が悪かったなら、その、謝るから」
申し訳なさそうな声にミハエルは苦笑して、こちらもまた申し訳なさそうな声で、携帯、とだけ返した。当然なんのことか分からず、え? とアルトは首をかしげる。
「ごめん、ちょっと携帯のメールボックス見たんだけどさ。その、帰る前に送ったメールが届いてチカチカしてたから、止めようと思ってな。他のメールとかは見てないけど、一応謝っとく」
「なんでそれで変な誤解とかするんだ? 他のヤツからの……そういうメール見たとかってなら、分かるけど……」
もちろん誤解を生むようなメールなんてないし、後ろめたいことは何もない。どうしてそれで、あんな話しに繋がるのか、アルトには分からなかった。
「俺から送ったメール、あんまりなかったから……必要なかったのかなって、思って」
女々しいだろ、と苦笑して視線を逸らすミハエルに、アルトは力が抜けてしまう。ミハエルを覆うように突っ伏して、くっくっと肩を震わせた。
「笑うことないだろ、俺結構ショック受けてんだけど」
アルトは笑いながらミハエルの身体を強く抱きしめ、頬にキスを落とす。
「姫?」
「お前のメール、こっちに移した」
そうして、枕元に置いていた記録媒体をミハエルに向けてみせた。案の定、ミハエルの目が丸くなる。予想通りの反応に、おかしくなってまた笑ってしまった。
「だからあんなに少なかったのか?」
「だって容量いっぱいになれば消えちまうだろ。こっちに入れておけばいつでも見られる」
消したくなかったんだ、と付け加えると、ミハエルは大きな息を吐いてぱたりと腕を下ろす。力が抜けた、と呟く彼が小さな子供のように見えて、あやすように額に口づけた。
「女々しいのはお互い様だな」
「あーもう、俺カッコわりー」
「俺、別にお前がカッコよくなくても構わねーけど」
「そう? じゃあいーや」
髪を撫でてくるアルトに笑い、目を閉じる。飾らなくてもいいんだなと思ったら、愛しさがこみ上げてきた。
「ありがとうなアルト。大好きだぞ」
「うん。俺も」
「こっちで寝てもいい?」
溢れて、一人でなんか寝られないと目を開けてアルトに視線を移したら、ピッと額を弾かれる。寝るだけなら上へ行け、と。
「していいのか?」
「いいんじゃねーの。流れ的に」
「ムードないな。たまにはさ、可愛らしく“抱いて”とか言えないもんかね」
「バッ……絶対言わねえ!」
顔を真っ赤に染めたアルトを抱き寄せて、ミハエルは優しいキスで始まりの合図を告げる。アルトはそれを受けて、ミシェルと小さく名を呼んだ。
次の日、ミハエルの携帯電話からアルトのメールが記録媒体に移され、いつも持ち歩くケースにしまわれることになる。
机の影で触れ合う指先は、いつもより温かかった。
#ミハアル #両想い #ラブラブ