華家
-HANAYA-
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No.92
ミハアルウェブ再録 2011.08.13
#ミハアル #片想い #Private #ウェブ再録
「はいお疲れさん。平気?」「ちょっと……ふらふらする。脳みそが頭ん中で回ってるみたいだ」 デッキに戻…
ミハアルウェブ再録
favorite いいね ありがとうございます! 2011.08.13 No.92
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「はいお疲れさん。平気?」
「ちょっと……ふらふらする。脳みそが頭ん中で回ってるみたいだ」
デッキに戻った後ゆっくりと体を下ろされて、自分の足で立つというのが何とも不思議な感覚になってしまった。
「ハハハ、初めてだとそうなるよな。で、どう? 空を飛んだ感想は」
ミハエルに覗き込まれて、頬がぽっと染まる。空を飛んでいたなんて、今になってやっと実感したのだ、何を返せと言うのだろう。まさかしがみついたあの距離感にドキドキしていましたなんて言えるわけもなく。
「どうって……ただすげえってしか……。あんなところから太陽見たの初めてだし、風をあんな風に受けるのも。そこを自由自在に飛ぶあんたが……本当にすげえって思ったよ」
今度はミハエルの頬が染まる番。まさかそこに触れられるとは思っていなくて、予想外の賛辞に胸が高鳴った。
「そ、そう思ってくれるんなら、名前くらい覚えて帰ってくれよな? 俺は」
「知ってる。ミハエル・ブラン、中等部航宙科トップ。そういや学年テストん時も良く名前見かけるよな」
ミハエルが名乗りあげる前に、アルトは笑って返す。
「え、なんで……」
「だ、だって見学に来るんなら、航宙科のことは知っとかないとって思って……調べたんだ」
名前を知っている理由を無理に付けてみたけど、不自然じゃないだろうか? とアルトは内心そわそわ。本当は航宙科のことを知るためではなく、彼を知るために航宙科を調べただけだったのだから。
「今まで他のコースとか気にする余裕なかったからさ、すげえ新鮮だったよ」
「……そりゃ、家があんだけ有名なとこだと、無様な演技するわけにもいかないんだろうな。俺そっちはからっきしだから、尊敬するよ、アルト・早乙女」
「……俺のこと知ってた?」
アルトは恥ずかしそうに首を傾げる。知っている人は知っている、程度しかないと思っていたが、そうでもなかったのだろうか。
「ま、一般的な知識くらいかな。芸能科演劇コース、歌舞伎宗家に生まれ何度か舞台を踏む、って程度」
「ああ、でも親父の跡は兄さんが継ぐからな。俺はまだ好き勝手させてもらってるんだ」
アルトはホッとする。家のことを知って態度を急に変えてくる人間たちを何人か見てきたが、ミハエルはそれをしなかった。特に興味がないからと言ってしまえばそれまでだが、変わらない態度がこんなに心地良いものだとは思わなかった。
「なあ、俺がもし転科できたら、飛び方教えてくれるか?」
「ああ、そりゃもちろん………………ええ!? 転科!?」
頷きかけたミハエルだが、言葉の意味を整理して脳がストップをかける。早乙女アルトは今何を言ったのだ。
「転科って……芸能科から航宙科へってことか!?」
「そう。少し前から考えてたんだけどさ、今日……ちゃんと決めた。俺も空飛びたい。あんたに……ミハエルに抱かれて飛ぶんじゃなくて、ちゃんと自分でギア着けて飛んでみたいんだ」
「う……そだろ……」
ミハエルはいろんな意味で頭を抱えるが、アルトの瞳は真剣そのもの。
転科をするということは話すチャンスも仲良くなるチャンスも格段に増えるということだ。
しかし卒業まで……進学試験までどれだけ時間があるというのか。ただでさえ畑違いのコースなのだ、素人がどこまで知識や技術を吸収できるか分からない。
「なあ、……アルト、空はお前が思ってるほど甘いとこじゃないんだぞ。操作ひとつ間違えただけで命を落とす可能性だって高いんだ。半端な覚悟で飛び込んでいいとこじゃない」
「だったらそれは、俺を抱いて飛んでくれたお前のミスだ。飛んでなかったら、俺はいつか諦めてたかもしれないのに」
ミハエルが言葉に詰まる。確かに、空に興味を持ってくれれば話題が増えて仲良くなれるかもしれないという思惑があったのは認める。だがまさか、転科なんて話題に持っていかれるとは思っていなかったのだ。
「いつか、ミハエルと一緒に飛んでみたい」
くらり。
ミハエルは思わずふらつきかけて、ぐっとこらえる。額を押さえ考え込んで、考え込んで、めいっぱい考え込んで、
「うちの学科、独学じゃとうてい身に付かないぞ」
「あ、うん……本屋で専門書とか見てみたけど、正直さっぱり分からなくて」
「専門用語すら分からない素人が、簡単に転科なんてできるもんじゃない」
「やってみなきゃ分からないだろ!」
「そこまで言うんだったら、学科くらいなら教えてやる」
ため息と共に、言葉を吐き出す。呆れたせいなのか、にやけてしまう顔を押さえ込むためなのかは分からなかったが、ミハエルは下を向いて髪をかき混ぜた。
「え……え、本当かっ?」
「ただしやるからには厳しくさせてもらうぞ。見込みがないと分かったらすぐにやめる。それでもいいか?」
「それでいい! 教えてくれ!」
アルトの顔がぱあっと明るくなる。分からないところは航宙科の担任に聞きにいこうかと思っていたが、こんなにありがたい申し出はない。現役の生徒で、しかも好きな人に教えてもらえるなんて、どこかでバチが当たってしまわないかと思う。
「分かった、じゃあ……明日練習ないし、授業終わってからでいいかな。テキストとか今日用意できないし」
「ああ、ありがとうミハエル。助かる」
「じゃあ明日、そっちまで迎えに行くよ、アルト」
名前を呼ぶのはドキドキして、声がうわずる。それでもどうにか不自然でないように笑って、初めての約束を取り付けた。
そうしてやっとノルマを終えたのか、他のメンバーががやがやと格納庫に入ってくる。アルトはハッとして、まだ部外者なのだし長居してはいけないと、
「明日、待ってる」
そう言って踵を返す。
「ん、明日な」
ミハエルもそう言って手を振る。
アルトはルカに会釈をして、航宙科のメンバーとすれ違いながら格納庫を走り抜けた。
――――どうしよう、どうしよう幸せ! 名前も呼んでもらえた、知っててくれた!
本当に幸せ、と笑む口許を押さえて。
#ミハアル #片想い #Private Army #ウェブ再録