華家
-HANAYA-
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No.91
ミハアルウェブ再録 2011.08.13
#ミハアル #片想い #Private #ウェブ再録
今日も航宙科のデッキに出向く。 物陰からそっと顔を覗かせて、アルトはあれ? と首を傾げた。今日は誰…
ミハアルウェブ再録
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今日も航宙科のデッキに出向く。
物陰からそっと顔を覗かせて、アルトはあれ? と首を傾げた。今日は誰もいない。
もしかして今日は練習がない日だったのかなとしょんぼり眉を下げる。毎日航宙科の練習を見るのが、恋するあの人を見るのが、とても楽しみだったのに。
「今日は……ないのかぁ……」
そんな風に肩を落としたアルトをミハエルが見つけたのは、少し離れた格納庫の入り口。今日もポニーテールが可愛いなと顔を綻ばせた。
「また来てますね。そろそろ声かけたらどうですか? 次の手考えてるんでしょ?」
ルカはため息を吐く。アルトが初めて航宙科の練習を見に来た日も、声をかけたらどうかと言ったのに、その時ミハエルはそうしなかった。
あんなに破壊力のある笑顔を向けられて話しかける余裕なんかあるかと、とても引く手あまたの男の台詞とは思えない言葉が返ってきたのを覚えている。
「簡単に言うなよ、こんなに離れてても心臓バクバクいってんだぞ」
「……女の人相手ならホイホイ声かけるくせに。ホント先輩って、面倒くさい人ですね」
可愛らしい顔をして、なんの躊躇いもなく悪態を吐いてくれるお前も充分面倒だよと、ミハエルは心の中で呟いた。
「先輩が声かけないんなら、僕がかけますね。話してみたいし」
「わああちょっと待てお前、だったら俺が声かけるから!」
アルトに向かって足を踏み出したルカを瞬時に引き留めて、振り向いた彼のにっこり笑う顔に、ああハメられたと頭を抱える。
「じゃあ、僕は後で。はい行ってらっしゃい」
「わ」
トンと背中を押されて、情けないなと思いつつ、今一歩踏み出せなかった勇気をもらったことに感謝する。ミハエルはひとつ、深呼吸をした。
「あ……あの、さ、今日は基礎体力作りからだよ。みんなまだグラウンド走ってるんだ」
「わああっ」
なんでもないようにかけたつもりの声は、やっぱりいつもよりうわずっていた。
アルトはその声に勢いよく振り向いて、へばりついた段ボール箱を荷崩れさせてしまう。
「あっ、わ、悪い」
「いいって、そんな大したもの置いてないんだから。驚かしてごめんな」
ぶちまけてしまった段ボールの中身を、アルトはしゃがんで拾い上げる。印象悪くしたかなあと気分が落ち込んだが、ミハエルが手伝ってくれて、落ちた気分は急上昇。
大したものではないと言うが、これは何か機械のパーツではないのだろうか、と拾い上げたそれを見下ろして思う。どうか壊れていませんようにと祈りながら、最後のひとつを段ボールにしまった。
「悪かったな」
「気にすることないさ。ところで、最近よく練習見に来てるよね」
「ご、ごめん、ここって一般生徒入っちゃダメだったか?」
「いや、見学は随時歓迎してる。ただまあ、危険物はあるから注意はしてるけどな」
肩を竦めるミハエルに、良かったと息を吐くアルト。もし禁止されていることなら、それを知っていたらしい彼にも何らかの罰則が課せられないかと思っていたが、どうやらそんなことはないらしい。
「あの、さ……空……飛ぶって、どんな感じなんだ?」
せっかく声をかけてくれたのだ、できれば長く話していたい。アルトは会話を探して、不自然でないものを選んだ。
だけどミハエルは、それに若干ガッカリしてしまう。なんだやっぱり空に興味があるだけなのかあ、と。
「どんな感じって……そうだな、楽しいとか気持ちいいとか、そういうのはあると思うけど」
アルトが見つめている空に、同じく視線を移す。自分にもそんな時期があっただろうかと思い起こして、あったとしてもずいぶん前なのだろうと苦笑した。
「……あんたは、何考えて飛んでんだ?」
アルトが不思議そうに振り向いて、ミハエルの視線を奪う。できれば名前を呼んでほしいと思ったが、そういえばまだ自己紹介もしていないんだと気づいて目を細めた。
「ウチは軍人の家系だからな、ガキの頃からこういうのに触れてるし、楽しいとかそういうの、今はない。風向き・風力・ギアのコントロール……そんなん体が覚えるから、何を考えてってのは……訊かれるとちょっと困るかも」
「そ、そうなのか、悪い……」
アルトはパッと俯いて、きゅっと目をつむる。もっと気の利いた話題を探せばよかったと、失敗してしまったコミュニケーションに落ち込んだ。
「あ、でもほらそれは俺の場合だから。他のメンバーは違うんじゃないかな」
「空……飛ぶのって難しい? 小さい頃から訓練してないと、無理かな」
アルトの様子に、ミハエルも慌ててフォローを入れる。女性相手ならすいすい言葉も出てくるのに、恋した相手というのがこんなに厄介だなんて思わなかった。
「そんなことない。実際今のメンバーだって、ここ来て初めてギアに触った連中ばっかりなんだぜ」
アルトの顔がぱぁっと華やぐ。では自分もできないわけではないのだと。
その笑顔に心臓を撃ち抜かれてしまったミハエルは、さも今思いついたように口を開く。
「ねえ? 良ければ飛んであげようか、あんた抱いて」
「えっ!?」
「ミシェル先輩何言ってんですか!?」
アルトが勢いよくミハエルを振り返る。食いついてくれたと内心ガッツポーズをするミハエルの後ろで、ルカは驚いた。
航宙科でもない生徒が、飛行することは認められていない。そう指摘しかけて、ルカは気づく。部外者がギアを装着するわけではないのだから、確かに規約違反はしていないのだ。
「ルカ、黙っとけよ?」
軽くウインクなんかしてみせるミハエルに、もう何を言っても無駄だと悟る。
「ハイハイ、僕は何も見てませんー」
ルカはそれ以上関わろうとせず、デッキの隅で愛用のデータ端末を広げた。
「あ、あの、できるのか? そんなこと」
「ちょっとだけならね。ただ、ギアを着けさせるわけにはいかないから、生身でだ。Gの負荷に耐えられるかどうかってとこかな」
そう、問題はそこだった。
どんなにゆっくり飛んでも、離陸時のスピードは落とせない。生身にかかる負荷は、鍛えてもいない一般生徒が耐えるには少しキツい。
「へ、平気だ、飛んでみたい!」
それでもアルトはめげない。いや、負荷がどんなものか分からない状態では怖じ気づけない。さらにはミハエルが抱いて飛んでくれるというのだから、どんな負荷だって耐えてみせるとこぶしを握る。
「オーケイ、ギア着けるから待ってて」
アルトのきらきらした瞳を前に、ミハエルもウキウキとギアを身に着ける。あれだけ分かりやすい態度もないのになあと、ルカは素知らぬ振りでキィを叩いた。
「準備はいい?」
「あ、ああ」
よろしく頼むと緊張したアルトを抱き上げ、ミハエルはバーを握る。頬に触れるアルトの髪が、くすぐったかった。
「ちゃんと捕まってろよ、落っこちても知らないぞ」
「わ、分かってるよ!」
アルトは両腕をミハエルの首に回して、しっかりとしがみつく。空を飛ぶことへの緊張など、好きな人と体を密着させなければいけない緊張に比べたらなんでもない。
ドキドキが聞こえてしまわないだろうかとふたりで息を止め、無駄な努力なんかしてみた。
「う、わ……っ」
そんな中でもミハエルはタイミングを逃さず、空へとテイクオフ。
これがGの負荷というものか、とアルトは歯を食いしばった。
押しつぶされそうな体をどうしていいのか分からずに、ぎゅっと目を閉じる。一瞬の落下を感じ、そして浮き上がる体が、自分のものではないように思えた。
「ゆっくり飛ぶから、目ぇ開けても大丈夫だぜ」
耳元で声が聞こえて、反射的にアルトは目を開ける。
すぐに飛び込んできたのはミハエルの横顔で、慌てて視線をミハエルと同じ方向 空に向けた。
「……っ……」
言葉もない、と息を呑む。
広がる空は夕焼け色で、一瞬作り物だということを忘れそうになった。沈んでいく人工太陽に照らされて、白かった雲は紅色に染まる。
「すげ……ぇ」
こんな視点で見たのは初めてだ。アルトは細く息を吐き出し、ゆっくりと瞬いた。
「お気に召したかな、お姫様」
「ひ、姫じゃない! でも、きれい……すげえ綺麗だ」
姫じゃないと言われても、これは俗に言うお姫様だっこではないのだろうかと、ミハエルは口の端を上げる。そんなに綺麗な顔して綺麗だなんて呟かないでほしいよなと、心の中でこっそり思った。
「体、大丈夫? 飛行コース外れない程度に飛んで戻ろうか」
「あ、思ったよりは平気……飛行コースって、どうなってるんだ?」
「とりあえず初心者コース。手ぇ離すなよ」
わ、とアルトが声を上げるのと、ミハエルがアルトを抱いたままロールを加えた飛行を開始するのが、ほぼ同時だった。
くるくると変わる視界にアルトは驚くだけで、どうやって操縦しているのかなんて考える余裕もない。ただミハエルだから安心していられる。根拠のない自信だけが、今アルトを支えていた。
#ミハアル #片想い #Private Army #ウェブ再録