No.132

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うん。~恋に落ちたら~-002-

ミハアルウェブ再録 2011.10.23

#ミハアル #片想い #ウェブ再録

「おいミハエル、なんで昨日メールよこさなかったんだよ!」 早めに登校したロッカーではち合わせるなり、…

ミハアルウェブ再録

うん。~恋に落ちたら~-002-


「おいミハエル、なんで昨日メールよこさなかったんだよ!」
 早めに登校したロッカーではち合わせるなり、開口いちばんでアルトは不満をぶつけてやった。
「おはようアルト、朝からご機嫌ナナメだな。美人が台無しだぞ」
 彼も早朝のフライトに来たのだろうか、いつも通り糊のきいたシャツを着用し、喉元までかっちりとネクタイを締めた、ミハエル・ブランへと。
「美人とか言うな、なんでメールしてこなかったのかって訊いてんだよ」
 ミハエルの軽口にはもう慣れたが、何かしら言い返してやらないと気が済まないタチなのか、アルトはそう言って睨みつけてやる。
「あー悪い悪い、ちょっと仕事が立て込んでて」
 ミハエルは、さも今思い出したかのように携帯電話をまさぐる。返す気がなかったのか、それともまさか今初めて読んだのかと、アルトは眉を寄せた。
「……アルトお前さあ、これってメールじゃなきゃいけないような内容かあ? 直接訊けばいいだろ、学校で」
 ミハエルは、昨日届いていたアルトからのメールを確認し、目を細めた。
【ターンする時ってどの角度がいちばん楽に綺麗にできる?】
 アルトからのメールはそんな短い文面だった。
 しかしこんなものはメールで訊いたからといってどうなるものでもない。直接訊いて、その場で飛んでみた方が絶対に有益であることは明白だ。
 ミハエルの携帯電話にそのメールが受信された時間は、今からざっと十二時間ほど前。これには返信してやっていない。まさかと思いつつ、ミハエルは確認するように訊ねた。
「ずっと、待ってたのか?」
 ミハエルはもう一度ディスプレイの文字の羅列を確認して、ついで視線をアルトに移した。そこには言葉に詰まったお姫様がいて、やれやれと肩を竦めた。
「あのなあ、俺だってずっとお前の相手してるわけにはいかないんだぜ。それこそバイトだってあるし、お前と違ってデートだって予定が詰まってるんでね」
「だっ、だけど何か返してくれたっていいだろ! 学校で教えるとか、後で返すとか、そんなんでもよかったんだよ!」
 確かにアルトは、ミハエルと違ってデートの予定なんかひとつもない。学校が終わってバイトに行って時間があれば女の子とデートなんて、それがどれだけ体力と気力を使うかなんて、アルトには分からない。
「面倒くさいこと言うなよ」
「……女からのメールだったらすぐに返すんだろ」
 アルトはぎゅっと拳を握って、静かにミハエルを睨みつける。
 こんなことを言いたかったわけではない。
 ミハエルがどんな女性と一緒にいようと、どんなつきあい方をしていようと、自分には関係ないと思っていた。メールがこなかったことに対して軽く文句を言ってやって、今日のドリンクはお前が奢れと笑ってやるつもりだったのに。
 ――――なんでこんなに、胸が痛いんだろう。昨夜からずっと、治らない……。
 メールも返さずに、自分の知らない誰かといたことが、どうしてこんなにも腹立たしいのだろう。
「なんだよアルト、お前、俺の女になりたいのか?」
 金髪の美青年は、面白そうに口の端を上げて笑う。指先で相手の顎を持ち上げるなんて仕種が似合う男は、そうそういないだろう。
「なっ……ん」
 アルトの頬……いや、顔全体が真っ赤に染まる。
 あと数センチ近づいたら口唇が触れてしまいそうなこんな距離には免疫がなくて、吐息さえ奪われそうな熱い視線に思わず体が固まった。
「はははっ、やっぱりアルトは初心だよな。ほんとにキスなんてするわけないだろ、男相手にさ」
「~~~~ミハエルっ!」
 からかわれたのだとは分かるが、一瞬そう意識してしまったことは否めない。アルトは顔を真っ赤にして彼を睨みつけた。
「まあね、女の子からだったら、メールはすぐに返すさ。たいていが逢いたいって用件だからな」
 待たせたら悪いだろとミハエルは付け加え、キザに眼鏡を押し上げる。そんな仕種さえサマになって見えるのは、彼がミハエル・ブランだからだろう。
「……お前の女とのつきあい方は知ってるし、俺がそれよりも優先度低いってのも分かるけどさ……」
 分かるけれど、責めたい気持ちも変わらない。せめて明日学校で、とでも返してほしかった。
 そこまでする義理はないと言われてしまえばそれまでだが、返ってこないメールに悶々と悩んでいる時間に何かできただろうと思うと、本当に腹が立ってしまうのだ。
 いつまでも待ってしまった自分に。
 そんな程度の関係しか築けていない現状に。
「分かった分かった、お前は俺からのメールが恋しくてたまらないってことだろ。ったく、女扱いされんのは嫌がるくせに、案外女々しいこと言うんだよな、お前」
「なに勝手に決めつけてんだ! そんなんじゃねえよ、俺はただっ……」
 早く追いつきたいから頑張っているだけであって。
「ただ、なんだよ。お前、俺に惚れてんの?」
「バッ……バカ違う違う、絶対にそんなんじゃ……ない!」
 からかい混じりの声音が、心臓に突き刺さる。
 惚れているなんてそんな、そんなことはないはずだ。仲間として、友人として、好敵手として、彼を追っているだけなのに。
 そんなことミハエルには知られたくないけれど、伝わっていないことが悔しい。
 アルトはシャツをぎゅっと握って言葉を呑んだ。
「おいおいやめろよアルト。お前……泣きそうな顔してるぞ」
「別にそんな顔してない、お前ムカツク!」
 ぷいと顔を逸らすアルトに、ミハエルは息を吐いて肩を落とす。呆れられているというよりは責められているようで、アルトは途端に恥ずかしくなった。
 ――――ああ、これ嫌われる。なんでこんなことしか言えないんだ、俺。
 嫌われてしまうほど好かれていないような気もするが、ミハエルの長いため息は、泣きたくなるほどうんざりしていた。
「そこまで言うんだったら、お前とのメールにはルール作らせてもらうぞ」
「え……?」
 なんでそこまでしなきゃいけないんだと面倒そうに髪をかき上げながらも、ミハエルはアルトに視線をくれる。
 てっきり、もうメールなんかしないとでも言われると思っていたのに。アルトは面食らってぽかんと口を開けた。


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