華家
-HANAYA-
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No.212
NOVEL,PSYCHO-PASS,狡宜 2014.11.21
#両想い #執×監 #逃×執 #誕生日
「ギノ、これ」狡噛はそう言って、宜野座の前に小さな包みを差し出してみせた。包装紙とリボンでラッピング…
NOVEL,PSYCHO-PASS,狡宜
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「ギノ、これ」
狡噛はそう言って、宜野座の前に小さな包みを差し出してみせた。包装紙とリボンでラッピングされたそれは、彼への誕生日プレゼント。
今日は宜野座の誕生日。恋人である狡噛としては、外せない重大イベントだ。書類片づけてからでいいから部屋に来てくれと言ったら宜野座は不思議そうな顔をしていたが、もしかして忘れていたのだろうかと思ってしまう。
「……ギノ?」
しかし差し出したにもかかわらず、宜野座は受け取ってくれない。じっとその包みを眺めたまま、指先一本さえ動かそうとしなかった。
さすがに不審に思って首を傾げ促すと、宜野座はハッとして狡噛へと視線をやり、そして俯いてしまった。
「………………覚えていると思わなかった」
「は? なんでだ、毎年祝ってただろう」
小さく呟かれた言葉に、狡噛は目を見張る。学生時代に出逢って、友人から恋人になって、ずっと一緒に過ごしてきている。豪華なパーティーなど開けないが、一緒に食事をして何かしら贈り、一夜を共にするなんてこと、何度もしてきたのに。
さらに言えば今年、狡噛の誕生日を祝ってくれたのに。
正直、今年は無理かと思っていた。何しろ例の事件でサイコパスを後戻りできないほどに悪化させ、潜在犯になってしまったのだから。
執行官として刑事課に戻ってはきたが、以前のように宜野座と肩を並べて捜査の指揮を執ることはなくなった。当然住む環境も変わり、監視官の同行なしでは外も出歩けない。
何より、宜野座は潜在犯を嫌っている。社会のクズだとまで思っている。そんな存在になってしまったのに、生まれた日を例年通り祝ってくれたのだ。
そんな彼の誕生日を忘れるはずがないのに。
「俺はお前が考えているより、お前に惚れてるんだがな、ギノ」
同じ位置で肩を並べることも、肩を支えることもできなくなってしまったが、気持ちだけは変わらない。
「潜在犯からのものなんか、もう受け取れないか?」
宜野座の方の気持ちが変わってしまったのなら、それは仕方のないことだ。それだけの仕打ちをしてきた。潜在犯に落ちた部下を哀れんで祝ってやることはできても、祝われる理由なんてない、ということだろうか。
「……受け取らないと、だめか」
「…………受け取りたくないってことか? お前を諦めるのにはかなり時間がかかるんだが」
むしろ諦めるのは無理かもしれないとさえ思う。恋人として触れ合えなくなっても、上司と部下として接していかなければならない。逢えなくなるのならまだしも、そんな近距離で諦めなどつくものか。
「諦める? それ……恋人じゃなくなるってことか。狡噛がそうしたいのなら」
「いやいやそうしたがってんのはお前だろうが」
「え? いや別に」
わけが分からないとふたりそろって首を傾げる。だが宜野座が終結を望んでいるわけではないと知って、ホッとした。
「じゃあ、これ受け取ってくれてもいいだろ。なんで嫌なんだ?」
「い、嫌なんじゃない、それ……ら、来年じゃダメかと思っただけだ」
「来年?」
寂しそうに顔を歪め俯く宜野座に訊ねてみて、狡噛は答えを聞く前にああそういうことかと悟る。
「心配しなくても、来年も祝ってやるから」
監視官だった時とは違う。何かを約束してやれる立場にはない。命の危険と、サイコパス悪化の懸念。もしかしたら明日にでもいなくなってしまうかもしれないという、宜野座の怯え。
来年も一緒にいてほしい。そう言外に告げてくる宜野座に、なんの根拠もない未来を約束する。
「潜在犯の言うことなんか、信用できるわけないだろ」
信用できないと言いつつ、精一杯想いを注いでくれる宜野座を、来年も祝いたい。ずっと傍で、潜在犯なんかと言われながらも祝いたい。
「……お前がそこまで心配するなら、これは来年お前にやる。渡すために、ちゃんとここにいる」
狡噛はようやく納得した上でプレゼントを持った手を引っ込めて、テーブルの上に置いた。食べ物にしなくてよかったと今さら思う。来年の分も再来年ほしいと言い出すのだろうなと考えると、腐らないものにしないとなと一年先のことを思うのだ。
「しかし恋人の誕生日に何もないってのはちょっとな」
そう言ってちらりと宜野座を見やる。せめて何か普段と違うことでもしてやりたい。
「ギノ、今日は抱いてもいいか?」
「え、あ、ああ……? うわっ」
確認して、狡噛は不審そうな声を上げた宜野座をよいしょと抱き上げてみる。軽いとは言わないが、もう少し肉を付けた方がいいのではないかと感じた。
「下ろせ馬鹿!」
「こら暴れるな、落っこちるだろうが。今日はいつもと違うことしてやろうってんだから、おとなしくしおけよ」
「なにする気だ、おいッ」
そうして宜野座の抗議は聞かないまま、珍しく寝室へと足を運ぶのだった。
だがそれも長くは続かない。28の誕生日を迎えた頃は本当にめまぐるしくて、誕生日を祝う余裕などなかった。それでも狡噛はその一年前に買ったものを渡してくれて、来年もまた、とキスだけくれた。
しかし狡噛は公安局から抜け出し、宜野座は潜在犯に落ちて執行官になり、「来年」の誕生日を一緒に祝うことはなくなった。
狡噛の部屋を整理するときに、明らかに誰かへのプレゼントと見られるものがあったのは、おそらく29歳の誕生日に渡すつもりだったものだろう。
宜野座はこれで本当に途切れてしまうなと口の端を苦笑で上げながら、最後になるだろうプレゼントを受け取ったのだ。
そして宜野座の手元には、28歳の狡噛が買った29歳の宜野座へのプレゼントと、宜野座が買った狡噛への渡せないプレゼントが残る。
たぶんもう逢うこともないのだろうと、日々を過ごして日付が変わる今日、無事に30歳を迎えた。
フィルルルル。
執行官用のデバイスが音を奏でる。何か事件かと、宜野座は自室のソファで応答のモニターを立ち上げた。
【誕生日おめでとう】
モニターに打ち込まれていく単語に、目を見張る。リアルタイムで現れ、そして消えていくそれは、宜野座だけへの【誰か】からのメッセージ。
【玄関入って左へ3歩、下から1メートル、キーワードはEGOIST】
表示された傍から消えてしまう。宜野座はソファから腰を上げ、部屋のドアへ向かった。
「入って、3歩……下から1メートル」
そのメッセージの表した箇所に、小さな穴がある。爪で引っかければ、手前に引っ張れる切り込みが見えた。こんなものあっただろうかと思うより早く、爪の先を差し込んでいた。
10センチ四方ほどの板が剥がれる。その奥の小さな空間に、ちょこんと何かが置かれていた。しかしそれを手にするには、手前の防壁が邪魔だ。小さなモニターが付いており、そこにパスワードを入力しなければ取り出せない仕組みのようだった。
「パスワード……」
先ほど表示されたメッセージには、キーワードはEGOISTとあった。だがそのものズバリのわけはなくて、宜野座は思案する。
すぐに浮かぶのは香水だが、連想できるものがない。ファッションブランドでもなさそうだし、あとはーー。
「そういえば……あれもEGOISTだったか……」
数年前から一部マニアに熱狂的支持を得ているシビュラ公認アーティストがいた。生身の体を持っていながら、表に出るのはCGで描かれた少女。
確か常守たちが可愛いんですよと言っていたそれも、EGOIST。
宜野座はもしやと思って、彼女のリリースした曲を検索してみた。
ふと目に止まったものであればいい、と小さなタッチパネルに文字を入力した。
All alone with you と。
ピ、と電子音がしてロックが外れる。こんな手の込んだことをする人物は一人しか思い当たらない。どうやって仕込んだのか、いつ仕込んだのか、そんなことは分からない。
ただ事実として今、宜野座の手の中に30歳の宜野座への誕生日プレゼントがある。
デバイスへのメッセージはとっくに途切れていたが、ゆっくりと開いた箱の裏、綺麗な手書きの文字が綴られていた。
【来年、右手にはめてやる】
箱の中に、コロンとひとつ、指輪だけが入っている。
せめて指輪用の箱に入れろと思ったが、あの男にそんな気の利いたことができるわけもなかったかと、呆れ気味に笑った。
来年逢うまで大事に取っておこうと大切そうに握りしめる。そして逢えたら、渡せなかった彼へのプレゼントも押しつけてやろう。
また、来年――今度はふたりで。
#両想い #執×監 #逃×執 #誕生日