華家
-HANAYA-
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No.140
NOVEL,マクロスF,ブレシェリ 2012.02.12
#ブレシェリ #ツンデレ #映画ネタ
シェリルは、ドアを開けて目を見開いた。「……わあ……すごい」 一面の銀世界だ。生まれてこの方、こん…
NOVEL,マクロスF,ブレシェリ
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シェリルは、ドアを開けて目を見開いた。
「……わあ……すごい」
一面の銀世界だ。生まれてこの方、こんなに真っ白な世界を見たことがない。
それが雪という名のものであること、どのような現象でそれが上から降ってくるのかくらいは知っている。
だが、やたら技術が進歩した母艦マクロス・ギャラクシーでは、こんなものは無用であると映像すら配信されなかったのだ。
「すごい、……すごい、こんな世界があったなんて」
そのせいか、銀河ネットやシーズンに出回る電子書籍などで見た「雪」は、まだ見たことのないシェリルには珍しいことこの上なかった。
ここマクロス・フロンティアは、程良く自然と技術の共存がなされている。
自然を壊さず、かつ不便でない程度の必要な機器。最近は他船団からの移住も増えたようで、新興住宅ができあがった。
しかし、あえて開発地でない場所に住みたがる人間もいるし、たまにそういった趣向を楽しみたがる人間もいた。
シェリル・ノームは、後者である。そのために、一日単位で借りられる居住施設に滞在していた。
「遅れるぞ。行かなくて良いのか」
背中から声をかけてくる人物がいて、シェリルは振り向くこともせずに応えた。
「少しくらい、遅れたっていいじゃない。だって、こんなサービス滅多にないんでしょ?」
サービス、とは言うが、この天候は機械的に制御されたものではない。
自然が織りなす、昨日とは違う今日というヤツだ。予測可能ではあるものの、日々違う天候というのもまた、シェリルにとっては新鮮なものだった。
「深夜から大量に降ったそうだ。雪は慣れないと歩きづらいと聞いているが、車を使った方が良いのではないか」
「うるさいわよブレラ、こんな素敵な日に車なんて野暮な真似しないでちょうだい」
シェリルはようやっと振り向いて、釘を差す。ご丁寧に人差し指を突きつけて。
「了解した」
愛想のない返答にシェリルは、つまらない男ねと言いかけたが、この男――ブレラ・スターンは昔から変わらない。今さら愛想良くされても、気味が悪いというものだ。
ボディガードという名の監視役を務めるこの男は、銀河級アイドルを目の前にしても動じることのない心臓と、危険な事態にも対応しうるサイボーグの体を持っている。
生身の人間にうじゃうじゃとまとわりつかれるよりは、この男ひとりだけいてくれた方が助かる。シェリルも、そう納得していた。
「行くわよ」
シェリルは意を決して、目の前に広がる銀世界に足を踏み出した。
さすがにこの高いヒールでは無茶だろうか、とそっと足を下ろす。
サク、と音がしたようで、心臓が跳ねた。
雪とはこんな音がするのかと、そわそわと心臓が沸き上がる。まるで子供のようだと思いつつも、ここにはファンはいない、少しくらいはしゃいでみても誰にも文句は言われないだろう。
シェリルは転ばないようにゆっくりとしゃがみ込み、眼下の雪をじぃっと見下ろした。
ふわふわと頼りない雪が、積もると目に痛いほどの主張性を持っているのか。
「冷た……っ」
誰の足跡もついていないヴァージンスノウに触れてみる。
不思議な冷たさに手を引っ込めると、手のひらの跡がくっきりと残りっていた。
それが面白かったのか、シェリルはもう片方の手のひらで跡をつける。次はまた別の手で、繰り返し繰り返し、初めての跡をつけていった。
「見て見て、うさぎ。あっ、しっぽ忘れちゃった」
「かなりいびつな形に見えるが」
「しかたないでしょ、初めてだもの」
「……とてもアイドルの姿には見えんな」
雪を集めてうさぎの形を作ったらしいシェリルは満足気だった。
ブレラはそんな様子を背後で見守りながら、素直な気持ちを言葉にしてみる。雪にはしゃぐ彼女にそれが聞こえたかどうか、分からないけれど。
それでも、仕事に就く時間は刻々と迫っている。いつまでも雪と戯れさせているわけにはいかないと、仕方なく口を開いた。
「歩くつもりなら、もう移動しなければ間に合わないぞ、フェアリー9」
ぺしゃっ。
途端、ぶつけられたものがある。いびつに固められた、雪の固まり。
「コードネームで呼ばないで。あたしはシェリル・ノームなのよ」
あからさまに不機嫌な顔をした、銀河級アイドルが視線の先にいた。
「……申し訳ありません、シェリル様」
そこまで仕事内容に含まれていただろうかと思いつつも、機嫌を損ねさせて彼女のマネージャーに叱責を受けるのは自分だと、呼び直して申し訳程度に頭を下げた。
「ま、アンタに言っても仕方がないわね。でもランカちゃんの前では禁止よ」
「分かっている。ランカは貴様を慕っているようだからな」
憧れのアイドルが、実験材料にされていたなどと知る必要はない。ブレラは目を伏せて、大切な妹を想った。
「本当にランカちゃんのこと大好きなのね。羨ましい」
ふふ、と笑いながらシェリルは口にして、ハッと気がつく。誤解を受けかねない言葉だ。
「いっ、今のは別に、アンタに大事にされてるランカちゃんが羨ましいって意味じゃなくて、そう思える相手がいることが羨ましいって意味なんだからね!」
そうだ深い意味などない。頬をわずかに染めて降り仰いでみたが、
「慌てる意味が分からない。何か重要な解釈だったのか?」
返ってきたのは素っ気ない疑問。特に明確な答えを求めているわけでもなさそうな雰囲気に、シェリルはそっぽを向いた。
「なんでもないわよ」
本当に面倒な男ねと呟いて、シェリルは新雪の上に寝転んだ。冷えた感触が、間違ってあの男に向かっていく想いも冷ましてくれそうな気がして。
「……気持ちいいー……」
「服が濡れるぞ。着替える時間はないが」
「あたしの心配はないの?」
「貴様の健康管理など、俺の仕事ではない」
手を貸そうともしないのかと、不遜な男を見上げ、ちらちらと降ってきた雪に気がつく。体に、髪に、顔に降ってくる小さな白い物体が、やっぱり新鮮だった。
「綺麗」
「降雪機などいくらでも買えそうなものだがな」
「バカね、天然だからいいんじゃない」
人工で作るなんて味気ないわとシェリルは続け、そんなものかとブレラは空を見上げる。ブレラ自身も、実際に天然の雪に触れたのはこれが初めてだった。
「不思議……雪の方が降ってきてるのに、あたしが昇っていってるみたいに見える」
「……ああ、錯覚だが……不思議な視界だ」
賛同と取れる言葉を放ったブレラを珍しく思って、シェリルは起き上がる。わずかに積もっていた雪が、はらりと落ちた。
「アンタでもそんなこと思うのね。星空にも見えるけど、宇宙を飛んでいる時ってこんな感覚?」
「いや、…………考えたことはなかったが、おそらくこの雪の方が美しいのだろう」
「ふぅん」
まだ雪という物に触れていたいけれど、彼が言ったように仕事に向かわなければならない。さっさと済ませて終えれば、また触れられるだろうかと、シェリルはゆっくり立ち上がった。
「もういいわ、行きましょ。グレイスに怒られちゃうもの」
「最初から素直にそうしてくれ。……動くな、フェアリー9」
「なっ、なによ」
護衛対象を置いて行きかけたブレラが、立ち止まって振り返ってくる。まっすぐに向かってくる視線に驚いて、シェリルは体を強ばらせた。
伸びてくる、指先。
頬に触れたそれは、雪よりは温かいように感じられた。
頬を包んだ手に上向かされて、ドクンと心臓が鳴る。
視線をそらしたいのにそうできないのは、いったいなぜだというのか。
「ブ、ブレ……」
「――雪がまだ、残っていたぞ」
指先は目の下と睫毛に触れて、それだけで離れていく。
カアッと上がった頬の熱を隠したくて、シェリルはそこにしゃがみ込んでしまった。
――――キ……スされるのかと思ったじゃない! バカ、バカバカ!!
吐き出す息さえ熱を持っているように思えて、恥ずかしさで顔を上げていられない。
――――このあたしが、シェリル・ノームが、こんなヤツに動揺してどうすんのよ!
じゅわああと音さえ聞こえそうな発熱。息を止めても目を強く閉じてもどうにもならなくて、そんなことをしている内にさらなる衝撃。
「あまり手間をかけさせてくれるな、フェアリー9」
「きゃあっ、ちょっ……だからコードネームで呼ばないでって言ったでしょ! 下ろしなさいよ!」
「この方が早い。掴まっていろ」
「ちょっと、ブレラ……!」
抱き上げられて、抗議をしている間に浮遊感を覚える。確かに彼の跳躍で建物の上を飛んで行った方が早いかも知れない。
が、この心臓の音はどうしてやればいいのか!
「掴まっていろと言っている」
「う、うるさいわね掴まってるでしょ! 落としたりしたら承知しないんだから!」
「了解した。最短コースで移動する」
ここまで来てしまったらもはや何を言ってもどうにもならない。
シェリルは、仕方なく、そうする他になく、とりあえず、首に両腕を回してしがみついてみた。
心臓は相変わらずうるさかったけれど、しがみついてもそうしなくても同じならと、そう思ってのことだった。
――――意味なんかないわよ、そうよ、こんな男、好きでも何でもないんだからね。
困ったように、笑いながら。
#ブレシェリ #ツンデレ #映画ネタ