華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
表示中のカテゴリに限定して検索
No.459
NOVEL,A3!,千至 2019.08.05
#千至 #両片想い #イベント無配
可愛く描けたっしょ! と上機嫌で談話室に入ってきた一成を、椋や九門たちが振り向いた。「わあっ、可愛い…
NOVEL,A3!,千至
favorite いいね ありがとうございます! 2019.08.05 No.459
ありがとうございます!
次のページ >> / / << 前のページ
初期表示に戻る
可愛く描けたっしょ! と上機嫌で談話室に入ってきた一成を、椋や九門たちが振り向いた。
「わあっ、可愛いね!」
「これカズさんが描いたの? 超可愛いじゃん」
「でしょでしょ~、誕プレでチカちょんに画材もらったからさ~。せっかくならチカちょん描こうと思って!」
一成の発した可愛らしいあだ名に、至の耳が瞬時にダンボのように大きくなった。
(え、なに? 先輩? 描いたってなに? イラスト?)
至は、いつものように手にしていた携帯端末から顔を上げ、ここぞとばかりに話題に入った。
「なに、先輩描いたの? 俺にも見せて」
テーブルに置かれたそれを覗き込むと、そこには確かにちかちょんこと卯木千景が鎮座していた。グラスグリーンの髪と、鋼ブルーの瞳。デフォルメされたイラストだったが、至の心臓を何よりも撃ち抜いたのは、ぴょこんと上向くウサギの耳。
「うぐぅ……」
至は思わず口許を押さえ、しゃがみ込んで俯いた。ギブアップを表すようにテーブルを空いた手で叩けば、ぺちぺちとなんとも頼りない音が響く。
「ね、ね、超きゃわたん! あとでちゃんとお礼言っておこ!」
「カズくん、僕も描いてほしいな」
「あっ、オレもオレも!」
「オッケー任せて!」
傍ではそんな可愛らしい会話が続いているようだが、至の頭の中には残らない。右から入って左から抜けていくような感覚だった。
(可愛すぎてシャレにならん……!!)
ウサ耳の生えた千景。動物が苦手な彼は、ケモ耳をつけてと言ってもつけてくれないだろう。公演ならば別にしてもだ。それがこんな形で見られるなんて。
心臓が速い。頰が熱い。口許が緩む。
至は小さくうなりながらもなんとか体を起こして、もう一度そのイラストを視界に入れた。
やっぱり可愛い、と目蓋を伏せたが、意を決して一成を振り向いた。
「ねえ一成。これ写真撮ってもいい? ネットには上げないからさ」
「へ? ああ、うん、別にいいよん♪ なになにいたるん、これでチカちょんからかう腹づもり?」
「ハハ、まぁそんなとこ。だって嫌がる顔見たいでしょ」
そう言って笑ってみせたが、うまくごまかせているだろうか。
至がこれを欲しがる理由はたくさんあるが、ひとつに絞るとするならば、千景のことが好きだからだ。
(ほんとにかわいい)
至はようやくまともに見られるようになったイラストを、携帯端末のカメラに収める。何度も撮り直して、何枚も撮り集めて、最高の一枚を待受画像に設定した。
アプリのアイコンが邪魔だが、邪魔だからこそ落ち着いていられる。画面全部を見たら、時間が経つのも忘れて見入ってしまう。
満足げに息を吐き、念のためデータをクラウドに転送しておいた。千景に削除されてしまうかもしれない。
「いいカンジ。ありがと一成。部屋に戻るわ」
椋たちをモデルにラフスケッチし始めた一成に礼を言い、ひらひらと手を振って至は談話室を後にした。
(は~マジ可愛い。実物あんなに格好いいのに、こうやって絵にすると可愛いとか反則じゃない?)
画面を見つめながら部屋に戻り、手に入れたウサ耳千景を存分に堪能する。
柔らかそうな耳に触れてみたいと画面に触れるも、当然ながら硬い。さらさらした髪に触れてみたいと思っても、やっぱり硬い。
伝えることのできない気持ちだし、これで満足しておくしかないかと苦笑して、ソファに寝転がった。
そうして程なく、千景が残業を終えて帰宅する。至は慌ててソファの上に体を起こした。
「ただいま」
「おかえりなさい先輩。残業、大変でしたね」
「まあね。取引先がゴネるから、打ち合わせ延長の上に断れない会食とか、本当に面倒だった」
ふう、と息を吐いてスーツを脱ぐ仕種もサマになる。至は目を背けたくても背けられない複雑な恋心を胸に、お疲れ様ですと呟いた。
「そんな先輩に癒やしをあげましょうか」
「は?」
「ほら、一成がかわいい先輩描いてくれましたよ」
そう言って、画像フォルダから先ほど撮ったウサ耳千景を、モデル本人に向けてみせる。
一瞬にして千景の顔が引きつったのは面白かったけれど、やっぱりお気に召さなかったかと眉を下げた。
「なんだ、それ」
「なにって、だから一成が描いた先輩」
「それは分かるけどなんでウサギの耳がついてるんだ」
「それは一成に聞いてくださいよ。可愛いじゃないですかこれ。誕プレに画材あげたんでしょう? それで描いたみたいですよ。喜んでましたけど」
う、と千景が言葉に詰まったのが分かる。自分が贈ったプレゼントで描いてくれたとなれば、あからさまに嫌がるのも憚られるのだろう。つくづく他人に甘い男だと、至の心臓が締めつけられた。
「はぁ……もう、いいけど。それ、ネットに上げるつもりかな」
「さあ。俺は止めてませんけど、しないと思いますよ。先輩がそういうの嫌がるって知ってるから。写真も好きじゃないでしょ」
俺にも撮らせてくれないのにと、心の中で小さく呟く。本当なら千景の写真を待受にしたいところだが、そもそもデータがない。一成のイラストを借りたのは、それも理由のひとつ。
「で、お前は何でそんなもの撮ってるんだ。嫌がらせか」
「……バレました?」
はは、と笑いつつも、上手く笑えたとは思っていない。
嫌がらせのつもりはない。
千景のことが好きだから、いつでも見ていたかった。だけど写真はないし、もし他人に見られても、イラストなら団員仲間が描いたんだと団員愛を楯にできる。
「嫌がらせの他に理由が思いつかないからな」
「ヒドス。……でもこれ、ほんと可愛いんですってば。よく見てくださいよ。耳とか触り心地良さそうだし」
「……そんなわけないだろ」
至は待受画面に戻した端末をじっと眺めて、千景のため息にも気づかずウサ耳を撫で続けた。
我慢できなくなったら幸や臣に頼んで、ヌイグルミにでもしてほしいくらいだ。
どうせ本物にはそんなふうには触れやしないのだから。
「茅ヶ崎、本気でその待受固定するつもりか?」
「え、いいでしょ別に。癒やしをくださいよ」
「そんなもので癒やされるお前の気が知れない」
振り仰げば、千景は不機嫌そうに眉間にしわを寄せていた。これは本格的に怒られる流れだろうかと身構えたら、手にあった端末をひょいと取り上げられた。
千景は端末の画面にすいと指先を宛て、じっと眺めているふうに見える。一成の描いたウサ耳の自分を受け入れられないのか、その顔は険しい。
ち、と小さく舌打ちまで聞こえた気がした。
そうして短いため息のあとに、千景は指先を動かす。
「先輩待って!」
そんなに嫌だったのかと、顔を歪めて千景を呼ぶ。からかうつもりも嫌がらせのつもりもなかったし、そんなに嫌なら待受からは解除する気はある。
「先輩、やだ、消さないでください、お願い」
たまに眺めるくらい許してほしい、他の誰にも見せたりしないからと、瞳で訴えてみせた。
「消さないよ」
千景が、にっこり笑顔で振り向いてくる。仮面であることを隠しもしない様子に、至はさっと血の気が引いたけれど。
千景の指先は自身の前髪を撫で整え、眼鏡の位置を直す。 ん? と至が首を傾げている内に、端末からシャッター音が聞こえてきた。
「……うん。はい茅ヶ崎、返すよ」
「え? は?」
「そっちにしとけ」
ポンと端末を放られて、落とさないように必死で受け止めた。いったい何をしたのかと端末を確認した至の目に、ウサ耳イラストではない、千景の自撮り写真が飛び込んでくる。
「はぁあああ!? ちょ、待って、どういうつもりっ……」
「嫌がらせ。じゃあ、メシ食べてくるよ」
言って、千景はさっさと着替えて部屋を出ていってしまう。ソファには、ただ茫然とした至が取り残された。
「ナニコレ……」
手の中には、千景の写真が待受にされた携帯端末。どうやら夢ではないようで、一気に顔の熱が上がった。
「待って待って、無理、超レアGET、かっこよすぎ」
顔からソファに倒れ込んで、思いがけないアイテムドロップをどうにか消化しようとする。だが、そんなに簡単にいくわけがない。
嫌がらせどころかご褒美にしかなっていないことを、あの男は知っているのだろうか。
至は端末を胸に抱いたまま、小さくうなりを上げた。
その同じタイミングで、部屋のドアの外側、千景が脱力したようにしゃがみ込んで項垂れる。
「バレたかな……なにやってんだ、俺は」
一成の描いたイラストに嫉妬なんかして、初めて自撮りなんかしてしまった事実。いくら自分がモデルになっているとはいえ、なんだか悔しかったのだ。
そんな気持ちで子供っぽいことをしてしまったことに、呆れ返る。千景は小さくうなりを上げて、夕食をとりに行こうと、吐息とともに立ち上がった。
きっと待受はすぐに変えられてしまうだろうけど、このわずかな時間だけでもいいからと、祈りの言葉を吐きながら。
至の端末の待受画面が、ずっと千景の写真にされていることを知るのは、もう少し後のこと。
#千至 #両片想い #イベント無配