華家
-HANAYA-
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No.428
NOVEL,A3!,千至 2019.05.09
#両想い #ラブラブ #千至 #リーマンパロ
未だに夢なのではないかと思う。 至は、千景が入れてくれたコーヒーに口をつけながら、キッチンに立つ彼…
NOVEL,A3!,千至
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未だに夢なのではないかと思う。
至は、千景が入れてくれたコーヒーに口をつけながら、キッチンに立つ彼の背中を眺めた。手際よく作られていくのは、おそらくスクランブルエッグ。傍にあるのはサラダだろうか。
(自炊、してるんだ……なんか勝手に外食とか多そうなイメージしてたけど、あの引き締まった体でそんな不健康なわけなかったわ)
〝引き締まった体〟という単語で、ついうっかり昨夜のことを思い出してしまって、顔が火照るのを自覚する。小さくうなりながら俯けば、自分の腕についたキスマークに気がついた。
(うわ、千景さんてばこんなとこにまで。……わりと余裕なかったのかな。かわいい)
昨夜、初めて千景の自宅に招かれた。行こうと思っていた至オススメの店が、タイミングの悪いことに定休日だったのだ。気まずい思いで千景に謝ったら、「じゃあ俺のオススメのとこでいいかな」と微笑まれて、どこへ行くのかと思えば――千景のマンション。
(俺のとこから二駅か……歩こうと思えば歩ける距離に、こんなイケメンがいたとはね)
千景とは、お互いをよく知らないうちに電車で出逢った。出逢ったというか、至がヒトメボレして一方的に眺めていただけだ。
そう思っていたのに、千景の方からも同じ想いを返されて、「俺の方が先に至を見つけたんだぞ」なんて面倒くさいマウントを取られた。
(いや、今もまだあんまり知らないけど。ウチの会社の取引先に勤めてることと、死ぬほど顔がいいことと、ハチャメチャに
イケボなのと、俺を甘やかしすぎるってことくらい)
初めて体を重ねてから、まだあまり時間が経っていない。お互い仕事があるし、夜の逢瀬は金曜日。それでも運がいいなと思うのは、毎朝電車で逢えるからだ。
(千景さんの傍に陣取るようになってから、ホント周りの視線が倍増したんだよね~。見たい気持ちは分かる。千景さんホントに格好いいから)
電車で眺めているだけの時は、絶対に恋人がいるだろうと思っていた人の恋人に、まさか自分がなれるとは思っていなかった。
(し、しかも、こんなデロ甘の扱い受けるとか死ぬ、確実に昇天する)
髪に触れる時も、唇に触れる時も、もちろん体に触れる時も、千景は優しい。とても大切にされているのが、うぬぼれでなく伝わってくるのだ。おかげで千景と逢うたびに心臓がドキンドキンと大きく跳ねる。
「至、お待たせ。どうしたの……あ、コーヒーにミルク入れる?」
そんな彼の自宅で朝食を取るということが、どれだけ幸せで、どれほど緊張することか。千景が、軽い朝食を両手にテーブルの方へやってくる。
「え、あ、平気です。手伝いますよ」
運ぶのくらい手伝おうと、至は腰を上げかけたけれど、千景に止められた。
「至は座ってて。昨夜ちょっと無茶させたからな」
「……っべ、別にそんな! ……ちょっと、キツかったですけど……」
「そういう反応、すごくいいな。可愛い」
確かに昨夜は濃密な時間を過ごした。何度か行ったホテルよりも盛り上がってしまったのも事実で、腰が痛くて重いのも本当だ。
だけどあれは完全に合意の上の行為で、千景だけの責任ではない。心も体も欲しがってしまったのだから仕方がないのだ。
「睨むなよ」
「睨んでません。……やっぱりどうにも顔がいいなって思ってただけです」
「俺はあんまり自分の顔好きじゃなかったんだけどね」
「えっ、なんでですか、すごいカッコい、……好み、なのに」
力説しそうになって、恥ずかしくて違う言葉を探したけれど、結局そんな言葉しか出てこずに至は視線を背ける。
もっと気の利いた言葉が出てくればいいのにと。
「至が好きだって言ってくれるから、今は好きだよ。まさか、この恋が叶うとは思ってなかったしね」
トーストしたパンにマーガリンを塗りながら、千景は苦笑する。それはこちらも同じだと、至はサラダに手を伸ばす。
「至を初めて見かけたとき、すごくドキドキしたんだ。だけどノンケだろうし、恋人がいるだろうって思ってたんだよね」
「いやそれ俺の台詞です」
「だけど至が傍にくると、視線が倍増するんだよね、あの電車。至への評価が高いのは嬉しいけど、ちょっと嫉妬する」
「それも俺の台詞ですし!? 千景さん、自覚してくださいよ」
あの視線がどちらへ向かっているものなのかなんて、考えなくても分かりそうなものだと至は息を吐く。
「千景さんは、格好いいしスタイルもいいし、ネクタイとかも趣味がいい。タバコ吸わないのもポイント高くて、声もいいですよね。好きにならないわけないでしょ」
「それを言うなら至だってそうだろ。ふわふわの髪とか触りたくなるし、背も高い。細い腰なんか支えたくなるし、指も綺麗。声もね、高すぎず低すぎず、俺の好み。好きになるのに五秒かかったかどうか」
「いやさすがに盛りすぎでは」
「盛ってない。本当のことだ。至に早く気づいてほしかった。もしかしてあの子も、って期待して、毎朝同じ電車、同じ場所に乗って、至を待ってたんだぞ」
落ち着き払った様子でコーヒーに口をつける。誰に何と言われようと、至がどれだけ謙遜しようと、彼の中では揺るぎない事実になってしまっているようだった。
「至がこういう付き合い初めてだって聞いた時、本当に嬉しかったんだ。至が他の誰の物にもなってなくて良かったって」
「……そ、そんなの……あの日、千景さん結構余裕そうに見えてたんですけど」
「そう思う? 至を何度も抱いたのに」
色を含んだ瞳が見やってくる。墓穴を掘った、と至は目を伏せたが、確かにあの夜、初めてだというのに何度も繫がった。
「至からまた逢えるかって訊かれた時も、嬉しかったな。俺の方から言おうと思ってたから」
「いや、だってあの時は俺、必死で……夢かと思ってたっていうか、夢にしたくなかったっていうか。初めて話したのに浅ましいって思われてもいいからって……」
一夜限りで終わりたくなんかなかった。千景がそんなふうに想ってくれていたなんて知らなかったから、彼をこの手につなぎ止めておきたかった。
「至は素直だよな、こういう時。羨ましいよ。俺はそういうの、どっかに置き忘れてきた気がする」
「そうですか? でも千景さん、俺を抱く時すごく素直っていうか、可愛くなるから、嬉しいですよ」
昨夜のことを思い出して首を傾げれば、千景がコーヒーを噴き出しかける。
「そ、そういうことは初めて言われたけど……」
「そうなんですか? じゃあ俺が初めてもらっちゃったんですね」
「……ちなみに、どこをどう捉えたら素直ってことになるのかな……」
千景が今まで、どんな人たちを相手にしてきたのか、至は知らない。気にならないと言ったら噓になるが、それを気にするより、もっと千景のことが知りたい。
可愛いと言われて複雑そうな顔をする彼のことを、もっともっと、広く、深く。
「分かりませんか?」
「まったく」
「千景さん、俺にしてほしいことちゃんと言ってくれるから。背中抱いてて、放さないで、入れたい、イきそう……一緒に、……って。そういうの可愛くて、すごく嬉しい。だから俺も、安心して甘えられるんですよ」
千景が口許を押さえて項垂れる。自覚がなかったのか、それを素直と捉えられるとは思っていなかったのか。
「……昨夜も、言ってた?」
「はい。いっぱい。覚えてません?」
「いや、その、……夢中で」
「ほらそういうとこ。ねえ俺、千景さんのことどんどん好きになっていくんですけど、大丈夫ですか?」
ほんの少し顔が赤い気がして、胸が鳴る。千景もそんなふうになるのだと、愛しさが増してしまった。
「ああ、それは心配ないよ、大丈夫。もっと好きになって。俺はその倍以上、至を好きになっていくから」
「え、なにそれズルくないです?」
「ズルくないです」
したり顔で笑う千景が、やっぱり可愛い。もっといろんな顔を持っているのだろう。
「ねえ至、今日はどうしようか。どこかに出掛ける? それとも」
「あ、人の多いとこ苦手なんですよ俺。デートスポットっていうか……あの、ごめんなさい」
気まずそうに視線を落としてから千景を見やれば、何やら驚いた表情。
「いや、俺もそういうとこ苦手っていうか。至となら別かもしれないけど……」
「あ、そうなんですか? 良かった……じゃあDVDとか借りてきます? ネット配信のでもいいですけど」
「そうだな。食べたら、少し散歩がてら借りにいこうか」
はい、と至は頷く。
千景と一緒にいるのが心地いい。これから一緒に時間を、言葉を、熱を重ねて、共に過ごせたらいい。
同じ歩幅で、同じ目線で。
#両想い #ラブラブ #千至 #リーマンパロ