No.718

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あ、メールが来た

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.04.06

#お題 #片想い

 最近、気になる人物がいる。 机で読書をしながら、ちらりとスマホに目をやった。 今日はまだ何も連絡が…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

あ、メールが来た

 最近、気になる人物がいる。
 机で読書をしながら、ちらりとスマホに目をやった。
 今日はまだ何も連絡がないな……なんて残念に思ってしまうくらいには、相手のことが気になっている。
 そもそも今読んでいる本も、彼に勧められた本だ。一度読み終わったのに、また最初から読んでしまうのは、感想を聞かれたときちゃんと答えたいからだ。
 どうしてそんなふうに思うのだろう。
 手塚国光にとって、跡部景吾は一目置く他校のテニスプレイヤー。
 それだけのはずだった。
 実力主義の氷帝学園で、一年の頃から部長を務めているということで、強さは理解していたが、それを実感したのは三年になった夏の関東大会。それまでは一戦も試合をしたことがなかった相手だ。
 戦略としてはセオリーなものだと思いつつ、相手の弱点ばかりを狙うというのは、あまり好きになれなかった。
 にもかかわらず、現在跡部に対して好感を持っているのはどういうことだろう。
 いやどういうことも何も、あの日の試合が認識を改めさせるきっかけだったというしかないのだが。
 持久戦を得意としているとは聞いていたから、一試合保つだけの体力はあるだろうと思っていた。それでも今まで実力の半分も出していないのだろうことも。
 だけど自分との一戦、あれだけは驕りも意地も捨てて、ただがむしゃらに向かってきてくれた。自分と同じほどの熱量で返される球を打つのがとても楽しかったのだと、終わった後に感じた。
 ある時、向こうからテニスに誘われ、一も二もなく頷いた。あの日の試合を再現できるとは思わなかったが、彼とのテニスを楽しみにしている自分にはちゃんと気がついていた。
 世間話を交えて話してみると、案外に共通していることがあるのだと知った。
 釣りをすること、読書を好んでいること。部を率いていた長としての苦労話や、もっとできただろう挑戦、これから何をしてやれるかという話は、とても有意義だった。
 それから、急速に距離が近づいた。
 跡部といるのは心地がいい。
 何も気負わず、ただありのままの自分でいられるような気がした。目標などない、ただ高みを目指しているだけだと言っても、笑うことなく「奇遇だな、俺もだ」なんて返してくるのは、跡部くらいだろう。
 だから、そんな彼と一緒の時間が増えるのは嬉しかった。放課後にテニスをするのも、休日に読書を楽しむのも、少し遠出して釣りをするのも、本当に楽しい。
 顔には一切出ないかもしれないが、そう思っているのは本当だ。
 ここ最近は、彼から連絡が来るのを心待ちにしてしまっている。
 自分からすればいいものをと思うが、なんとなく気恥ずかしい。向こうもそれを気にしている様子はなく、いつも、いつも、跡部からのアクションになってしまうのだ。
 なぜ、こんなにも待ち遠しいのだろうか。
 今までは読書をする時、他の何かが気に掛かるといったことはなかった。だけど今は、跡部からの連絡がないかとスマホを常に目の届くところに置いてしまう。もちろんマナーモードにしているから、他人に迷惑をかけることはないのだが、どうにもむずかゆい。
「手塚、これ。借りてたDVD――あ、すまない、邪魔したかな」
 大石に声をかけられて、ハッとして顔を上げた。手塚は本にしおりを挟んでぱたりと閉じた。そういえばこのしおりも跡部にもらったものだなと思い出して、胸の辺りが温かくなった。
「いや、構わない。放課後でも良かったんだが」
 大石に貸していた、古い全英の試合を収めたDVDを受け取り、そういえばしばらく観ていないなと気がつく。帰ったら久しぶりに観てみようかとカバンにしまった。
「いや、でも手塚、最近ずっと用事があるみたいだったから、早めにと思って。……あれ、違ったかい?」
「……ああ、まあ、そうなんだが」
 大石の言うように、最近はずっと跡部と逢っている。毎日とは言わないが、三日と空かない。だからこそ、今日はどうするんだろうと連絡を待ってしまうのだ。下手に予定を入れられない。
 入る予定らしきものもないし、先に決めたものを優先するべきなのだから、気にせずいればいいのに、それでも待ってしまう。
「今日は特に何も予定は――」
 ない、と言い掛けたその時、スマートフォンがメッセージの受信を報せてヴーと震えた。手塚は慌てて端末を持ち上げ、画面を確認する。
 送信者は、跡部景吾。
『今日、どうする? 逢えるか?』
 簡潔ではあるものの、だからこそ至極単純に、嬉しい。彼の予定の中に、自分と過ごす時間が組み込まれていることが。
 口許が緩む。
 たったこれだけのメッセージが、こんなにも胸をそわそわさせるなんて、自分は本当に、いったいどうしてしまったのだろう。
 早く放課後にならないか。そんなことを思って、返信を打ち込む。
「……手塚、そんなに嬉しそうに笑うこともあるんだな。ちょっとびっくりした。あ、もしかしてそれ、好きな人からとかかい?」
「――え?」
 大石の存在が、すっぽり頭から抜け落ちてしまっていたことに、声をかけられてから気づく。
 そしてそれ以上に、その言葉が衝撃的だった。
「それとも、恋人かな」
「え、あ、いや、違……そんな、ものでは」
 思わず、メッセージが送られてきた画面を振り向き直す。跡部とのトーク履歴に、胸が鳴った。
 好きな人、恋人――……恋?
 すうっと、何かが駆け上ってきたような感覚を味わう。そんなわけはないのに、それがとてもしっくりきてしまった。
「あ」
 動揺して、送信の飛行機マークを押してしまった。
『逢いたい』
 とだけ入力していた、そのメッセージを。
 ガタリと腰を上げて、慌てて削除しようとしたものの、一瞬で既読の印がついてしまってがっくりと項垂れた。
 どう思われるだろう。跡部の反応が怖いけれど、訂正する気はもうなかった。
「ああ、なるほど……そういうことか……」
 手塚は椅子に腰を掛け直し、長く息を吐いた。
「て、手塚? どうしたんだい、何か悪いこと聞いたのかな、俺」
「いや、大石のおかげで気づくことができた。感謝する」
 項垂れたことで、何か良くないことでも起こったのかと心配した大石に、ふるふると首を振って返した。
 ここ数日の、そわそわした気分。跡部が勧めてくれた本を大事に読み返してしまう行動。ずっとずっと跡部のことを考えてしまう理由。
 たった一通のメッセージと、大石の問いかけ。
 それだけで、世界が変わってしまった。
「どうやら俺は、コイツのことが好きらしい」
 画面を撫でると、ちょうど返信が入ってくる。『そっち、行く』と、またも短いものだったが、いつもと違って時間と場所を指定するものではなかった。『逢いたい』と送ったメッセージを、どういうふうに受け取ったのかは分からないが、不快ではなさそうでホッとした。
 少なくとも、逢える。望んだ通りにだ。
 さてこの恋は、告げるべきか、秘めるべきか。
 それは、顔を見てから決めようと思う。


お題:リライト様 /あ、メールが来た
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