No.717

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あ、目が合った

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.04.05

#お題 #片想い

 テニスプレイヤーとして一目置いている男。 跡部景吾に取って、手塚国光はそのような相手だった。 それ…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

あ、目が合った

 テニスプレイヤーとして一目置いている男。
 跡部景吾に取って、手塚国光はそのような相手だった。
 それ以上でも、それ以下でもない。
 試合をしてみて分かったが、クールな振りをして誰よりもテニス馬鹿で熱い男だった。それは、本当に意外だったが、読み切れなかったのは自分の未熟さだと思う。
 先入観というものがどれほど危険か、頭では理解していたつもりだったのに。
〝きっとこうだろう〟と思った相手が、そうではなかった時、油断と慢心は負けを引き連れてくる。
 自分を戒め、引き締めるいいきっかけにもなった。
 だから、手塚国光に対して好感を持つ自分がいるのには、特に不思議にも思わなかった。
 テニスをしないかと誘いをかけた際、案外にすんなり受け入れられたことの方が不思議で、思わずこちらの方が慌ててしまったくらいだ。
 そうして軽く打ち合って、世間話を交えて話してみれば、共通する趣味があると知って驚いた。
 釣りの方式や読書のジャンルは違ったものの、休日の過ごし方が一緒というのは面白かった。
 それからだ。急速に距離が縮まってしまったのは。
 放課後にテニス。休日に読書。少し遠出して釣り。手塚の好きな登山というのはまだしたことがないが、初心者でも行けそうなところを探しておくと言ってくれている。
 一緒にいる時間が増えていく。
 今日だって、この合同練習の後に一緒に本屋へ行く約束をしていて、どんどん日常に手塚国光が食い込んできている。
 それは許容できたし、困ることもないからいいのだが、ここ最近おかしいのだ。
 スマホの通知が気になってしまう。トークの履歴を追ってしまう。勧められた本を何度も読んでしまう。いったいどうしてしまったのだろう。
 手塚のことばかり考えている。
 こんなに一緒にいる時間が増えたのに、もっとずっと一緒にいたいと思うようになるなんて。
 手塚は最初、ただの好敵手だというだけだったのに、そこに友人という肩書きが付け加えられて、それがくすぐったかった。
 それが今では、物足りない。
 きっと、築けるとは思っていなかった親友としての間柄に浮かれているのだろうが、それにしたって考えている時間が多すぎる。
「なあ萩之介」
「なに、景吾くん。何か練習メニューで問題でもあったかな」
「いや、そうじゃねえ。あるヤツのことばっかり考えちまうってのは、どういう状況なんだろうな」
「…………景吾くん、俺、恋愛相談はあまり得意じゃないんだけど」
 やれやれと小さく首を振る友人に、何を言っているんだと否定をしてみる。
「そういう色っぽい話じゃねえ。相手は男だ」
「ああなるほどね。でもどうして、相手が男だと恋にはならないなんて言えるのかな。ずっとその人のこと考えてるんでしょう? その人が今困ってて、景吾くんを頼ってくるとかでもなく」
 その言葉に、目を瞠って、瞬く。
 男だから、恋にはなり得ない。
〝きっとこうだろう〟――それは、いつかも感じた思い込みではないのか。
 対象にならないというのは、先入観でフィルターをかけてしまっているからではないのか。滝はそう言って背中をぽんぽん叩く。
「……好きかもしれねえってことかよ」
「ん……まあ、高い確率で」
 そんな馬鹿な、と頭を抱えたくなった。
 まさか、よりによってあの手塚国光相手に恋をしたなんて。テニス以外には興味もなさそう、という思い込みは親しくなってから壊れたけれど、あの男が色恋に心を動かすとは思えない。
 こんな想いを抱えてしまったのは自分だけだろうなと、青学のメンバーに練習の指示を出している男を、そっと見やる。背後で、滝が「え」と小さく声を上げたのには気がついた。
 これは相手を悟られたなと思うが、弁解をしておくべきかどうか。
 迷って、諦めて、手塚を見つめたまま滝に声を投げかけた。
「萩之介、何も言うなよ」
「……いや、言わないけどさ……もう少し楽そうな相手にしてほしいよ……」
「悪いな、無理だ」
 視線に気づいたのか、手塚が振り向いてくる。
 目が、互いの真ん中で出逢ってしまった。
 それで、跡部は確信する。
 これは恋に違いない。
 油断していた。こんなつもりではなかったのに、やはり油断と慢心は〝負け〟を連れてくる。
 世界が変わってしまった。
 そう思って苦笑しながら、珍しく自分の方から視線を逸らした。

お題:リライト様 /あ、目が合った
#お題 #片想い