- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
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金色の曼珠沙華
おわりとはじまり
はあ、と止めていた息を吐き出した。自分の下でふるふると体を震わせる恋人を見下ろして、十座は言いようのない幸福に包まれる。
「あ、あ……はあっ……」
部屋に呼んでくれただけではなく、十座が切り出す前に手を伸ばしてくれた左京を、いつもより激しく抱いたような気がする。
乱雑に脱ぎ捨てられた衣服の傍で寝転んだまま、汗で額に張り付く金色の髪を指先で払ってやれば、くすぐったいというように綺麗な紫色の瞳で睨まれた。
もっとも、そんなに頬を紅潮させていては威力は半減するし、それどころか別の威力に変わってしまう。まったく自分というものを分かってないひとだ、と十座はその額に唇を寄せた。
「ん……っ、馬鹿、動くんじゃねぇ……」
まだ入り込んだままだったせいで、左京が反応をしてしまう。悪いと思うよりも先に、また欲が膨れ上がってしまうのは、もうどうしようもなかった。
「左京さん、もう一回……」
そう言って耳元で囁くけれど、左京は十座の体を押しやってくる。
「冗談言うな、ちょっと……休憩くらいさせやがれ……この体力馬鹿が」
ダメなのかとがっかりしかけた十座だが、どうやら時間をおけばいいらしい。それくらいは我慢していようと、十座はゆっくりと左京の中から引き抜いた。
「兵頭、水……取ってくれ……」
「ん、あ、ああ……喉、大丈夫っすか。あんなに声出してたし……」
十座は側のテーブルに置かれていたミネラルウォーターのボトルを左京に手渡す。蓋を開ける力が入らないらしく、十座はカシュリと開けてやった。
「誰のせいだと思ってやがんだ、あんなに……その、しなくても、いいだろ……」
体を起こして水を飲む左京の頬が、赤い。責められているのは分かるが、正直そんな可愛らしい反応をされてもからご褒美にしかなっていない。
水を飲み込んでいく左京の喉が動くたび、十座の中の欲が膨れ上がる。左京にあまり負担をかけたくないのは本音だが、そうそう落ち着いて待ってもいられない。左京に触れたいのだ。
「左京さん」
左京の傍に手をついて、お窺いをたてるように名を呼ぶ。一瞬向けられた視線はすぐにふいと逸らされて、重なってくれない。まだお預けだというサインだろうか。
「なあ……」
耳元に唇を寄せ、吐息と一緒に囁く。左京がこの声に弱いらしいのは気づいていて、わざとだ。耳から顎のラインを鼻先でなぞり、白い肌をちゅっと軽く吸う。抵抗はされていないが、受け入れきってもくれていない。
「待てって、言ってんだろうが、おい……どんだけ堪え性ねえんだお前は」
「全裸のアンタ前にして、堪える理由が分からねぇ」
「俺の体力を考えろ。お前と違ってこっちは三十路なんだよ」
無理に押し倒すことはできたけれど、それをしたら左京が怒るのは目に見えている。三日くらい口を聞いてくれなくなるかもしれなくて、それなら欲を我慢する方がまだマシだ。
十座はおとなしく身を引いて、残念そうに視線を下向けた。
「それにな……」
そんな十座に、左京の手がゆっくりと伸びてくる。優しく髪を撫でられて、十座はぱちぱちと目を瞬いた。
「もう少し待ってろ」
「……左京さん?」
そうして左京は、どうしてか携帯端末を手に取る。大事なメールでもきたのだろうかと思ったが、すぐにテーブルへと戻したあたり、そういうことでもないらしい。
「兵頭」
携帯端末から離れた指先が、顎に触れてくる。それは口唇へ移り、右から左へ、左から右へ、ゆっくりと形をなぞってきた。ひどく官能的な指先の動きに、十座は戸惑い、瞬きさえ忘れてしまう。
「さ、左京さ……」
「キス、していいか」
一通りのコトを終えたあと、この状況で、わざわざ訊ねてくる真意が分からない。だけどよくないわけはなくて、頷くーー前に、左京の口唇を感じていた。
左京からのキスは珍しい。体を重ねてはいても、どうしても自分の方が想いが大きいことは自覚していて、たまに向けられる左京からのこんな優しさには、舞い上がってしまう。
触れるだけ。つい数分前まであんなに情熱的に繋がっていたとは思えないほど、穏やかで静かな口づけだ。左京はもしかしてこういうキスの方が好きなのだろうかと、合わせるように口唇を押し当てる。
両手で頬を包んでくれるその手も優しくて、怒られないようにと祈りながら、左京の案外華奢な体を抱きしめた。
「ん……」
触れるだけのキスが、ゆっくりと深いものに変わっていく。そうしてくれたのは左京の方からで、十座は口を開いて左京を招き入れた。舌を捕われて、絡んだと思ったら、いつのまにか互いの指先も絡んでいて、指先と口唇のキスで遊んだ。
「ふ……ぁ」
「……っん」
触れて、離れるかと思った手前でまた触れて、左京の腕が背中に回されたことに歓喜しながら十座は左京の髪を撫でる。
離れることのない口唇をちゅうと吸い上げて、混ざった唾液を飲み込んだ頃、満足したらしい左京が肩にてを置いて押しやってくる。濡れた口唇と揺れる瞳が煽情的で、もう一回とおねだりしようとしたけれど、口唇に当てられた人差し指で止められた。
「兵頭……誕生日、おめでとう」
そうして囁かれた言葉に、十座は目を瞠った。
「え……、……は?」
誕生日、と左京は言った。おめでとうとも言ってくれた。壁にかけられた時計は午前零時を回っており、九月二十七日。十座がこの世に生を受けた日だ。
瞬きをひとつ。そこでようやく事態を把握して、再度目を瞠った。
「誕生日……」
「おいおい、まさか忘れてたってんじゃねぇだろうな」
「え、あ、いや、そうじゃねえが……だって、まさか左京さんが」
「俺が祝うとは思わなかったって? 色気のねぇこと言いやがるな、若ぇのによ」
コツ、と額を合わせられる。考えていなかったわけではない、付き合い始めてから最初の誕生日だ。できれば左京と一緒に過ごしたかったし、多少のわがままも聞いてもらえるかもしれないと思っていたのは本音である。
だけど、まさか真っ先に祝ってくれるなんて思っていなかった。
「ま、俺もガラじゃねぇけどな、こんなこと。分かってるさ」
だけど、と左京は続ける。
「十七歳最後の瞬間のお前と、十八歳最初の瞬間のお前に、キスをしていたかったんだ」
普段めったに見られない優しい顔つきで、恋人は笑う。たまらなくなって、十座は左京を強く抱きしめ口唇に触れた。
「左京さん……っ」
それは最初から深くて、食らうような激しいものになってしまったけれど、左京が嫌がるそぶりは見られなかった。勢いでそのまま膝の上に乗せてしまった時には、さすがに軽く舌を噛まれたけれど、
「まぁ……存分に楽しめ。お前の上でも下でも、今日は好きなようにしてやるよ」
そんなお許しをいただいて、十座はここぞとばかりに左京を堪能することになるのだった。
はあーと左京は長い息を吐く。まったくらしくないことをしたもんだと。おかげで体がギシギシと音を立てるかのように、痛い。
好きなようにしてやると言ったのを後悔したのは、多分三度目――体を転がされて、後ろから受け入れた頃だ。十代の体力にはついていけないと何度か身をもって知っているはずなのに、立て続けのラウンドを許してしまった。
ーーーー言わねーぞ。他の奴らに祝われる前におめでとう言いたかっただけだなんて、死んでも言わねぇ。
それはひとえに、自身で思っているよりもずっと兵頭十座に心を持っていかれてしまっているからだ。一回りも違う年下の男に、こうまで翻弄されているなんて、誰にも知られたくない。十座にもだ。
「左京さん、水、持ってきたっすけど……起きられるのか?」
「あー……悪い、ちょっと手ぇ貸せ……」
水をくみに行っていた十座が戻ってきて、左京は体を起こそうとする。しかしうまく力が入らなくて、これでは水を飲むのもままならない。
「すんませんほんと……全然抑えきかなくて」
「ちったぁ加減しろ、このエロガキ」
「……努力はする」
十座に手を貸してもらい、体を起こす。自身で支えられない体は十座の胸で支えられて、慣れた体温が左京を安堵させた。
「今日……一緒に出かけようかとも思ってたんだがな……」
「そういうことは早く言ってくれ左京さん。分かってたらセーブ、……いや、できなかったとは思うが……」
「プレゼント用意してねーからな、好きなもん買ってやろうと思ってた。悪い、ちょっとしんどい……」
水で喉を潤し、左京はこてりと床に体を横たえる。そんな左京の体をいたわるように、欲でなく撫でてくる十座の手のひら。今さらながらに、セーブできなかったことを後悔しているのだろう。
「プレゼントなら、充分もらっちまってる」
「あァ?」
「いちばん初めに祝ってくれたの、嬉しいっす。無茶させてすんません」
そんなことでいいのかと、左京は肩を震わせて笑う。ちょっと高めのスイーツでも取り寄せてやろうかと、心配そうに覗き込んでくる十座の髪を撫でた。
「んな顔しなくても、ちょっと寝たら平気だ。しかし安いプレゼントだな。もうちょっとうまくおねだりしてみりゃいいのに 。遠出はできねぇが、何か食いに行くか?」
「いや、いい。むしろこうして部屋でのんびりしてぇ。ベッドは……狭いかもしれねえが」
「スイーツやらなんやらはいいのか。遠慮するな」
左京に気を使っているのか、十座は首を振る。そんなに深刻になるほどの疲労じゃないんだがと、左京は重い腕を上げた。
「兵頭、もうちょっと甘えてくれてもいいんだぞ?」
「……なら、それ、来年欲しいっす。来年、アンタとふたりで出かけたい、左京さん」
その腕をパシリと取り、十座は手のひらに口づけてくる。左京はぱちぱちと目を瞬いた。
来年、と強調した十座の望みを悟ってしまって、口元が緩む。
「分かった、来年。心配しねーでも、ちゃんと祝ってやる。……恋人として、な」
「……っあざす」
十座の顔がパァッと明るくなる。普段からそういう顔をしていれば、強面なんて言われないだろうにと思うが、自分の前でだけそこまで崩れるのも悪くない。
「左京さん、あの、もう一回」
「無理に決まってんだろうが」
「あ、いや、そうじゃなくて、その……お、おめでとうってヤツ……」
そっちか、と左京は恥ずかしい勘違いに頬を赤らめる。まぎらわしい言い方をするなと怒りかけたが、誕生日くらい目一杯優しくしてやろうと息を吐いた。
「……おめでとう、兵頭。あのな、その……お前が思ってるより、ちゃんと……好きだぞ」
そうして十座が何かを言う前に、口唇をキスで塞いでやった。
#両想い #ラブラブ #誕生日
何度だって
隣を歩く人の横顔を、ちらりと見やった。雨の日は、差した傘の分だけ距離ができるから、好かねえ。
だけどその反面、雨で洗われた空気の中のこの人も綺麗だなんて思うから、厄介なんだ。
だけど、どうしたんだろう。さっきから、ずっと黙ったままだ。お互い口数の多い方でもねぇし、愛だの恋だの語り合える場所でもねぇ。
そもそもそんな会話、この人との間じゃ一度もしたことねぇんだからな。
いつも、いつだって、俺はこの人を抱くだけだ。
無理やりしているわけじゃねえ、とは思う。呆れて、諦めて、俺の欲につきあってくれているこの人に、俺がどうしようもなく惚れちまってるってだけ。
もちろん外で手なんかつなげねぇし、キスなんかもっとできねぇけど、俺はこの人が好きなんだ。
ぱたた、と安いビニール傘に雨が当たって音を立てる。滑り落ちてきた雫はそのまま地面に逃げていって、小さな水たまりに波紋を生んだ。
「……左京さん」
「あァ?」
「信号、変わるぞ」
青の点滅を繰り返す信号機。この長い横断歩道を渡りきる前に赤に変わってしまうだろうことは、すぐに予測ができるのに、その人――左京さんは足を止めなかった。もしかして気づいていないのかと、どさくさに紛れて指先を握って引き留めた。
「……ああ、悪いな……」
静かな声は、それでも雨音にかき消されることなく俺の耳に届く。俺が左京さんの声を聞き逃すはずねえ。
ああ、だけど本当に、どうしたんだ、この人は。これは、そうだ、あれだ、上の空ってヤツだ。
せっかくふたりきりなんだから浮かれてほしい、なんて言えない。誰がどう見たって俺の片想いでしかなくて、今日だって一緒に寮を出てきたわけじゃない。出先で偶然見かけて、俺が勝手に追いかけてきただけなんだ。
何かあったのか。
劇団の中か、それとも、左京さんの仕事方面なのか。
訊いてもいいもんかな、こういうのは。恋人でもねえ、ただ演技指導してもらって、……抱かせてもらってるってだけの、俺が。
「左京さん、あの……」
「兵頭、お前このあと時間あるか」
思い切って訊ねてみようとしたところへ、左京さんの声。
眼鏡のレンズ越しに見る瞳は、やけに寂しそうで、戸惑いを覚える。だけど俺が左京さんと一緒にいられる時間を減らしたいわけはなくて、こくりと頷いた。
「そうか……」
「左京さん、どうしたんすか。ぼんやりしてるし、なんか、悩んでるん、すか?」
「……いや、別に。この間お前に抱かれた時のこと、思い出してただけだ」
赤だった信号が青に変わって、左京さんは先に歩き出す。
俺の顔は赤くなって、左京さんを追いかけたけれど、気づいちまう。あんなのは、嘘だ。
ごまかして、丸め込んで、隠せていると思ってやがる。
「なあ兵頭、抱くだろ?」
左京さんが雨の中振り向いて笑う。
……まあごまかされてはやるけれど、ベッドん中じゃ容赦しねぇ。
「アンタがいいなら、余計なこと考えられなくなるくらい、抱かせてもらう」
悩んでるなら、吐き出せないなら、丸め込んで隠し通したいなら、何度だって抱いてやる。
アンタが悩む理由なんか、俺のことだけでいいじゃねえかよ。――なァ、左京さん。
そうやって、連れ込んだのか連れ込まれたのか分からない部屋の一室、夜通し抱いた。
左京さんが俺の腕の中で震えて泣くのは、雨の寒さでも快感からでもないと分かっていたから――。
#片想い #セフレ
熱の行方
パシン、パシン、とレッスン室に硬い音が響く。同時に、十座が息を飲む音と、竹刀が空を切る音が。
左京が振り下ろした竹刀を受け止めて流し、反撃に出る。力負けするわけにはいかなかった。
「うわっ……」
「馬鹿が、足下が留守になるっつっただろうが!」
だけど、竹刀にばかり気を取られた十座の足を、左京が素早く払った。バランスを崩し、よろめいたところへ、容赦なく向かってくる竹刀の先。鼻先の寸前で止められて、十座は息を飲んだ。
「何度言ったら分かる、兵頭。ひとつのことに集中するな。のめり込むのは悪いことじゃねえが、お前はそれが顕著に出る。少し力を抜け」
左京はそのまま竹刀を下ろし、それ以上踏み込んでくることはなかった。
十座はよろめいた体を戻し、手のひらと、足下をじっと眺めて息を吐く。自身が不器用なのは知っていて、言われたことを簡単にこなせてしまうわけもないことは、分かっている。だが舞台に立つ以上、できませんなどと言えるはずもないのだ。
「もう一本、頼めるか、左京さん」
「休憩してからだ。さっきも言ったが、お前はどうも一本気というか……メリハリをつけないと、崩れるぞ」
竹刀を握り直した十座にふいと背を向けて、左京は鏡張りの壁際に腰を下ろしてしまう。秋組の稽古のあと、殺陣の稽古を付けてもらっている立場の十座としては、従う他にない。
ふう、と疲れたような息を吐いた左京に気がついて、十座は隅に置いていたスポーツドリンクを手渡した。
「すんません左京さん、稽古のあとにまで……」
「いや、構わねぇさ。お前の技量が伸びれば、秋組の可能性はもっと広がる。俺がもう少し上手い教え方できりゃあな」
「んなことねえ、左京さんのアドバイス、具体的で……有り難いっす」
そうか、と少し照れたように視線を背ける左京の隣に腰を下ろし、じ、と眺めてみる。
すっと通った鼻筋と、そこにかかる眼鏡。瞳を隠すことのない綺麗な金髪と、特徴的な目の下のホクロ。
十座は思わず、そこに指先を伸ばしていいた。
「兵頭?」
十座はこの眼鏡を取った左京を知っている。そのホクロの傍を涙が通っていくのを知っている。その綺麗な顎のラインが、快楽に上向くことを知っていた。
「左京さん」
十座の指先は眼鏡のつるから降りてホクロを撫で、顎をなぞり、ついと自分の方に向けさせる。
「おい……ッ」
察した左京の口唇から、抗議が飛び出す前に、塞いでしまった。
押しやるように互いの間に腕を滑り込ませた左京だが、十座はそんなこと気にも留めずに左京を覆っていく。
「んっ……」
口唇に触れ、押しつけ、舌先でべろりと舐める。びく、と肩を揺らした左京をグイと抱き寄せて、開いた口唇の中へと入り込んだ。逃げ惑うどころか、押し出そうとしてくる左京の舌に押し勝って、きつく吸い上げる。
――――やべェ……止まりそうにねぇ……。
左京からの抵抗は見られるが、火がついてしまった。
稽古のあとということも手伝ってか、ひどく好戦的な自分には気がついていて、ドリンクを飲み干す左京の喉が動くのに、欲情したのも自覚している。
最初からそういうつもりでいたわけではないが、ふたりきり、近づいた体、汗のにおい、照れ隠しに顔を背ける恋人、それが揃って、触れるなという方が無茶なのだ。
「左京さん、抱きてぇ」
「……は、っはぁ、は……馬鹿、よせっ……」
深いキスから左京を解放した十座は、トレーニングウェアの裾から手を差し入れる。稽古あとの汗に湿った肌は、十座の欲をレベルアップさせた。
「兵頭、おい、やめろって言ってるだろうが……っ」
「止めるなら、もっと前に止めてくれ、左京さん」
キスの最中にでも、無理やり止めることはできたはずだ。それをしてこなかったのに、今さらすぎる。十座の手のひらは左京の腹を撫でながら、少しずつ上昇していった。
指先が胸の突起に触れるかどうかといったところで、左京の両手が十座の顔に伸びてくる。
キスでもおねだりしてくれるのかと、
「や……めろっつってんだ! こんのエロガキ!」
……思いきや。両手で十座の頬を掴み固定した左京は、額めがけて自身の額をぶつけてきた。
「いっ…………て……!!」
予期していなかった衝撃と痛みに、十座はつい体を離してしまう。つい今し方左京のウェアをたくし上げていた手で額を押さえ、きつく目を閉じぐわんぐわんと目の回りそうな感覚を耐えた。
「容赦ねぇな、アンタ……」
「てめーが馬鹿なことするからだ!」
「…………そんなに、嫌なんすか、やるの」
「嫌に決まってるだろうが、ふざけんな!」
左京自身も衝突させた額をさすりながら、問いかけた十座に答える。きっぱりはっきり拒まれてしまって、十座は肩を落とし眉を下げた。恋人とはいえすべてを許容することはできないし、させることもできない。
もともと強引に押し切った形で始まった関係だし、左京はそれほど好いてくれていないのかもしれない。
「……すんません、左京さ――」
「神聖なレッスン室で、何を考えてやがんだ。こんなとこでなんか、絶対に嫌だからな!」
素直に謝って頭を冷やしてこようと思った十座の声を遮って、左京がそう続けてきた。
「神、聖……」
十座はまっすぐに左京を見つめ、そうしてぐるりとレッスン室を見渡す。
こんなとこでなんか、ということは、もしや場所が気に入らないだけなのだろうか。それにしても神聖なレッスン室とは、左京の芝居バカっぷりには恐れ入る、と十座は自分の芝居バカを棚に上げて考えた。
「馬鹿にしてんのか、兵頭」
「いや、してねぇっすけど……神聖なって言えるの、なんか、すげぇなって」
「ああそりゃ言葉のあやにしてもだ。お前は嫌じゃねぇのか。普段から熱込めて稽古してるとこで、自分の欲さらけ出すんだぞ。しかもここは、俺たちのことを知ってる秋組の連中だけならまだしも、他の組のヤツらだって使うんだ。向坂や瑠璃川なんか、中学生だぞ? それに、監督さんだって。……絶対に嫌だからな」
あ、と十座は気づく。自分の欲ばかりに気を取られて、そんな当たり前のことさえ考えられなかったのだ。やはり左京の言う通り、ひとつのことにしか集中できない不器用な人間だと、改めて自覚した。
「すんません……全然、考えてなかったっす」
十座は、レッスン室を情熱だとか感動だとか、そんなに綺麗なものばかりで考えてはいない。嫉妬や自分自身への怒りだって、ここで何度も感じてきた。それは、言うなれば「欲」だ。欲を欲で上書きし蓄積されていく場所でもある、とさえ感じていた。
だがしかし、左京の言う通りここは他のメンバーも使う場所である。そんなところで左京を抱くわけにはいかない。もし知られたら追い出されてしまう可能性だってあるのだし、もう少し慎重にならなければと項垂れた。
「左京さん……」
「なんだ」
「あの、俺……気をつけるんで、き、……嫌いにならないでくれ」
左京とのことを他のメンバーに知られるのは怖くない。それを受け入れてもらえなくても生きていける。
だけど、左京に嫌われたくはない。きっと生きてはいけるだろうけれど、一度知ってしまった熱を、果たして忘れていられるか。無理だと即答できるはず。
自分の不甲斐なさにくしゃりと髪をかきまぜる。どうか嫌いにならないでほしい、と祈るように細く息を吐いたら。
「……馬鹿言ってんじゃねぇ」
その手にそっと触れてくる温もりがあった。左京の手のひらだ。少し乱れた髪をかき上げるように、指が絡んでくる。十座の指と、左京の指。それに髪が絡んで、ひとつになった。
ぐいと引き寄せられ、額に左京の口唇を感じる。十座は目を瞠った。
「さっきは悪かったな。痛かっただろ」
「え、あ、いや……」
額を衝突させたところへの、癒やしのキス。まさか左京がそんなことをしてくれるなんて、思ってもみなかった。
もしかして、思っている以上に、左京にはちゃんと好いてもらっているのだろうか。
至近距離で、視線が重なる。左京の眼鏡越しに、確かに一直線、ただ一点だけを見つめる相手のものとかち合っていた。
どちらからともなく、口唇を寄せていく。いや、どちらかというと六対四の割合で左京からの誘いだったような気がした。
口唇は互いの真ん中で出逢い、触れて、五秒。確かな熱の触れ合いを持って、離れていく。
「兵頭、部屋まで我慢できるか?」
ふっと左京の目が優しげに細められる。十座はそれが嬉しくて、顔をほころばせた。
「……っす」
「いい子だ」
そう言って左京は、優しく髪を撫でてくれる。あやすような口振りではあるが、子供扱いしているわけではないことが、触れた口唇から伝わってきた。
触れるだけのキスで、ひとまず欲をあやして宥め、十座は左京とともに一〇六号室へ向かう。
熱の行方は、お互いだけが知っていた。
#両想い
キスは眼鏡をかけてから
十座が目を開けると、そこには恋人の寝顔があった。布団の隙間から見える肌に、昨夜付けたキスマークが見えるのが、なんともたまらない。
起こさないようにそっと身を寄せれば、綺麗に脱色された金色の髪が視界いっぱいに広がる。
その髪は思っていたよりもさらさらしているのだと、こんな関係になって初めて知った。
これが夜にはベッドの上に散らばり(多くはベッドでない場所でだが)、十座の視界を楽しませるのだ。
十座はそっと腕を持ち上げて、恋人の――左京の髪を撫でる。
甘いものを食べている時と、こうして左京の髪を撫でている時の至福と言ったら。いや、とても言葉では表せない。
叶うと思っていなかったこの恋が受け入れられたのは、恐らく左京の気まぐれだ。
そうでなければ、同性相手に、しかも一回りも年齢が違うガキなど相手にしてくれないだろう。
いつか終わりがくるかもしれない。それは早いうちか、忘れて油断した頃にかは分からないが、それを覚悟しておかなければならない。
――――また無茶しちまったけど……今のうちに、ってのが……俺の中にあるんだろうな。左京さんが、俺を相手にしてくれるうちに、知りたかったんだ。この人を。
視線を、口唇を、体を重ねられるようになってから、しばらく経ったけれど、いつも夢中になってしまう。
起きたあとに怒られるのももう慣れたが、左京が起き出さないうちにこうして髪を撫で、頬に口づける時の緊張は、まだまだ慣れやしない。
額に、眉間に、鼻先に、ふたつ並んだ黒子に。順番に口づけて、左京が起きるのを待った。
「ん……」
今日は目を覚ますのが早いなと、口唇へのキスをし損なってこっそり舌を打つ。
「兵頭……?」
「……っす。体、平気すか、左京さん」
寝起きの掠れた声で名を呼ばれ、胸が高鳴る。眠そうに目を擦る左京に、昨夜の無茶を謝罪する。覚醒した左京はため息とともに寝返りを打って、体を上向けた。
「あー……ちったあ手加減てもんを覚えたらしいな……」
それでも体のあちこちが痛ぇ馬鹿がと、悪態をつくことを忘れない左京にホッとする。本当に怒っている時は、口さえきいてくれないのだから。
疲労がまだ抜けていないのか、ゆったりとした口調にトクトク胸が鳴る。機嫌の悪くない今のうちに、と十座は口を開いた。
「左京さん……」
「あァ?」
機嫌が悪くないと思ったのはただの願望だったかと感じるほど、低い声が返ってくる。
だけど、言いかけた言葉を今さら引っ込められない。余計に怒らせてしまいそうだ。
「……キスをしてもいいっすか」
一瞬、左京の息が止まったような気がした。そうして、周りの空気が二度ほど下がったような錯覚も。
やっぱり言わない方が良かったかとも思うが、キスをしたいのは本当だ。昨夜充分に堪能したはずの左京の口唇だが、いつだって触れていたい。
「だ、駄目ならいいっすけど……」
「……構わねーが、眼鏡よこせ……」
「は? 眼鏡?」
十座は目を見開いた。
構わないと許容されたこともそうだが、眼鏡をよこせと言われたことに。左京は本当に目が悪いようで、眼鏡がないと手元足下がおぼつかないようなのだ。
それは理解できるが、なぜ今眼鏡を欲するのか。そう思う間にも手探りで枕元の眼鏡ケースを探していて、十座は左京がそれを探し当てる前に取り上げた。
「左京さん、アンタ寝ぼけてるのか? キスをするのに、なんで眼鏡がいるんだ」
眼鏡が邪魔になってしまうような激しくて深いキスをするつもりはないが、それはあくまで予定であり、したあとのことまで責任はもてない。
皮脂や汗で眼鏡が汚れるのを嫌っているのは知っていて、だから不意打ち以外ではちゃんと眼鏡を取ってくれるのを待っているというのに。
構わないと言いながら眼鏡をかけたいというのは、やんわりとした拒絶なのか、何かの謎かけなのか、それとも本当に寝ぼけていて思考が働いていないだけなのか。
「いいからよこせ、兵頭。見えねぇだろう」
「見える必要があるのか? ここにいるのは俺だ、左京さん。ベッドの中で、こんな格好のアンタにキスをするのは、俺でしかねぇんだから」
相手を見極める必要はないと、十座は眉を寄せて低く囁く。左京の過去の女は知らない。だが、今恋人としてキスをするのは自分でしかないのだから、見えなくても不便はないはずなのに。
左京がひとつ瞬きをして、細めた目で見つめてくる。朝っぱらから色っぽい視線をよこされて、十座の熱が上がってしまった。
「馬鹿か、だから……見たいと言ってんだ」
「……え?」
「俺にキスをする時な……甘ったれたガキが、いっちょまえに大人の男の顔をしやがる。……見せろ、兵頭」
左京の指先が、十座の口唇をなぞってくる。その仕草と言葉の意味に気がついて、ボッと顔を赤らめた。
「左、京さん、アンタ、何言ってるか分かって……」
「兵頭、眼鏡……」
左京の指が、十座の手にある眼鏡ケースを指す。寝ぼけているわけではないようで、十座の口唇が震えた。震える指先でケースを開け、丁寧につるをつまんで開く。
他人に眼鏡をかけるなんてしたことがない。外す行為はしたことがあるけれど、逆はコレが初めてだ。左京の頬やこめかみをつつかないように、レンズを汚さないように、ゆっくりとかけていく。
いつもの、左京の顔だ。
眼鏡のレンズ越しに、左京の瞳をじっと眺める。
見えますか、という愚問を音にする前に、十座は左京の口唇を撫でた。
「……好きだ、左京さん」
ゆっくりと胸を重ね、口唇を重ねる寸前聞こえたのは、「知ってる」という、左京の吐息のような声だった。
#両想い
/ /


れに笑って、手始めにと額にキスを降らせた。
「アンタが好きだって言ってくれんなら、結べなくてもいい……」
「くすぐってぇ」
「キスしてないところあったらダメなんだろ」
額に、まぶたに、眉に、頬に、そっと髪を避けて耳に、十座は口唇を落としていく。くすぐったさに身をよじる左京の名を呼んで、ありったけの愛情を注いだ。
「ん、ぁ……」
「前から思ってたが、アンタ耳も弱いよな、左京さん。……サラサラの髪の毛、こうやって耳にかけてキスをすると、色っぽい声出してくれる。可愛い」
「かわ……三十路の男に言う言葉じゃねーぞ」
「本当にそう思うんだから仕方ない。普段隠れてるとこは弱いって言うけど、本当だな」
ニ、と口の端を上げる十座の瞳に情欲の炎を見つけ、左京はぞわりと肌をあわ立たせる。こんなふうに男の顔を見せておきながら、キスが下手だなんてのたまう高校生の、アンバランスさ。
「てめぇは本当にタチが悪いな……」
左京は目元を覆い、長く息を吐く。可愛いなんて言われて嬉しいはずがないのに、この男相手にだけは心臓が跳ねてしまう。
「駄目っすか……?」
「駄目じゃねぇ、馬鹿」
それくらい惚れてしまったのだからしょうがないなともう諦めて、十座の背中に両腕を回した。
一日の終わり、夜の始まり、結べなかった茎の変わりに視線と舌と愛の言葉を絡めあって、確かめる。甘い甘い、キスの味。
#両想い #ラブラブ