No.300

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金色の曼珠沙華-017-

金色の曼珠沙華 2017.10.01

#シリーズ物 #ウェブ再録

 馬鹿げた恋心を、芝居への情熱に変えてくれるなら、そちらには応えてやりたい。 左京は口の端を上げて、…

金色の曼珠沙華

金色の曼珠沙華-017-


 馬鹿げた恋心を、芝居への情熱に変えてくれるなら、そちらには応えてやりたい。
 左京は口の端を上げて、やろうとしていたルチアーノから、カポネへと意識を切り替え、ランスキーと二人きりで演じるシーンの台詞を吐き出した。
『お前にできるのか? ランスキー』
『情報を横流ししてるヤツがいるんだったら、俺が必ず見つけてみせる』
『ふ……ん?』
『情報が漏れれば、金が入ってこなくなる。見逃せねぇ』
 眉間のしわを深くして、ランスキーは顔を背ける。組織の不利益につながるのなら、黙っていられないと。
 カポネは背けられたその視線の先に回り込み、下からすくい上げるように覗き込んだ。
『てめーが裏切ってる可能性もあるな? 弟の手術に大金がいるんだったら、敵方に情報流して利益を得てる、ってのも考えられるだろ』
『ボス』
 ネクタイの結び目を直してやる仕草を加え、カポネは鋭い眼光でランスキーを射抜いた。
 お前じゃないだろうなという脅迫めいた声音は、下っ端の者なら震え上がっていただろう。
 だがランスキーはルチアーノと並ぶ「ボスのお気に入り」だ。
 結び目を直したその手首を取り、同じく強い力で睨み返してくる。
『俺を疑っているのか』
『俺が信じてんのは、金と、時間と、自分ひとりだけだ』
『……ボス……』
『ルチアーノを見張れ、ランスキー』
 口にした名前に、ランスキーは目を瞠る。カポネの言いつけで、行動を共にするようになった男の名前だ。最初こそウマが合わなかったようだが、今では仕事を通して相棒と呼べる間柄になった相手。
『ルチアーノは違う!』
『なら、お前か? 証拠を持ってこい。ルチアーノでも、お前でもないって証拠をな』
 漏れている情報は、幹部クラスのメンバーしか知らない物もある。
 となると、犯人は限られてくるのだ。
 ランスキーは顔を歪ませて、小さく呟いた。
『……悪魔の証明、だな』
『そう難しいことでもねぇだろう。裏切り者を俺の前に連れてこい、そう言ってるだけだ』
 オトシマエはこちらでつけさせてもらう、とカポネは凶悪に口の端を上げてみせる。今回は、さすがのランスキーも背筋を震わせて絶句した。
 それでも分かったと呟いて、カポネの私室を出ていく。 そうやってランスキーが踵を返した瞬間、左京の集中力が切れる。
「……っ」
 ぐらりと歪む視界の不快さに耐えかねて、体をよろめかせた。
 その肩を、ぐっと支える手のひらがある。兵頭十座のだと、思った。
『大丈夫か、ボス』
 左京は目を瞠った。それは十座ではなく、ランスキーの手のひら。まだ芝居を続けていたのだ。
 もちろん、脚本にこんなシーンはない。ランスキーが部屋を出ていって、一旦暗転のはずだ。だからこそ左京が、気を抜いてしまったというのに。
『ひどく疲れているようだな……まあ、組織に裏切り者がいるんだ、いつ寝首をかかれるか分からねぇし、安眠もできない、か』
 カポネをしっかりと立たせ、ランスキーは苦笑する。組織を裏切っているのはランスキーなのだが、目的は金でしかない。カポネの命には興味がないのだ。そんな心配はするなとでも言いたげな笑みだ。
 左京はぞわりと背筋を震わせた。
 いつのまに、こんなにすんなりと役に入り込むようになったのだろう。
 万里とのシーンはお互いの負けず嫌いも手伝って、演じているうちに、どんどん熱くなっていっているようだが、臣や太一とのシーン、左京とのシーンは、まだどこか遠慮がちで、引っ張っていかないと入り込めないようだったのに。
 やはり兵頭十座の中で「芝居」の優先順位は高いらしいと、嬉しく思うのと同時に恐ろしい。
 これではすぐに追いつかれてしまう。
 若いということは、知らないということだ。
 ただ、兵頭十座にはその「知らないこと」を素直に吸収する土台がある。教えれば、経験を積めば、そのまま自分の技量にしていくだろう。
 羨ましい。
 そう感じている自分に気がついて、カッと頬の熱を上げた。
 経験も、技術も、まだ左京の方が上だ。それなのに、若い才能に嫉妬するなんて大人げないと。
 どうにかカポネに戻って、アドリブで返してやろうと口を開いたその時、レッスン室のドアが開く。
「あれ、稽古のスケジュールを間違えたかな。おはよう十座、左京くん」
 ひょいと顔を出したのは、冬組の雪白東だ。左京はハッと顔を上げて振り向いた。
「あ、いや、自主練で使ってただけだ。今朝は冬組だろ。すまねぇな雪白」
 今朝のレッスン室利用は冬組が優先だ。もう稽古に起きてくる時間なのかと、左京は壁の時計を振り仰ぐ。ちょうどシーンも途切れたことだし、冬組の連中に譲らなければと、十座の傍から離れた。
 ほうっと吐き出された呼吸の音を背中で聞いて、十座が左京を追い越し、東に会釈をしてレッスン室を出ていくのを見送った。

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