キスインザダーク-嵐の夜に-【17】

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「シキ、も……い、だろ、やめ……あ……っ」
混ざり合った唾液が、口の端からあふれ喉を伝っていく。それを舐め取るのと同時に、シキが膝を折る。すでに体の力が抜けきっていた幸人はそれにつられるしかなくて、気がつけばどさりと床に押し倒されていた。

「幸人……」
喉に、シキの熱い息がかかる。体全部でのしかかられて、逃げる隙も力もなかった。
「ちょっ……待て、駄目……っこんなの、や、あ……」
シキの指が、唇が、舌が、素肌に触れているのが分かる。触れられたそこが熱を持って火を噴いているかのようで、幸人は速い鼓動を抑えきれない。
「あっ、あ、や……触る、なって……馬鹿ぁ……っ」
指先が、胸の突起をつまむ。引っ張られ、捻られて、押し潰される。口に含まれた時には声を飲んでのけぞった。
「あ、あ、あっ、や、んっ……シキ、駄目、それ、や……」
それが楽しかったのか嬉しかったのか、シキはそこを執拗に責め立てる。幸人はびくびくと体を震わせて、シキの与えてくる快感に耐えた。

「幸人」
「あっ……」

こんなことするつもりなかったのにと首を振れば、そのたび呼ばれる名に、ふっと力が抜けていく。

「幸人……」
「やぁ……っあ、ん……はぁっ……」
シキの甘ったるく柔らかな声が、幸人の脳を、体を、芯までとろとろに溶かしていってしまう。最初の夜とは比べものにならないくらいの快感と熱が、幸人を立て続けに襲った。
「あっ……指、増え、て……っ」
中を好き勝手に動く指も、体にかかるシキの長い髪も、素肌に感じる熱い吐息も、幸人を翻弄していく。
こんなに気持ちよくなったら駄目なのにと思う心とは裏腹に、幸人の腰は快楽に揺れた。
「や、あ、待っ……駄目、まだぁ……っ」
足を持ち上げられ、シキのものがそこに当たるのを感じる。それを認識できるくらいには、まだ理性も残っていた。

「待っ……て、って、言っ……てんのにっ……」
疼く体が何を欲しているのかは分かっていたけれど、それでも申し訳程度に拒んでみる。シキが、そんなことに遠慮をするわけがないと思っていたからだ。そんな殊勝な男なら、コトに及ぶ前にやめてくれている。
そして案の定、シキは幸人の弱々しい制止など聞かずに押し込んできた。
「あっ、あぁ……ん、あ、入っ……て、あ、だめ、待てって、馬鹿っ……奥……うぁ」
ぐいぐいと遠慮なく入り込まれて、幸人はのけ反る。痛みは少なかったけれど、慣れているわけではない体では、衝撃が受け止めきれない。
「馬鹿、っも……あっ、動く、な、って……シキっ……」
ゆらり、ゆらりと、シキが体を揺さぶる。そのたびに中を突かれて、波のように快楽が打ち寄せる。

「な、んで、こんなに、……ッん、や、あぁ……」
「幸人……」
吐息と一緒に名を呼んだシキが、ゆっくりと胸を合わせてくる。互いの間で汗が押し潰されて、一つの水滴になって、胸の横を流れていった。

「幸人、お前……何をした……?」

ぎゅうと強く抱きしめられる。下腹部がぴったりと合わさって、幸人の足が揺れた。
「な、にっ、て、何が……だよ……ナニかしてんのは、お前の……方……っ」
ゆっくりとゆるゆる動かれて、体が震えてしまう。割れて飛び散ったガラスの破片があちこちで輝いて見える。そんなところで裸に剥かれ、体のずっと奥まで暴いてくるのはシキの方だ。何をした、なんて言われる筋合いはない。されているのは幸人の方だ。

「……気持ちいい……」

「な……っ」
耳元、熱い息とともにそう囁かれ、びく、と腰が揺れた。心の底かららしいその声は、震えているようにも思える。
「気持ちいい……、幸人」
「な、何言って、あ、ん、っぁ、や……!」
ぶわっと、競り上がってくる何かに体中が支配される。一瞬前よりもっとシキを、シキの熱を、シキの形を、大きさを、音を、まざまざと感じてしまった。
「あぁっ……」
「……んぅ」
そのせいか、中のシキを締めつけてしまったようだ。喘ぐ声と吐息が、耳元で繰り返される。それでまた、腰が揺れてしまったことに気がつく。
確かに、最初の夜より気持ちがいい。抵抗したいのに、その抵抗さえ快感に繋がっていきそうなほど、気持ちがいい。
何をしたと聞きたいのはこちらの方だと、幸人は大きく息を吸い込んで、吐いた。
「け、契約、とか、したからじゃ、ないのかよ……っ、俺、そんなつもり、なかったのに、勝手に、契約しやがって、こんな、こと、まで……!」
ランに触れられるのはいやだと、シキじゃなきゃいやだと思わず名を呼んでしまっただけだ。それを、「求めて呼んだ」と言われても、困る。その上、こんなこと。
「違う、今まで契約したヤツは……こんなに……こんな風にならなかった。お前を抱きしめたい、触れたい……奥まで食らいつくして、俺の証しを流し込んで、何度も、何度でも……抱きたいなんて、思わなかった……」
「抱、き……っ」

「なぜだ……? どうして、こんな、幸人っ……」

「やっ、馬鹿、待って、俺……っ」
シキがぎりぎりまで腰を引く。そうしてゆっくりと押し込んでくる。その質量に、幸人はぞくぞくと背筋を震わせた。
「あ……あぁっ、んぅ」
言葉の通り奥まで食らい尽くされそうで、心臓が跳ねる。それを気づかれたくなくて、覆ってしまいたいのに、胸を合わされた状態ではできない。
「シキ、シキぃ……っ」
仕方なく、抱きしめたシキの体で心音を覆い隠した。
「幸、人……」
驚いたようなシキの声。
「幸人っ……」
項垂れて肩に唇をつけてくるのが分かる。抱きしめてくる腕が今まで以上に強くなり、幸人は不思議そうにシキの背を撫でた。
「シキ、苦し……う」
顔を上げたシキのキスが降ってくる。ぐ、と押しつけられた唇を、もう拒もうとは思っていなかった。
「ん……」
いつもと違う。幸人はそう感じた。

それはただ、キスのためのキスだ。

食らうためではなく、奪うためのものでもなく、ただ――触れたがるだけの。
「あ……あぁ……そう、か……これか……」
唇を離したシキの顔を至近距離で見たけれど、なんとも苦痛そうで、悲しそうで、幸福そうだった。
「シキ……?」
「礼を言うぞ幸人。お前には、極上の快楽を……くれてやる」
「え……ん、ぅ?」
最初の夜と同じ言葉が吐かれる。だけど減った言葉の代わりにキスをくれたシキは、言葉の通り幸人の極上の快楽を与えるために触れてきた。
「あっ……あ、あ、や……あぅ……」
「気持ちいいか……? 幸人」
腰をがっちりと抱えられ、逃げ場なんかない。ゆっくりと中を行き来するシキの形を覚えて、シキのリズムを覚えて、同じタイミングで吐息する。

「あ……はあっ……シキ、だめ……っい、い……」

ぞくぞくと体中を快感が駆け巡る。気持ちよくて、羞恥なんか吹き飛んでしまう。
そんなものを感じるより、シキの熱が欲しい。

「いい、シキ……っそこ、気持ち、いいっ、あ、やあっ……ん」
シキの背を抱きしめ、吐息を耳元で聞く。
「幸人」
幸福そうに名を呼んでくるシキの名を呼び返してやって、放たれる熱を受け止めた。
「シキっ……ぃ」
濡れた吐息と、何度も肌に触れてくる指先。その感触を意識でたどり、幸人も少し遅れて熱を解放した。

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