贈る側のはずなのに(10/7)

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 キスが欲しい。
 プレゼントは何がいいかって訊けば、こいつは毎年同じことを言いやがる。他にねえのか。
 キスなんて、いつもと変わらねえじゃねーか。
 ソファに腰掛けながら不満を混じらせてそう言うと、「変わらなくてもキスがいい」なんて返してくるんだよ。断れるわけねえだろ、恋人からキスが欲しいなんて言われりゃよ。
 形に残るものでなくていいのかって訊ねれば、「跡部景吾という形が俺の腕の中に残るが」とか言いやがって。くそ、こいつどんだけ俺のこと好きなんだよ。
「たまには違うもん贈りてえんだけどな。車でも世界一周旅行でも、もう少し贅沢になれよ手塚。俺は跡部景吾だぜ?」
「いや、お前が跡部景吾だからこそ最高の贅沢なんだが」
「アーン?」
「跡部景吾のキスなんて、他に誰ももらえないだろう。世界で唯一、俺だけだ。それのどこが贅沢でないと言うんだ?」
 至極真面目な顔で返されて、言葉に詰まる。確かに俺のキスは手塚限定だ。挨拶で頬にするものはあっても、恋情と劣情を込めたキスなんて、この先の人生で手塚にしかしない。手塚のキスも、俺しかもらえない。そういう意味では、贅沢だとは思う。だけどそれを誕生日プレゼントに欲しいと望むヤツがあるか。
「……仕方ねぇヤツだな」
 そう言いつつも、俺は手塚にキスをする。手塚の膝の上に乗って、指先で頬を撫で、唇同士を出逢わせた。ゆっくりと押しつけて、感触を確かめて楽しむ。口の端に触れて、上唇を食み、吐息をかける。丁寧に、ことさらゆっくり舐めて、ついばんだ。
「手塚、くち……」
 吐息と一緒に囁けば、俺を迎え入れるために手塚の唇が開く。舌で歯列をなぞって、その奥へと入り込んだ。すぐにぶつかる舌に挨拶をすれば、ぐっと強く腰を抱かれる。あ、これは止まらねえヤツだ。舌が強引に絡んでくる。こんな時くらい俺に主導権握らせろよ。ベッドに行きゃテメェに譲るしかなくなるんだからよ。
「……噛むな」
「だったら大人しくしてやがれ」
 軽く舌を噛んでやったら、少しも痛くなさそうな声で囁かれる。俺は笑って手塚を首から引き寄せた。濡れた唇を合わせて、今度はこっちから舌を絡めてやった。表と表を合わせて撫でて、押し上げて裏の感触を楽しむ。吸えば、ちゅっと湿った音が響いた。合間にこなす吐息も濡れてくる。混ざった唾液を飲み込んで、首筋を撫でて、シャツのボタンを外してやった。
 手塚の肌の感触が好きだ。このさらりとした肌が、俺を抱く時は汗に湿る。この常温が、俺を抱く時はひどく熱くなる。それが嬉しくて、ずっと触れていたい気分にもなる。
 手塚への誕生日プレゼントなのに、俺の方がハッピーになってどうすんだよ。
 付き合って五年、誕生日を祝うのも五回目。それでもまだこんなにドキドキして、愛しさが増していくのが不思議でならない。
「手塚……」
 唇を離して名を呼び、頬にキスをする。顎に軽く歯を立て、首筋に口づけて、痕を残した。
「キスだけでいいとは言わせねーぜ……?」
「ああ、当然抱くが」
 言いながら俺の背をなで上げてくる手塚に、安堵と歓喜と欲情をする。ベッドへと促されるが、我慢できるわけねえだろ。ここでいいと手塚のをこれみよがしに撫でて包んで揉んでやる。諌めるように「跡部」と呼びつつもシャツの裾から手を入れてくんだから、面白えよな。
 俺は自分でシャツを脱いで、膝で立つ。手塚の手のひらが腹を撫でて、指先で筋を確かめてくる。くすぐってえなんて笑っていたら、予告もなしに乳首を舐められた。体が震えて、声が上がる。くそ、手塚に慣らされたそこ、弱ぇんだよ、ばか……。
「あ、……んぁ」
「さすがに慣れないか?」
「慣れる、わけ、ねえだろ……テメェに触られんの、いつも……っ嬉しくて、気持ちいいんだよ……」
 かわいい、なんて言って乳首をいじり倒してくる。ねっとりと舌で包み、押しつぶし、転がす。俺はそのたびに甘い声を上げ、我慢することなく快楽に身を委ねるんだ。
 手塚の手が、脇腹を、背中を、腰をなで回していく。ドキンドキンと胸が鳴って、体温が上がってくるのが分かった。
「手塚……お前、俺のこと撫でるの好きだよな……」
「……ああ、そうかもしれないな。お前の綺麗な肌が、俺の手のひらの下で熱くなり、汗に濡れていくのがたまらない。テニスをしているときは、ボールを通してしか感じられないからな」
 言葉をなくした。まさか同じことを感じていたなんて。
 神聖なテニスに情欲を持ち込むななんて言われるかと思っていたのに、こいつも同じだったのかよ。
「まあ最初は、テニスの最中に欲情する自分を恥じたりもしたが。だが、そうなるのはお前と対峙している時だけだし、テニスと跡部を愛しているのはどちらも俺自身で、両方が真実だ」
 恥ずかしげもなくそう言ってのけるこの男が、本当に愛しい。全力で向かってくるあの情熱は、テニスと恋とで二等分というわけじゃなく、どちらも100パーセントなんだ。俺も同じだけの情熱で返していたが、間違っていなかったようで嬉しい。
「……手塚、俺は本当にお前が愛しい。俺のすべてを受け止めて、赦してくれるのは、お前だけだな」
「こちらの台詞だが。きっとお前でなければ張り倒されていただろう」
「ふ……フフッ……愛してるぜ手塚。誕生日おめでとう。今日は好きなだけ俺を抱け」
 深いキスをして、ぐっと腰を押しつける。手のひらがやわやわと撫でていたかと思えば、明確な意思でもって包み揉まれる。さっきの仕返しかよ、くそ。
「……っふ、んぅ……ぁ」
 キスの音が淫らに響く。直接触られて、ビクッと腰が揺れた。空いた手は俺の腰を撫で、尻を撫で、揉む。指先が入り込んできたときには、背がしなった。
 唇が離れてしまって寂しいけれど、手塚の指も気持ちがいい。
「あっ……ぁ、っや」
 立てた膝がガクガクと揺れる。それは手塚の嬉しそうな笑みを誘い、ぐっと奥に突き進まれた。
「手塚ぁ……っ、だめ、やぁ……ん、はぁ」
 前も、後ろも、さらには乳首まで同時に攻め立てられて、息が上がる。押し広げられていく体がじわじわと熱を伴って疼き、物足りなさに俺は首を振った。
「手塚、も……いいからっ……」
「待て跡部、まだ着けてない」
 手塚のを握って、これが欲しいとねだってみれば、くそ真面目にもゴムなんて取ってこようとしてやがる。ふざけんな。
「このまま……入れろ、欲しい……手塚」
 俺を気遣ってんのは分かるが、今はそんな優しさよりもお前の激しい熱が欲しい。手塚にしがみつくように抱き寄せて、腰を揺らす。
 それでスイッチが入ってくれたのか、強引にキスで口を塞がれた。
「んっ! んん、んッ……」
 指でほぐされたそこに、手塚が入り込んでくる。気持ちいい、たまんねえ……!
「あッ……ん、い、い……もっと」
 自重も手伝って、俺は手塚を根本まで飲み込む。でも足りない。キスをねだって、もっとかき回してくれとしがみついて、自分でも腰を揺らす。こんなふうになっちまうのは手塚が相手だからだ。
「手塚、手塚……そこ、そこ、いい……あ、あんっ……ぅ、あ……も、や、あぁ……っ」
 突き上げられて、もう何も抑えられない。声も、快感も。のけぞっても、手塚が支えてくれる。手塚の荒れた吐息が鎖骨にかかる。それにさえ感じちまって、もうどうしようもねえ。
「跡部……、愛してる」
 追い撃ちかけんじゃねえ、ばか! なんなんだコイツ、そんな大事そうに抱きしめんじゃねえよ……!
「あ……いして、る、手塚、愛してる……ッ」
 そう返す以外、何をすればいいんだ。何も思い浮かばねえ。
 今日は手塚の誕生日。俺は贈る側のはずなのに、もらっちまってどうすんだ。
「や、も、いく……だめだ、や、手塚ぁッ……――」
 こんなに気持ちいい幸せ、どうやって返したらいい?
「跡部……ベッドに行くぞ。足りない」
 言いながら手塚がキスをしてくる。やっぱりそうなるよな。
 ああ上等だ、朝までかけて返してやろうじゃねーの。
「ああ、行くぜ手塚。お前へのプレゼントはこの俺だからな!」
「そうか。では遠慮なく」
 差し出された手を取って立ち上がる。ふらついた俺を抱き留めて、手塚は遠慮の欠片もなしにキスをしてきた。
 やっぱり俺の方がもらっちまってる気がするぜ。

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