華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.470
千至WEB再録 2020.05.31
#千至 #片想い #ウェブ再録
「茅ヶ崎、俺を動揺させてSSRの勝負に勝とうとしてる? 無駄だと思うよ。とにかく俺は色恋沙汰には興味…
千至WEB再録
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「茅ヶ崎、俺を動揺させてSSRの勝負に勝とうとしてる? 無駄だと思うよ。とにかく俺は色恋沙汰には興味ない」
「へーえ……ま、いいですよ。先輩がそう言うなら、もう俺のこと追いかけないでくださいね?」
茅ヶ崎が苦笑する。追いかけるってなんだ。誰もお前なんて――ああ、なるほど。たかが数十分いないだけで、成人男子を探しにくるなってことかな。……迷惑だった? 一人で考えたかったのか、昼間も。それは悪いことをした。純粋に心配してただけなんだって……たぶん俺が言っても信じないだろうな、コイツは。
「分かったよ。今度からは放っておく。お前からヘルプのLIME来ても無視するから」
「いやそういうことじゃなくて。……先輩案外子供っぽいっていうか、めんどくさ……」
「俺も、これほど分からず屋なヤツとの会話が面倒だとは思わなかったよ。シャワーしてくる」
これ以上問答してても無駄だ。俺の言うことなんか聞きやしない。咲也や綴の言うことだったら、聞くんだろうな……。監督さんとか、左京さんとか。ああ、むしろ言うことを聞かないのは俺相手だけってところかな。あとは……外岡。まだ胃がムカムカしておかしいんだけど、あのビール俺には合わないんだろうか。茅ヶ崎が好きな銘柄なら、一緒に飲めるかなって思ったのに。
俺は息を吐いて立ち上がり、シャワーの準備をする。その間茅ヶ崎は一度もこちらを見てくれなくて、機嫌は良くなさそうだった。
やっぱり、本当に迷惑だったんだろうか。連れ戻したの。 バスルームのドアの手前、少しだけ振り向く。視線が重ならないのが寂しくて、茅ヶ崎、と呼んだ。
「はい?」
「もう一度訊くけど、……外岡とは何でもないんだな?」
「しつこいですよ、先輩。アイツとは何でもないですし、そもそも俺はゲイじゃないんで」
「…………そう。分かった」
それ以上茅ヶ崎には構わずに、俺はシャワーを浴びることにした。温かい湯のはずなのに、体が冷えていくような感覚があるのはなんでだろう。茅ヶ崎の言葉が頭から離れていかない。
――俺はゲイじゃないんで。
知ってる。分かってる。なのになんでこんなに心臓が痛いんだ。
――俺のこと好きなんですよ。
違う、好きじゃない。いや、家族としては好きだけど、恋愛じゃない。絶対に違う。だってそうだろ、茅ヶ崎だぞ? あんなにだらしなくて猫かぶりの廃課金ゲーマーなんて、好きになるわけがない。
そもそも俺は恋愛なんてするつもりないし。組織にバレたら、相手の命が危ないんだよ。内からも外からも、狙われるハメになる。ゲームならともかく、現実のアイツが自分でそんなの回避できるわけないし。
ああ、でもザフラでは結構役に立ってくれたんだよね……。いや、違うか。俺一人なら、見張りなんて全部蹴倒していけたんだ。茅ヶ崎が役に立ったんじゃない、足手まといにならなかったってだけだ。今後傍に置いて、どうなるか分かったもんじゃない。
でも、なんだろうなこの感情。外岡が本当に気に食わない。茅ヶ崎にあれだけすげない対応されたら、嫌われてるって分かるだろ? 望みなんか欠片もないんだから、諦めたらいいのに。
それとも、恋ってヤツは簡単に諦められるものじゃないってことか?
まあどちらにしろ、もう俺には関係ない。今後アイツと逢って危ない目に遭おうが、それは茅ヶ崎の責任だ。手を握られようと、腰を抱かれようと、キスをされ……駄目だ、腹が立つ。だけど断じて恋じゃない。大事な家族に手を出されて、いい気分がしないのは、誰だってそうだろ? 合意の上ならまだしも、それがない状態でなんて。
茅ヶ崎だから心配してるんじゃない。誰が対象だって同じだ。真澄や綴だって、変なヤツに引っかかってたら助けたいし、シトロンは……好奇心でほいほいついていきそうだけど、優秀な護衛がいるからな。咲也は警戒心が欠片もないから本当に心配だよ。相手を社会的に抹殺してやる。
思い描いて、誰が対象でも等しく腹が立つことに、ホッとした。茅ヶ崎だからじゃない。恋なんてしてないよ。
少し動揺はしたけど、茅ヶ崎の策略にハマるわけにはいかないしね。ガチャに負けて悔しがる茅ヶ崎の顔が見たい。
そう思ったらなんだか楽しくなってきてしまった。俺は特にゲームを進めるつもりはないけれど、その顔が見たいから、ちゃんとガチャは引いてあげるよ。
恋なんてしてない、動揺させようとしても無駄なことだって証明するためにもね。
大きな拍手が聞こえる。それでようやく卯木千景に戻って、大きく息を吐いた。カーテンコールだ。
「出るぞ茅ヶ崎」
「え、あ、はい」
あえて茅ヶ崎の手を取って、また舞台に出る。女の子たちの黄色い歓声が耳に届くのは、そういうことなんだろうか。まあ、ランスロットは俺にとって大事な相棒だしね、手を引いてやるくらいおかしなことでもないだろう。
挨拶とファンサービスをしっかりこなして、袖にはけていく。茅ヶ崎が緊張していたのは、たぶん客先に星井氏を見つけたからだろうな。
茅ヶ崎の方こそ、恋でもしてるような態度じゃないか。いや、恋する人間の態度なんか知らないけどね。
っていうか、見てたの星井氏だよな? その隣に当然のようにいた外岡の存在に、今さら緊張したとか言わないだろうな。
「みんな、お疲れ様! すごく良かったよ!」
楽屋に戻れば、監督さんが嬉しそうな顔でそう言ってくれる。舞台の成功を誰よりも喜んでくれる大事な女性だ。
「アンタのために頑張った……褒めて」
「回を重ねるごとに上手くなってくね、真澄くん」
「本当? 次ももっと上手くなるから、見てて」
ああ、前言撤回しよう。恋する人間の態度、知ってたよ。分かりやすいのがすぐ傍にいる。微笑ましいね。
「真澄は本当に監督さんが好きだね」
「うん、好き……大好き。早く結婚したい」
「いや、しないからね?」
そうあしらう監督さんも、なんだかんだで真澄と一緒に出かけてたりするし、まんざらでもないのかな。
でも、ほら、こういうのが恋でしょ? 目を離してる時間が惜しいって感じで見つめて、追っかけて、声をかける。声を返してもらって、幸せな気分に浸る。それの繰り返しじゃないのか。
俺は別に茅ヶ崎を目で追ってはいないし、会話で幸せな気分になることもない。むしろ目を離している時間の方が多いのに。
「お疲れ様でした。星井は多忙なため先に帰りましたが、とても満足した様子でしたよ。また共に旅をしている気持ちになれた、と礼を伝えておくよう申し付かりました」
この男みたいに、茅ヶ崎から目を逸らさない時間は、俺には存在してない。はぁ……しかしあからさまだな。コレは俺じゃなくても気づくだろう。隠すつもりがないのか、外堀から埋めていくつもりなのか。……まあ当の茅ヶ崎は気にも留めてないみたいだけど。残念だったな、外岡。
「やりましたね、至さん!」
「っしゃ、今ならガチャ出るかもしれない」
「ランスロットのままガチャ引くんですか……」
「どうしようもない廃ゲーマー……やっぱり至みたいな大人にはなりたくない」
「そういえば、イタルまだ引けてなかったネ?」
まだは余計、と茅ヶ崎が携帯端末を取り出す。
そうだ、そういえば勝負してたんだっけね。報酬も決まってないけど。
「キタコレ! SSRランスロット!」
茅ヶ崎の顔がぱあっと明るくなる。花が咲いたみたいって言えばいいのかな。引けて嬉しいんだろうけど、お前に良からぬ感情を抱いている男の傍でそういう顔をするのはどうかと思うよ。外岡が固まってる。まだいたのか。
「先輩見てこれ、ランスロットですよ!」
「はいはい良かったね」
ランスロット引けたからって俺のとこ駆け寄ってこないでくれるかな。誰かさんの視線が突き刺さる。ハハ、でもなんでだろう、良い気分だ。
「というわけで、ガチャ勝負は俺の勝ちですね、せーんぱい」
「チガ、ソシャゲもやってくれてるんだ、ありがとな」
「お前に礼を言われる筋合いはねーし」
「俺もやってるんだソシャゲ版。フレ登録しないか?」
しない、と茅ヶ崎が口にする前に、割り込んでやった。気分が良くない。
「言ってなかったっけ、茅ヶ崎。ほら」
茅ヶ崎は外岡から視線を外し、俺が向けた端末画面を注視する。そこには、俺が引いたガチャの履歴が映し出されている。
「え、ガウェインと――ランスロットまで!? ちょ、どんだけ」
「ためしに十連一回引いてみたら、両方出たんだよね。俺の勝ちかな」
「Oh……イタル、派手にぬか喜びしたネ」
「やっぱ至さんの負けでしたね」
「こんなに徳を積んだのに……解せぬ……」
「徳を積んだ? 俺を動揺させた、の間違いだろ。効かなかったけどね」
羨ましそうに俺の端末画面を覗き込む茅ヶ崎。そしてその視線は、俺にも向けられた。困っているような、戸惑っているようなそれは、ひどく幼く見える。なんだろう? ああそうか、ガウェインまだ引けてないもんな。頼んでくれば、カードのストーリーくらい読ませてやろうかな。
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