華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.469
千至WEB再録 2020.05.31
#千至 #片想い #ウェブ再録
「あれ。先に飲んでてくれても良かったのに」 駆けられた声にハッと顔を上げると、まだ髪の乾ききっていな…
千至WEB再録
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「あれ。先に飲んでてくれても良かったのに」
駆けられた声にハッと顔を上げると、まだ髪の乾ききっていない茅ヶ崎の姿。え、もうそんなに時間経ってたのか? ちょっと仕事片付けようと思ってたんだけどな。
「ああ……せっかくだしね。茅ヶ崎、髪ちゃんと乾かせよ。風邪引いて明日ダウンなんて、笑い話にもならないぞ」
「あー、ハハ。そうですね、せっかく先輩が外岡から助けてくれたんだし」
「それな、ってヤツ」
茅ヶ崎はもう一度バスルームに入って、ドライヤーを持ってきた。
「ん。先輩よろ~」
「は?」
「俺ちょっとソシャゲするんで」
そう言ってドライヤーを突き出してくる。どうやら俺に乾かせと言っているらしい。断る、と言う前に、茅ヶ崎はスマホを構える。はぁ……主演が風邪引いても困るし、仕方ないな。
「今日だけだぞ」
「わーい先輩優しい~」
俺は茅ヶ崎からドライヤーを受け取り、まだ濡れた髪に指を梳き入れる。
うーん、濡れてても色っぽいけど、俺はやっぱりいつものふわふわした感じの方が好きだな。
……好き?
…………いや、別に他意はない。
濡れてるより乾いてる方がいいってだけで、変な意味じゃ。
外岡のこと考えてたからか、茅ヶ崎のこと変な目で見ちゃったのかな。気づかないだろうけど、後ろめたい……。
「んー、先輩の指気持ちいいですね……髪乾かすの慣れてるみたいですけど、よくやるんですか」
「は? そんなわけ……」
ない、と言いそうだったが、心当たりはあった。前はオーガストやディセンバー……密の髪も乾かしてやってたんだ。だってアイツらズボラなんだよ。風邪引いたらどうするんだって、あの頃も思ってたな。
ああ、そうか……家族だから、当然だよな。茅ヶ崎を心配するのも、好意的な感情を持つのも。外岡みたいな変な気持ちじゃない。
「ほら、乾いたぞ」
「ありがとうございまーす」
茅ヶ崎は上機嫌でビールの缶を持ち上げる。やっぱり悩んで落ち込んでるよりこの方がいいよ。
「ぷはぁ、ビールが美味い。バーじゃあんまり飲めなかったし。どっかの馬鹿のせいで」
俺もカシュッと蓋を開けてビールを含む。喉を通る液体が、なぜかいつもより苦かった。
「外岡は、高校時代からあんな感じだったの?」
「あー……いや、思い返せばっていう感じですかね。あの頃は、俺も純粋にアイツとのゲーム楽しんでましたよ。それまでずっと一人だったので、嬉しかったですね。毎日ゲームの話ばっかりして、笑い合って」
茅ヶ崎が昔を懐かしむようにまぶたを伏せる。その裏には、外岡の顔が浮かんでるんだろうか。俺の知らない茅ヶ崎の高校時代……それをあの男は知ってるのか。すごく嫌な気分だ。
「……学校帰りに寄り道したり、互いの家に行ったり?」
「まあそーですね」
「外岡に笑顔見せたりしてたのか」
「や、そりゃあの頃は普通に友人だったんで。家に行ったりするの、おかしくないでしょ」
「ふうん。あれだけ分かりやすいヤツなのに、危険だな。鈍感すぎるんじゃない?」
その嫌な気分のまま責めるように茅ヶ崎を見やれば、何言ってんだコイツっていったふうに俺を見つめてくる。なんだよ。
「先輩がそれ言います? いちばん分かりやすいの先輩ですよ」
「は?」
「自覚してないんですか。外岡にすっごい敵意むき出しにして。つーかあれ殺意に近いのでは」
「別に、外岡に良い感情持てないのは仕方ないだろ。お前を傷つけたヤツなんだ」
おかしな感情じゃないだろ。アイツを茅ヶ崎に近づけたくない。
茅ヶ崎はナイランに関われるの嬉しいみたいだけど、エンドリンクスにあの男がいるからな……どうしても関わりができてしまう。向こうもそれを利用してるのは分かってる。茅ヶ崎と知り合いだからって理由で、交渉相手に外岡を出してきてるんだ。外岡が希望してるのか……そうなんだろうな。公私混同しやがって。
「ほらそういう顔。いや~怒っててもイケメンてずるいわ~」
「は?」
顔……って? 俺、今どういう顔してるんだろう。笑顔じゃないのは確かだな。茅ヶ崎にイケメンて言われるのは不思議な感じだけど、悪くない気分だよ?
「先輩、言っておきますけど外岡とはなんでもないですからね。後にも[[rb:前 > さき]]にも、天地がひっくり返ってもアイツとどうこうなることはないんで」
「それは良かった。お前の趣味を疑うところだったよ」
「だからめんどくさいヤキモチ妬くのやめてくれません?」
「は?」
今なんて言った? なんて言ったんだコイツは。空耳か? そうだな、俺はおじいちゃんポジらしいから、耳がおかしくなってもしょうがない。
いや待て、違うだろ。今コイツは本当におかしなことを言った。
「……なんて?」
「ヤキモチ。嫉妬。ジェラシィ」
茅ヶ崎が単語を並べ立てる。いや、聞こえなかったわけじゃないし、単語の意味がわからないわけでもない。
分からないのは、なぜ茅ヶ崎が今、俺に向けてその単語を放ったのかだ。なんでヤキモチなんか。
「自覚してないとかワロ。いや、自覚がない分、外岡よりは可愛げがある……? いや逆にタチが悪いのか」
「茅ヶ崎、だから何を言ってるんだお前は。確かに外岡と仲良くしているお前を見るのは嫌だが、それは仲間というか、家族として当然の感情だと」
「仲良くとかやめてくださいねー気色悪い。俺はいたってノーマルですし、女の子の方がいい。もっと言えばゲームにすべてを費やしたい男なんですよ。金も時間も情熱も」
俺の声を遮ってまで、茅ヶ崎は外岡を拒絶している。それには少し安堵した。アイツに奢ってやったカクテルは、無意味ではなかったのだと。
「茅ヶ崎は、モテるくせになんていうかちょっと残念なとこあるよね」
茅ヶ崎の性的指向がノーマルなんてことは分かっているし、普段の生活を見ていればゲームがいちばんなんてこともよく分かる。特定の親しい相手がいるわけでもないことだって。
女よりゲーム。茅ヶ崎らしくて安心する。
その信念を覆す相手が現れるまで、まだしばらく茅ヶ崎は誰の物にもならない。そう思って、ひどく安堵した。
「それ先輩に言われたくありませーん。モテるくせに、オンナ駄目なんでしょ」
「……知ってた?」
「なんとなく」
茅ヶ崎は興味もなさそうに呟く。
確かに茅ヶ崎の言う通り、俺は女性を恋愛対象にできない。性的対象になんてとんでもない。
女性を蔑視しているわけじゃないんだ。どうしても受け付けないっていうだけで。仕事したりするのは別に平気なんだよね。ただ……大抵の女性が俺に色目を使ってくるのが嫌だな……。
「確かに女性は駄目だけどね。…………待て、だからって俺は男が好きっていうわけじゃないんだぞ。ましてや」
ましてや、お前が好きなんて。
なるほど、茅ヶ崎は俺がゲイだって思ってるから、勘違いしたわけだ。はあ……自惚れるにも程がある。俺は呆れてつい笑ってしまった。
「さすが茅ヶ崎。自分に向かってくる好意は、種類がなんであれ恋愛に変えてしまうのか。ふざけるなよ」
「いや~別にそんなつもりないんですけどね。そんなん言ってたら、咲也とか綴とかシトロンとかもそうなるじゃないですか。真澄も……あー、たぶんあれは俺をウザいって思う気持ちの方が多いだろうけど。家族愛、でしょ」
「俺のだってそうなんだけど」
何かを塗りつぶすみたいにそう答えると、茅ヶ崎がふっと笑う。素直、と。しまった、ついうっかり。いや、家族愛ってのは本当だけど、コイツには言いたくなかったな。でも、これが恋愛感情だって誤解されるよりはよほどマシだ。
だってあり得ないだろ。俺が、茅ヶ崎を、なんて。
外岡みたいな目で見てるわけじゃない。ちゃんと幸せになってほしいって、心から思ってる。だからこそ外岡みたいなヤツの手に落ちて欲しくないんだよ。
茅ヶ崎の本質を見て、それでも好きでいてくれる人なら、茅ヶ崎を傷つけないで愛していってくれる相手なら、俺だって歓迎してやる。身辺調査は得意だしね。
「先輩のは、家族愛じゃないですよ。見てれば分かる。っつーか、見られてるから分かる、の方が正しいですかね」
なのにそれを否定される。
俺はいったいどんな目で茅ヶ崎を見てるって言うんだ。まさかとは思うけど、外岡と同じような目で……? やめてくれ、そんなわけないだろう。
「へえ? 俺がいったいどんな目でお前を見てるって?」
「言わせるんですか?」
「聞きたいね。否定してやるから」
「先輩はね、俺のこと――好きなんですよ。外岡と一緒」
「バカ言うな」
予想はしてたけど、頭から否定してやった。
そんなわけない。俺は恋ができるような人間じゃない。恋を――していい男じゃないんだ。
こんな汚れた手で、誰を抱けっていうんだよ。
#千至 #片想い #ウェブ再録