No.424

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ナイランBARに連れてきた

NOVEL,A3!,千至 2019.04.24

#両片想い #誕生日

 四月二十四日水曜日、ノー残業デー。俺と茅ヶ崎は、無事に二人そろって会社を出た。 茅ヶ崎の部署まで迎…

NOVEL,A3!,千至

ナイランBARに連れてきた



 四月二十四日水曜日、ノー残業デー。俺と茅ヶ崎は、無事に二人そろって会社を出た。
 茅ヶ崎の部署まで迎えに行ったら、ちょうどパソコンの電源を切るところで、そわそわ感を隠せていなかった。
 エレベーターに乗っても、何か話したくて、だけど口を開けばそのことしか出てこないだろうことに気がついて口を噤み、うずうずしているのが見え見えだった。
 会社を離れて駅へ向かう途中で、やっと息をしたというように大きく呼吸をした茅ヶ崎には、思わず笑ってしまったよ。

「っはあ~~、楽しみ、すごい楽しみ」
「さっきからそればっかりだな」
「だってしょうがないでしょ、まさかナイランBARに行けるとは思ってなかったんですよ!」
 寮へ帰る線とは違う電車に乗って、ナイランBARへと向かっている途中。ナイランBARっていうのは、人気ゲームKNIGHTS OF ROUNDとコラボしたバーなんだ。茅ヶ崎がいちばんハマりこんでるゲームね。俺たちMANKAIカンパニー春組が、ステージの題材とさせてもらったこともある。
 キャラクターをイメージしたカクテルやフードが提供され、内装もゲームに寄せてあるらしい。俺は行ったことがない、というか、茅ヶ崎も予約が取れなくて行けてなかったみたいなんだよね。
 ずっと行きたい行きたい言ってたのを知ってるから、今回連れていってあげるわけ。
「あの、先輩。こんなこと言うのもあれなんですけど……この予約って、チート技」
「使ってないよ。お前が怒るの目に見えてるしね」
 最寄り駅で降りて店へ向かう途中、訊ねられて答えれば、あからさまにホッとした表情を見せる。使おうと思えば使えるけど、茅ヶ崎には正攻法で喜んでもらいたい。俺も大概溺れてる。
「茅ヶ崎が行きたいって言ってたから、予約期間始まるのと同時に全日程ブチ込んだんだよね。まさか誕生日当日が当たるとは思ってなかった」
「え……」
「――っていう答えはどう?」
「今一瞬キュンとしかけた自分を殴りたい」
 しかけたのか。してくれていいんだけど。全日程ブチ込んだのは本当だしね。運が良かった。当選メール来たとき驚いたんだからな。


 店に着いてみれば、なるほど見るからに〝ナイラン〟だ。この門は王宮だろうか。自動ドアの向こうに、石造りの廊下らしきものが見えた。隣の茅ヶ崎が、目をキラキラさせて奥を覗いているのが、可愛いったらない。
 予約時間より少し早めについてしまったが、メールの確認と身分証確認でちょうどよかったかもしれない。さすがに人気ゲームともなると、きっちりしているんだな。
 王の従者に扮した店員に案内されて足を踏み入れる。中はいくつかのエリアに分かれているようで、それは選べるものではないらしい。
 城下町エリア、迷いの森エリア、城内エリア、エトセトラ。俺と茅ヶ崎は、湖のエリアに案内された。
「はうぅランスロットのパネル……!」
「さすが茅ヶ崎、ランスロットの生まれ故郷のエリアだな」
 壁に描かれた湖は、ランスロットの故郷としての設定がある。傍に配置された等身大パネルに、飛び上がらんばかりの勢いで喜ぶ茅ヶ崎に、まあ、俺も嬉しくなったよ。
「良かったな、推しの席で」
「ホントですね。先輩の運、良すぎですよ。あ、あっちにガレスがいる。マーリンのエリアどこだろ」
「ここ、写真撮ってもいいのかな。あとで散策する?」
「客の案内が終われば大丈夫なはずですよ。アナウンス入るらしいし。そこらへんはカフェの方と一緒ですね」
 なるほど、と相づちを打った。実はカフェの方も行けたんだよね。あれは監督さんの応募が当選したものだったけど。
「ひとまず何か飲もうか。メニューが魔道書になってるな……」
「細かいww」
 少し古びた紙を使ってあるのもわざとなんだろう。企画者やスタッフの、作品への敬意が伝わってくる。それは茅ヶ崎にも同じらしくて、嬉しそうに眺めていた。
 まあ俺はそこまでナイランに思い入れがないから、早々にメニューをめくった。ドリンクのページには、それぞれのキャラクターをイメージしたカクテルやソフトドリンク、ノンアルコールドリンクが載っている。
 茅ヶ崎イチ推しのランスロットは、ウォッカベースのブルーラグーン。青い湖という意味を冠したそれは、彼にぴったりだ。
 俺が役を演じさせてもらったガウェインは、瞳の色を表したのか、シャンパンベースのロイヤル・カルテット。
 マーリンのエル・ディアブロだとか、モードレッドのエメラルドスプリッツァ、ガレスのセント・アンドリュース、アーサー王はさすがの王様マティーニ。
 アクアソードやファイヤアックスなどの技名をモチーフにしたものもあり、ファンにはたまらないものだろう。ホワイトレディはグエンかな。
 でもこのセンスはどうかな。「ガウェインがファイヤアックスで倒した魔物」って、どう見ても炙りしめ鯖なんだけど。
「俺はやっぱりランスロットがいいです。あとグエンのふんわりケーキ」
 そんなものもあるのか。可愛いな。
「推しゲームのバーで推しカクテル飲めるとか、最高の誕生日。仕事ちょっぱやで片付けて良かった」
「溜まってたんじゃなかったのか? 何なら手伝おうと思ったのに」
 茅ヶ崎はランスロットを、俺はガウェインを頼んで(カクテルの正式名称でなくキャラ名で頼むところがコラボバーらしい)、席から店内をぐるりと見回す。
「いや、昼飯返上したんで大丈夫でした。おかげで定時十分前には全部終わりましたし」
「お前ね、それ大丈夫って言わないぞ。無茶するな」
「ハードなクエほど燃える。定時十分前、手が空いてないフリすることの方が大変だったんですよ。そわそわしながらファイルとにらめっこして、他の仕事回されないように」
 ふふっと笑う茅ヶ崎の、そうした時の様子が簡単に思い浮かべられる。本当に楽しみにしていてくれたみたいで、嬉しい。

 そうこうしているうちに頼んだものが運ばれてくる。特典でコースターがもらえるらしく、茅ヶ崎はここでもそわそわとしていた。どうもこのバーのために描きおろされたものらしい。
「あ、先輩! グエンきたグエン! やばい超嬉しい可愛い」
 うん、その紙コースターひとつに浮かれてるお前の方が可愛いんだけどね。言えない。
「あ、そうだ茅ヶ崎。改めて。誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。貴重な体験させてもらって嬉しいです」
 そうして俺も、伏せられていたコースターを裏返してみれば。
「ランスロット……! いいな、先輩」
「いや、お前にあげるよ。俺は別にコレクターじゃないしね」
「いいんですか!? 神かよ」
 マントを着けていないラフな格好のランスロット。渡してやると嬉しそうに両手で持ち、傷が付かないようにと手帳の間に挟む。忘れなきゃいいけど。
「乾杯」
「ん、あ、ああ、乾杯」
 グラスを合わせて、ご機嫌の茅ヶ崎の前でカクテルを呷る。これはデートとみなしていいんだろうか? いや、駄目かな。茅ヶ崎にはその気がないだろうし。
「あ、美味しい。カフェの時も思ったけど、ちゃんと美味しいんですよね。いくらでも飲めそう」
 口当たりの良い酒が気に入ったらしく、機嫌がさらに上昇する。俺はちょっとした悪戯心で、眼鏡を外して髪をかき上げた。
「え」
『好きなだけ頼めよ、茅ヶ崎。まあお前の誕生日だしな、ここは俺の奢りだ。ただし腹に収まる程度だぞ。残したりしたら承知しねーからな』
 ひえっ……と息を飲む音が聞こえてきた。茅ヶ崎は両手で顔を覆い、うめいている。お気に召してもらえたかな、俺のガウェイン。
「先っ輩……ズルイ、卑怯、格好いい、しぬ」
 手で覆ったまま天を仰ぐ茅ヶ崎。なんて言ったお前。そこはガウェイン格好いい、じゃないのか。
「ッああ~~もう、推し二枚重ねとかマジか」
「なにお前、俺推しなのか……?」
「……………………今のは聞かなかったことにしてください」
 ハッと我に返ったようで、茅ヶ崎は頬を赤らめ、ついで青ざめて顔を背ける。待ってくれ、俺に都合よく解釈したい。
「あ、あの、次はこっちのドリンク頼むんで! 先輩は?」
「え、あ、ああ……俺はこのモードレッドかな」
「じゃあ従者呼びましょうか!」
 あからさまに態度がおかしい。照れと焦りと絶望感。いや、待て待て、なんで絶望するんだ。俺だって茅ヶ崎推しなんだけど。
 だけど言い出せないまま、時間いっぱいまで何杯ものカクテルを飲み干す茅ヶ崎を見守った。

「少し飲み過ぎじゃないのか。セーブしろ」
「そんなに飲んでません~」
「足元ふらついてるだろ」
 そんなに無茶な飲み方をしなければならない理由は、さっきのあれ、だろうか。止めるべきだったんだろうけど、俺も思考が働いてなかったな。
 会計を済ませて、茅ヶ崎の腕を引き店を出る。酔い覚ましに、一駅くらい歩いた方がいいだろう。人にぶつからないように茅ヶ崎の背中を支え、俯きながらもちゃんと歩く想い人の隣で足を踏み出す。
「せんぱい、きょう、ありがとうございました」
「ろれつ回ってない。でも、喜んでもらえてよかったよ」
「ナイランバーに来られたのもそうなんですけど、先輩と一緒っていうのも、先輩が俺のために予約取ってくれたのも、嬉しかったです」
 ちゃんと意識があっての発言なのかどうか。はいはいと背中をさすってやるけれど、嬉しくて気持ちが入っていかない、ごめん茅ヶ崎。俺の方がプレゼントもらってどうするんだ。
「あのですねー、俺にとって、先輩はぁ、推しっていうか」
 いやこれ絶対酔ってるだけだな。やっぱり止めるべきだった。 
「ほら分かったから、ちゃんと歩け」

「はつこいのひとなんですぅー……」

 この酔っ払いが。このままどっか連れ込んでやろうか。それが本当なら、こんなに嬉しいことはない。俺はうにゃうにゃ何かを呟く茅ヶ崎の両肩を支え、ぼそりと呟く。
「俺もだよ、茅ヶ崎――」
 聞こえていないだろうし、自分の発言も、酔いが醒めたらきっと覚えていないんだろうけど。


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