華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.425
NOVEL,A3!,千至 2019.04.24
#両想い #ラブラブ #千至 #誕生日
誰かこの状況を説明してほしい。 茅ヶ崎至は切実にそう思った。何なら口に出してさえいた。「いや知らん…
NOVEL,A3!,千至
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誰かこの状況を説明してほしい。
茅ヶ崎至は切実にそう思った。何なら口に出してさえいた。
「いや知らんわ」
「ですよねー」
「万里もくる?」
「却下。ダメゼッタイ」
「アンタが却下すんのか」
万里が噴き出して体を床に転がして笑う。とっさに口を突いて出た言葉だが、本音でもある。しかし、なぜ。
なぜ今自分は、ソファの上で千景にそっと抱きしめられながらゲームを楽しんでいるのか。何度目かの疑問が頭の中を駆け巡った。
千景とはルームメイトで、恋人同士だ。だから別に同じ部屋で過ごすのはおかしくないし、軽いスキンシップもままあることで。
だが今日は状況が違う。ゲーム仲間である万里が部屋にいるのだ。
(いや、いいんだけど。万里は俺たちのこと知ってるから)
ローテーブルを挟んだ向こう側、床に腰を下ろした摂津万里は、どうしてか自分たちのことを知っている。暴露したわけでもないのに、どこで気づかれたのだろうか。もしかして、自分たちが思っているより隠せていないのでは、と、そこまで思って、改めて今の状況を認識した。
(いやよくねーわ! 何これ、何この状況!? いくら知ってるヤツだからって、先輩って人前でこういうことする人だっけ!?)
仕事から帰って食事と風呂を済ませ、至はいつものようにゲームに没頭し、千景はバルコニーででも仕事をするのかなと思っていたら。
隣に腰を下ろし、頭をそっと抱き寄せて、なでなで。ぽんぽん。こめかみにちゅっ。
(なでなでぽんぽんちゅっだよみなさん! 何これホント先輩どうしたの!!)
今思い出しても顔から火が出そうだし、ノックのあとに万里が部屋に入ってきた時も、慌てる素振りも見せずに招き入れた。むしろ気まずそうな顔をして回れ右をした万里を引っ張り込む勢いで、「邪魔じゃないからおいで」と笑ったのだ。
「ううう全然クエ進まない」
「茅ヶ崎はなんで今日そんなに落ち着かないの?」
「アンタのせいです先輩!」
千景は膝の上に愛機を乗せて、至の手元を覗き込んでくる。どうしてもやらなければいけないものではないのだが、報酬アイテムを逃すのはしんどい。千景のせいで落ち着かないのに、何を言っているのだと睨みつけてみたのだが、優しい瞳と出逢って返り討ち。
「はちゃめちゃに甘やかしてほしいって言うから、甘やかしてるつもりなんだけど?」
ぐっと言葉に詰まった。
それは確かに至の望んだことで、しっかり記憶もある。
「ぶっは至さん可愛すぎかよ」
「笑ってんじゃねえか万里てめー覚えてろ」
「ねえ万里、甘やかすって具体的にはこれでいいのかな」
「知らねえっすわ。つか、なんでそんな話になったんすか。千景さんて普段わりと塩対応してんじゃねーの?」
「そりゃ、劇団仲間としてはね。ほら、コイツの誕生日だから、明日」
言って、千景はまた頭を撫でてくる。万里が、あー、と納得したようなしてないような顔を向けてくるのが悔しくて恥ずかしくてしょうがなかった。
「この前俺の誕生日があったから、このタイミングじゃサプライズも何もないしね」
「でも、明日じゃん?」
ふっと楽しそうに笑った千景に、万里が不思議そうに訊ねる。
そうだ、そこは至も不思議だった。
今日は四月二十三日。至の誕生日は明日だ。
誕生日プレゼントは、思いっきり甘やかしてもらう券が欲しいと言ったが、誕生日にはまだ早い。
「明日はみんなが祝ってくれるだろう? だから俺は前倒しでね。いちばん始めは譲らない、だっけ?」
頬に唇が降ってきて、至はカッと頬を赤らめる。さすがに呆れたような声を上げた万里に、どんな顔をしていいのか分からずに、俯いた。
先日、千景の誕生日に、とんでもないプレゼントを渡した。当日は劇団のみんながパーティーでも開いてくれるだろうし、お祝いもたくさんもらうだろうと。だから日付が変わってすぐ、他の誰にも渡せないプレゼントを渡したのだ。
〝愛してますよ、千景さん〟
そんな言葉を。
パーティーのサプライズも成功して、プレゼントの意図も伝わって、至にとってもハッピーな、恋人の誕生日。
「茅ヶ崎、何か飲む? 喉渇いてない?」
それに対して、サプライズにはならないけど、何が欲しいか訊ねてくれた千景に、「思いっきり甘やかされたい」と答えた。
その結果がこれである。
「え、あ、じゃあコーラ……欲しい、です」
「了解。万里はコーヒーでいいかな?」
「あ、俺はいいっすよ。クエ終わったからそろそろ戻るし」
「そう? じゃあ茅ヶ崎、ちょっと待ってて」
言って、千景は抱いていた至の体を放してソファから立ち上がり、部屋を出ていく。冷蔵庫にコーラのストックはなかったはずだから、自販機かコンビニかへ向かったのだろう。
「ったるさァん、千景さんて人前でイチャイチャするタイプだっけ?」
「んなわけねーわ、どうしちゃったのあの人。先週の誕生日からこっち、わりとあんなふうなんだけど、……可愛いが過ぎる」
「あれ可愛いのか……いやまあ分かるけど。アンタの誕生日プレゼントとやらがよっぽど嬉しかったんじゃねーの」
至はゲームを諦めて端末を放り、両手で顔を覆う。あの日からの千景がまざまざと思い起こされて、緩む頬をどうにもできない。
歩く時の距離が近くなった。見つめられる時間が長くなった。髪に触れてくることが多くなった。
その瞬間のどれもが、優しい、優しい瞳をしているのだ。
「ッあ~~~~無理、至くんあれです恋愛シミュレーション慣れてないんですどうしたらいいのか分からん先輩好き」
「アンタわりとやべーとこまで行ってんな」
「だっっっっってお前も先輩のあの顔見てみろ落ちるわ! あ、やっぱ駄目ふざけんな」
「いやその心配はいーわ。はぁ……あの千景さんがねぇ……そんなベタ惚れするタイプだったとは。つかアンタ、誕生日に何あげたんすか。原因それだろ」
う、と言葉を詰まらせる。千景があんなふうになった原因があれだったとしたら、嬉しくて恥ずかしくて萌えゲージが振り切れてしまいそうだ。
ついた頬杖で口許を覆い、ニヤつくのを隠してもみるが、笑いが漏れてきそうで項垂れる。顔を上げて右を向き、左を向いては天を仰ぎ、うーんとうなる。
「何なんすか、そんな変なモノあげたのか? あ、もしかしてエロいものとか」
「ちげーわ!」
正直そういうものも考えないではなかったが、すぐに試したくなってしまう。つくづく、平日だったことを恨んだ。
だがエロいものがなくても、休日にはしこたま濃密な時間を過ごせたし、結果として良かったと思う。
あの言葉はきっと魔法に違いない。千景にだけ通用するもの。
「先輩にあげたのはモノじゃなくて。…………アイラブユーを日本語で」
だとしたらその音を千景のいないところで発するのはもったいなくて、形を変えて万里に返してみた。
ちらりと見やれば、みるみるうちに彼の顔が赤くなっていくのが分かって、改めてその言葉の強力さを認識した。
「お前が照れんなよ……」
「いや、あの、まさかそういう方面とは思わなかったっすわ……あー、でも納得。千景さん、嬉しかったんだろうな、それ」
「……みたいだな。すっげぇご機嫌なんだもん。お前がいても俺のこと甘やかすくらい」
千景がそんなにも喜んでくれたのが、至としても嬉しい。普段あまり言わなかった想いを、千景はちゃんと受け止めてくれた。それどころか、負けじと想いを発してくれている。
「けど至さんの免疫がないっつーか耐性がないっつーか、対応に戸惑ってる感じ?」
「それな。どうしたらいいんだろ俺」
「別にどうもしないでいいんじゃないすか」
「は?」
火照る頬を手の甲で押さえつつ、万里がため息交じりに呟く。盛大なのろけだわ、と続けられたが、自覚はなかった。
「ここ数日ずっとそうってことは、別に誕生日だから特別にってわけでもなさそう。慣れるためにも、そのまま甘えてればいーんじゃないすかね」
「慣れ……あー……そだな、先輩のデレがいつまで続くか分からないけど、甘やかされるたびにキュンキュンしてたんじゃ、こっちの心臓が保たない」
はあ、とひとつ息を吐けば、万里がおかしそうに笑って腰を上げた。
「んじゃ解決したとこで俺部屋に戻るわ。これ以上ののろけは胸焼けしそう」
「んな甘くねーだろ。おつおつ」
そうかこれはのろけなのかと万里を見送るが、彼はドアを閉める寸前、バクダンを落としていった。
「あ、そういやさっきアンタを録った動画、千景さんに送っといたから。んじゃ、おやすみ」
「――……はあ!? ちょっ、待て万里! どこっ……」
慌てて腰を上げるけれど、無情にもドアは閉められる。追いかけてまで訊く気力はなくて、至はそのままソファにドサリと腰を落とした。
そういえば、千景の誕生日には万里から千景の盗撮写真が送られてきた。千景のことだから気づいていたのだろうが、〝至さんのこと話すときってこんな顔すんのな〟というメッセージが添えられたそれは、ここ数日目の当たりにしている優しい笑顔と同じもの。
至は携帯端末を手に取り、保存したその写真を開いてみる。
知り合った当初からしたら、信じられないくらい柔らかで穏やかな笑い顔。それを自分がさせているのだと思うと、嬉しくてしょうがない。
「ただいま。あれ、万里は本当に帰ったのか」
戻ってきた千景を振り向けば、端末の中の笑顔よりも温かみのある顔がある。至の口許は自然と緩んで、胸がほわほわと温かくなった。
「おかえりなさい。ついさっき帰りましたよ。これ以上のろけなんか聞いてらんねーって」
「ああ、のろけね。それは確かにそうだろうな」
千景は笑ってそう言い、コンビニで買ってきたコーラを渡してくれる。ありがとうございますと素直に受け取れば、千景も満足そうに隣に腰を下ろした。
「あれ、アイス」
「ケーキにしようかと思ったけど、なくてね。これでごめん」
コンビニの袋の中に、ひとつのアイス。今日は暑かったし、ひんやりとしたそれは大歓迎だ。小粒のバニラアイスをチョコレートでコーティングされたもの。食べやすいのがありがたいが、これをレジに持っていく千景をどうにも想像できなくて、いっそ一緒に行けば良かったと笑う。
「先輩、俺のこと甘やかすの好きですね」
「線は引くけどね。部屋はちゃんと片付けろ」
「はーい。そういえば今日職場でもご飯とコーヒー奢ってくれた。あれもですか?」
とん、と千景の腕に体をもたれさせ、振り仰ぐ。千景の財布をあてにするのは少なくないが、意図が分かってしまえばあれもこれも千景なりの〝甘やかし〟なのだろうと思う。
「疲れてる時に限って、チョコ持ってきてくれたり、LIMEくれたり。あ、今日運転も先輩でしたね」
「別にそういうつもりじゃなかったけど、……うん、やっぱりそうかな」
「先輩は一度落ちるととことんですからね。春組の連中にはホント甘い」
「その中でも、お前は特別だろ」
知ってますよ、と頬をすり寄せる。千景の心が、まっすぐ向かってきてくれているのは知っている。だからもう、迷わずにこちらもまっすぐ返すだけだ。
「あ、そうだ。先輩もこれ食べましょ。溶ける前に」
そうしてアイスの箱に手を伸ばす。甘いものは得意じゃないという千景に、誕生日なんだからとこじつけて、蓋を開けた。
「うわ、マジか。先輩どんなチート技使ったんですか」
「え?」
「レア型入ってる。しかも星型とハート型!」
六つ並んだその小粒のアイス。本来は丸型だけのはずだが、稀にハートや星の形があるらしい。それはレア型と呼ばれ、食べた人をハッピーにするという。
「すごい、嬉しい」
「ふぅん、珍しいものなんだ。良かったな」
至は写真を何枚か撮って、ハートの形を串で刺す。
「はい、先輩」
「いいって。レア物なら、茅ヶ崎が食べなよ」
「はんぶんこ。これ、幸せのレアって呼ばれてるんですよ。一緒にハッピーになってくださいよ」
む、と唇を突き出せば、千景は仕方ないなといったふうに苦笑した。観念したらしい千景の口許へアイスを運ぶと、ハートの真ん中辺りで歯を立てる。そのまま口を突き出されて、至は意図を察してぱちぱちと目を瞬いた。
ホントにはんぶんこですね、と唇を寄せて合わせれば、ハートの真ん中で歯がぶつかった。口の中に広がっていくバニラアイスとチョコレートの甘み。それと冷たさ。そんな冷たさが気にならないくらいの熱い舌先。
「ん、っふ……んん」
「……甘い」
「エッロいべろちゅーしときながら言う台詞じゃないですね」
「やっぱり半分で充分だな」
言って、自分用に買ってきた無糖のコーヒーを流し込む。至は別に気にしたふうもなく、残りの五粒をゆっくり食べた。星形の願いのレアはいちばん最後。ときおりコーラを飲んで、甘みと炭酸の重奏を楽しんだ。
もうすぐ日付が変わる。あと数分もすれば四月二十四日、至の誕生日だ。寝て起きて会社へ行って仕事して帰ってくれば、きっとみんながお祝いしてくれるのだろう。
その前に、千景には前倒しで甘やかしてもらった。
「茅ヶ崎」
「はい?」
「おいで」
千景は至の方へ体を向け、片足をソファへ乗せて両腕を広げる。受け入れ態勢万全で招かれて、至は思わず噴き出した。
「ふっ……ふふ、ははッ、マジか」
「甘やかしてほしいんだろ」
「はい。そりゃもうがっつり」
広げられた腕の中、至は身を寄せる。体重をかけても千景は不快さのかけらも見せずに受け止めてくれた。両腕で体を抱かれ、頬で頭を撫でられる。体温と千景の匂いが、至の体から力を奪っていった。
「は~気持ちよ~」
「それは良かった。上手く甘やかせてるかな?」
「予想以上に」
優しい手のひらが体を撫でていく。官能的なそれではなく、ただ包み込むための温もりが心地良い。
仕事の話をほんの少し。稽古の話を少し。ゲームの話をちょっとだけ。
その間、千景の手のひらはずっと優しく撫でてくれていた。
そうして、時計の針が十二を回る。
「茅ヶ崎、誕生日おめでとう。……愛してるよ」
抱きしめたまま、千景は耳元で囁いてくる。ぞくぞくと首筋を這い全身を支配する快感は、彼以外からはもらえない。
「……ありがとうございます、千景さん」
彼の誕生日に、思い切って告げた言葉を返される。じんわりと熱が広がって、その熱を知ってほしいと手のひらを重ねる。軽く握りしめられて、至は千景と唇を重ねた。
静かに、穏やかに迎えた誕生日。
愛しいひとの腕の中で、全部を受け止めて甘やかしてもらうくすぐったい幸福。
「ねえ、千景さん。そういえば、万里から俺の動画送られてきたでしょ。アイツ何してんだか」
「ああ、さっきね。可愛かったぞ」
「えええホントどこ……変な顔してなきゃいいけど」
「あそこだよ。万里もなかなか分かってるよな」
「え?」
振り仰いだ千景の唇が、頬に触れる。寸前、それが囁いた。
――アイラブユーを日本語で、ってところだと。
#両想い #ラブラブ #千至 #誕生日