No.417

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イタダキマス。

NOVEL,A3!,千至 2019.01.16

#両想い #ラブラブ #千至

「昨日よりはマシ」「評価がカライ」 乾いた笑いを漏らしながら、茅ヶ崎は皿の上のおにぎりを見下ろしてい…

NOVEL,A3!,千至

イタダキマス。


「昨日よりはマシ」
「評価がカライ」
 乾いた笑いを漏らしながら、茅ヶ崎は皿の上のおにぎりを見下ろしている。
 正直驚いた。なんでおにぎりをこんなにいびつな形に握れるんだ? それはむしろ才能なんじゃないのか。
 監督さんへの感謝をこめて、みんなそれぞれで手料理を振る舞うってことになったんだけど、案の定というか何というか、茅ヶ崎は料理ができないらしい。正確には、料理ができないことが分かった。興味も情熱も、ゲームに一直線だったのか。
 今はそれに芝居が加わっているわけだ。

「それにしても、もう少しくらい形を整えないと、真澄チェック厳しいぞ」
「それな。なんでこうでこぼこになるんだ……」

 うーん、と茅ヶ崎は首を傾げる。これが職場じゃなんでもそつなくこなすイケメンエリートっていうんだから、世の中には不思議が多い。こんな姿を知ったら、女の子たちはどういう反応するんだろう。
 幻滅する? ああそれは歓迎だよ、うるさい虫がいなくなる。
 それとも母性本能がくすぐられたり? 作ってあげたいとか思うのかな。どうぞお帰りください、これは俺のだ。
「先輩それ早く食べて。もう一個くらいイケます?」
「まだ作るのか。というかお前が食べればいいんじゃないのか? 俺はおにぎり処理機じゃないんだけど」

 茅ヶ崎がおにぎりの練習をし始めてからというもの、毎日付き合わされている。それは別にいいんだ。食べられない量を押しつけられているわけでもないし、たかがおにぎりひとつで一所懸命になってる恋人を見るのは楽しい。

 その頑張りが俺のためではないってことが、少し寂しだけだ。

「先輩なら胃袋もチートでしょ」
「意味が分からない。はあ……いいけどね」
 でこぼこのおにぎりにスパイスを振りかけて、口へと運ぶ。小さめなのは、女性である監督さん向けだからだろう。
 再び手の中でご飯を握り始める茅ヶ崎が、やっぱりどうにも可愛い。眉間にしわ寄ってるの、気づいてないんだろうな。
 どうも思い通りにいかないようだ。何が原因なのかな、ってじっと手元を眺めてみる。ややあって、なるほどと思い当たった。
「茅ヶ崎、ストップ」
「え?」
「一回そこで角作って、止めて」
 こんもりと山を作らせた手の甲にそっと手のひらを重ね、茅ヶ崎の動きを止める。不思議そうにマゼンタが振り向いてきて、うっかりキスをするところだった。してもよかったけど。
「角作った? その角こっちに移動させて、ここに山。あともう一つ。その三つ崩れないように握って。慌てなくていいから」
 茅ヶ崎の手に添えて一緒に動かしてやる。素直に従うの可愛いな、監督さんのために頑張ってるんだ。
「茅ヶ崎は角の位置取りがおかしいんだ。せっかく作った角、次のタイミングで潰しちゃうからでこぼこになるんだよ」
「……あー……」
 心当たりがあったのか、茅ヶ崎はうなりながらさっき作った角を潰さないよう大事そうに握っていく。その位置が決まってしまえば、あとは力加減だけだろう。

「っしゃぁ、できた!」
「…………側面整えること考えろ。お前本当にゲームにしか特化してないな」
 角は綺麗になったけど、側面がこんもりしている。どうかすると肉まんの形に見えてくる。まあこれでもマシになった方か。
「側面……こんな感じですか? おお、おにぎりっぽくなった」
「良かったな、これならちゃんとおにぎりに見えるぞ」
 側面を平らにして、茅ヶ崎は満足そうに笑う。おにぎり一つでそのドヤ顔はどうかと思うけど、可愛いからまあいい。これでおにぎり三昧から卒業だろうか。

「じゃあ記念すべき綺麗なおにぎり第一弾なんで、先輩にあげますね。はいアーン」

 ご飯粒がついた指先で、やっと綺麗に握れたおにぎりをつまみ上げ、俺に差し出してくる。うかつだった。そんな手でくるなんて卑怯だぞ茅ヶ崎。

「お腹いっぱいです?」
「いや、そういうわけじゃ……記念、自分で食べなくていいのか?」
「綺麗に握れた最初のヤツは、先輩にって決めてたんで」

 肉弾戦でも頭脳戦でも茅ヶ崎に負ける気はしないけど、コイツには絶対に敵わないと初めて思う。これがあれか、惚れた方の負けっていうものか。

 はよはよ、って急かす茅ヶ崎に身を寄せて、おにぎりを――素通りして唇にキスをした。
「……そっちじゃなくてこっち! おにぎり!」
〝アーン〟なんて食べさせる仕種をするくせに、なんでキスひとつでこんなに赤くなるんだろう。主導権の問題だろうか。

 まあいいか。今夜どちらもイタダキマス。


#両想い #ラブラブ #千至