No.419

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はつこい

NOVEL,A3!,千至 2019.01.26

#両想い #ラブラブ #千至 #ワンライ

 ホテルの部屋でジャケットを脱いで椅子の背にかけ、ネクタイをほどいて襟元をくつろげる。何気なく視線を…

NOVEL,A3!,千至

はつこい


 ホテルの部屋でジャケットを脱いで椅子の背にかけ、ネクタイをほどいて襟元をくつろげる。何気なく視線をやった大きな鏡の中、散らばる朱に気がついた。
「あ……」
 至は思わず声を上げる。まだ残っていたのかと、指先でそれをなぞった。
 先週の同じ時間、恋人につけられたキス・マーク。至は襟を広げて、鏡に正面から向き合った。デスクライトを点ければ、より鮮明に肌に浮き上がって見え、体がざわつく。
 たぶん、嬉しい――のだろう。
(いやいやガキじゃあるまいしこんなものが嬉しいとかね。嬉しいです)
 正直いって真面目な交際をした相手など彼しかいない。初恋と言ってもいいくらいだ。
 まあ本当の初恋はゲームのキャラだ。なんて言ったら呆れられるに決まっている。そんな恋愛初心者の状態で、恋人と触れ合った証しが嬉しくないわけはない。
 どうしても顔が緩んでしまう。こんなの、誰にも見せたくないと、至は口許を覆って顔を背ける。会社の連中にはもちろんのこと、劇団の仲間にだって見られたくない。なんでもそつなくこなすイケメンエリートが、ただの廃人ゲーオタが、キスマークひとつでこんなにふにゃふにゃな顔をするなんて。
「ほんと見てて飽きないね、茅ヶ崎は」
「げ。いつから」
「さっきから。俺の熱い視線に気づかないなんて、ひどいんじゃないかな?」
「いや俺は先輩みたいに人感センサーついてないんで」
 背後からかけられた声に、一応平静を装って答えてみるものの、きっと心臓がうるさいことは気づかれているだろう。いちばん見られたくなかった相手に見られるとは、不覚。
「で、なに? 俺がつけたキスマーク、そんなに嬉しい?」
 その相手――千景は、楽しそうに笑いながら両手を腰に回してくる。こうしてからかわれるのが目に見えていたから、いやだったのだ。
「自惚れおつ~。俺は〝こんなとこにつけやがってクソが〟って思ってたんです~」
 だから、一応ごまかしと対抗を試みて――。
「そっか……俺は嬉しく感じるから、茅ヶ崎もそうかと思ったんだけど」
 そして、負けた。
 千景にはどうやっても勝てない。それがお為ごかしでも本音でも、寂しそうな顔には一発でノックアウトだ。ぐぬぬ、とうなりながらも、最終的には鏡越しに視線を合わせ、俯いて口にしてしまう。
「……嬉しい、です」
 よくできましたと言わんばかりに、千景が頬に口づけてくる。扱い方を心得られてしまっているなあと、至は千景の方を向いて、唇へのキスをねだった。
 ちゅ、と音を立ててキスをされている隙に、千景の指先は至のシャツのボタンを外してしまう。なだめるように撫でてくる手のひらが心地良くて、されるがままになっていた。
「あ、ちょっ、先輩、そこ見えるから」
「ギリギリ見えない。つけさせて」
 首筋を舐められ、唇が当たったことに気づく。流れと雰囲気からそこにキスマークをつけたいのだろうことは理解できた。が、襟で隠れるかどうかという位置だ。勘弁してほしい。
「だ、め、……って」
 優しいキスにほだされた至が、千景を拒めるわけもなかった。肩を強く抱かれ、唇で肌を吸われる。それだけでもぞくぞくと快感に支配されるのに、どうして押しやれるだろう。
 ふと目蓋を持ち上げれば、嬉しそうに肩へと唇を滑らせる千景の顔と、うっとりと欲情にまみれた自身の顔がその目に映った。鏡の前ではそうなってしまうのも道理で、至はカアッと頬を染める。
 千景のそんな顔を見られるとは思っていなかった。そもそも触れ合う時はいまだにいっぱいいっぱいで、そんなことに思考が回らないのだ。
 もしかして、いつもそんなふうに触れてくれていたのだろうか。いつもこんな顔で千景の愛撫を受けていたのだろうか。
 嬉しいのと恥ずかしいのがごちゃまぜになって、至は体を強張らせたようだった。
「茅ヶ崎? どうした」
「えっ、あっ……」
 千景がそれに気づかないわけはなくて、唇を離して訊ねてくる。気まずくて視線を逸らしたのに、一瞬遅かったようで。
「……鏡? ああ、茅ヶ崎がそういうプレイ好きならここで抱くけど」
「ち、ちがっ! あ、あの、せ……先輩が」
「俺がなに?」
 シャツがするりと落ちていく。鏡越しに視線が重なるけれど、物足りなくて千景を振り向いた。
「先輩が、あんなに嬉しそうに俺に触ってるの、知らなかったので」
「そりゃね。何しろ初恋の相手だぞ」
 そう言ってこめかみにキスをくれる。至は目を瞠った。千景は今なんと言ったのだろうか。
「…………――初耳なんですけど!?」
「あれ。言ってなかったっけ」
「知りませんよ! ちょ、kwsk」
 分かってると思ってたんだけどなあとうなりながら、千景は天井を見上げる。そうして手を差し出してきた。
「ほらおいで。絶対朝までかかるけど」
 至は鏡の傍を離れ、千景の手に誘われてベッドに沈む。詳細は、文字通り朝までかけて伝えてもらった。



#両想い #ラブラブ #千至 #ワンライ