華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.105
ミハアルウェブ再録 2011.08.13
#ミハアル #両想い #PrivateArmy #ウェブ再録
「こういうのって初めてだ。なんかちょっとドキドキしてきた」 車での移動中、アルトはずっとそわそわした…
ミハアルウェブ再録
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「こういうのって初めてだ。なんかちょっとドキドキしてきた」
車での移動中、アルトはずっとそわそわした様子で外の景色を眺めていた。特に目新しい風景ではないのだが、それでも心は浮かれるのだろう。
「あー俺もそうかも。実家は親の持ち物だし、一人暮らしとかする前にS.M.Sの宿舎入っちまったしなあ」
学校には、お互い実家から通っていたし、親元を離れて一人暮らしというものを経験する前に、S.M.Sでの集団生活になってしまったから、そういえば不動産屋など縁もなかったのだなと、今さらながらに思う。
「アルトは、ドラマの中でなら一人暮らし経験してんだよな」
「え? ……ああ、でもあれ、全然出てこなかっただろ。そういう背景とかさ……現実と似せてるって言っても、結構違うとこあったし」
俺はあそこまで料理上手くない、とそっぽを向いてしまうアルト。
「俺より上手いだろ。じゃあとりあえず食事は当番制にする?」
「んー、その方がいいかも。あとは勤務体系次第ってとこか」
少し前、あるドラマのクランクアップを迎えた。お互い役者というわけでもないのに、勤めている会社のオーナーから直々のオーダーがかかり出演したもの。
高校の同級生であるシェリル・ノーム、ランカ・リーにまで頼み込まれてしまっては、断るわけにもいかなかったのだ。
軍事会社S.M.Sでの主な仕事は、運送業と航行護衛、必要に応じて戦闘を含む防衛業務。どうやっても芸能には縁のない世界だ。
そんなところになぜ出演依頼が来たのかというと、この移民船団マクロス・フロンティアを舞台とし、戦闘機を用いて、宇宙生物との生き残りをかけた戦いを描く中で、人を恋し愛し、歌で救われるという若干詰め込み過ぎ感のあるドラマだったからだ。
少しでもリアリティを! という製作者の意向により、可変戦闘機は本物を使いたかったらしい。しかし正規軍ではスケジュールも合わず規律も当然厳しく、ドラマ出演など望めないだろうというわけで、下請けであるS.M.Sにお鉢が回ってきてしまったのだ。
ドラマの収録が終わってから、是非他の仕事もと依頼が来たが、とんでもない。もうこんなことはごめんだと全て断った。
自分たちはやっぱり、パイロットでいたいのだ。
「あーしっかし、全部揃えなきゃなんないんだな、家具とか、食器。実家に何か使えそうなのとかあるか?」
「うーん、どうだろう。布団とかなら持ってこれるかもしれないけど。客用の」
いったい何から用意すればいいのだろう。必要最低限のものをと思っても、かなりある。ベッド、タンス、テーブル、洗濯機、エトセトラ。
「大変なんだな、色々と」
「お金、どれくらいいるかなあ」
指折り数え、まずは何から買おうかと思案しているうちに、目的の物件にたどり着いてしまった。
五階分の階段を上がる。確かにこれは、慣れないとしんどいかもしれない。もちろん一般人より鍛えているふたりにとっては、さほど気にもならなかったが。
「おーすげー、なんにもない部屋って初めて見た」
「こうして見ると結構広いんだな。あ、ここに洗濯機置けるらしいぞ」
案内されて入ってみたそこは、当然ながら家具など何もなく、まっさらな空間だった。
フローリングと白い壁紙、木の扉。S.M.Sの景観に見慣れていると随分レトロな感じさえしてくるが、それもまた良し。
「窓が大きいのはいいな。ちゃんと陽も当たるだろ」
天井から床までの大きな窓に張り付いて、アルトはそこからの眺めを楽しむ。きっと夜には、遠くのイルミネーションが美しく見えるのだろう。
こっちは寝室かな? とミハエルはもう一つの部屋の扉を開ける。隅の方にクローゼットらしき収納スペース。大き目のベッドをひとつ、ここらへんに置きたいなあと考えて、ふと上から差す光に気がついた。電気は点けていないのにと見上げて、目を見開く。
「アルト、おいアルトっ、来てみろ!」
アルトはその声に振り向く。どうしたんだと不思議に思って、そちらへ向かった。
「なんだよミシェル、またオバケとか何とか言うんじゃねーだろうな」
だがしかし呼びつけた当の本人は、それに答えもせずに天井を見上げている。アルトはムッとして、ミシェル! と大き目の声で呼んでみた。
「上」
「あ?」
視線も外さずにただ一言告げてくるミハエルを、らしくないと思った。いつもならもっと明瞭な言葉が返ってくるのに、どうして、と彼の視線を追って。
「う、わ……」
そこに見つけた天窓に、フロンティアの青い空が、一枚の絵のように広がっていた。
空……、とどちらからともなく呟く。戦闘機乗りとしてはやはり、空に焦がれる気持ちも少なくない。いや、もう大好きだと言ってしまっていいだろう。
所詮作り物だとは知っている。ドームシェルの内側ギリギリまで飛んだことだって何度もある。
それでも、空が近い場所で暮らしてみたかった。
「いかがですか?」
見計らったかのようなグッドタイミングで、声をかけてくる仲介人。
ふたりは同時に彼女を振り向いて、一も二もなく、
「ここにします!」
声を揃えてそう返した。
セールスポイントをもう少しアピールしてみようと考えていたらしい彼女は、逆に面食らってしまったようだ。
「え、あ、はい、ではご契約でよろしいですか?」
「あれ見ちゃったら多分、他の物件見てもあんまりときめかないと思うんだよね」
「だろうな。思ってたより広いし、ここにしようぜ」
間取りも、駅歩も文句ないどころか、スカイライトがあるなんて。この物件を見逃す手はない。
では帰って契約書をと部屋を出て、また五階分の階段を下りて車に乗り込む。いいところが見つかって良かった、とふたりして笑った。
「いつから入居できますか?」
「鍵の交換がありますから、明後日以降ですね」
「保証人とか、どうしよう」
「保証人不要プログラムの物件ですから、いらっしゃらなくても差し支えはございません」
「家賃は引落しでいいのかな」
「毎月二十七日にお引落しとなります」
とんとん拍子で進んでいく契約に、あっけないものだなと物足りなさも感じてしまう。もっと大変だったりするのかと思っていたが、運が良かったのだろうか。
不動産屋を出て、ぐんと伸びをする。あとは、必要な費用を渡せば契約は完了だ。敷金と礼金、仲介手数料と来月分の家賃。今月の家賃は、残り少ないことからサービスしてもらえた。
「明後日だっけ、入居できるの」
「ああ、引越しの準備とか、しなきゃな」
S.M.Sに置いている日用品はすぐにまとまるだろう。引越しの準備より先に、必要なものを揃えるのが先か、と空を見上げた。
#ミハアル #両想い #PrivateArmy #ウェブ再録