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No.426

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どうやらナイランBARに連れていってもらえるようで

NOVEL,A3!,千至 2019.04.30

#両片想い #誕生日

「ナイランBARに連れてきた」の至サイド 自販機でコーヒーのボタンを押して、何食わぬ顔をして壁にもた…

NOVEL,A3!,千至

どうやらナイランBARに連れていってもらえるようで


「ナイランBARに連れてきた」の至サイド


 自販機でコーヒーのボタンを押して、何食わぬ顔をして壁にもたれる先輩の元へ歩み寄った。
「お疲れ、茅ヶ崎」
 俺の気も知らないで、先輩はそう言ってにっこり笑うだけ。ううう顔がいい。って、いや、そうじゃなくて。訊くことあるだろ。
「先輩、そろそろ教えてくださいよ」
「うん? 何かあったっけ」
 とぼけやがってコノヤロウ……。もっとも、素知らぬふりして壁にもたれてるこの人も様になるから困るんだ。
 惚れた欲目を抜いても、先輩は格好いい。今だって、休憩室だっていうのに女の子たちからの視線がウザい。俺を通り越して先輩に向かってんの。いや別に先輩の方がモテるから嫉妬してるわけじゃない。
 違うんだよ。
 ……見られたくない。俺だって先輩のこと好きなのに、おんなじ気持ちで見てほしくない。
 叶わないの分かってるから、心の中でそんなわがままを思うだけ。
 いいなあ、あの子たちは。キラッキラな目ぇして見てたって、誰に咎められるわけでもないんだから。

 俺はね、駄目でしょ。
 同じ男で、職場の先輩後輩で、劇団仲間で、ルームメイトで。
 はあ面倒くさい。せめてどれか一つだけだったら、告って玉砕する道もあったんだけど。部屋も同じじゃ気まずいどころじゃない。
 だから、これは内緒の恋。俺だけの秘密だ。

「今日の予定空けておけって言った理由。何なんですか?」
 そう、先日、先輩に言われたんだ。今日、二十四日の予定を空けておけって。まあ別に大事なイベント入ってないし、稽古も空きだし、仕事もまあ、……落ち着いてはいる、はず。
 普段なら、飲みに連れてってくれるのかなとか、ちょっとご飯でも、とかそういうものかなって思うんだよ。事実これまでも何度か先輩の財布をアテにして連れてってもらったことはあるし。
 でもね。でもさ、今日って。

 俺の誕生日なんだよね。

 ……誕生日、なんですよ、先輩。
 そんな時にさあ、好きな人に予定空けておいてって言われたら、ちょっと期待するじゃん。先輩にその気がなくても、なんかちょっと豪華な食事かな、とかさ。そういうのって俺だけじゃないと思う。普通の反応だろ。たぶん。恋なんかすんの初めてで分かんないけどさ。
「ああ、それね」
 誘われてからずっと悶々悩んでた俺の気も知らずに、この人は! それねってなんだよ、それねって! 期待した俺がバカだった、またカレー屋にでも連れてかれるんだ。
「ちょっと待って。えーと、ああこれだ」
 言って、先輩はスマホを操作する。何か見せたい物でもあるのかと思ったら、俺のスマホが震えた。え? 何か転送された?
 俺は慌ててポケットからスマホを取り出した。

「行きたがってたナイランBAR、連れてってやる。定時で上がれよ」

「え、……――は!?」
 待って。待って今なんて言ったのこの人! ナイラン? BAR? って? 言った? いやいや、そんなわけ……。
 でも待って、俺のスマホに送られてきたの、メールの画面だ。今日の日付と、時間と、1~2名様と書かれた予約確認メール。
「え、え……?」
 俺はそれが信じられなくて、思わずスマホと先輩の顔を交互に眺めた。先輩お得意のペテンではないようで、先輩は何か優しい顔で笑ってる。何だそれ、待って写真に撮りたい。いや、それより何これ、ほ、ホントに……?
「せ、先輩、これ」
「疑ってるかもしれないけど、ちゃんとした当選メールだよ。これだろ、行きたがってたの。……違った?」
「えっ、いや、別に疑って、え、あの、こ、これ、ですけど、だって、マジですか」
 先輩は俺に自分のスマホを渡してこようとするけれど、そうじゃない、信じられないのは先輩じゃなくて、当たったってこと自体がだよ。っていうか先輩が自分のスマホ他人に触らせるとか、えっ、これもレア案件では? ちょっと、処理が追いつかないんだけど、まずはじめにだ。
 行けるの? ナイランBARに?
「行きたくない?」
「バッ、馬鹿言わないでください、行きたいですよ! だってナイランッ……! ……な、ナイランBARずっと行きたくて」
 思わず叫び声を上げそうになって、慌てて口を押さえて深呼吸。危ない危ない、ここはまだ職場なんだ、カンペキエリートな王子様を崩すわけにはいかない。
「そう、良かった。じゃあ仕事終わったら行こうか」
「い、いいんですか? 俺が行っても……」
「お前が行かなくてどうするんだ。仕事、片付けられそうか?」
「ちょっぱやで終わらせます! うわ、すげー嬉しい……あ、でも今日、もしかしたらみんながパーティーとか、してくれるのなら……」
 もちろん行きたい。抽選制の予約なんか全然当たらなくて、実は今回の予約期間も全落ちだったんだから。こんなとこまで物欲センサー発動すんのかワロス。って、いやいやそこじゃなくて。今日、俺の誕生日だからさ、もしかしたら劇団のみんながお祝いしてくれるかも、っていう思いもある。これまでずっと、みんなの誕生日を祝ってパーティーしてきたんだから、何か暗黙の了解的なとこがあって。
 もしそうだったら、悪いよな……。
「ああ、それは大丈夫、根回ししておいた。明日にしてもらってるから」
「いつの間に。サプライズとか企画してたら俺に筒抜けですよ」
「あれだけパーティー好きのカンパニーで、サプライズも何もないと思うけど。まあそんなわけだから、今日は俺に付き合って」
「ぶはっ、げほっ、げほっ」
「おい汚いな」
 飲んでたコーヒー噴き出したけど、どう考えても先輩のせいだ。先輩は他意はないんだろうけど、〝付き合って〟なんて言われたら動揺するだろ馬鹿、好き、めちゃくちゃ嫌い。
「す、すいません、いやほんとあの、びっくりして……」
 先輩はハンカチを渡してくれて、また俺を翻弄する。それでも俺は受け取って、汚れた口許を拭った。あ、先輩の匂い……。これ返さなきゃダメかな、ダメだよな、もちろん洗うけど。
「あ、だから今日電車で行くぞって……そういうことだったんですか」
「鈍いな。BARなんだし、お酒あるんだろ? 飲酒運転は犯罪だぞ」
「思考回路がショート寸前なので。えー、でもすごい楽しみ。ありがとうございます先輩」 考えてもなかった。先輩サプライズ上手いなー。一気にテンション上がったわ。ホント、純粋に嬉しい。
 え、先輩なんで今顔逸らしたの。笑ってる? ……俺そんなに変な反応したかな。恥ずかしい。
「期待通りの反応で嬉しいね。じゃあ、定時にそっち行くから」
 あとでな、と先輩は俺の頭をぽんぽんして休憩室を出ていった。カンペキエリート王子様茅ヶ崎、K.O.寸前です。いやもう手遅れかもしれな……。
 ちょっと待って恐ろしいことに気づいた。
 誕生日に二人っきりでBARに行くとか、これはもはやデートでは?? しかも俺のずっと行きたがってたとこって。え、デートでは??
 うわ無理! 無理無理、嬉しいけどしにそう! 先輩、いったいどういうつもりで誘ってくれたんだろ……。いや、どういうつもりも何も、向こうはそういうつもりじゃないだろ。分かってるよ。分かってるけど、ちょっと期待はしてしまう。
 先輩にとって、俺って、なんなんだろ……。
 ん~~、でもしんみりすんのやめとこ! せっかくナイランBAR行けるんだし、仕事ちゃんと終わらせとかないと! 時間に遅れてったらもったいないわ。もう二度と行けないかもしれないし、目一杯楽しもう。
 それが好きな相手と一緒だなんて、幸せすぎだよ。



 定時、十分前。
 仕事は終わらせた。後は明日で構わないもの。何ならテンション上がりすぎて明日やるはずだった物にまで手を着けてしまった俺グッジョブ。明日楽だわ。
 けど、だからって気は抜けない。ここで暇そうにしていようものなら、どっかから仕事押しつけられるに決まってる。
 今日はノー残業デーですのでお帰りください、俺は帰る。いや帰るっていうか先輩とデートです。デートです誰が何と言おうと先輩が何と思っていようと。俺がデートって思ってればデートなんです。
 もう作成し終わったファイルをもう一度開いて、入念にチェックする。フリをして、パソコン右下のデジタル時計に目をやった。どうにか早く数字が増えていかないか祈ったけど、俺は魔法なんか使えやしないんだった。
 グエン~どうにかして~。
 とは思うけど、グエンはそんなことに魔法使ったりしないよな。誇り高き湖の騎士ランスロットのためになるならやるかもだけど。んん、でも彼女にも高潔でいてほしい。こんなことに魔法なんか使わせられない。
 でも、早く。早く、早く、早く変われ!
 キーボードで意味のない文字を打っては消して、消しては打ってを繰り返し、ときどきランスロットと打ってしまったりガウェインと打ってしまったり、……先輩と打ってしまったり、バレたら死ぬレベルのものまであった。
 けど、無事に定時! パソコンの電源を切れば、先輩が宣言通り迎えに来てくれた。カレシか。
「お疲れ様」
「お疲れ様です先輩。帰りましょうか」
 俺は素早く腰を上げて、誰にも捕まらないように職場を後にした。〝先輩と帰る〟というシチュエーションなら、他に誰も誘ってこないだろうし、言い訳だって簡単だ。
「は~楽しみ」
 廊下を歩く時も、エレベーターに乗るときもそわそわしていた俺を、先輩は楽しそうに見つめてくる。うわマジやめてそんな優しい顔で見てこないでください、誤解しちゃうでしょ!


 まあ、そんなこんなで、無事にナイランBARに着いたわけですが。入り口からしてアガるわ。えええあれ王宮の門かな。うわ、奥の方石造りになってる。細かい……! ファンたちのレビューは見たけど、再現率高い。さすが監修ちゃんとしてるだけあるわ。
 先輩が予約のメールを店員に見せて、身分確認。店員が従者に扮してるのもポイント高い。まるでこれからアーサー王に謁見をしに行くみたいだ。すごいゾクゾクする。好きなゲームが、こんなふうに再現されてるなんて。
 そうして案内されたのは、なんとランスロットのエリアだった。城内とか城下町とか森とか、いくつかのエリアがあるんだけど、その中でも俺のイチ推しキャラんとこ充てられるとか、ホント先輩、神なのでは?
「すごい、すごいですね先輩。ランスロットのパネルが!」
「お前の顔見てる方が面白いよ、茅ヶ崎。ひとまず何か飲もうか。軽食もあるみたいだけど」
 キャラクターをモチーフにしたカクテルやちょっとしたおつまみ、軽食が魔道書みたいなメニューにずらり。えええこれ制覇したいけど無理だわ……キャラ多過ぎ。
「俺はランスロットですかね。ここは外せない」
「はは、だろうな。じゃあ俺は――ガウェインを」
 先輩の顔でガウェインて言われるとなんか違和感。先輩がもうガウェインに見えるのは、舞台の方で演じたキャラだからかな。
「そうだ茅ヶ崎、改めて。誕生日おめでとう」
 カクテルも運ばれてきて、特典コースターもグエンのが当たって、目の前には好きな人。それだけでも充分に嬉しいのに、改めて、なんて。
「ありがとうございます。貴重な体験させてもらって嬉しいです」
 本当にね、こんなこと二度とないと思う。先輩がどういうつもりで俺を誘ってくれたのか分からないけど、今日は目一杯楽しもう。
 先輩と乾杯させてもらって、ランスロットのブルーラグーンを口に含んで、次は何を飲もうかななんて、もう二杯目のことを考えていたら、先輩が唐突に眼鏡を外した。さらに、男らしい指で前髪をかき上げたんだ。
「え」

『好きなだけ頼めよ、茅ヶ崎。まあお前の誕生日だしな、ここは俺の奢りだ。ただし腹に収まる程度だぞ。残したりしたら承知しねーからな』

 ひえっ……。
 思わず息を飲んだ。両手で顔を覆って、天井を仰いだ。
 ……っこ、の、ひ、と、はぁ~~~~……!!
「先っ輩……ズルイ、卑怯、格好いい、しぬ」
 いやホントもう無理、まさか先輩から〝ファンサ〟がもらえるとは。先輩のガウェイン、本当に格好いいんだよ、舞台の方でもガウェインに落ちたヤツらいっぱいいるんだってホント!
 俺はガウェインもすごい好きだし、先輩のこともすごく好き。こんな嬉しいことないだろ……!
「ッああ~~もう、推し二枚重ねとかマジか」
「……なにお前、俺推しなの?」
 しまった。声に出てた。うわどうしよう、気づかれる? ワンチャンある? ごまかせる、よな?
 うっかり声に出してしまった俺は、どうにかごまかそうとして言葉を必死で探したんだけど、出てきた言葉は「聞かなかったことにしてください」だ。情けない。あああこれで気づかれたらどうすんだ、先輩ホントに気にしないで!
「あ、俺次はこっちのドリンク頼むんで! 先輩は?」
 ごまかしかた下手か。俺、一応舞台役者だよな? 先輩の前でだって、何度も演技してきたよな? なんでこんなふうにしかごまかせないんだろう。いやもうごまかせてるとは思わない。

 気づかれたかなー。正真正銘推しですよ、先輩。いや、推し、じゃ……ないな。
 正真正銘好きなひと。
 気づかないでほしい。気づいてほしい。いい加減にやめたい、こんな恋。だけどやめたくない俺もいる。

 やばい、頭ん中ぐちゃぐちゃだ。せっかくのナイランBARなのに、カクテルの味なんか分からない。まあ、特典のコースターがあれば、夢じゃない証拠にはなるから、いいかな。
 いやよくない、せめてメインキャラのカクテルは全部飲む。
 俺の誤算は、このコラボBARがちゃんと子供だましじゃない酒を提供していたことだろう。
 気がつけば、制限時間になっていたようで。足下がぐにゃぐにゃする。すごいなー、これもマーリンの魔法か何かか? こんなとこまで再現できるものなんだな。
「茅ヶ崎、おい大丈夫か?」
「らいじょうぶです~」
「……大丈夫じゃなさそうだな。酔い覚ましに、一駅歩こう。つらかったら言えよ」
 先輩の声がやけに近くで聞こえる。こーのイケボが。ムカツク。ねえなんか先輩の腕に背中支えられてる気がする。夢かな??
 店を出たはずなのに、まだ地面がぐにゃぐにゃしてる気がするんだよね。まだ魔法がかかってる。さすがナイラン。
「せんぱい、きょう、ありがとうございました」
 正直あんまり散策できなかったけど、楽しかったのは覚えてる。嬉しかったのも覚えてる。
「ろれつ回ってない。でも、喜んでもらえてよかったよ」
 先輩の声が優しい。春組の連中の前でも、こんな声出してたっけ?
「ナイランBARに来られたのも、そうなんですけどー、先輩と一緒っていうのも、先輩が俺のためにー予約取ってくれたのも、嬉しかった、です」
「……はいはい」
「あのですねー、俺にとって、先輩はぁ、推しっていうか」
「ほら分かったから、ちゃんと歩け」

「はつこいのひとなんですぅー……」

 俺が覚えているのは、背中をさすってくれている先輩の手が温かかったのと、何秒か止まった足。
 声に出してるなんて思ってなかった。そんな意識、なかったんだ。

「俺もだよ、茅ヶ崎――」

 だから、先輩が何を言ってるのか――分かってなかった。


#両片想い #誕生日