No.191

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Saphirのヒカリ-004-

その他ウェブ再録 2013.12.29

#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い #ウェブ再録

 軽い昼食を終えて出かける準備をし、通路に出たところでちょうど同じく準備を終えたらしいイクスアインを…

その他ウェブ再録

Saphirのヒカリ-004-


 軽い昼食を終えて出かける準備をし、通路に出たところでちょうど同じく準備を終えたらしいイクスアインを見つけ、アードライは声をかけた。
「イクスアイン、行けるか?」
「早いなアードライ。すまないが少し待っててくれ、ハーノを起こしてくる」
 肩をすくめてそう答えたイクスアインに、え? とアードライは目をしばたたかせる。ハーノインはまだ寝ているのかという呆れと、それをさも当然のように起こしに行くイクスアインの自然さが、もしかしてと思わせた。
「イクスアイン、ハーノインも街へ行くようだったら、私は遠慮させてもらうが……そこまで野暮じゃない」
 休日を共に過ごす恋人たちの邪魔をするつもりはない。別行動で問題ないはずだ。
「構わないさ、どうせヤツとは街で別れるんだ」
 イクスアインはそう言って笑い、ハーノインの部屋へと入っていく。
 アードライの頭の中には疑問符が押し寄せてきた。一緒に街へ向かいそこで別れる恋人同士がいるのか? なぜ一緒に過ごさないのだ? 趣味が合わないということか? と、今いち関係性のつかめない仲間の行く末を案じる。
 いろいろなパートナーがいるものだなと、ドアの隙間から中を窺った。故意ではなく、たまたま視線がそこに行ってしまっただけなのだが、ものすごく悪いことをしたかとすぐに視線を逸らす。
 ハーノインのベッドに腰をかけ体をかぶせているイクスアインの背中が目に入ったのだ。位置的に考えて、あれは口づけをしている体勢。大切そうに引き寄せたハーノインの手には、イクスアインの髪が絡んでいた。
 やっぱり邪魔ではないだろうか? とほんの少し頬を染めつつ、二人を待つ。勝手に行くこともできないし、今声をかけることもできない。ほんの少し開いたドアを放って行けば、通りがかった誰かが覗いてしまうかもしれない。ツメが甘いと心の中で責め立てることで、覗いてしまった自分の失態を覆い隠した。
「おっ待たせ~」
「アードライ、すまないな、行こう」
 声をかけられ、アードライはハッと顔を上げる。すっかり準備を整えたハーノインとイクスアインがそこにいた。どうやらアードライが同行することは知らされていたらしいが、ハーノインが驚く様子は見られない。
「さて、行こか。アードライはどこ目当て?」
「え、あ、ああ……茶葉と、あと……新しいティーカップでもあれば」
 通路を三人で歩きながら、休日にこのメンツでいるのは珍しいなとハーノインは愉快そうな声で訊ねる。アードライはそれに答え、二人が気にしないなら街まで同行させてもらおうとゆったり口の端を上げた。
「あー、お前のよく行ってる本屋の傍にそういうのあったよな、イクス。一緒に行って見てこいよ」
「ああ、そうする」
「ハーノインはどうするんだ?」
「俺? 俺はこれ~」
 やはりイクスアインとハーノインは街では別行動になるのかと不可解でしかないアードライが訊ねると、ハーノインは耳をピンと指先ではじく。
 そこには、色が違うふたつのピアス。同じ形をしたものが右耳にもひとつある。
「新しいの買いに行くのか?」
「そ、特注してたヤツできたって連絡入ったからさ」
 ハーノインは嬉しそうに呟く。特注とは、よほど複雑な形なのか、色なのか、石なのか。ハーノインの耳を飾るものがまた増えると知って、イクスアインが訊ねた。
「それ、痛くないのか?」
「平気だって、これは耳挟んでるだけだし。イクスもしてみる?」
「いや、私はいい。そういうのはお前の方が似合うだろう」
 イクスも似合うと思うけどなーと、ハーノインは残念そうだ。無理に飾らせるつもりはないようだが、興味を持ってくれるのは歓迎らしい。
 そのやりとりを見て、趣味が合うわけでも、合わないわけでもないようなのになとアードライは小首を傾げる。まったくおかしな距離の恋人同士だと謎を増やす結果となった。


「じゃあイクス、アードライ、ここでな」
 街まで出向き、店が建ち並ぶ手前でハーノインはひらひらと手を振ってきた。イクスアインもそれを不思議には思わず、ああと頷いて別の方向へ体を向けている。
「あ、そうだ。夕飯どうする? こっちで食うならどっか店探しておくけど」
「いや、そんなに時間はかからないと思う。お前は好きにしたらいい」
 それぞれの予定を曖昧に確認し合って、恋人たちは分かれる。ハーノインはアクセサリーを販売している店の方へ、イクスアインは本屋の方へ。
「本当に別行動なんだな。あまり恋人らしくないように思うが……」
「耳が痛いが、私たちはこれが普通だ。四六時中一緒にいるのが恋人とは思わないし、そんなのは小さい頃に死ぬほどやって飽きている」
 イクスアインは笑って、先にアードライの買い物につきあおうと紅茶の置いてある雑貨店へと足を向けていく。
 そう言えば幼なじみなんだったなと、よくは知らない生い立ちを思い浮かべてみる。確かにいつでも一緒にいればそれが恋人かというと違うだろう。ふたりには、これが自然なことなのか。
「それに一緒にいると、甘えそうになる。それでは駄目なんだ。事実、どこが好きなのかと訊かれて答えられないほど、手の届く距離というのに甘えている」
 イクスアインはほんの少しだけ目を伏せて呟く。
「近すぎると、見えないものというものはあると思う。ハーノインの髪、陽の光みたいな色をしているだろう? 時々まぶしいんだ」
 なるほどとアードライは相づちを打つ。ハーノインがまぶしいということに同意をしたわけではなく、イクスアインがどれだけハーノインを想っているかが分かった気がして。
 本当に今まで、自分の心を分析したことがなかったのか。
「任務で離れている時はやっぱり心配になるが、それはたぶんお互い様だと思っている」
 だから日常を感じる時に離れて見てみるのは、自分の中の想いを確認するためにはいいのかもしれないと、イクスアインは棚に並べられたティーセットのカップをしげしげと眺めた。
 オレンジのライン、恋人の色だ。
「イクスアインは、ひどく分かりやすいな。軍人には向いていないかもしれない」
 そんな様子をアードライは笑い、自分も気に入るカップを手に取って眺める。想いを知ってしまえば、なんてたやすく心が見えるのだろう。
「……以前ハーノにも同じようなことを言われた気がする。そんなに表に出やすいのだろうか? 今まで隠してきたから、話せることに浮かれているかもしれない」
 イクスアインはカップの色になにを思い浮かべたか知られてしまって、バツが悪そうに棚へと戻す。誰かに想いを聞いてもらえるというのは、思った以上に解放感があるものだ。
「私でよければ相談にくらいは乗ってやろう。仲間だしな」
「充分乗ってもらっている。だから今日は礼をしようと思って」
 そうだ自分のカップを選びにきたわけではないと思い出して、イクスアインは照れくさそうに眼鏡を押し上げた。
「義理堅いな。そんなところにも、ハーノインは惹かれているのだろうか」
 じゃあこの茶葉を、とアードライはお気に入りの茶葉を礼にしてもらおうとイクスアインに手渡す。イクスアインはそれを受け取って、どうかなと苦笑した。
「私がハーノを想うほどには、想われているかどうか分からない。いや、私がどれだけハーノを好いているか自分でも分からないのに、推し量ることなどできないな」
 初めて、イクスアインが寂しそうな顔を見せる。アードライは仲間として接してきて初めて触れたイクスアインの不安に驚いた。
 戦闘時には冷静に戦況を把握し最善の策を展開するのに、恋に関してはこんなに幼くなってしまうのか。
「訊いたらいいのではないか? どれほどの想いがあるのか、態度だけでは分からんだろう」
 なんだったら今から訊きにいけばいいと、アードライは持っていたティーカップを棚に戻す。訊く相手はすぐ近くにいるというのに、なにをためらっているのか。
 アードライ自身には、恋を語る相手はいない。が、親友と思っている男にはどうやら大事な相手がいるようだ。身分的に片恋だろうと分かるのがつらいところだが、イクスアインとハーノインは、手の届く、それこそ肌を合わせられる距離にいる。
 伝えられるものなら、言ってほしいことがあるのなら、生きているうちに心を交わした方がいいに決まっているのに。
「ア、アードライ、待ってくれ、まだこれ支払い終わってないし」
「あとでいいじゃないか。お前たちを見ているとその煮え切らん態度が苛立ってくる」
 どうあってもアードライは互いの想いの深さを確認させ合いたいようで、頑として聞かない。逃げたりしないようにと、手までつかんでくる始末だ。
「わ、分かったから。行こう。ただ、ちゃんとこれ買ってからにしてくれ。礼ができないだろう」
 イクスアインとしても、訊ねてみたいことではあった。アードライは背中を押して……いや、引っ張っていってくれる。きっかけでしかないが、ずっと心にたまっていた不安を吐き出すことができるだろうか。
 そう思いながら、イクスアインは茶葉の支払いをしに向かう。アードライはそれを横目に、店を出てハーノインの向かったのアクセサリー店へと視線を移した。
 はずだった。
 それが、途中で止まってしまう。
 オープンタイプのカフェに、ハーノインの目立つ髪を見つけた。買い物を終えてそこで一休みしているのなら、問題はなかったのだ。
 彼が、一人でいたのなら。
 しかし、アードライが発見したハーノインの正面に、女性が一人座っている。なにやら楽しそうに談笑している様子が窺い知れて、アードライは太腿の横でぎゅっと強く拳を握った。


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