華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.189
その他ウェブ再録 2013.12.29
#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い #ウェブ再録
「おはようイクスアイン」 談話室でいつものように読書をしようと思うと、やはりいつものようにアードライ…
その他ウェブ再録
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「おはようイクスアイン」
談話室でいつものように読書をしようと思うと、やはりいつものようにアードライがソファで紅茶を飲んでいた。
「おはようアードライ。いつもながら早いな」
「私は普通だ。クーフィアやハーノインが遅すぎるのだろう。エルエルフなど、いつ眠っているのかしれないほど早い」
その物言いに、イクスアインは違いないなと苦笑した。クーフィアやハーノインが昼間で寝ていたりするのは皆が知っている。あれでよく特務大尉など務まるものだ。
「飲むか?」
「ああ、いただこう」
イクスアインがアードライの正面のソファに腰をかけると、すかさず紅茶を勧めてくれる。イクスアインはそれを素直に受けて、温かな紅茶にミルクと少量のシュガーを流し込んだ。
「少し疲れているようだが、大丈夫なのか?」
「……そうか? ちゃんと眠ったつもりなんだが」
お気に入りの紅茶で喉を潤しながら、アードライがイクスアインに視線をよこしてくる。ここに来る前に見た鏡の中の自分は、気遣われるほど疲弊しているとは思わなかったが、他人が見れば違うのだろうかとイクスアインは肩をすくめた。
「いくら休日とはいえ、有事には出動がかかる。ほどほどにしておくといい」
ん? と小首を傾げ、次の瞬間カッと頬を赤らめる。アードライが何のことを言っているのか気づき、思わず顔を覆った。
「な、なんで分かるんだアードライ……っ」
「気づいていないのか。ハーノインと夜を共にした翌日はほんの少し顔がゆるんでいる。まあ、私はお前たちのことを知っているからこそ気がつくのかもしれないが」
アードライはティーカップの縁に口を付けながらフォローを入れてくれるが、それでもイクスアインは不覚だと感じてしまう。
ハーノインとのことを知られたのは少し前だ。任務で別れる時、ほんの少し視線をやり取りしたのと、指先を触れ合わせたそれだけで、悟られてしまった。
任務を終えてから問いつめられたが、あろうことかハーノインが肯定してしまったのだ。まだごまかしようがあっただろうに、隠すのと否定するのとはわけが違うと呟いて、ハーノインは笑った。
任務に支障がないなら誰を好きになろうと別に構わないだろうと、あの場にいなかったはずのエルエルフが珍しく話しに割り入ってきたのも驚いたが、彼も以前から気づいていたという事実に、恥ずかしくて死にたくなったのを、今でも覚えている。
しかしふたりの関係がそこで留まっていてくれるのは、アードライもエルエルフも、面白半分にからかったりする輩ではないからだ。そもそもエルエルフはさほど興味がなさそうだった。
「参考までに訊ねたいのだが、イクスアイン」
「な、なんだ?」
「ハーノインの、どこに惹かれたんだ? お前ならそれなりの家の子女を望むことだってできるだろう」
アードライの言葉に、イクスアインはわずかに逡巡してティーカップを静かにソーサーへと戻す。それを見て、アードライは「答えづらいことを訊いたなら謝罪しよう」と目蓋を伏せた。イクスアインは、あわててそれを否定した。
「いや、そうじゃないんだアードライ。今までそういうことを考えたことがなくて」
どこに惹かれたのかという問いに、答えづらいわけはない。すべて自分の意思なのだから、なにもおそれる必要はないのだ。
「考えたことがない? それで深い仲になれるものなのか」
「改めて考えると、すぐには出てこないというだけだ。私たちは幼い頃から一緒にいたからな、アイツのアイツらしさに惹かれていると答えても、きっと誰も分からない」
苦笑して、イクスアインはソファの背にもたれる。ギッとほんの少し立った音を素直に耳に入れ、ハーノインを思い浮かべた。
「たとえば………………たとえばだな……」
しかし、やはり具体的にどこ、という箇所が思い浮かばない。トレーニングはサボるし街へ出れば必ず女性に声をかけるし肝心なことは言わないし朝には弱いし夜にはときおりひどいし、そういえばどこに惹かれたのか、本当に分からなくなってしまった。
「イクスアイン、そんなに悩まなければいけないのなら、別にいい。お前たちが本当に好きあっているなら、せめて邪魔はしないようにと思っただけだ」
「アードライ……」
ティーポットから紅茶を注ぎ、ほんの少しシュガーを溶かし、アードライは呟く。
「正直、お前たちのことを知った時は戸惑ったんだ。同性では婚姻も結べないし、子も成せない。命の危険を伴う軍人だからこそ、それを諦めて手近な相手で済ませているのかと……思わないでもなかった」
ああ、だからか、とイクスアインは思う。だからハーノインとの関係が発覚したとき、あんなに責めてきたのか。
「すまなかったなイクスアイン。私はハーノインほどお前を知らないし、お前ほどハーノインを知りもしない。お前たちが共に過ごしてきた時間を、否定するようなことを言ったかもしれない」
「いや、そんなことはない。逆に、いちばん最初に責めてくれたのがアードライでよかったと思う。名前も知らないような連中だったらと思うと、腸が煮えくり返るな」
共に任務に就く仲間でよかったと、本当に思う。あのときはただ関係がバレたと周りの反応を恐れるばかりだったが、おかげで今は少し肩の力が抜けたようだ。
秘密を共有する相手がいるという安堵感がそうさせるのだろう。イクスアインはティーカップを持ち上げ、冷めかけた紅茶をすすった。
「だけど、怖いな」
「なにがだ? イクスアイン」
「私は今までアイツを……ハーノインを好きだと思っていたが、こういうとき即座に答えられないということは、自分で思っていたより好きではなかったのだろうか?」
思い込みだったかもしれない。幼い頃から一緒にいて、一緒にいすぎて、ハーノインしかいないと思いこんでしまったのではないだろうか。
「アードライ、お前の言うとおり、私たちはお互い手近すぎる。欲をぶつけるには、最良の相手だったかもしれない」
「イクスアイン。私が言うのもどうかと思うが、マイナスの思考は良くない。戦線において判断を鈍らせる」
「分かっている……任務に支障はきたさないさ。カイン大佐の期待を裏切るわけにもいかないからな」
ふと息を吐き出して、眼鏡のブリッジを押し上げる。任務中にこんなことを考えていたら、作戦の失敗につながる。それはすなわち、上官であるカインの不興を買いかねないのだ。それだけはどうしても避けたい。
「相変わらず、大佐に心酔しているんだな」
「ああ、カイン大佐は素晴らしい方だからな」
そうでなければこんなところにはいないとイクスアインは不敵に笑ってみせる。
あの時なくしていたかもしれない命は、カインに救われている。その恩はまだ返せていないのだ。両親の敵を取るため、恩を返すため、カルルスタインの厳しい訓練に耐え抜いてきたのだ。
「私も尊敬はしている。作戦が失敗したことは一度もないし、エルエルフを一人旅団と呼ばれるまでに育てた方だ。上官としては申し分ない。だがイクスアイン、ハーノインは……なにも言わないのか?」
アードライの瞳がまっすぐに見つめてくる。なにを言いたいのかすぐに理解し、イクスアインは瞬きひとつで肯定してみせた。
「今さらなんだろうな、アイツがなにも言わないのは。私が大佐をお慕いしている理由はハーノインも知っているから」
むしろ、ハーノインがカインに信頼を寄せない理由の方が分からない。訊ねてみたいが、そうしたところでお互いカインに対する感情は変わらないだろう。
「そんなものか……私だったら、恋人が他の男に心酔しているのは気に食わないがな。ハーノインは見かけによらず心が広いということか?」
カインに対する尊敬の想いと、ハーノインに対する想いは違う。どちらかを諦めろと言われても、おそらくどちらも捨てたりできない感情だ。ハーノインはそれを理解して、なにも言わないのだろうか。
「どうだろうな、見かけ通りのような気もするが。気にならない程度の気持ちなのかもしれない」
「まったく分からないな。お前たちは深い仲でありながら気持ちが浅いかもなどと言うのか」
自嘲気味に笑って俯くイクスアインに、ある種の苛立ちを感じる。
「イクスアイン、もしカイン大佐とハーノイン、どちらかを選べと言われたら、お前はどちらを選ぶんだ?」
アードライの放つ刃が心臓に突き刺さる。そんな事態にはならないといえないのが、軍人である。たとえば命にかかわることだったり、作戦の遂行にかかわることだったり、選ばなければいけない場面は起こりうる。
作戦の遂行であれば当然上官であるカインの言い分を支持しなければいけないし、プライベートな約束だったらハーノインを優先したい。
だが、命を選べと言われたら? どちらかの命しか選べないと言われたら?
そのときは、どちらを選ぶだろうか。
「…………分からない」
そんな事態はこない方がいいと願うだけで、答えには行き着かない。意地の悪い質問だなとアードライに小さく嫌味をぶつけてやるが、イクスアインの答えは靄がかかったままだ。
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