華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.108
ミハアルウェブ再録 2011.08.13
#ミハアル #両想い #PrivateArmy #ウェブ再録
夜勤が明け、諸費の支払いを済ませたミハエルは、恋人の待つ宿舎の部屋に戻る。今日が、ここで過ごす最後…
ミハアルウェブ再録
favorite いいね ありがとうございます! 2011.08.13 No.108
ありがとうございます!
次のページ >> / / << 前のページ
初期表示に戻る
夜勤が明け、諸費の支払いを済ませたミハエルは、恋人の待つ宿舎の部屋に戻る。今日が、ここで過ごす最後の日になるのだ。
「アールト。引越し準備進んでるか?」
そうは言ってもこの狭い部屋の中に、どれだけも私物があるわけでなし、すぐに終わってしまうだろう。
「あ、うん。お前のも一応まとめといたけど、見てくれよな」
「ああ、サンキュ。こっちも、契約は無事に終わった。明日から無事に入居できそうだな」
さすがに疲れたとミハエルはアルトのベッドに腰を下ろす。「あ、そうだアルト。あのさ」
「ミシェル、き、訊きたいことがあるんだ!」
渡さなければとポケットに手を忍ばせたところで、アルトに呼ばれて顔を上げる。困ったような表情に、首を傾げた。
「どうしたアルト? 座れよ」
ぽふぽふと自分の隣を叩いて、ミハエルはアルトに座るよう促す。アルトは少し躊躇って、ゆっくりと腰をかけた。
「で、なに。訊きたいことって? 昨日から様子がおかしいのは、そのせいか?」
ぴくりと揺れた肩に、図星かと小さく息を吐く。
「やっぱりやめたいとかは、勘弁してくれよな」
「そ、そうじゃねえよ! むしろこっちのセリ、フ……っていうか、いいのかなって、思っちまって」
主語の抜けた言葉に、ミハエルは考え込む。思い当たることが有りすぎて、ギブアップ。
「それはどういう意味でいいのかな、なんだ? こんなに幸せでいいのかな? それとも、男同士でいいのかな?」
「…………お前は、俺でいいのかな、って」
「つまんない質問するなよ、アルト姫」
ため息を吐く。何度も何度も、好きだと、愛していると囁いてきたのに、まだ不安に思うことがあるのか。
「だって! だって……完璧に勢いだったろ、今回の。ノリとか、そういうのあったし、だから、その、でも、俺はお前と暮らしたいし……今さらイヤだって言われても無理なんだけど」
だから、最後の確認だ。
顔を真っ赤にしながら、それでも必死に伝えてくれる。
「アルト……」
抱きしめたい衝動をどうにか抑えて、ミハエルは息を呑む。アルトに応えなければと腰を上げて、床に膝をつく。覗き込んでアルトの視線をすくい上げた。
「確かに勢いみたいなところはあったけど、それでもお前じゃなきゃあんなこと言わないぜ。お前が同意してくれて、本当に嬉しかったんだ」
だからさ、とミハエルはポケットにしまっておいた小さな紙袋を取り出す。封を開けて、中身のひとつをアルトの手のひらに乗せた。
「え……」
銀色の、まあるい輪っか。その大きさは誰がどう見ても、指にはめるものと思われる。
「俺の家族になって……一緒に、暮らして、……ください」
それを握らせて、ミハエルはゆっくりと口にする。言った後で少し困った顔をして、あんまりキマらないなと肩を落とした。
「プロポーズ、な」
本当はもっと格好よくキメてみたかったんだけどと笑って、一度も瞬きをしないアルトを覗き込む。
「アルト? ちゃんと聞いてる?」
「えっ、あっ、うん、えっと」
アルトは、指輪を握った自分の手を見下ろした。手の中の感触は確かにあって、冗談ではないのだと分かる。
「ミシェル、き、昨日も……そう、言ってた……でもその後も普通だったし、俺だけ浮かれてんのかなって思って……ちょっと怖かったんだ」
「そっか、ごめんな、ちゃんと言わなくて……じゃあ、これでもう、大丈夫……、だな」
そう言って手を開かせて、銀の指輪を左手の薬指にはめる。銀河中でたったひとりのために空けておいた薬指が、銀で埋まった。
「ミシェル、お前にも」
ミハエルの左手を取って、薬指を銀の輪に通す。揃いの指輪をはめ終わって満足と微笑んだら、指が絡み合った。
「自分で買っておいてアレだけど、……こんなに……嬉しいもんだとは思わなかった」
「ああ、うん。俺も。両想いだって知った時みたいに……すげえ嬉しい」
ありがとうミシェル。そう続けると、幸せそうに微笑んで、ありがとうアルトと返してくれた。
ゆっくりと、お互いの顔が近づいていく。鼻先が触れ合って、髪が触れ合って、吐く息が混じって、口唇が合わさった。
触れ合うだけの静かな口づけに、ふたりは笑う。初めて気持ちが通じ合ったあの時のようだと。
愛してる。
そう囁き合って、今度は深く深く口づけた。抱きしめ合って、再確認。このひとで間違いないのだと。
出勤までとふたりで狭いベッドで仮眠する。体をつなげたりしなくても、こんなに幸福になれるんだと、改めて実感した。
ミハエルはアルトの髪を撫で、アルトはミハエルの肩に頬をすり寄せる。このベッドで取る最後の睡眠は、とても幸福だった。
* * *
夜勤後にシャワーをし、荷物をまとめて部屋を出る。S.M.Sの車を貸してもらい、ほんのわずかなダンボールと共に、ふたりは引っ越した。
五階建ての五階、奥から二番目。小さなキッチンとリビング兼ダイニング、そしてスカイライトの取り付けられた寝室。ここが今日から、ミハエルとアルトの家になるのだ。
いちばん最初にしたことは、臨時にとふたりの名前が印字されたシールを表札プレートに貼り付ける作業。宿舎の部屋には、なかったものだ。
これから、ここで暮らすんだなとようやく実感が湧いてきた、満足そうなお互いの表情。それを見て、眠気なんて吹っ飛んだ。
「あ、ミシェル、そこじゃ……っ」
「じゃあ、こっち……か?」
「ん、あ、待て……もっと、あ、そこが……」
フロンティアの人工太陽はもうすでに高く昇り、窓から入り込む光のおかげで、電灯など不要。そんな中で、重みに顔をしかめるアルトと、いちばんイイ場所を探るミハエルの声が重なる。
「ここでいいのか? ……こっちじゃなくて?」
「イッ……て、バカ、そっちじゃないっ……ん、そこ、あっ、もっと奥に……」
「悪い大丈夫か? 姫……こら慌てんなよ……分かってるから」
早く、と視線で訴えてくるアルトに苦笑して、ミハエルは脚を支え奥へと進んだ。
「ここ?」
「ん、ここ……」
「……あぁ、イイね、最高」
「な、やっぱこの向きの方が空がよく見えるだろ?」
「よし、じゃあベッドここで決まりな。あとは洗濯機?」
せっかくスカイライトがあるのだ、寝転がったときに空がよく見える方がいい、とベッドの置き場所にはとことんこだわった。
一緒に届けてもらった洗濯機も設置し終わって、そうこうしている内にガスの開栓立会いも済んで、ルカに安く回してもらった冷蔵庫も届いた。
これでなんとか、食べて寝るくらいはできるだろうかとふたりで息を吐く。
「でも何か、まだ家っぽくないよな」
「それは仕方ないさ。これから揃えていくんだからな」
テーブルと、ソファも欲しい。本棚や、食器も色々欲しい。だけどとにかく、これで骨組みだけはできたのだ。
「少し休もうか? ご飯、どうしよう」
「あー、何か買いに行くか、外で食べるか、だな。どうせまだカーテンとかシーツとか、買わなきゃならないしさ」
今日と明日は休暇を取ってあるのだし、時間のある時にできるだけ買い揃えておきたい。そういえば寝室の照明器具も買ってこなければと思い、ふたりで出かける準備。
「えーっとじゃあカーテンとー、シーツとー、あ、枕もかなー」
「よく考えたら、ドラマ始まるまでにテレビ買わなきゃなんないな。ちゃんとした画面で見たいし」
「うわ、忘れてた」
携帯電話と、マネーディスク、散歩も兼ねてと地図データもポケットにしまいこんだ。
「あ、カギ!」
忘れるところだった、と部屋を出たところでアルトが取って返す。
そういえばS.M.Sの宿舎では自動でロックがかかったから、カギというものを持ち歩かなかったのだ。だがこれからは、家のカギを開け閉めするために携帯しておかねばならない。
「なんか無くしそう。怖いな持ち歩くの」
「かと言ってカギ閉めずに行くわけにはいかないだろ。何かストラップでも買おうか、アルト」
カチリとしっかりカギを閉め、ドアが開かないことを念のため確かめた。
よし、と満足そうに息を吐いて、アルトはミハエルを呼ぶ。ん? とミハエルは振り向いて、どうしたのだろうと小首を傾げた。
アルトは共用通路できょろきょろと辺りを見回し、誰もいないことを確認してから、ミハエルの肩に手を添える。
少しだけ首を伸ばして、頬に口づけた。
「ここから、始まるんだな」
そうして嬉しそうに笑い、スキップでもしそうな勢いで階段の方へ足を向ける。口づけられた頬を押さえ、ミハエルは目を瞬いた。
してやられた、と困った表情を浮かべ、この借りは今夜ベッドの中で返してやろうと口の端を上げる。
「ああ、ここからだな」
さてどうしてくれようかと考えながら、アルトを追って軽い足取りで階段へ向かっていった。
#ミハアル #両想い #PrivateArmy #ウェブ再録