No.338, No.337, No.336, No.335, No.334, No.333, No.3327件]

愛のひとつも囁けない-004-

カクテルキッス02 2018.07.01

18歳以上ですか? yes/no

カクテルキッス02

愛のひとつも囁けない-004-

18歳以上ですか? yes/no

愛のひとつも囁けない-003-

カクテルキッス02 2018.07.01

18歳以上ですか? yes/no

カクテルキッス02

愛のひとつも囁けない-003-

18歳以上ですか? yes/no

愛のひとつも囁けない-002-

カクテルキッス02 2018.07.01

18歳以上ですか? yes/no

カクテルキッス02

愛のひとつも囁けない-002-

18歳以上ですか? yes/no

(対象画像がありません)

愛のひとつも囁けない-001-

カクテルキッス02 2018.07.01

#セフレ #シリーズ物 #カクテルキッス #ウェブ再録

 駄目だ、と至は文書の保存だけして息を吐いた。 集中力が切れている。そう自覚し始めたのは、三十分ほど…

カクテルキッス02

愛のひとつも囁けない-001-



 駄目だ、と至は文書の保存だけして息を吐いた。
 集中力が切れている。そう自覚し始めたのは、三十分ほど前。入力ミスが多くなって、打っては消し、打っては消しを繰り返していたが、まあ結果どれほども進んでいないのが現状だ。
(プレゼンも面倒だけど、報告書も面倒くさい。早く帰ってゲームしたい)
 廃人レベルのゲーマーは、こんなときでもゲームを中心に考える。
 少し前まではそうだった。しかし今の至にとって、〝ゲームがしたいと思いたい〟という言い訳用の道具になりかけていた。
 はあーと大きくため息をつく。
(駄目だ、頭から離れねーわ。休憩してこよ)
 至はデスクを離れ、リフレッシュスペースの自販機へと向かう。ふらつく足下は、寝不足なのだと解釈した。
(ああ、クソッ)
 歯を食いしばって、眉にしわを寄せ、ふるふると首を振る。
 そうしても、先ほど見かけた男の横顔が、頭から離れていってくれない。
 なんのことはない。彼は別のチームで展開している企画を、部長の下へ中途報告にきただけだった。ハイブランドのスリーピースを着こなすイケメンエリートは、社内でも人気がある。傍にいた事務員の女の子が、きゃあと色めき立ったのも気づいていた。
(なんで俺まで!)
 エリート然とした立ち振る舞いに、胸が鳴ってしまったことを、誰にも知られたくない。いっそ自分の記憶からも消し去りたい。女の子たちにつられてしまっただけだと、言い訳をしたい。
 言い訳をしなければいけない相手だ。
 その男――卯木千景は、恋をしていい相手ではない。
 会社の先輩であり劇団の仲間であり、家族である。
 そもそも彼は男性で、同性を好きになる指向がない至にとっては、まるっきり対象外だった。
 それなのに、どうしたことか先週彼と寝てしまった。分かりやすく言えば、セックスをしてしまった。
 それだけならまだ、酒の勢いだとか好奇心だとかで済ませられる。先輩後輩で、家族でルームメイトである以上、気まずさは残るだろうが、〝事故〟で終わらせることもできたはずだ。
 何をどう間違って、自覚してしまったのか。
 千景に恋をしているなんて。
 勘違いだと思いたい。
 まだあれから一週間しか経っていないし、思っていたより気持ちがよかったから、まだ体ごと心が勘違いをしているのだ。そう思いたかった。
 千景も、寮ではいつも通りに接してくるし、夢だったのではないかと思うほど、日常的である。
 だけど至の体には、あのあとしばらく余韻が残っていたし、それこそ何度も抱かれたあの日のことが、夢だったとは思えない。
 夢だったとは思えないからこそ、気が重い。
〝惚れるなよ〟
 そう牽制されていることまで、思い出してしまう。
 千景は至と違って、男性をそういう対象にする指向があるようで、これまでも一夜限りの関係を築いてきたらしい。そんな中で、相手に惚れられては面倒くさいのだろうというのは、よく分かる。
 性別は違っても、気のない相手に好意を持たれることの面倒さは、至だって分かっている。一回寝たくらいで、恋人面するなよということなのだろう。
(あんなことしなきゃよかった)
 自販機の前にたどり着いても、重い気分は浮上してこない。早いところ気分を切り替えて、さっさと仕事を終わらせたいのに、ため息しか出てこない。
 それでもどうにか財布から小銭を取り出して、投入口に突っ込んだ。
「えーっと……」
 入れたはいいものの、何を飲むか決めていなかったことに、そうしてから気づく。
 ミネラルウォーターでは味けないし、大好きなコーラという気分でもない。水分補給というよりは、少し喉を潤したいだけだし、と悩む至の背後から、すっと指先が伸びてきた。
 ピッ、と機械的な音がして、声を上げる暇もなくガコンと商品が落ちてくる。
「……はァッ!?」
 人の金で何をしてくれやがる、と振り向いた至の視界いっぱいに、見慣れた色の髪が踊った。
「ハハッ、完璧なエリートさんが崩れてるぞ、茅ヶ崎」
 商品のボタンを勝手に押した卑怯な指先が、トン、と至の眉間をつついてくる。至は目を見開いた。
「先、輩」
 千景の、面白そうに笑う顔が視界に入る。
 途端に顔の熱が上がった気がして、ふいとそっぽを向いた。
 気づかれてしまってはいけないと、職場用の顔を作り直した。
「何してんですか先輩、俺の金で」
「悪い悪い、買うもの悩んでたみたいだから、ついからかいたくなってね」
「そういうのは、綴とかにやってくださいよ」
 千景は、取り出し口に落ちてきたショート缶を取り出して、至に手渡してくれる。それは、至の髪の色に似たカフェオレだった。
「ああ、綴は反応が面白いかもね。太一とか。やったら怖いのは、幸と左京さんあたりかな」
「……つか今カフェオレって気分じゃない」
「じゃあそれ俺がもらおうか。何が飲みたい?」
 千景はそう言って、チャリンとカフェオレ分の小銭を、手に乗せてきた。本当に揶揄するだけのつもりだったらしく、後輩にたかろうということではないようだ。
 千景はもう一本分、小銭を投入して、至を振り向いてくる。深く考えずに、目の前のボタンを押してやった。
「……カフェオレじゃないか」
「嫌がらせです。先輩、甘いの苦手でしょ」
 デロデロに甘いというわけでもないが、無糖や微糖に比べたら甘い。すっと細められた目がおかしくて、至は腰をかがめてカフェオレを取り出した。これでお互いカフェオレだ。
「はい先輩」
「どうも。……茅ヶ崎もなかなかいい性格してるよな」
「褒めても何も出ませんよ」
「それは残念。コーラでも押すのかと思ってたけど」
 寮でゲームをしているときは、大抵コーラがお供だ。
 案外よく見ているのだなと思って、じんわりと胸が温かくなるのを自覚して、頭を抱えた。見てもらっている――そんな些細なことに浮かれてしまったなんて、どうにも情けない。
「あれは寮だけですよ。それに、ちょっと疲れてるみたいなんで、糖分取っておかないと」
「ああ……昨日また夜更かししてたみたいだな。寝たの三時だったか。少しは控えたらいいのに」
「余計な世話、……ってあれ、先輩起きてたんですか?」
 デスクで飲もうと思っていたカフェオレの蓋をカシュリと開ける。千景も付き合ってくれるだろうか、という打算があったのは自覚していた。
「仕事柄、物音には敏感でね」
 缶に口をつければ、千景も同じように蓋を開けて付き合ってくれる。至は目を眇めて呆れ返った。
(その設定まだ生きてんのか)
「エージェントは大変ですね、ハハハ」
 千景はことあるごとに、こうして作り上げた〝設定〟を表に出してくる。
 どうも、彼は危ない組織のエージェントで、裏の仕事をしているから営業成績がいいのだとかどうとか。至がそういう設定に食いつくことを知っていてやるのだから、タチが悪い。
「茅ヶ崎、ところで今夜空いてるか?」
「は?」
「今夜」
 一瞬何を言われたのか分からず、そっぽを向いていた顔を思わず振り向かせてしまう。
 缶コーヒーが当たる千景の唇に目が行ってしまって、後ずさりたい気分だ。さらに「今夜」と繰り返されて、ドクンと胸が高鳴った。
「気が乗らなければ、構わないけど」
 千景は静かにそう続け、カフェオレを飲む。動く喉仏にさえ色気を感じてしまって、至は体を硬直させた。
(――え、待って待って、何それ、マジで?)
 あの夜、というか朝、〝お互いの気が向けば〟というようなことを言っていた気がする。
 いや、気のせいではない。そのあと散々に啼かされたのだから、冗談でなかったのは理解できる。
 それでも、こんなに早く次のお誘いがくるとは思っていなかった。
 ドキンドキンと胸が鳴る。
 惚れた相手からベッドへのお誘いなんてされたら、浮かれてしまうのは仕方がない。仕方がないが、これは気づかれたらいけないものだ。
 至は震えそうな声をどうにか抑え、ゆっくりと口の端を上げた。
「いいですよ、付き合ってあげても」
 本意ではなさそうに、視線を流す。その視線はあからさまな色を放って千景を誘った。
「そういう顔は、後でしてくれ」
 千景の方もそれを受けて口角を上げ、笑みを押さえるように、缶を持った人差し指の背に口づける。そのまま至の頬を撫で、間接的にキスを降らせてきた。
「これ、あげるよ。やっぱり甘いのは苦手だな」
 そう言って、半分ほども残っているカフェオレを、至に差し出してくる。思わず受け取ってしまったのは、指を通してのキスに気を取られたせいだろう。
「じゃあ茅ヶ崎、後で」
 千景はそれだけ言い、仮面をかぶって、リフレッシュスペースを出ていってしまった。至は蓋の開いたカフェオレ二つを手に、しゃがみ込む。
「…………っあぁ〰〰マジか〰〰」
 心の準備ができていない。
 夜のこともそうだが、あんなキスをしていくなんてずるいと、至は心の中で悪態をついた。


#セフレ #シリーズ物 #カクテルキッス #ウェブ再録

(対象画像がありません)

こういうところ

NOVEL,A3!,千至 2018.06.30

#両想い #千至 #ワンライ

 水曜日は、ノー残業デー。 の、はずだ。それなのにどうして、まだデスクにいるのだろう。 茅ヶ崎至は、…

NOVEL,A3!,千至

こういうところ


 水曜日は、ノー残業デー。
 の、はずだ。それなのにどうして、まだデスクにいるのだろう。
 茅ヶ崎至は、パソコンの前で大きなため息を吐いた。
 来週取引先の企業相手にプレゼンがあるのだが、うまく資料が上に通らない。訴求力が弱いだのもっと分かりやすい説明が欲しいだの、無理ではない難題がぽんぽん飛んでくるのだ。いったいどこまでを求められているのか、終わりが見えない。

 だけど仕事はこれだけではなくて、かかりっきりになれないのがつらいところである。日々の仕事をこなしてから、空いた時間で資料を作らなければならない。
 ゲームのデイリー課題をこなすのは得意だが、仕事はやる気が出ない。

 そうやって後回しにしてしまったツケが、今、こんなところで。
 この仕事がなければ、今頃は寮で美味しいご飯を食べて、面倒くさいけどお風呂に入って、笑い声の聞こえるあの空間でゲームを楽しんでいただろうに。
 そう思うと、この資料にOKを出さない上司が恨めしくも感じられた。

「何が足りないんだよ、マジ殺したい」

 タン、と乱暴にエンターキーを押す。もちろん、同僚たちが全員返ってしまっているからこそ出る悪態だが、たったひとり、それを聞いている男がいた。

「口が悪いな、茅ヶ崎」
「――先輩!? は? な、なんで……とっくに帰ったはずじゃ」

 会社の先輩で、劇団の仲間である卯木千景が、背後から声をかけてくる。気配なんかまるでなくて、文字通り飛び上がりそうなほど驚いた。もっとも、至に人の気配が探れるかどうか、そもそも分からないところだが。
 しかし千景は自分の仕事を終えてとうに退勤しているはず。なぜここにいるのだろうか。

「帰ったよ。お前がまだ帰ってこないみたいだったから、戻ってきた。さっきLIME入れたのに」
「え? あ、すみません、気づかなかった」

 言われて携帯端末を確認してみれば、確かに千景から心配するようなメッセージが届いている。
 見ていなくてよかったと思ってしまった。
 何しろたまにデレるこの恋人は、至の心を簡単に持っていってしまう。仕事どころじゃなくなるはずだ。

「どこで詰まってるんだ。今日残業ナシの日だろ、サビ残するとまずいんじゃないか」
「そう言われても、上がGOサイン出してくれないんですから……」

 正直どこで詰まっているのかも、自分では分からない。上の求めるものが、少しも見えてこないのだ。

「見せて。それと、ちゃんとメシ食え。テイクアウトの買ってきてやったから」
「カレーじゃないですよね」
「カレーがよかった?」
「昨日三食カレーだったんで、それは嫌です」
「だろうね。この時間だし、お茶漬けだよ。出汁茶漬けの店、近くにできてただろ」

 言って、千景は至の前にビニール袋を差し出してくれる。使い捨て容器に入ったご飯と具材、そして温かなお出汁。

「あそこ、テイクアウトやってたんですか……ありがとうございます」

 その温かさは千景の優しさと相俟って、疲れた心を癒やしてくれる。至はありがたくその差し入れをいただき、白飯の上に焼き鮭を乗せてお出汁をかけた。食欲をそそるほのかな匂いが、体中に染み渡ってくる。

「ふぅん……なるほどね」

 その間に、千景は至の作ったプレゼン資料を見てくれている。その言い様は、やはり千景の目から見ても何かが足りないのだと知らされた。

「やっぱ、駄目そうですか?」
「駄目というか、伝わりづらい、かな。これS社だろ、あそこは古株多いから、少し頭が硬いんだよ」

 少し待ってて、と千景は資料をプリントアウトして、改善案を提示してくれる。こんなところを見ると、千景はやっぱり〝先輩〟なのだなと、変なところで感心してしまった。請け負っている取引先が違うせいか、直接指導を受けたことはなかったが、千景の成績が良い理由が少し分かった気がする。

「B社の時は、若手が多かったんだろう。新しいモノを受け入れようとする思いがたぶん強くて、契約取れたんだと思うぞ」
「あ、……確かにそうだったかも。じゃあ、ここもう少しシンプルにした方がいいですよね」
「そういうこと。違う会社なんだから、それぞれに合った資料を作った方がいい」
「情報収集も仕事のうち、ですか」

 先輩の専売特許ですねと付け加えると、勝ち気な笑顔を向けられた。
 卯木千景のこういうところが、無性に腹立たしい。腹立たしいほど、胸が高鳴る。心が疲弊していたことも忘れて、千景に甘えてしまいたくなる。

「先輩、ほんとずるい……」
「そう? 言っておくけど、こんなことしてやるのお前だけだぞ」
「余計タチ悪い」
「お前が俺にときめいてるのは分かったから、それ早く食べて。資料直したら、早く出るぞ。運転は俺がしてやる」

 至れり尽くせりで、いっそ気味が悪い。千景に何かあったのだろうかと、不思議に思って視線を向けてみれば、手首につけた腕時計をトントンと指された。

「早くお前にキスをしたい。せっかくノー残業デーだから、時間多く取れると思って、待ってたんだぞ」

 絶句して、顔を赤らめる。きっと彼の運転する車がまっすぐ寮に向かうことはないのだろう。
 やっぱり卯木千景のこういうところが、無性に腹立たしいと思いつつ、至は残った出汁茶漬けに手を伸ばすのだった。


#両想い #千至 #ワンライ

(対象画像がありません)

休日の過ごし方

NOVEL,A3!,千至 2018.06.23

#両想い #ラブラブ #千至 #ワンライ

 日曜日は好きじゃなかった。 いや、ある意味好きだったけど、嫌いでもあった。特に夜だ。この時間が終わ…

NOVEL,A3!,千至

休日の過ごし方


 日曜日は好きじゃなかった。
 いや、ある意味好きだったけど、嫌いでもあった。特に夜だ。この時間が終わってしまえば当然次は月曜日が来て、出勤しなければいけない。それが苦痛だった。働きたくない。ゲームだけしていたい。なんとか不労収入で生活したい。
 徹夜でゲームするのもいいんだけど、それで仕事失敗したら大変なことになる。外面だけはいいから、疑われるようなことはないんだけど、約一名だませない相手がいるんだ、今は。
 いや、だませないっていうか、さらけ出しちゃってるっていうか。
 卯木千景は、職場の先輩だ。だから俺の仕事中の姿を知っている。その上、MANKAI寮のルームメイト。つまり寮での俺の姿も知っている。だますのは絶対に無理だ。
 加えて、俺の隣で寝ているこの人は恋人でもあって、そもそもだましたいという感情がない。
 職場での姿も、寮での姿も、ベッドの中の色んなあれも知っていて、全部受け止めてくれる。そんな人いるなんて思わなかった。

 だから最近は、日曜日も好き。

 仕事で疲れて帰る金曜日、体力が残っていればベッド行くけど、忙しい時期は無理になる。体力つけろって怒られるんだよね。解せぬ。
 土曜はゲームを楽しむ日。部屋にこもって好き勝手ゲームしていても、先輩は怒らないし邪魔しない。最近は万里も先輩が部屋にいることに慣れて、以前みたいになった。
 そうして、夜からこの日曜の朝にかけての時間が、俺にとっては至福のひととき。
 ゲーム楽しんで鋭気やしなって、夜は先輩の運転でラブホに向かう。通勤に車使うときは俺が運転するから、先輩の運転するとこ見られるのは嬉しい。やっぱね、俺も免許持ってるのに先輩の運転で出勤すんのは気が引けるしね。
 何より、先輩の運転に見惚れた状態で出勤なんかできるわけない。絶対に顔が緩んでる。

 そんなだから、こんな時間、すごく好き。
 先輩が俺の隣で眠ってくれている。最初にこの寝顔を見たときは、嬉しさで死ぬかと思った。俺も先輩も、他人と深く関わるのが苦手だ。それなのに、無防備に寝顔をさらせる、さらしてくれるっていうのは、劇的な変化だと思う。
 先輩、眼鏡してる時もいいんだけど、眼鏡してなくてもかっこよくてね。正直顔面もチート。マジ腹立つ。
 少し汗に湿った髪が、先輩の額を隠す。俺はそれをそっと撫でて短く息を吐いた。

「先輩、起きてるでしょ」
「うん」

 やっぱり、と呆れれば、ようやく先輩の目が開く。見慣れていてもおかしくないのに、全然慣れない。俺をじっと見つめてくる目に胸が高鳴る。

「おはよう、茅ヶ崎。お前は俺の寝顔眺めるの好きだな、本当に」
「別に」
「ふぅん?」

 否定はするけど、やっぱりごまかせない。事実なんだからしょうがないけど、楽しそうに笑う先輩に腹が立つ。俺だけすごく好きみたいだろ。

「俺は好きだけど。茅ヶ崎が、なんかネコみたいに無意識にすり寄ってくるのも可愛い」

 そうでもなかった。先輩も大概俺のこと好き過ぎだった。

「今日、朝ご飯どうします?」
「お腹減ってる?」
「……ちょっと」
「ああ、そうか、昨夜は少し激しくしすぎたから」
「そういうことを言ってんじゃないんですけど」
「なるほどもっと激しくてもいい、と。了解した」
「そんなことも言ってません!」

 ああ、いやだこの人、絶対に分かっててやってるに違いない。そういうとこが好きなあたり、もう救えないけど。

「シャワーして、どこか食べに行こうか」
「いいんですか? 今日は暇なんですね」
「この間朝までいられなかったこと、根に持ってる?」
「別に」
「……今日はずっと一緒にいられるから、そうむくれるな」

 ぱち、と目を瞬く。そうか、今日は一緒にいられるのか。だったらむくれてる時間が惜しい、さっさとシャワーしよう。体のあちこち痛いけど。

「先輩のおごり?」
「ちゃっかりしてるな。別にいいけど」
「ははっ、おねだり上手って言ってくださいよ。先輩の機嫌がいい内に言質取っとかないと」
「お前ね……。でも、いいな、こういうの」
「え?」
「ゆったりした日曜日、茅ヶ崎とデートするの好きだから」

 さて一緒にシャワーしよう、と先輩がベッドを抜け出す。
 困った。日曜日、もっといっぱい好きになる。


#両想い #ラブラブ #千至 #ワンライ

(対象画像がありません)

きみがほしい

NOVEL,A3!,千至 2018.06.16

#両想い #ラブラブ #千至 #ワンライ

 先月の売上データを分析して、会議に使う資料を、ひとまずの体裁を整え誤字脱字だけチェックして、上書き…

NOVEL,A3!,千至

きみがほしい


 先月の売上データを分析して、会議に使う資料を、ひとまずの体裁を整え誤字脱字だけチェックして、上書き保存した。
 右下に表示される時計をちらりと見やり、至は周囲に視線を走らせる。みんな自分自身の仕事に忙しくて、誰もこちらを気に留めてなどいやしない。ふ、と小さく息を吐き、できるだけ不自然でないように腰を上げた。
 ちょっと飲み物買ってくる。そう隣の同僚に声をかければ、おー、と気の抜けるような声が返ってきた。しかし助かった。ここで、「俺のも買ってきて」などと言われていたらと思うと、席を離れる理由の選択肢を間違えた自分自身が情けない。

 このミッションはどうしても完遂しなければならないのだ。誰にも見咎められず、切り抜けてこそ、意義がある。

 そう思いつつ、逸る心臓を周りに気取られないように足を踏み出した。

(落ち着け。落ち着け、焦ったら駄目だ。変に思われる)

 誰にも引き留められませんように。そう思いながら踏み出す足が、震えているように感じる。膝のあたりがむずがゆくて、手の指先が冷えているような感覚さえあった。
 ドキン、ドキンと胸が鳴る。呼吸も心なしか浅くて、唇が震える。

(大丈夫だ、気づかれない)

 至はフロアを抜けて廊下を歩き、人がいないことを確認してから階段へと続くドアを開けた。いつもより重く感じる鉄扉は、緊張しているからに違いない。
 踊り場から身を乗り出して、上階に人がいないことを確かめる。そして、下の階にも。ほっと息を吐いた。
 自社ビルであるからか、社員たちのフロア移動は大抵がエレベーターだ。ワンフロアでさえそうする者たちが多く、朝や定時直後は大変な混雑になる。健康のためにと自分のフロアまで階段で頑張る者もいるようだが、仕事中はどうしても疲れていて、エレベーターになるらしい。
 至にはそれが有り難かった。

 心置きなくゲームができる。

 あまり褒められたことではない。というか、バレたら確実に叱責を受けるだろう。至とて、そこまで見境なく就業中にゲームをするわけではない。喫煙者が煙草休憩にいくくらいの頻度でしかないし、今の時期は忙しいのだ、いつもならまず仕事を片付けるのを優先する。
 だけど先ほども述べたように、このミッションはどうしても完遂しなければならないのだ。
 至は焦る足でフロアを二階分ほど降りる。手すりから再度上下階を見上げ、誰も来ないことを確認した。
 ポケットから携帯端末を取り出し、アプリを立ち上げる。ここは電波があまり良くないが、そうも言っていられない。
 邪魔をされたくないし、イケメンエリートで通っている自分が、こんなものにハマっているなんて知られたくない。恥ずかしいわけではなく、後々面倒なことになりそうなのだ。猫を被るのも楽じゃない。
 そうして立ち上がったアプリのホーム画面を眺め、至はコクリと唾を飲んだ。もう少しでメンテナンスに入ってしまう。するなら今しかない、タイムリミットが迫ってきていた。

(今度こそ……きてくれますように)

 至がタップしたのはデイリーの課題でも特別イベントでもない。
 それは、限定スカウトのページ。推しキャラのスカウトガチャが、今日までなのだ。もっと詳細に言えば、あと五分ほどで終わってしまう。
 至はできるだけ何も考えないように、石を消費して十人のスカウトができるボタンをタップした。

(来い、来い来い来い、来い)

「来いッ……!」

 スカウトのキャラが揃い、くるくると画面の中で踊る。スキップはできるのだが、このスリルと期待を楽しむには、うずうずしながら眺めるのがいちばんだ。
 だが、結果は敗退。

「…………ッソが! 排出率もっと上げろよ!」

 いや、SSR一枚とSR三枚があればまずまずの結果ではあるのだが、至が欲しいのはそれではない。
 チッ、と盛大に舌を打ったところで、人の気配。至はハッとして端末を持った腕を下ろし、息を潜めた。
 どうも、下の階の社員数名が、会議後に頑張って階段を使おうとしているらしい。なにも今日いまこのときに頑張らなくても! と悪態を吐きたい気分だが、至はただじっと祈った。ここまで上がってきませんようにと。
 祈りが通じたのか、社員たちは会議の結果をグチグチと呟きながら、階下に降りていった。
 ほう……っと安堵の息を吐く。

「落ち着け、落ち着け、あと二回……三回、できる」

 タイムリミットまでもう少し。迷っている暇はない。至はもう一度スカウトボタンをタップした。目当てのカードが出ない。出ない。課金する時間はあるかどうか。

「もう一度……っ!」

 石も、時間も、もうこれが最後かと思われた。
 九人ハズレ、最後の一人が明かされる。至は目を見開いた。
 それこそまさに、待ち望んだ推しのカード!

「――ッしゃあ! キタコレ!!」

 思わずそう叫んだ。ここは寮の中ではないのだと我に返り、口を押さえる。だけど仕方がない気がした。ずっとずっと欲しかったものがやっと手元にきてくれたのだから。興奮するなという方が無理だ。ひとまずスクリーンショットを撮っておくことにする。

「良かった……!」

 口許が緩む。安堵して、力が抜けていくようだ。
 だから、油断した。

「いけないなあ、仕事中にゲームか? 茅ヶ崎」

 上の方から声が降ってくる。ぎょっとして振り仰げば、すぐ上の手すりから見下ろしてくる男がいた。

「せっ……んぱい」

 思わず声がうわずる。千景は楽しそうに笑みをたたえて階段を下りてきた。
 どうして、なんでここに。そんな思いでいっぱいである。
 何しろ、

「先輩……明日まで出張だったんじゃ……」

 千景は今ここにいないはずなのだから。ドキンドキンと鳴る胸を静める暇もなく、千景は踊り場から回り込んで至の一段上で立ち止まった。

「早く交渉済んだからな。食事の誘い断って、帰ってきた」
「さすが、優秀ですね」

 どうにも照れくさくて、ふいとそっぽを向く。携帯端末を早いところしまわねばと慌てたのが、いけなかったのかもしれない。千景に端末を持った手首を取られた。

「デスクにいなかったから、ここかなって当たり付けてきたけど、本当にゲームやってるとはね」
「う……」
「口止め料は何をもらおうか」
「意地が悪いですよ、先輩」
「仕事中にゲームする方が悪い」

 ぐうの音も出ない。確かに、至が全面的に悪いのだが、素直には認めきれない。

「だって仕方ないでしょ。全然こなかったんですから。今日のメンテ前までがリミットだったんです」

 見逃してくださいよ、と少し不機嫌顔で呟く。このミッションだけは逃したくなかったのだと、説明してやりたいが、したくない気持ちもあった。

「そんなに欲しいカードだったのか? SSR?」

 手を離して千景はため息を吐く。至はコクンと頷いて、覚悟を決めた。仕事まで放り出す人間だとは、たとえ事実でも思われたくない。

「先輩が悪いんですよ……」
「俺? なんで」

 至は端末を操作し、撮ったスクリーンショットを千景に向けてみせた。千景はひとつ瞬いて、目を丸くする。

「先輩のSSR……どうしても四枚欲しくて」

 欲しかったのは、卯木千景のSSR。普段見られない笑顔が、どうしても欲しかった。
 しかしどうせなら完凸させたいし、だけど開花前も取っておきたい。そうなると、自然と四枚必要になってくるのだ。イベントは無事に完走したけれど、欲求は深かった。

「あのね茅ヶ崎……」

 千景が、呆れとも照れとも取れそうな声音で名を呼んでくる。恥ずかしくてしょうがない。照れくさくてしょうがない。

「お前には本物の俺がいるのに」
「出張ばっかりの人が、よく言う」
「俺がいない間それをオカズにするのか?」
「なっ……あ、のねえ、そういうことじゃないんですよ、先輩のSSRが俺の端末の中にあるってのが重要でそういう、やらしい、ことは……、先輩、このカードの唇やらしすぎません?」
「したんだな」
「………………一回だけ」

 至は恥ずかしさで、たまらず項垂れた。手の甲に当てた額が、熱いように思う。

「ちがさき」

 千景の甘ったるい声が、耳のすぐ傍で聞こえる。思わず肩を揺らせば、ちゅっと音を立てて耳朶にキスをされた。

「四枚そろえるの、もしかして課金したか?」
「……まあ、ちょっと」
「茅ヶ崎の〝ちょっと〟は信用ならないよね」
「…………これくらい」

 言って、掛けた金額分の指を立ててみせる。千景にとっては想定外だっただろうか。それとも想定内だっただろうか。腰に腕を回されて、体が密着した。

「せ、先輩ここ職場」
「お前に言われたくない」
「んぅ」

 唇が重なる。唇を吸われる。唇に歯が当たる。
 そっと開けばゆっくりと舌先が入り込んできて、誰も来ない階段で長いキスをした。

「茅ヶ崎、お前が〝俺〟に課金した分、今夜お前の体に返すから」

 くらり。
 目眩のするような甘い声で囁かれ、至は甘い息を吐き出した。


#両想い #ラブラブ #千至 #ワンライ