No.323, No.322, No.321, No.320, No.319, No.318, No.3177件]

ONE NIGHT IN HEAVEN-004-

カクテルキッス01 2018.05.03

18歳以上ですか? yes/no

カクテルキッス01

ONE NIGHT IN HEAVEN-004-

18歳以上ですか? yes/no

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ONE NIGHT IN HEAVEN-003-

カクテルキッス01 2018.05.03

#セフレ #シリーズ物 #ウェブ再録 #カクテルキッス

「……お前、人に出された物飲むのはマナー違反だろう」「先輩そういうこと気にするタイプじゃないでしょ」…

カクテルキッス01

ONE NIGHT IN HEAVEN-003-


「……お前、人に出された物飲むのはマナー違反だろう」
「先輩そういうこと気にするタイプじゃないでしょ」
「茅ヶ崎、あの女に食われたいのか?」
「は?」
「女を振り向くな。俺の質問に答えろ、あの女とホテルに行きたいなら邪魔はしない」
 あの女と言われて、このカクテルをくれた女性だろうと思い当たり、振り向こうとするけれど、千景の鋭い視線と低い声に負けて、できやしない。さらに、面倒そうな言葉が降ってくる。
「冗談でしょ。悪いけど好みじゃない」
「ああ、監督さんみたいなのがタイプか? それなら女の好みは悪くないな」
「いや監督さんにそういうアレは……」
「まあお前の好みはどうでもいいけど、面倒なことしてくれたな」
 グラスを持つ手首をカウンターに押しつけられる。これ以上飲むなということなのだろうが、面倒という理由が至には分からない。
「茅ヶ崎、怒るなよ? ……俺に合わせろ」
「え、ど、どういう」
『二人で飲もうなんて言ったから期待したのに、女の誘いに乗るのかよ、修司(・・)
 千景の声のトーンが変わる。違う名で呼ばれる。エチュードなのだと瞬時に悟った。
『そ、そんなつもりは』
『カクテルの意味も知らないで、ほいほい受け取るな。一夜だけの遊びができるんだったら、俺でもいいだろ……!』
 千景の……千景の役が、押しつけられた手からグラスを分捕っていく。至は役に入りきれずに目を泳がせた。
(一夜限りって、あーもしかしてそういう意味かコレ)
 カクテルにも、それぞれ意味があるのだと、先ほど知った。察するに女性から送られたアキダクト・カクテルとやらは、一夜限りのワンナイトロマンスというような意味でもあるのだろう。
 それとは知らずにうっかり飲んでしまったことを、さすがに後悔した。千景が怒るのも無理はない。
『修司』
貴史(・・) 、え、ちょっと、待っ……』
 考え事をしている隙に、グイと強く抱き寄せられた。
〝貴史〟の真意を悟る前に、唇同士が触れてしまう。流れ込んできたのは、一夜限りを意味するアキダクト。
 至は目を瞠る。傍にいた店員が、気を利かせてか離れていくのをその視界に認め、顔の熱が上がった。
(怒るなよって、これ、怒るに怒れないんだけど……)
 塞がれた唇では、物理的にも、そして助けてくれているのだと思えば、心理的にも怒れない。たかがキスだ、と目蓋を落とす。
(先輩、じゃ、ないか。貴史はずっと修司のこと好きだったって設定だよな。でも貴史だってまんざらでもなかった……違うな、好きだった、の方がいい。期待、したよ。二人で飲もうって言ったら、OKしてくれたの……)
 エチュードでも、観客がたとえ少なくても、気を抜きたくない。紬や丞の演劇馬鹿が移ったかなと、至は空いた片腕を背中に回して抱き寄せた。
『貴史、いやだよ、俺……』
 いったん唇を離して、正面の彼をじっと見つめる。
〝彼〟の瞳が寂しそうな色に変わるのに、胸がズキリと痛んだ。
『お前とは、一夜なんかじゃ終われない……!』
『修、……』
 そうして自ら唇を重ねた。
 彼とキスをするのは初めてではない。気持ちよかったあの日のキスを、まだ忘れていない。乗ってくるかなと思いつつ唇を開けば、忍び込んでくる舌先。すぐに捕らわれる……いや、捕らえさせた。
『んっ――』
 初心なふりをしようか。それともいっそ積極的に出てみようか。
 彼はどちらの方が好みだろう、とうっすら目蓋を上げれば、レンズ越しの瞳と出逢ってしまった。
 愛しそうに〝修司〟を見つめるその色に、ドキリと胸が高鳴った。
 同時に、ぞわりと何かが背筋を這い上がってくる。
 心音が速くなる。〝貴史〟が触れている箇所が、異様に熱い気がしてくる。
(入りすぎた。いや、まだ大丈夫、入りすぎたって思える自分が残ってる)
 カウンターで情熱的なキスを交わしながら、至は引き際を探した。いや、探したいのにそうできない。彼のキスは心地が良すぎる。
(待って。待ってヤバい……やっぱこの人相当な場数踏んでんだな……)
 ぞわぞわと肌を取り巻くこの感覚が、何なのかは理解できる。
 理解はできるが、認めたくはなかった。
(キスひとつで感じるとか、ほんとこの人チート過ぎる。これで何人の男を手玉に取ってきたんだか)
 なんだか無性に腹立たしい。
 仕事なのかプライベートなのか知らないが、そのうちの一人になんかされたくない。
 至は絡みつく舌に歯を立ててやった。
 ん、と小さく声を上げて、千景の体は離れていく。その視線は至ではなく、テーブル席の女性に注がれているようだった。
『ここ、出ようか、修司』
『貴史……』
『収まりがつかない』
 それでも演技はまだ続けているようで、手が腰に回ってくる。びく、と震えたのは、演技だということにしておいた。
「今後、お前と二人で飲みにいくのはやめにしておくよ、茅ヶ崎。どんなイレギュラーが起こるか分かったもんじゃない」
 飲んでしまったアキダクトの分に、チップを少々上乗せして、店を出るなり卯木千景に戻る一人の男。さらりとした髪を、すらりとした指で面倒そうにかき上げるのが、癇に障った。
「すいませんでしたね、世間知らずで。っていうかあんな意味があるとか思わないでしょ、普通」
「茅ヶ崎ならそういう誘いもたくさんあっただろ、これまでに。もっとあからさまなのかな」
 おかげで、助けてもらった礼もろくに言えていない。突然唇を奪われたことで帳消しになるだろうかと、視線を背ける。
「あからさまな方が、分かりやすくていいですけどね。色仕掛けで仕事取ったことなんてありませんから、俺は」
「なんだ、いやみとはご機嫌斜めだな」
「誰のせいだと思ってるんです? あ、あんな……突然キスなんかされたら、怒りたくもなりますよ」
 今さら唇を拭っても、感触は消えない。
 千景の唇、千景の舌先、濡れた音、湿った呼吸、響く衣擦れ。
 おかしな気分になっているのは、自分だけだと言われているようで、恥ずかしくてしょうがない。
「怒るなって言ったぞ、俺は。ああでもしないと、お持ち帰りコースだっただろう。あの女、いっそどっちでもいいみたいな顔してたからな」
 あの手合いはいろいろ搾り取られる、とネクタイのノットに指をかけて崩す。その仕種にさえ、胸が鳴ってしまった。
(あのカクテル、何ていったっけ、アキ……アキダクト、そう、アキダクトのせいだ。ウォッカが強い……そのせいだ、絶対)
「まあ、お前とのキスは悪くなかったな、茅ヶ崎。うちのエージェントにいたら、ボトムで充分やっていけるだろうに」
 振り向いた千景の指先が、至の唇を撫でる。どういうつもりで、そんないたずらを仕掛けるのか、少しも分からない。分からなくて腹が立つ。たぶん、それだけだ。
「じゃあ、先輩がお持ち帰りします?」
 その指先が離れていく前に、至はぺろりと舌先で遊ぶ。レンズの奥の瞳が揺れたのを確認して、気分が良かった。
「茅ヶ崎」
 とがめるような、いさめるような視線が突き刺さる。動揺は一瞬で隠れてしまった。
 自分はこの男をどうしたいのだろうと、至はレンズの向こうの瞳をじっと見返す。慌てさせたいのか、暴きたいのか、跪かせたいのか。最後のはないかなと思いつつ、口の端を上げた。
「俺の中にアキダクトなんか流し込んでおいて、そのまま知らんぷりって、ひどくないですか? 先輩」
「……キスだけじゃ足りなくなったって言うなら、まあ、確かに俺にも責任があるか」
「それな。あんな恋人同士みたいな熱いキス、体が勘違いしちゃってもしょうがないでしょ」
 千景はややあって、あからさまにため息をつく。至が舐めた指先で眼鏡のブリッジを押し上げ、目を細めた。
「ノンケに手を出す気はなかったんだけどな。まあ茅ヶ崎なら、面倒なことになる可能性はゼロだし……いいよ、ついておいで」
 どうも子供をあやすような言葉に、至は眉をひそめる。ベッドへの誘いくらい、もっと色気があってもいいんじゃないか。そんなふうに思う。
 せめてもう少しだけでも優しさがあれば――そう続けて考えかけ、ふと足を止めた。あれば――なんだというのだろう。
「茅ヶ崎? 怖じ気づいたなら、帰っていいよ」
 立ち止まってしまった至を訝しんで……いや、面白がって、千景が振り向いてくる。その言いように至は諦めたように息を吐き、小さく首を振った。
 この男に、優しさなんて求めたら負けなのだと。
「行きますから、ちゃんとイカせてくださいね」
「ああ、わりとお安い御用だな」
 口の減らない千景に、対抗できる手段など今のところない。至は早々に諦めて、熱のこもる体だけどうにかしてもらおうと、彼の少し後ろを歩いた。


#セフレ #シリーズ物 #ウェブ再録 #カクテルキッス

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ONE NIGHT IN HEAVEN-002-

カクテルキッス01 2018.05.03

#シリーズ物 #ウェブ再録 #カクテルキッス

 千景に連れられて店内に入れば、抑えめの照明と、深いグリーンを基調にしたテーブルセットが出迎えてくれ…

カクテルキッス01

ONE NIGHT IN HEAVEN-002-


 千景に連れられて店内に入れば、抑えめの照明と、深いグリーンを基調にしたテーブルセットが出迎えてくれる。
「カウンターでいいだろ」
「え、あ、はい」
 店内に客は何組かいる。テーブルを取り囲むソファにどっしり座り込む老齢の紳士や、奥のボックス席で多少のスキンシップを楽しむカップル、仕事帰りらしき青年、友人同士で飲みにきているらしい女性たち。
「なんか、予想通りで面白みもないな」
「どんなとこだったら面白かったんだ、茅ヶ崎は。パリピ御用達のとこでも行けばよかったか?」
「いやそれはそれで疲れるんで」
 あまり他人と深く関わりたくないらしい。千景が選びそうなところだ。二人はカウンターの隅に腰を落ち着けて、店員にファーストドリンクを注文した。
「いつもの。茅ヶ崎は?」
 いつもので通るくらいには常連らしい。至はしばし考え込み、エル・ディアブロを頼むことにした。
「茅ヶ崎は、ベースじゃなくて名前でカクテル選ぶタイプだろう」
「そうですね。ディアブロとかアガるわー」
 できあがるまでの間、至は携帯端末でいつものゲームを始める。今さら千景相手に遠慮もない。特別にイベントはないが、日課だけはこなしておきたいのだ。千景もそれを気にした様子はなく、ネットでニュースをチェックしているようだった。
「先輩のカクテル、それ何ていうヤツですか? 綺麗な色してますね」
「イスラ・デ・ピノス。ラムとグレープフルーツジュースのカクテルだ。〝無防備〟を意味している」
 千景のショートカクテルと、至のロングカクテルが出され、二人はグラスを合わせず掲げるだけの乾杯をした。
「ふぅん、カクテルにも意味とかあるんですか。……もしかして、俺のにも?」
「それは確か……〝気をつけて〟だったかな。ふふ、〝無防備〟と〝気をつけて〟なんて、ちょっと意味深だな。もしかして、この後何かが起こるのかな?」
 ちらりとよこされる視線に気がついて、至はそれをあえて見返してやった。
「どっちも俺に向けられたメッセージなら、ね」
 意味深に意味深で返せば、千景はどこか満足そうに口の端を上げる。その仕種に、思い出してしまった。
 あの日の――キス。
 SSRが引きたい至の物欲センサーを、千景はキスなんかで回避してくれた。
 別に、キスくらいでぎゃあぎゃあ言うつもりはないし、欲しかったSSRは無事に三枚も神引きできたし、問題ない。
 問題なのは、千景のその後の発言だ。
『俺女の子苦手なんだよね』
 これである。
 女の子が苦手、イコール同性愛者というわけではないだろう。免疫がないという意味で言ったのかもしれない。
 そもそも、あの発言が本当だったのかどうかさえ、このペテン師相手では分からないのだ。
 あの日以来、何もない。
 同室の相手ということもあって、最初は身構えたものだが、あっけにとられるほど何もなかった。
(マジ腹立つ)
 ホッとしたのが八割、あと二割はなぜか苛立ち。咲也や綴たち純情組だけでなく、よもや自分までもが、からかいの対象に入っていたなんて。
「先輩、真面目に答えてもらいたいんですけど」
「俺はいつだって真面目だけど? なに」
「ゲイなのは真実?」
 間を置かずに訊ねる。だからどうというわけではない。
 もはや、劇団には欠かせない人になっているし、至にしても、部屋にいて邪魔に思わないくらいになってきた。これをネタに劇団から追われるだとか、そういうことにはしない。
 ただ純粋に、真実が知りたいだけだった。
「女を抱けないから、そうなるんだろうな。夜の相手はいつも男だ。お前にキスをしたあの夜もね」
 千景は至を見やって瞬きひとつ。視線を正面に戻し、よどみなく告げてきた。
「もしかしてずっと気にしてたのか」
「……そりゃ、気になるでしょう。あんなことされた後だし、余計に」
「ああ、なるほど。それはすまなかったな。安心していいよ、劇団のヤツらに手を出すつもりはさらさらない。お前も含めてね」
「そりゃどーも」
 やはり千景はそうだったのだ、とひとつ謎が消えた。真澄の勘は当たったわけだ。真澄の想い人である監督と二人きりでも、危険性を感じていなかったのは、そういうことだったのだろう。もっとも、真澄がこの解にたどり着いているかは別だ。
 ただ、面白くはない。
 手を出すつもりはないと、面と向かって言われたのは初めてだ。
 いや、別に手を出されたいわけではないし、今までだって、男性にそういうアプローチをされたことなどない。女性相手ならば、少し言葉を交わしただけでさえ、もったいぶった思わせぶりな視線を投げかけられる。それなのに、わざわざそんな宣言をされるとは。
「うちの組織、ハニトラも結構やるからなぁ。エージェント(・・・・・・)はそういう技術も仕込まれるんだ」
「さっきの設定続いてたんですか。ハハ、先輩は男対象にハニトラ仕掛ける専門ってこと?」
「そう。邪魔なヤツらはそういう問題を起こさせて、会社から消すんだよ。もしくはうちに有利な条件で取り引きさせるとかね」
 千景なら本当にやりかねない。そう思わせる何かが、この男にはある。
 だとしたら、あの日のキスも、組織とやらに仕込まれた技術なのだろう。確かに気持ちが良かった。まだ感触が思い出せるほど、至の脳裏に焼きついている。
「って、こんなとこでいいかな? 中二病設定はあんまり得意じゃなくて」
「どの口が言うんですかね。先輩、本当に食えない男ですよ」
「俺は食らう方だしな。まあ、食われる方もできるけど。茅ヶ崎、試す?」
「冗談でしょ」
「そう、冗談」
 呆れ混じりに返したら、千景は飲み終わったショートグラスの底をぶつけ、わざと音を立てる。
「だからこれ以上踏み込んでくるなよ、茅ヶ崎。それがお前のためだ」
 低くなった声のトーンに、ぞく、と背筋が震える。苦痛さが混じったそれに、踏み越えてはいけないラインを越えかけたのだと知った。                 
「……すみません」
「怒ってるんじゃない、心配してるんだ。俺の毒にあてられて死にたくはないだろう?」
「そりゃまあ……俺もまだ若いんで」
 牽制された気分だ。いや、実際された。必要以上に関わるなと。
 なぜこんなにも気分が沈むのか分からない。たぶんこんな千景を知っている人間は少ないだろう。
 監督ならもしかして知っているかもしれない。仲の良さそうな密も。
 そういえば、密の記憶がなかったのはもしかして――そんなふうに一人考え事をしていたら、千景の目の前にコトリとグラスが置かれたのに気づく。いつの間に次のオーダーをしたのだと振り向けば、訝しげに眉を寄せていた。
「……頼んでないけど?」
「あちらの女性からです」
 千景は、そのカクテルが置かれた理由を分かっていながらも、あえて店員に訊ねたようだった。案の定、店員はあるテーブルの女性客を手で指す。だが振り向いたのは至だけ。千景は興味もなさそうだった。
(ナンパキタコレ。こういう誘い方ってマジであるんだ)
 高価そうなスーツを着たイケメンともなれば、女性がそうしたいのはよく分かる。
 そこで自分じゃないのが気にくわないが、至の好みでもないし、正直そういう出逢いは面倒くさい。至も早々にその女性から目を離した。
「遊んでそうな女ですね。話し相手くらい、受けてあげたらいいのに」
「金になるなら、どうにか我慢するけどね。申し訳ないけど、下げてくれる? ウォッカベースは好きじゃない」
 千景は本当に面倒そうに、店員にそう告げる。ウォッカが好きではないなどと、嘘までついて。
「東さんたちと結構飲んでますよね、先輩」
「アレはコレとは違うだろう。この状況でアキダクト・カクテルを飲めって? 冗談じゃ――」
「先輩がいらないなら、俺がもらいますけど」
 もったいない。至は純粋にそういった思いでカクテルに手を伸ばした。
 隣に座っていた千景の目が大きく見開かれる。
「馬鹿っ、茅ヶ崎!」
 口をつけるのを止めようとしてか、千景もそれに手を伸ばしてきたけれど、少しだけ遅かった。オレンジキュラソーの色を受けたその液体は、すでに至の唇の中。コクリと一口飲んでしまってからだった。
「え?」
 至は驚く。
 まさか千景がそんなに慌てるなんて。本当は飲みたかったのだろうか? と首を傾げるも、忌ま忌ましそうに眉を寄せるその表情は、どうもそんなに単純なことではなさそうだった。


#シリーズ物 #ウェブ再録 #カクテルキッス

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ONE NIGHT IN HEAVEN-001-

カクテルキッス01 2018.05.03

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「え~、茅ヶ崎さんも飲み会行かないの~?」 甘えたような高い声が、耳を通り抜けていく。至はどうにかそ…

カクテルキッス01

ONE NIGHT IN HEAVEN-001-


「え~、茅ヶ崎さんも飲み会行かないの~?」
 甘えたような高い声が、耳を通り抜けていく。至はどうにかその女性の名前を思い起こそうとして――諦めた。同じ部署ならまだしも、交流のない部署ともなるともう分からない。
「ごめんごめん。かわいい妹が、俺の帰りを待ってるんだよね」
 それでもにこやかな笑みを返すあたりは、大人としての心得だ。
「あー、見たことある。髪の毛長い女の子。茅ヶ崎さんの帰りを待てるなんて羨ましい~」
「そりゃこんなにかっこいいお兄ちゃんなら、仕方ないよね~ブラコンでも~」
「あー、まあアイツもブラコンだし、俺もシスコンだし。じゃあそういうわけだから、ごめんね。飲み会楽しんできて」
 また来週、とひらり手を振ってやる。きゃあ、と小さな声が聞こえてきたが、至は構わずに背を向けた。
 面倒くさい。
 誰も見ていないことを確認し、至は心の中でそう思う。きっと顔にも出ていただろう。
 花の金曜日、そう親しくもない会社の同僚と、しaかも数部署合同での飲み会なんて、行っていられない。
 本当は妹なんか待っていやしないし、当然ブラコンだのシスコンだのは関係ない。
(はー、ほんと、面倒くさ)
 社会人になっていちばん困るのは、これだ。至はできれば仕事などしたくない。不労所得で生活がしたい。ゲームだけに興じていたいのだ。
 まあそうは言っても現実は厳しいもので、働かなければ賃金はもらえず、ゲームに課金できない。仕事が嫌いなわけではないが、こういった誘いを断るのは本当に面倒だった。
(劇団のヤツらと一緒にご飯とかならね、いいんだけどさ。何かジャンクな感じの)
 とはいえ、人付き合いが心の底から苦手というわけでもなく、親しい人間となら構わない。まさか自分が劇団員になるなんて、しかもまだ続いているなんて、一年前は夢にも思わなかったが。
 家族みたいな存在がそこにある。
 悪くないと思っていた。
 ただひとり、読めない男を除いては。
 小さくため息をつきながら廊下を歩けば、何の因果かエレベーターの前でその男の姿を確認してしまった。
 卯木千景。春組第四回公演から入団した男。
 度々公演を観に来ていたとはいえ、まさか入団までするなんて思わなかった相手だ。職場の先輩として多少知ってはいたが、距離が近づけば近づくほど、分からなくなる。腹の底で何を考えているか分からないのだ。
「せーんぱい」
「ああ、茅ヶ崎か」
「先輩も飲み会スルー派ですか」
 職場用のトーンで声をかければ、向こうからも職場用の仮面で返ってくる。外面だけ見ていれば、とても劇団であんな問題を起こした人物だとは思えない。
 この男には毒がある。
 以前から感じていたそれが、だんだんと現実味を帯びてくる。それがぞくぞくするほど心地いいのは、やはり毒だからだろう。
「俺が飲み会に参加すると思うか?」
「……ですよねー」
 抑揚なく返せば、エレベーターが生贄を受け入れるかのようにドアを開け、そろって飲み込まれた。
 狭くはないハコの中でも、退社時刻には大勢の人間がいる。金曜日ということもあってか、どの生贄もなんとなくそわそわとした様子だ。
 このぎゅうぎゅう詰めのエレベーターで、何を考えているのか分からない――もとい涼しい顔をしているのは、千景だけ。
 至はそんな千景の横顔を盗み見て、小さくため息をついた。
「先輩、取引先との飲み会にも付き合わないんですよね。それでなんであんなに成績いいんですか?」
 エレベーターを降りて、二人でそろって歩き出す。どうせ帰る場所は一緒だと、お互い何も不思議に感じていないようだった。
「秘密だって言っただろう」
「教えてくださいよ、俺にだけ、内緒で」
「お前だから教えたくないんだよ」
 思わせぶりに甘えてみせても、ふ、と笑うだけであしらわれる。そうなると思っていたが、実際にこうなると面白くない。
 千景は海外への出張が多い。もちろん国内でも顧客は多く担当していて、成績はトップクラスだ。至も悪いわけではないし、むしろ良い方だ。しかしもっと成績を上げれば、給料も上がって、課金額も増やせるかなと思うのだ。
 だが営業テクニックは簡単には教えてもらえない。ち、と舌を打った。
「守らなきゃいけないヤツだからな……」
 しかし、千景がぼそりと呟いた言葉が、至の耳にしっかりと届いてしまう。千景に好意を持っている女性ならば、ここでキュンと胸が締めつけられることだろう。至でさえが、ほんの少しドキリとしてしまった。
 その言葉の意味を考える。
「守らなければいけない」ということは、その秘密を知ったら危険が及ぶということだ。
「せーんぱい、まさかマジでヤバいことしてるんじゃないでしょうね」
 笑い混じりにそう返せば、眼鏡の奥の瞳が、鋭く射貫いてきた。だけどそれはほんの一瞬で、気のせいだったのかとも思える間。
「そうそう。茅ヶ崎、うちの会社にも結構ヤバい仕事やってる部署あるの知ってる? 裏の仕事ってヤツだな」
 次の瞬間にはまた、涼しい顔でそんなペテンで返してくる。本当につかめない男だ。
「企業スパイやら帳簿の改ざんやらいろいろね。賄賂なんか当たり前、ドラッグの売買もあるし、唯一ないのがコロシ、ってくらいヤバいとこ。俺はそこの部署兼任してるから、成績がトップクラスなんだよ」
「うわぁ中二設定キタコレ」
「お前に合わせてやったんだろ」
「アリガトウゴザイマス」
 おかしそうに肩を震わせる千景に、抑揚なく気持ちのこもっていない謝意を返す。どこまでが本当で、どこからが?なのか分からない。
 千景の言う言葉すべてを鵜呑みにするのは危険だと、長くはない付き合いの中で学んでいた。
「あれ。先輩、寮こっち……」
 ふいに千景がつま先の向きを変える。だがそれは、帰るべき寮への道ではない。至が千景の背中にそう声をかければ、振り向かないまま答えられた。
「今日は飲みたい気分だから」
 なるほど寄り道をするというわけか。会社の飲み会は行かなくても、飲むのは嫌いではないらしい。
「……先輩、俺も連れてってくださいよ。行くならお気に入りのとこなんでしょ?」
 そのまま帰ればよかったのに、至の唇は思うことと正反対の音を奏でた。
 だけど言ってしまったものは仕方がないと、千景を追うようにつま先の向きを変える。
「茅ヶ崎?」
「それともまさか、危ない仕事相手と待ち合わせ、――ですか?」
 スーツの袖をクンと引っ張り、仕返しのように千景を見据えた。まさか本当にそんな危ないことをしているわけではないだろう。そう思いたい。思いたいけれど、この男は謎が多すぎる。
 揺らいだ瞳が、レンズ越しに捕らえられたような気がした。
「謎は、謎のまま残しておくのもいいと思うけどね。構わないぞ、ついておいで茅ヶ崎」
 見透かされている、と気まずい気分になりながらも、拒まれなかったところを見るに、やはりあれは嘘なのだろうと安堵もした。


#シリーズ物 #ウェブ再録 #カクテルキッス

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2.22のガチャ事情

NOVEL,A3!,千至,カクテルキッス 2018.02.22

#シリーズ物 #カクテルキッス

カクテルキッスシリーズの挿話 どうしたものか、と、茅ヶ崎至は頭を抱えていた。抱えてとはいっても気分の…

NOVEL,A3!,千至,カクテルキッス

2.22のガチャ事情


カクテルキッスシリーズの挿話

 どうしたものか、と、茅ヶ崎至は頭を抱えていた。抱えてとはいっても気分の問題で、実際に頭を抱えているわけではない。そんなことをしたら、せっかくの新規配信の画面が見えなくなってしまう。
 至は両手で携帯端末を持ち、もう二十分ほど悩んでいた。
 というのも、今日限定のレアカードが配信されているからだ。二月二十二日ということでにゃんにゃんにゃんの、既存キャラが猫みみ姿になっているという、なんともベタなもの。
 しかしベタはベタだけあって萌える要素がてんこもりなのである。
 公式のお知らせで見られたレアカードは、進化前も進化後もデザインがよく、またキャラの表情もとてもいい。しかも今日限定とあっては、ガチャを回さざるを得ない。

 が、しかし。

「物欲センサー……」

 欲しい気持ちを気取られすぎているのか、何度回しても目当てのレアカードがきてくれない。
 もうここはさらに・・・課金して出るまで回すくらいしか思いつかない。
 いつもなら純真無垢な咲也の手を借りるのだが、今は深夜だ。真面目な咲也はもう眠っているかもしれない。起こすのも忍びない。
 ならば朝まで待てばいいと他人は言うだろうが、待てない気持ちほど厄介なものはないのだ。
 もう一回。もう一回だけ回してみよう。そう思って、十連のガチャを回した。

「……マジ最悪。出現率上げろよ運営……っ!」

 結果は、レア度で言えば高めのカードがきたものの、目当てのものではなかった。
 もう何度回したのか分からないが、こういうものは回した数を覚えていたら負けなのだ。

「あれ、まだ起きてたのか、茅ヶ崎」

 その時、小さなノックのあとにドアが開く。一応ルームメイトである、卯木千景のご帰寮だ。至はソファの上で、千景を振り向きもせずに画面を凝視しながらお帰りなさいと声を返した。

「遅かったですね、先輩。最近はこっちでまともに寝るようになってたのに」

 千景は、職場の先輩でもある。海外出張が多く、接する機会はあまりなかったが、MANKAIカンパニーに入ってから、同室ということもあり、コミュニケーションは多くなってきた。だがしかし、いまだに謎だらけ、本質など見えてこない相手だ。
 他人がいると寝られないらしく、公演前は本当にこの部屋で眠ることはなかった千景だが、どんな心境の変化があったのか、公演が終わってからはちゃんと部屋で過ごすようになっていた。
 ゲームの邪魔をされなければ別に構わないし、他人に干渉されるのが苦手な部分は共感できるし、してもらえている。至にとって千景は、実に都合のいいルームメイトだった。

「ああ、ただの性欲処理だ。本当に面倒だよな」
「あ、なーる。……あんまりそういうこと言わない方がいいんじゃないですか? うちの劇団って、結構純粋培養多いから」

 人である以上、本能として性欲は正常なものだ。それをどう処理するかはひとそれぞれであり、至が口を出すことではない。
 ただ、千景の言葉を振り返るにあまり褒められた行為ではないようだ。オトナの世界を知らない者が聞けば、軽蔑さえしそうである。

「ああ、それは分かるよ。からかう材料にはなるけどね。とくに咲也や綴なんかそうだろ。あいつらどうしてるんだろうな、こういうことの処理」

 千景もそれは理解しているようで、言う相手は選んでいるらしい。確かに至なら、純粋でもないし特に悪意もない。ルームメイトとして、お互いに必要な距離というものを、心得ていた。

「たまに思うんだよね。性欲とか全部、なくなればいいって。もともと欲しいものなんかないし、余計なんだよ。ああ、スパイスは別。あれは神の域だからな」
「先輩の物欲って、スパイスにしか反応しないんです? 女の子とか、お金とか、あるでしょ、いろいろ」
「ないよ。俺が欲しかったのは、……あいつら・・・・だけだったからな」

 ふ、と笑う呼吸が聞こえた。至はそれを不思議に思って、初めて端末から視線を背け、千景を見やった。眼鏡の奥の瞳は寂しそうに揺れていたが、これは訊くべきか。訊かないでおくべきか。

(……たぶん、後者。そういうことを俺に望む人じゃない)

 至は瞬きひとつ、ルームメイトとしての必要な距離を保ったまま、端末の画面へと視線を戻した。そこで、はたと気がつく。

(物欲がない? つまり、欲しくない・・・・・? ……センサー回避アイテムキタコレ)

「せーんぱい。ね、ちょっと頼まれてくれません? 画面のここ押すだけでいいんで」

 そう言って、千景に端末の画面を向けてみせる。千景は心底嫌そうな顔をして、嫌だとそっぽを向いた。

「ほんの一秒指貸してくださいってだけじゃないですか。つれないなあ……」
「それをすることに対して、俺のメリットはないな」
「俺のゲームライフに潤いを与えられるじゃないですか。ちなみにレア引けなかったらコロス」

 にこやか笑顔から一転、細めた目で千景を睨みつけると、彼は肩を竦めて息を吐く。メリットどころかデメリットだけだと。

「茅ヶ崎は本当に裏表が激しいよな。うすうす感づいてはいたけど、ここまでとは思わなかった。そんなに欲しいカードなのか?」
「ゲームは俺にとっての神の域なんで。このガチャ今日限定なんですよ。にゃんにゃんにゃんの日で猫耳つくあれ」
「……欲しがる理由が分からないけど、引けるまで頑張れば?」
「引けないから、先輩の指貸してって言ったんでしょう。物欲センサーに引っ掛かって推しがこない」

 千景に力を貸してもらうのは諦めて、単発で回してはみたものの、やはりこない。がくりと項垂れて端末を手から離すと、珍しく千景が隣に腰をかけた。

「指、ねぇ……色気があるんだかないんだか」
「え、なんですか? あ、ちょっと」
「大丈夫、画面は触らない。……ふうん? これが茅ヶ崎のハマってるゲームなのか」

 千景が至の端末をひょいと持ち上げ、つまらなそうに首を傾げる。興味もないのだろうなと思うより先に、ふわりと香る香水の匂い。

(……あれ……)

 慣れない香りだ。言葉で認識するより早く、脳がそう認識していた。千景の香りではないと。

「先輩、これ」
「なあ茅ヶ崎、物欲センサーって、これを欲しいと思わずに回せばいいんじゃないのか?」

 この香りは誰の、と訊こうとして、訊く理由がないのに気づく前に、千景が端末を返してくる。そんな分かりきったことを、さも名案だと言わんばかりに告げられて、むっと口が尖った。

「それができれば苦労しないですよ。だから物欲のない先輩の指貸してって――」

 そんな至の顎を、千景の指先が撫でる。ほんのわずかな力で振り向かされたと思った次の瞬間、口唇に何かが触れていた。

「ああ、聞いたよ。それに対して、俺のメリットがない、と返したな?」
「……な、ん」

 すぐにその感触はなくなったとはいえ、今のが何だったのかくらい、分かる。
 
 それは確かに千景の口唇だった。

 至は目を見開いて、目の前にある千景の顔を凝視した。

「キスしたくらいで、なにを驚いてんだ? 童貞じゃあるまいし」

 ニ、と口の端をあげる千景にハッとして、至は眉を寄せながらも舌先でぺろりと口唇を舐め、挑発的に笑ってやった。

「まさか」
「そのカード欲しいって思う余裕がなくなればいいのかな? 今ボタン押せばよかったのに」
「理屈は分かるんですけどね、ガチャ回す暇なかったし、そもそも先輩とキスしたって推し欲おさまるわけないし」

 意識を他のものに向けさせて、物欲がダダもれていないその隙にガチャを回せばいいという理屈は分かる。
 分かるが、分かりたくない。

「へえ、言うなあ」

 肩に、千景の手が回される。そのまま引き寄せられて、吐息が感じられるくらい近づいた。

「じゃあもう一回試そうか」
「ハハハBL展開キタコレ。冗談はここでやめといてくださいね、先輩、――」

 千景の特技は嘘を操ることだ。それは劇団での公演を経て知っていたし、どこまでが本気でどこからが嘘なのか分からないのも、ゲームとしてはおもしろかった。
 だけどまさか、本当に。

「んぅっ……!?」

 本当にもう一度試して来るなんて思わないだろう。
 触れて、覆ってきた千景の口唇に目を瞠るも、入り込んできた舌先に、反射的に目を閉じてしまった。
 ぬらりとした舌が、至をすくい上げる。つんと舌の裏をつつかれて、逃げたつもりが捕らわれて、強く吸い上げられた。

「んんっ……! んぐ」

 舌を絡めて引っ張られ、千景の咥内へ誘われる。千景は至の中を荒らし、互いの真ん中で舌が絡み合った。

「ふ、……ぅっ……ん、は」

 舌のサイドをなぞられ、びくりと腰が揺れたのを自覚する。ちゅ、ちゅうと立てられる音はわざとだと分かっていて、羞恥が競り上がってきた。

(まずい……っていうか、ヤバ……)

 千景相手に、抵抗がない。それどころか、気持ち良くなってきてしまっている。別に経験のない童貞じゃあるまいし、キスなんかで物欲を消せるとは思っていない。

「ん、んん……ふぁ」
「茅ヶ崎、駄目だろ……まだだ」

 かたかたと手が震える。ガチャのボタンを推したいわけではない。もう少しキスをしたいだけ――そう思ってしまったことに気がついて、千景を押しやった。

「先、輩」

 だけど許してくれず、また引き戻される。口唇が再び覆われる直前に見えた、眼鏡の奥の瞳は、面白そうに輝いていた。

「う……んぅ」

 じぃんとしびれるほど、甘い痛みが至を覆う。酸欠のせいか、それとも浮される快感のせいか、頭がぼんやりとしてくる。鼻孔を通っていく香りが千景の香水でないことに若干の苛立ちを感じながらも、舌と一緒に絡められた指先に胸が高鳴った。

「茅ヶ崎、こっち……ここ、な……ほら、いいよ、押して」

 促された指先が、端末の画面を撫で、押したようだった。
 独特の、それでも聞き慣れた機械音が耳に入ってくる。

「え、あっ?」

 思わず顔を離してしたを向き、画面を確認する。今度は難無く離れることができて、ほんの少し、寂しい。だがそんな寂しさにもキスの余韻に浸る暇もなく、至の目は見開かれることになる。
 知らないうちに回されたガチャは十連の方。これを最後に、必要な石が消費された状態だった。

「マジか」

 だが至が目を見開いたのは、石を消費してしまったからではない。画面に、欲しかった限定SSRが表れたからだ。

「っしゃあ!」

 思わず拳を握り、スクショまでぬかりなく撮ったところで、目が点になる。
 続けざまにもう2枚、出現率がそう高くないはずの限定SSRが開かれた。

「…………神引きキタコレ」

 いっそ、うさんくさいほどの好運に、テンションが上がりすぎて逆に冷静になってしまう。

(これは夢だ夢にちがいないそうに決まっている、だが何かの間違いでこれが現実だったとして、このあとバグでも起こったら困るしスクショだけでも撮っておこう)

 十連のカードが表示された状態でスクショを保存し、何かあってもこれを証拠に運営に問い合わせをしようかなどと、普段なら考えが及ばないことにまで意識が回った。

「欲しいのきたみたいだな。ハハッ、にゃんにゃんにゃんで三枚、ってとこかな?」

 千景の楽しそうな声にハッとして、彼の存在を思い出した。振り向いた先では、濡れた口唇を拭い笑う男。

「茅ヶ崎、お礼は?」
「…………………………アリガトウゴザイマシタ」
「棒読み。まあいいけどな。それなりに楽しめた」

 千景のおかげかは分からないが、物欲どころではなくなったのは、確実に千景のせいである。三枚のSSR、進化させるには充分で、コレクションとしても申し分ない結果。
 たかがキスのひとつやふたつ、目くじらを立てることもあるまいと、至は顔を引き攣らせながらも礼を告げ、大仰に息を吐いた。

「次も俺を頼れよ茅ヶ崎。夜中に咲也起こすんじゃないぞ」
「先輩頼るくらいなら、咲也が起きる時間まで待ちますよ」

 そうだ、たかがキスのひとつやふたつ。
 気持ち良かったなんて認めたくもない、キスの、ひとつや、ふたつ。

 至は、足元から競り上がって来る羞恥心をどうにか悟られないようにと、ゲームの画面に集中する。せっかく引けたSSRを進化させて育成して、ゲームに役立てよう。

「明日も仕事だろ。って、もう今日か。早めに寝ろよ、起こす義理はないからな」
「余計なお世話です」

 千景は満足そうにソファから立ち上がり、ナイトウェアに着替えて自分のベッドへ上がっていった。

 声は震えていなかっただろうか、手が震えているのは気付かれなかっただろうか、顔が赤いのは気付かないでいてほしいと、逸る心臓を押さえようとした、その時。

「あ、そうだ茅ヶ崎。ルームメイトだから一応言っておくけど」

 ベッドの上から身を乗り出して、千景が楽しそうに見下ろしてきた。


「俺、女の子嫌いなんだよね。おやすみ~」


 それだけ言って、千景は体を引っ込める。
 ガゴン。
 至の手から落ちた端末が派手な音を立て、千景のベッドの方からかすかな笑い声。

「え、…………ガチで?」

 至の小さな呟きには、誰もなにも返してくれない。
 千景の、どこまでが冗談なのか分からないその一言で、至はその夜一睡もできなかったという。


#シリーズ物 #カクテルキッス

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来年も、ここで

NOVEL,PSYCHO-PASS,狡宜 2017.11.21

#両想い #誕生日

 キ、と一台の車が停まる。冬の様相を持ち出した空を見上げて、常守朱は助手席の男を振り向いた。「ここで…

NOVEL,PSYCHO-PASS,狡宜

来年も、ここで

 キ、と一台の車が停まる。冬の様相を持ち出した空を見上げて、常守朱は助手席の男を振り向いた。

「ここで大丈夫ですか? 宜野座さん」
「ああ、すまない、常守監視官。……いい加減に宜野座さんはやめろと言っているのに」
「無理です。宜野座さんはどうやっても宜野座さんなので」

 きっぱりと告げてくる彼女とのやり取りを、いったい何度繰り返しただろうか。その言い分は分かるような分からないような、複雑な思いだ。宜野座は困ったように片眉をあげて苦笑した。
 宜野座伸元にとって狡噛慎也がずっと狡噛慎也だったことを、身をもって知っているからだ。

「すまないが、ここで少し待っていてくれ。心配しなくても、誰かさんみたいに逃亡なんてしないから」
「そんな心配してませんよ、宜野座さん」
「……だろうな」

 運転席の常守は、おかしそうに笑ってひらひらと手を振ってくれる。宜野座は助手席のドアを開けて、あたりの景色をぐるりと見渡した。
 変わったような、少しも変わってないような。
 目線があの頃より高くなったのは、身体的な変化で、少し寂しく感じるのは取り巻く世界がすっかり変わってしまったからか。
 ここは宜野座が通っていた日東学院だ。もちろんそこを囲む塀の中に入ることはできないし、もとからそのつもりもない。塀からはみ出た木の枝振りは少しも変わっていなくて、その傍に立つ無粋な電柱もそのままだ。
 もっとも、ここに来たのは二年前。二年やそこらで外観が劇的に変わるわけもない。特にここらへんにはホロが使われていない。季節の移り変わりを感じさせる花たちはしばしばホロで表されることもあったが、本物が多いここの風景を、宜野座はーー宜野座たちは気に入っていた。
 宜野座は傍の塀にもたれ、息を吸う。
 あの時は緊張するひまもなかったなと思い出して、口の端を上げた。
 そうしてあの頃と変わらない右手を持ち上げ、指のわきに口づける。まぶたを落とし、開け、指を押しやるように口唇から離した。
 宜野座の瞳はじっと前を見据え、あきらめとも呆れともつかない笑みを浮かべる。

 ーーーー……未練、と……言うのだろうか、これは。

 首を傾げてみるも答えが返ってくるわけもなく、宜野座は満足して車内に戻った。

「待たせてすまない。帰ろう」
「えっ、もういいんですか!?」
「やりたいことは終わったからな。連れてきてくれてありがとう」

 シートベルトを締めれば、運転席の常守は驚いて声を上げる。それはそうだろう、勤務中の監視官を引き連れて、行きたいところがあるなどと言えば、宜野座の性格を考えると相当重要な場所であるのだろうに。それなのに、たった数分いただけでいいなんて。

「あの……ここ、なんなんですか? 宜野座さんの通ってた学校ですよね」

 中に入らなくてもよかったのかと、常守は車を発進させながら尋ねる。許可を取れば、校舎の中にだって入れただろうに。それでも宜野座は首を横に振った。

「正当な理由もなく入れるわけがないだろう。そういうのを職権濫用というんだぞ」
「……でも、ちょっとくらい」
「いいんだ。俺はあの場所に来たかっただけだから」

 気を遣わせてしまっているなと、宜野座は苦笑する。だけど本当に、宜野座はあの場所がよかったのだ。

「特別な思い入れでもあったんですか?」
「ああ、まあ、……そうかな。課程二年のとき、あそこで初めて狡噛とキスをした」
「キッ……」

 常守が頬を真っ赤に染めてステアリングに突っ伏す。いくらオートドライブとはいえ危ないぞと、どこか他人事のように指摘した。

「宜野座さん……あの、えっと」
「いまさら驚かないでくれ、こっちまで恥ずかしくなってきた」
「だ、だって宜野座さんがそういう話することってなかったじゃないですかっ」

 執行官でありながら逃亡した狡噛慎也とは、恋人といっていい間柄だった。監視官だったころはそれを受け入れられず隠してきたが、まあ周りに悟られていないわけはなくて、執行官に降格したら、なにを頑なに隠そうとしていたのか分からなくなり、世間話の合間に、告げていた。

「あの男と恋人でいることが悔しかったからかな。アイツの身勝手さはあなたも知ってるだろう。そんな男に惚れてる自分が情けなくて、最近ようやくどうでもよくなってきたところだ」
「……狡噛さん、ずっと変わらなかったんですか。想像つきますけど」
「そうだろう? あの時だって、俺の誕生日なのに、アイツは自分のしたいことだけしていった。あとで悪びれもせずに謝ってくるのがどうしようもなく狡噛なんだがな」

 突然すまん、と笑う顔で言われた初めての時のことを、今でも思い出せる。想いは告げ合っていたけれど、まだまだ友人の粋を出なかった自分たちを壊してくれた、あの日。

「誕生日って、プレゼントのつもりだったんじゃないですか?」
「本人の意思を無視してか?」
「あー……ははは。あの、でも、その、受け取ったん、ですよね? 別のプレゼント」
「あるわけないだろ。そういえば誕生日だったななんて言う男が、そんなもの用意してるわけがない」

 思い出して額を押さえる宜野座に、常守が乾いた笑いを漏らす。実に狡噛らしいのだが、せめてキスの予告くらいしてほしかったあの頃の純情。

「仕方ないから、こっちから要求した」
「宜野座さんがですか? なにをもらったんです?」
「はは、“来年も同じものをよこせ“って言ってやった。あの時のアイツの顔は、おもしろかったな」

 笑う宜野座の横で、意味を把握し常守は頬を赤らめた。盛大なのろけ話であると。

「アイツもあれで案外律儀な男だったようで、それから毎年、俺の誕生日にはあそこでキスをくれたよ」

 卒業するまで、卒業して監視官になっても、執行官になってしまっても、誕生日にはあの場所でキスをした。
 宜野座は指で自身の口唇をなぞる。

「さすがに、昨年は無理だったけどな」

 昨年は大きな事件でそれどころではなかったのだ。あの事件を機に狡噛は逃亡し、宜野座は犯罪係数を上げながらも、こうして執行官として復帰した。

「宜野座さんがおねだりするなんて、狡噛さんは本当にすごい人ですね……」
「おねだりってやめてくれ。要求したのは俺だが、アイツはくれるって笑って言うんだから、しょうがないだろう」
「お互い大好きなのは分かりましたよ。あの、今あそこで狡噛さんに逢って(・・・)きたなら、もう言ってもいいですか?」
「うん?」
「お誕生日、おめでとうございます、宜野座さん」

 のろけ話に呆れつつも、常守は嬉しそうに告げてくる。今まで知らなかった宜野座を見られて、宜野座を通して狡噛を知ることができて、嬉しいのだろう。

「……ああ、ありがとう」
「戻ったらケーキ食べましょうケーキ。私頑張って作りますから」
「…………あなたは仕事をしてくれ」

 出来上がるケーキを想像して、宜野座はやんわりとお断り。なんで縢に教えてもらってああなるんだろうと、一生解けそうにない謎を胸に、宜野座は公安局へと戻っていく。

 今年もまた触れ合えなかったけれど、あそこでキスを投げてきた。口唇の感触を忘れてしまう前に、もう一度逢えたらいいと、小さな願いを込めながら。

 今もまだこの世界のどこかで生きている、大切な恋人へ。


#両想い #誕生日

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結べないのはチェリーだけ

NOVEL,A3!,十左 2017.10.03

#両想い #ラブラブ

れに笑って、手始めにと額にキスを降らせた。「アンタが好きだって言ってくれんなら、結べなくてもいい………

NOVEL,A3!,十左

結べないのはチェリーだけ


れに笑って、手始めにと額にキスを降らせた。

「アンタが好きだって言ってくれんなら、結べなくてもいい……」
「くすぐってぇ」
「キスしてないところあったらダメなんだろ」

 額に、まぶたに、眉に、頬に、そっと髪を避けて耳に、十座は口唇を落としていく。くすぐったさに身をよじる左京の名を呼んで、ありったけの愛情を注いだ。

「ん、ぁ……」
「前から思ってたが、アンタ耳も弱いよな、左京さん。……サラサラの髪の毛、こうやって耳にかけてキスをすると、色っぽい声出してくれる。可愛い」
「かわ……三十路の男に言う言葉じゃねーぞ」
「本当にそう思うんだから仕方ない。普段隠れてるとこは弱いって言うけど、本当だな」

 ニ、と口の端を上げる十座の瞳に情欲の炎を見つけ、左京はぞわりと肌をあわ立たせる。こんなふうに男の顔を見せておきながら、キスが下手だなんてのたまう高校生の、アンバランスさ。

「てめぇは本当にタチが悪いな……」

 左京は目元を覆い、長く息を吐く。可愛いなんて言われて嬉しいはずがないのに、この男相手にだけは心臓が跳ねてしまう。

「駄目っすか……?」
「駄目じゃねぇ、馬鹿」

 それくらい惚れてしまったのだからしょうがないなともう諦めて、十座の背中に両腕を回した。


 一日の終わり、夜の始まり、結べなかった茎の変わりに視線と舌と愛の言葉を絡めあって、確かめる。甘い甘い、キスの味。

#両想い #ラブラブ