- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
No.200, No.199, No.198, No.197, No.196, No.195, No.194[7件]
Ich liebe dich-004-
イクスアインは、アードライとクーフィアの眼前にすっと手を差し出す。
「ハーノインの……遺品だ。私だけが持っているわけにもいかないだろう」
それはハーノインを飾っていたピアス。それを身につけていた彼の姿が、まだ鮮明に思い出せる。
「いーのかなぁ、裏切り者の遺品なんて」
これ、僕らの髪の色だったんだとクーフィアがひとつを手に取る。キザなことするよと思いつつ、ハーノインなら似合うかと眺めてみた。
「ここまでしていた男が、どうして裏切りなんて……」
アードライも自身の髪色をしたものを手に取る。ハーノインが、イクスアインの髪を連想させるピアスを買いに行ったのは知っている。製作者である女性といたところを誤解して詰め寄りさえした。
その時からハーノインのピアスが何を意味しているのかは見当がついていたが、だからこそ信じられないのだ。何があって自分たちを―イクスアインを裏切るような真似をしたのか。
裏切りという言葉は、アードライにとっても他人事でない響きを持つ。残った二つのピアスのうち、裏切った男の髪色をしたものを摘み上げた。
「あ、それ」
「これは―私のだ」
エルエルフは何を思って、この目を撃ったのか。義眼にせざるを得なかった瞳に目蓋をかぶせ、アードライはピアスを握りしめた。
「渡せてよかった。ハーノインのしたことをどう思おうが構わないが……どうか持っておいてやってほしい」
イクスアインはたったひとつ残ったピアスを包み込んで握りしめ、踵を返す。
「やっぱり元気ないねぇ、イクス」
その背中が小さくなってから、クーフィアはいつもより落としたトーンで呟いた。仕方ないだろうとアードライは小さくなったイクスアインの背中を眺め、いまだにどう慰めの言葉をかけてやればいいか分からないままの自分に、苛立ちさえ感じていた。
本当に、どうして裏切ったりしたんだハーノイン―と、手の中のふたつのピアスをもう一度眺めた。
イクスアインは自室のベッドに腰をかけ、やっと逢えたハーノインに問いかける。
「何故だ、ハーノ……」
どうして一人で全部背負おうとしてたんだ、と指で転がした。どうして一人で行動したりしたんだ、と涙の流れる寸前のように喉を痛ませる。
ハーノインがいなければ生きてなんかいられない―なんて言うつもりはないけれど、それに近い感情はあったかもしれない。
イクスアインが軍人になったのは、あの日カイン・ドレッセルに助けられたおかげだ。仇討ちなどとうに意味がないものだと悟っても退役しなかったのは、知ったからだ。友も、自分も守る術というものを。
背中を預けるだけではいつか共倒れしてしまう、どちらも守ってこそだと教えられたからだ。
ハーノインを守るという術を教えてもらったからだ。
その彼がいなくなったのに、どうやって生きる意味を見つけ出したらいいのか。
―だが……ハーノ、お前を殺せるヤツなんて……。
よほど腕のいい軍人じゃないか、と不審げに眉を寄せ、彼の遺したピアスを指で転がす。
と、途中で違和感があった。
カチリと音がしたのだ。
耳朶を挟み込むタイプのものだから、開閉できるのは分かる。分かるのだが、それを考慮してもこの仕様はおかしい。
内側にスピーカーのような小さな機器が取り付けられている。
「これは……」
イクスアインは思い出した。お前の色は特注な、と言っていたことを。
それはそうだろう、集音装置にもなっているらしいそれは、耳のすぐ傍で音を聞くためのスピーカーというより、録音機器としての利用が目的だ。こんな物は普通の店には売っていない
イクスアインは眉を寄せた。ハーノインが理由もなくこんな細工をするはずはない。もしかしてこれに何か当時の様子が録音されているのではないかと。
しかし、スイッチであろう開閉をしてみても何も聞こえてこなかった。
作動している様子がないのだ。壊れてしまったのか、動かし方が違うのか。何にしろこのままではただの飾りだ。
「……ハーノ……」
やはり知ることはできないのかと、力を落として名を呼んだ、その時、ジ……とわずかにノイズ音が聞こえてきた。再生が始まったのだ。
ハーノインのような用心深い男が、ロックも設定せずにこんなものを使うはずがなかった。そしてそれは、何よりも愛しい相手の声紋だったのだが、イクスアインがそんなことに気づく前に、衝撃が走る。
『やはりきみの嗅覚は評価に値するよ、ハーノイン』
ほんの少しのノイズに混じって聞こえてきたのは、カイン・ドレッセルの声だった。
―な、ぜっ……!!
イクスアインは目を瞠る。
聞き間違えるはずがない。ハーノインの声も、カインの声も、いつも傍で聞いてきたものだ。
顎が震えて、ぶつかる歯がカチカチと音を立てる。
なぜ。なぜカインの声が聞こえるのか。なぜハーノインはこれを録ったのか。
『どんな時も、背中を預ける友は必要だよ』
笑いさえ混じっていそうな声に、イクスアインの額から汗が流れて鼻筋を通っていく。
『あなたらしくない物言いですね』
怒りと不審を混じらせた、ハーノインの声。
『十二年前、俺たちを助けてくれたあなたはこう言った。友に背中を預けるな、背中も友も、両方守れる強さを持てと』
ハーノインの声で繰り返される、イクスアインの生きる根幹。覚えていたのか、ハーノインも―ずっと覚えていたのか。
『真逆なことを言うなんてな。―イクスが聞いたら泣くだろうよ』
『ふ……くくっ、そうか……この男はそんなことを言ったのか』
『この男……?』
ズガァン!!
「……っ」
不思議そうなハーノインの声をかき消すように、銃声が響いた。イクスアインの肩がすくむ。
どうして、なぜここで銃声が聞こえるのか。あの洋館にカインがいるのは当然で、声が入っていてもおかしくはない。おかしくはないのだが、問題は内容だ。
ハーノインのピアスからは、彼の息づかいと速い足音が聞こえる。おそらく館内を走り回っているのだろう。息づかいから、銃で負傷したのだろうと窺い知れた。
撃ったのは―カインだ。
少し考えれば分かったことなのに、脳が拒否していた。ハーノインを殺せる人間など、多くないのに。
―うそだ……嘘だ! うそだッ……こんな、こんなこと、あるはずが……ッ!
「カイン……大佐……―!」
嘘だ、と思いたかった。
カインがハーノインを撃ったということも、ハーノインがもういないことも。だけど、尊敬しているひとが、愛するひとを撃った、その事実はここにある。
ハーノインは不真面目な態度を取っていながらも、イクスアインに対して根底で不誠実であったことなどない。そして、狙った獲物を逃すカインではないということも知っている。
そのカインに撃たれたのなら、よほどの奇跡でもない限りハーノインは生きてはいないだろう。
ほんの少し残っていた希望が、ガラガラと崩れていく。
その時、
『イクス……』
ハーノインの声が聞こえた。ノイズも混じらず、吐息のようなその声に肌があわ立った。
伝わってくる。ハーノインが、どれほど自分を想ってくれていたのか。
言えなかった理由が分かる。カイン・ドレッセルを絶対とし忠実に仕える自分になど、カインへの不審は話せないだろう。
「ハーノ……お前……」
そのあとに録音されていた真実は、およそにわかには信じられないものだった。何発かの銃声と、ハーノインの痛々しい呻き、総統の声、肉体を求める老人の声、怒りに震えるハーノインの激情。
イクスアインは装置を止めて、項垂れた。困惑と、怒りと、それを凌駕するほどの愛しさに涙さえ出てきそうになる。だけど必死でそれを抑え、息を吐くようにハーノと呼んだ。
望んだような結果ではなかった。最悪だ。まさかハーノインを殺したのが、尊敬する上官だったなんて。
こんな形で彼の最期を知ることになるとは、思っていなかった。
カインへの不審を隠しつつ触れてくるハーノインを、怪訝に思ったこともある。だけどこんな風に、全力で守られていたなんて。
「やはりお前は頭がいいよ、ハーノ……」
自分はハーノインの死をもってしか、カインへの不審を信じられなかっただろう。ハーノインはそれが分かっていたから、何も言わなかったのだ。何も言えなかったのだ。
お互い臆病だったなと、イクスアインは深く長く息を吐く。
臆病な愚かさが、ハーノインを死なせた。もっと多くを話し合っていれば、こんな事態は招かずにすんだかもしれないのに。
「すまないハーノ……ッ」
ハーノインを殺したのは自分かもしれない。イクスアインはそう思って、ピアスを包み込んだ手を強く強く握った。
そうして目を閉じ、ゆっくりと目蓋を持ち上げる。
せめてもの償いだ、仇を。
仇を討とうと十二年前彼が言ったように、愛するひとの死に怒りと、贖罪と、敬意を持って。
「……ハーノ……お前は、怒るだろうか……?」
仇討ちなんて無意味な行動だということは、お互い戦いの中で知り得ている。それでもイクスアインは、剣を取らずにいられない。
ふたつのものを、同時に失ったイクスアインには。
#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い
Ich liebe dich-003-
「イクスアイン」
呼び止められて、イクスアインは振り向いた。振り向いたそこにクリムヒルトの姿を認め、サッと敬礼を返す。女性ながられっきとした軍人で、カインの下で作戦を忠実に実行する、堅実な女性だと認識している。
「何か御用でしょうか、クリムヒルト少佐」
彼女はなぜか神妙な面持ちでイクスアインを見つめてくる。不思議に思ったが、その理由はすぐに知れた。
「きみは先日、カイン大佐とグリューナウ地区に赴いたのだったな」
「……はい」
「怪我がなくてなによりだった。少し訊ねたいのだが、構わないか」
「私に断る権利があるとお思いですか」
イクスアインはほんの小さなため息を吐いて返す。どうせ彼女も、ハーノインのことを訊ねてくるのだろうと。
あの件は、軍内部に衝撃を走らせた。まさかパーフェクツォンアミーと謳われる特務大尉が裏切り行為を働いていたなんて、と。しかもこれで二人目だ。
おかげでカルルスタイン機関の同期であるイクスアインにも疑いがかかった。しかしイクスアイン自身のカインへのご執心は誰もが知っていたし、それを裏切るようなことはないだろうと思われた。
そのせいか、訊かれるのはハーノインのことだけ。彼が普段どんな行動をしていたか、どんな思想を持っていたか、他に王党派のつながりは垣間見れなかったか。
「これなんだが……」
だがクリムヒルトはハーノインの様子を訊ねもせずに、すっと手を差し出してくる。イクスアインは、今一度目を瞠った。
「それは、ハーノの……!!」
彼女の手のひらの上にあるのは、四つの耳飾り。
心臓が止まるかと思った。見間違えるはずはない。ハーノインの耳を飾ったそれは、何度も何度も触れてきた。ふとした瞬間に、ベッドの中で無意識に、キスをする前に。
「さすがに目敏いな」
「クリムヒルト少佐、あなたはハーノの、……遺体を見られたのですか……!?」
ハーノインが身につけていたものがその手の中にあるということは、何らかの形で接触したに違いないとイクスアインは思わず問いかけた。
「……いや、すまない、私も彼の体を確認できたわけではないんだ。裏切り者の所持品として、処分されそうになっていたこれを、なんとか引き取ってきただけでな」
だが、クリムヒルトの口からはすまなそうに否定が返されるだけ。イクスアインは眉を下げ、そうですかと呟いた。
「これをどうするかはきみの判断に任せる。ただ、その……裏切った彼を責めるのは少な目にしておいてほしい」
クリムヒルトは四つのピアスをイクスアインの手の中に落とし、どうか、と願う。ほんの少しの間だが、意志を共有した男だ、親友に責められるのは手痛い仕打ちだろう。それがクリムヒルトの、ハーノインへの手向けだった。
「ハーノを責める気持ちはありません……」
イクスアインは手のひらの中のピアスたちを眺め、静かに呟く。形見になってしまったそれをそっと握り込み、
―ハーノ……!
「逢えた……」
大切そうに、指へと口づけた。
クリムヒルトはそれ見て目を瞠る。イクスアインはこんなに柔らかで切ない表情をする男だったのかと。
彼らの仲が良かったのは聞いている。ハーノインと【お茶】をした時、何度も何度もイクスアインの名が出てきたことも、まだ鮮明に思い出せる。
「イクスアイン……」
よほど大切に想い合っていたのだなと、純粋に心臓が痛む。戦いとは、そんな友情もなにもかも飲み込んでいくのだと。
「あっ、も、申し訳ありません少佐、ハーノインのものは……処分されてしまって……端末も押収されたので、何もなかったんです」
イクスアインはハッと我に返り、慌てて弁解をする。気づかれてしまっただろうか。ただの友人ではなかったことを。
「いや、ハーノインのことは、本当に残念だった」
クリムヒルトはその奥の真実には気づかずに答える。もう少しでも話せる機会があれば、任務上のよいパートナーになれただろう男の死を、心の底から無念に思って。
「少佐、カイン大佐と同じことを仰るのですね……ハーノがお二人にとって惜しんでいただける部下だったということを誇らしく思います」
「カイン大佐と?」
イクスアインが太腿の横で拳を握ったとほぼ同時に、クリムヒルトの片眉が上がった。イクスアインはそれに気づいて、
「傍にいるとやはり、似てしまうものなんでしょうか」
クリムヒルトの思惑には気づかないで、付け加える。彼女はカインの腹心の部下だ、意識が似てしまってもおかしくないと。
「……どうだろうな」
クリムヒルトは、今はまだ自分の真実に気づかれるわけにはいかないと曖昧に言葉を濁す。
いくらイクスアインがハーノインと仲が良かったからといっても、彼のように自分の意志に同調してくれるとは限らない。それでなくても、イクスアインのカインへの盲信は耳に聞こえているというのに。
―ハーノイン、彼の傍でカイン大佐を疑って探るのは難儀なことだったろうに。
この様子を見るに、イクスアインは何も知らないのだなとハーノインに同情さえした。
「カイン大佐はどんな様子だった?」
「え?」
カイン・ドレッセルを不審に思っている、などと彼には言えるはずもない。だが、カインが度々グリューナウ地区に赴いていた理由は探りたい。なにしろ、それを知ったかもしれないハーノインは、もういないのだから。
「カイン大佐……ですか? いつもと変わりはなかったように思いますが」
「会合の内容は、やはり知らないだろうな」
「はい、私は待機を命じられましたので……その……非常に言いづらいのですが」
イクスアインが口ごもる。クリムヒルトの目が鋭く光った。何か決定的な背任行為でもあれば糾弾できるのだ。だが、その期待は空回る。
「申し訳ありません、カイン大佐の護衛を仰せつかりながら、その、途中意識がなく……」
軍人として情けない、処罰も覚悟の上だとでも言わんばかりに、イクスアインは険しい表情を晒した。クリムヒルトは、望んでいたような情報ではなかったものの、別の方向からの不審に驚く。
「意識がなかった? 何かあったのか」
「分かりません……いえ、私の気が緩んでいたに過ぎないのですが……護衛が眠りこけるなど、カイン大佐に何かあったら申し訳も立たないというのに……!!」
イクスアインは真面目すぎるのが玉に瑕なんだとハーノインが言っていたのを思い出す。確かにその通りだ。そして、思った以上に自分の周りが見えていないように思う。
意識がなかったということを失態と感じるより、その不審さに気がついてほしい。
「心当たりはないのか? 何かを飲んだとか食べたとか、部屋の空調がおかしかったとか」
イクスアインは少しだけ考え込んだが、ややあってふるふると首を横に振った。彼にしてみたら自身の失態が前提にあるのだから、何か他に原因があっても見落としてしまうかもしれない。クリムヒルトはそうかとだけ返すが、不審はさらに募っていった。
「ただ―」
「ただ?」
「カイン大佐はなぜあの日に限って護衛に私をお選びになったのか……」
普段は下士官を複数名連れていかれるのにとイクスアインは続ける。複数名分の価値がイクスアインひとりにあると思えば、バッフェの無駄な出動を控えたと思えばいいのかもしれないが、なぜ今さらなのだと感じないでもなかった。
「いえそもそも私ごときが護衛になど就かずとも、カイン大佐はお強いのに」
「―イクスアイン、カイン大佐の護衛に就いた士官は命を落とすことが多い。その意味を考えたことは?」
「え?」
首を傾げるイクスアインに眉を寄せ、クリムヒルトは足を踏み出す。険しい顔をしたクリムヒルトが、すれ違う瞬間囁いた。
「カイン大佐には気を許すな、イクスアイン」
イクスアインは目を見開いて彼女を振り向く。腹心の部下である彼女が、気を許すなとはいったいどういうことだと。だがそれを問いただす暇もなくクリムヒルトの背中は小さく遠ざかっていく。
「どういう……ことだ……?」
イクスアインはただ把握しきれずにそこに立ち尽くし、手の中のピアスをもう一度眺めなおした。
#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い
Ich liebe dich-002-
イクスアインはゆっくりと息を吐きながら、椅子の背にもたれた。
アードライは多少理解してやれると言ってくれたが、誤解はしているようだ。彼はきっと、イクスアインがハーノインの裏切りに対して怒っていると思っているのだろう。
だが実際は、自分自身に対しての怒りだった。
イクスアインはくしゃりと髪をかき上げて俯く。
ハーノインがここ最近おかしな行動を取っていたのは知っていた。だけどこんなことになるなんて思っていなくて、訊ねもしなかったのだ。触れてくる熱は何も変わらなかったから。
「ハーノ……」
最後に交わした言葉は、まだ覚えている。気をつけろよと言ってくれた恋人に、子供かよと呆れて返した。それが、ハーノインを見た最後だったなんて。
―くそっ、どうして……なぜ私は……!
後悔ばかりが募る。
もっとよく見ていればよかった。そうすれば、自分の知らないところで勝手にいなくなったりしなかったかもしれない。
「ハーノ、なんでお前……」
なんで何も言ってくれなかったんだ? と心の中で問い続ける。
恋人同士だからと言ってなんでも打ち明けなければならないわけではないが、こんなに重大で重要なことを話してくれなかった。信頼に足りなかったらしい自分が腹立たしくてしょうがない。
何を思ってハーノインがあそこにいたのか、最期に何を思ったのか、想像さえできない自分の不甲斐なさが腹立たしい。
ハーノインを好きだと言いながらただ傍にいることしかしてこなかった自分を、どうして許せるのだろうか。不審に思いながらも訊こうとしなかった自分は、彼を責める資格などないのだ。
ハーノインが使っていた端末から、カイン・ドレッセルの近辺を調べていたという資料が見つかった。それはドルシア軍にとっての反対勢力である証拠となり、遺体は秘密裏に処分されたのだという。
裏切り者には死を―そんなことは分かっていたし、カルルスタイン機関での訓練中、犯した罪を忘れたわけでもない。
それでもせめて、もう一度逢いたかった。
泣いても嘆いても叶うことなどないと小さな頃に経験している。事実を受け止めないといけないのだ。あの時手を引いてくれたハーノインは、もういないのだから。
いつだって、隣で大丈夫だと笑ってくれたあの陽の光の色の髪をした男はもう、どこにもいない。
誰とも分からない相手に殺されたのだ。
訊いてみたい。どんな風にハーノインを撃ったのか。何か話したのか。最期はどんな顔だったのか。
「ハーノ……」
お前の最期を知ることでしか想いを示せない自分をどうか許してほしいと、イクスアインは恋人の愛称を呟く。
誰がお前を殺したんだと、傍にいないハーノインに訊ねるも、当然声が返ってくることはない。そもそも、あのカルルスタイン機関を無事に出たハーノインが、そうそう簡単に殺されるとは思わないのに。
イクスアインはギリと歯を食いしばる。ハーノインの、軍人としての技術は目を瞠るものがあった。エルエルフのようにとまではいかないが、並の訓練を積んだ者の相手にはならない。
生まれながらの、家系的な軍人ではなかったが、持ち前のセンスとそれを補う努力を、イクスアインは知っている。ずっと一緒だったイクスアインにしか分からないかもしれない。普段の行動がああだから、まじめに任務をこなしていないのではと思われがちだが、実際は違う。軽薄そうな態度をとりながらも、与えられた任務をおろそかにしたことはない。あの態度さえが、相手を騙す手口なのかもしれないと、傍で見てきて感じていた。
何度か訓練で剣や銃での手合わせをしたが、恋心を抜いてもあれだけやりづらい相手はいなかった。本気でやりあったら、どちらが勝っていたか分からない。
そんなハーノインを、誰が殺せるというのか。
イクスアインはデスクに肘をつき、両手で髪をかき混ぜた。そんな相手が思い浮かばなくて焦りばかりが募る。
気を許した相手ならもしかしたらと思うが、反旗を翻したエルエルフならまだしも……いや、彼はクーフィアの攻撃に応戦していたはずだ。その二人には不可能ということになる。アードライも、怪我を負って救援を受けていたはずで、彼にも不可能だ。
イクスアインは、あの洋館でそんなことが起きているとも知らずに、眠っていた。
そう、眠っていたのだ、こともあろうに。
カインの護衛として付き、待機を命じられたところまでは覚えている。きみの働きには感謝しているなどと畏れ多い言葉をもらったことも覚えている。
命じられるままに待機し、出された紅茶も任務中なのだからと飲まずにおいて、ただカインの帰還を待った。
気がついたのは、火山の爆音でだった。失態をなじり、カインの身に何か起きていないかと探したその先で、血の海を見たのだ。
だから、あそこでなにがあったのか分からない。ハーノインがすぐ傍で殺されたというのに、自分はなぜ眠ってなどいられたのか。
「ハーノ……」
押しつぶされそうな自責の念。今日もまた、眠れないのだろうとイクスアインは口唇を噛んだ。
#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い
Ich liebe dich-001-
愛している。
あの男が最後にそう囁いたのは、いつのことだっただろうか。
「な……んだって!?」
冗談で言っているなら承知しないぞと、アードライは見開いた目でクーフィアを振り向く。
「冗談で言うと思う? 僕だって驚いたんだけどな~、イクスアインから聞いた時」
二度、驚いた。クーフィアが言った事実も信じがたいが、それをよりによってイクスアインが告げたというのが。
「……イクスアインはどうしてる?」
「部屋じゃないかなー。さすがにショックも大きいんじゃない? イクス、普通に怒ってる時より怖かったもん」
そう言って頭の後ろで手を組むクーフィアにそうかと返し、アードライは未だに信じられない気持ちで体を翻した。向かうのは当然、イクスアインの部屋だ。
―そんな馬鹿な話があってたまるか……!
ハーノインが死んだなんて。
しかも、ドルシア軍内においての王党派だったなんて。
いや、この際裏切りなどどうでもいい、些末なことだ。重要なのは、ハーノインが死んだということ。イクスアインが、それを自ら同僚に告げたということ。
アードライは自身の怪我の痛みも気に留めずイクスアインの部屋へと急いだ。
信頼していた友に裏切られる痛みは、憎しみは、アードライにも分かるつもりだ。誰よりも信頼し、共に革命する仲間だと思っていた男にまさかの裏切りを味わわされたアードライには。
だが、恋人を亡くしたイクスアインの痛みは、絶望は、分からない。
ただの戦友を亡くしたのとはわけが違う。生涯を共にすると決めた相手を亡くしたのだ。
「くそっ……」
どんな気持ちでいるだろう。どんな気持ちでクーフィアにそれを告げたのだろう。自分に何かができるだろうか。願わくは、絶望にはまりこんで自棄になっていてくれるな。
勢いでイクスアインの部屋まで来てしまったが、ドアの前でためらう。かける言葉をまだ探せていない。力づける単語がなにも出てこない。
あの二人は確かに好き合っていた。見ているこちらの方が照れてしまうくらい、相手を想い合っていた。その分身を亡くした彼に、どう言葉を投げかければいいのか。
しかしここにこうしていても始まらない。せめて様子を見るだけでもしようと、声をかけてみた。極力、深刻にならないような声音で。
「イクスアイン、いるか?」
中から人の気配は感じられる。が、返答はなかった。アードライはもう一度声をかけた。今度は、入室するということも付け加えて。
「イクスアイン、入るぞ」
ベッドで泣き伏しているだろうかと思ったそれは外れ、アードライは目を瞠った。
「アードライ、帰還したのか。怪我をしたと聞いたが、大事ないようで安堵した」
イクスアインはデスクで自分の端末に向かっていた。アードライの身さえ案じてくる。
「……イクスアイン……?」
どういうことだ、とアードライは思考を巡らせる。
ハーノインが、恋人が死んだというのに、どうしてそうも平然としていられるのだろうか。いつもと変わらぬ様子でいる。
もしかしたら死の事実を受け入れ切れておらず、拒絶しているのではないかとも考えたが、クーフィアにハーノインのことを告げたのはイクスアイン自身だ。死を認識してないとは思えない。
「イクスアイン、お前……大丈夫なのか……?」
そのちぐはぐさを怪訝に思って声を震わせたアードライを、デスクから振り返るイクスアイン。その表情さえ、いつもと変わらなかった。
「……ハーノインのこと、聞いたようだな」
少しだけずれた眼鏡を押し上げて、イクスアインは口にする。アードライはためらい、遠慮がちにああと頷いた。
「それで、私を気遣って来てくれたのか」
ふっと笑うように息を吐き、イクスアインは目蓋を伏せる。そこでようやっと、翳りを見せたような気さえした。
「イクスアイン、本当なのか、その……ハーノインが」
最後まで口にすることはできなかったアードライに、イクスアインは沈黙で肯定する。アードライも振り切るように目蓋を伏せ、顔を背けた。
「王党派と通じていたとされ、殺されたらしい。私が大佐の護衛で向かったあの洋館では、ドルシアの主要幹部が集まっていたと聞く。状況を見るに、銃撃戦があったのだろうとは思うが……私が行った時には血塗れの床があるだけだった」
イクスアインは静かに、状況をとつとつと説いていく。アードライは、その様子がいたたまれない。ハーノインとのことは知っているのに、あくまでただの同僚の死として扱っているようなイクスアインが、痛々しかった。
「大佐の護衛にイクスアインがかり出されるなんて、よほど重要な会合だったんだな」
「そうだろうな。私にも何か話しがあると仰っていたが、それどころではなくなったようで……私に気を遣ってくださったのだろうとは思うが」
苦笑するイクスアインに、アードライもまた苦笑で返すしかない。
上官であるカイン・ドレッセルも、ハーノインとイクスアインが同期という以上に仲が良かったことくらい知っているだろう。二人の間の恋に気づいていたかどうかは分からないが、共に歩んできた戦友だということは理解していたはずだ。
「イクスアイン、大丈夫なのか」
アードライは、先ほどの言葉をもう一度繰り返す。カインでさえがイクスアインの消沈は予測したのに、目の前の彼にはそんな様子もない。涙を流すどころか、冷静に受け止めているように見える。
「私は大丈夫だ、この先の作戦等に支障はない」
そういって笑いさえするイクスアインに、アードライは腹が立ってしょうがなかった。思わずガッと腕をつかみ、正面から覗き込む。
「イクスアイン、私の前でまで無理をしなくていい! あんなに想っていた相手が、……いなくなって! 平気な顔をするな……!」
その仕草に、イクスアインは驚いたように目を見開いた。当人より悲痛そうな表情をしたアードライに、イクスアインはほんの少し肩の力を落とし、落ち着いてくれと小さく呟く。
「イクスアインッ……どうしてお前はそんな……」
「すまない、心配してくれているのは分かる。だが……本当に大丈夫なんだ……薄情なものだな、私も」
アードライは責め立てようとした言葉を寸前で飲み込んだ。イクスアインはしっかりとハーノインの死を認識している。自身が動じていないことも認識している。その上で笑ってみせているのだ。
「カイン大佐が……血の付いたハーノの銃を見せてくださった。残念だったと言ってくださった……通信機も作動してない……状況は分かっている。だけどどうしてだろうな、泣けないんだ、アードライ」
「イクスアイン……」
イクスアインがあそこで見たのは、おびただしい量の血と、ハーノインの銃を握りしめたカイン、倒れた椅子、それだけだ。何があってそうなったのかは分からなかったが、状況から見て……姿の見えない彼が無事でないことだけは理解できた。
「もうアイツの名を呼んでも声が返ってくることはないのに……泣いてやれない。ハーノも、とんだ男に惚れたものだ」
きっと逆の立場だったらハーノは泣いてくれるだろうに、とイクスアインは自嘲して笑う。目に浮かぶな、とアードライも同意を返すが、泣けないイクスアインに何をしてやったらいいのか分からなかった。
「今はただ、怒りしか湧いてこない」
そう言って口唇を噛むイクスアインに、アードライは言葉をなくす。裏切りへの燃え盛るような怒りの炎には、身に覚えがあるからだ。それを消すことが容易でないことも知っている。
「そうか……だが、あまり先走ったことはするなよイクスアイン。戦いはこれから激化していく、……エルエルフやハーノインに引き続いてお前まで欠くわけにはいかないんだ」
お前の痛みは多少理解してやれる、とアードライは続け、ややあってああと頷くイクスアインに背中を向けて部屋を出た。
立ち直るまでに時間はかかるだろうなと思い、しばらく注意して見守っていようと心に決めて。
#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い
Ich liebe dich
/ /


イクスアインは、アードライの頭に銃口を突きつける。敵機のパイロットである流木野サキを、なんの条件も出さずに解放してしまったのだ。おかげでドルシア全軍を挙げての戦いになりそうだ。
アードライのしたことは明らかに背任行為であり、およそ見過ごせるものではない。
「何をしたのか理解しているのか? アードライ」
流木野サキは、どう好意的に見ても普通の人間ではなかった。彼女を詳しく調べれば何かつかめたかもしれないのに。
「特定危険生物七号……彼らのせいですべては狂ってしまった」
ドルシアを勝利に導く鍵がみつかったかもしれないのに、彼はそれを逃してしまった。しかしアードライは自己を弁護するどころか、罪だと言った。信じきることができなかった自分自身への罪だと、死さえ覚悟していたかもしれない。
イクスアインは、俯き加減のアードライに向かって、静かに口を開いた。
「ドルシアを革命する計画もか?」
「な……っ!?」
一瞬の間を置いて、アードライは勢いよく顔を上げた。なぜ、と視線だけで問いかける。革命を目論んでいたのは、あの男にしか……エルエルフにしか話していない。
「かつてカイン大佐に言われて、旧王族であるきみを内偵したことがある。報告しなかったことを後ろめたいとは思ったが、今になって思えば正しい選択だったようだ」
報告しなかった? とアードライは眉を寄せた。カインの命令に誰よりも忠実だったイクスアインが、命令に背いていたというのか。いや、それよりもその選択が正しかったとはどういうことだ。
瞬きさえ忘れたようなアードライの眼前に、すっと手を差し出す。イクスアインはハーノインの遺したピアスを作動させ、彼の最期の様子をアードライに聞かせた。
イクスアインの肉体を同胞のものに、と笑うカインと、腹の底から怒りを吐き出すハーノインと、祝砲。そこでイクスアインは装置を止める。
「これは、まさか……!!」
アードライの目が、これ以上ないというくらいに見開かれた。押し殺した声は、にわかには信じられない思いを表している。
疑ったこともなかったようだ。まさか、まさかハーノインを殺した相手が、
「そうだ。ハーノインを殺したのは、カイン大佐だ」
イクスアインはアードライの飲み込んだ言葉を引き継いで、確かな意志とする。疑ったこともなかったのはイクスアインも同じだ。
イクスアインとアードライの視線が交錯する。いつだか、上官と恋人どちらを選ぶかという言葉を交わしたことを互いに思い起こして。
その時彼には、分からないと返したイクスアインは、ハーノインのつけていたそれで自身の耳を挟み込んだ。突起が皮膚を傷つけ、血が流れても構わずに。
「私はハーノインの……友の仇を討ちたい」
ハーノインには、カインを選ぶかも知れないと告げた。だが、ハーノイン以上に愛しく想う者などいないとも告げた。
「愚かだと思うかもしれない。だが私は、それしかアイツに謝る方法を見つけ出せないんだ」
アードライが目を瞠る。
力を貸してほしいと続けるイクスアインに、よく考えもしないで頷いた。
普段冷静ぶっているが、イクスアインは案外激情家だった。ハーノインが、そんな彼を穏やかに包み込んでいたおかげで、冷静でいられたのだろうか。
ようやく、本当の姿を見たような気さえした。
「イクスアイン、先日も言った。私の前でそう気負うな――仲間だろう。敵を同じくする、仲間だ」
改めてよろしく頼むと、アードライは手を差し出す。
イクスアインの敵はカイン・ドレッセル。アードライの敵は、狂ってしまったドルシア。
「自身と、国の革命を―」
それを行うためなら力を貸すし、力を貸してももらう。
まっすぐに見つめてきたアードライの手を、イクスアインは強く握り返した。
そうして、たった二人での革命に身を投じようとした時、仲間がもうひとり増える。
負傷兵になりすましてドルシア軍内に侵入してきた、エルエルフだ。アードライが、信頼を裏切られたと思っていた、戦友。
「同じ作戦を使うのはあまりお勧めしないな、エルエルフ」
「それに気づくのは、お前たちと、……カインくらいなものだ」
久しぶりにドルシアの軍服に身を包んだエルエルフは、そう言って苦笑した。彼もまた、カインを敵とする者だ。
「しかし、ハーノインが死んだとはどういうことだ?」
「エルエルフ、少し口を慎め。イクスアインのことも考えろ」
「アードライ、構わない。アイツがいないのは事実なんだ」
もう少し言い方というものがあるだろうとエルエルフを諫めたアードライを、イクスアイン自身が宥める。言い方をどうしようと、ハーノインが今ここにいない事実は変わりがない。
イクスアインは、エルエルフにもハーノインの最期の音声を聞かせた。なにが起こったのかは、彼なら分かるだろう。
「―ハーノインは、お前を守りたかったのか」
ドキリと心臓が鳴った。
この生物たちは肉体を替えながら今までを生き延びてきたようで、つまり入れ物となる体が必要だったのだ。イクスアインがその犠牲になるところだったのを―ハーノインが止めてくれた。まさに命を賭して。
「そう……だな、ハーノは、私を私のままでいさせるために命を落とした」
あの時逃げ出していれば、命は助かったかもしれないのにだ。激情に任せて命を落とすなんて、お互い軍人には向いていなかったのかもしれないなと、イクスアインは目蓋を伏せる。
「ハーノのあの時の怒りは、私の今の怒りだ。カインは、私がこの手で葬る」
邪魔はさせないとイクスアインは目を開け、睨むようにもエルエルフを見つめ返した。
「…………止めはしない。俺たちはそれぞれの願いのために動く。それだけだ」
エルエルフも、愛したひとを亡くした。エルエルフたちを守るために、光と共に散っていった。
彼女の意志を継ぐのは自分だと、ただそれだけで剣を手に取るエルエルフに、イクスアインを止めることなどできるはずもない。
「ただ、命を無駄にはするな。俺の愛したひとは、それをなによりも嫌った」
「―ああ、分かった」
イクスアインは薄く笑い、ほんの少し嘘をついた。
「俺は総統たちがマギウスだと世界に知らしめる。それで人心は離れるだろう。混乱は避けられないぞ」
「エルエルフ、お前が……リーゼロッテ姫が望んだ世界は、人とマギウスの共存なのだな」
そうだ、とエルエルフはアードライに答える。人をエサにして生きるマギウスを、食われる側の人間が受け入れられるとは思わない。だが、犠牲を出さずに両方が生きられる方法があるはずだ。彼女はそれを望んでいた。
なんとしてでも、世界を革命しなければ。
「百一人評議会の考えでは、彼女の意志に反する。世界を暴いたあとは、世界を作り上げていくんだ」
三人はいたるところに武器となるナイフを仕込み、全世界に向けてジオールへの一斉攻撃を説くドルシア総統の元へ向かう。
革命は、ここから始まるのだ。
―ハーノ、お前はやっぱり怒るだろうか。
イクスアインは首にかけたネックレスの石に、軍服の上から触れる。ハーノインの髪色をしたものだ。
ハーノインがイクスアインの髪色をしたピアスを身につけていたように、自分も彼の色をしたものをと思い、一緒に買いに行ったもの。
イクスの肌に触れるのは、これと俺だけな、なんて言って口づけてくれたことを思い出す。
ハーノインが望んだのは、世界を暴くことでも、世界を革命することでもなかった。イクスアインがこの世界に生きていることをただ望んだだけ。今から行うことは、彼のその願いに反することかもしれない。
―だけどやはり許せないんだ、ハーノ。
ハーノインが愛する相手を守り抜いて散ったように、エルエルフが愛するひとのために世界を革命しようとしているように、自分も愛のために生きて、死にたい。
人生の半分以上を戦いの中に身を置いてきたが、今ほど気分が高揚しているのは初めてだ。死へと向かうかもしれない身で、不思議な気分に陥る。
イクスアインは、人知れず口の端を上げた。
ああ自分はこのまま死ぬのだと、機体に入り込んできた水に埋もれながらイクスアインはぼんやりと思った。
せめて刺し違えてでも仇を討ちたかったが、叶わぬままで散っていく。力が足りない自分が悔しくてたまらなかった。
―向こうに行ったら、逢えるだろうか……それでお前に怒られて、罵られて、きっと最後に仕方のないヤツだなんて笑われる。
それでもいい、それがいい。
仇が取れないなら、ハーノインがいないなら、革命したあとの世界なんてどうでもいい気さえした。
「ハーノ……」
最後に小さく呟いたつもりだった。
なんの拍子か、その声でハーノインのピアスが作動してしまう。
は、は、という激しい息づかいと、苦しそうなうめき声が、耳元で聞こえた。
イクス、と名を呼ばれる。彼の声を最期に聞けるなら、それほど悪い人生でもなかったと、イクスアインは目を閉じた。
次の瞬間、
『―生きろよイクス、愛してる』
笑う吐息と共に、囁かれた。
目を瞠る。あの銃声のあとにまだ生きていた―まだ声が続いていたのかと、今になって初めて聞いた本当の最期。
イクスアインは笑う。勝手な男だと。
勝手にカインを不審に思い勝手に行動し、そして勝手に一人で逝った。
「まったくお前というヤツは、こんな時にまで……―」
それでも生きろと言うのかと、グリップから手を離して上げる。
それが愛した男の望みなら。
#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い