華家
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No.577
情熱のブルー,塚跡WEB再録 2023.03.19
#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #情熱のブルー
全国大会決勝戦。待ちに待った決戦の日だというのに、トラブルが発生した。試合に出場するはずの越前リョ…
情熱のブルー,塚跡WEB再録
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全国大会決勝戦。待ちに待った決戦の日だというのに、トラブルが発生した。試合に出場するはずの越前リョーマがいないのだ。選手登録はどうにか誤魔化したが、試合となるとそうもいかない。
――――何をやっているんだ、越前。
聞いたところによると、軽井沢で何が事故があったらしい。こちらに戻ってくる手段がないのか。ここまできて不戦敗だなんてとんでもない。メンバーがおろおろとする中、思わぬところから救いの手が差し伸べられた。
「事情は把握したぜ。ついてこい、桃城」
それは、跡部景吾の手。何としてでも越前を連れて来てやると言い放つその声は、とても心強い。きっとヘリか何かで軽井沢に向かってくれるのだろう。試合を控えている手塚はどうしても離れられない。跡部の提案は、本当にありがたかった。決勝戦で不戦敗なんて無様な真似をするなという気持ちなのだろうか。氷帝を打ち負かして決勝まで来たのだから、確かにそんな真似はできない。それに、言葉にはしないが跡部自身が越前を気に入っているせいもあるはずだ。
手塚が跡部を見やると、じっと力強く見つめてくる。それにこくりと頷いて、越前は跡部に任せることにした。
彼なら必ず連れて帰ってきてくれるはずだ。根拠のない自信は、跡部景吾に対する評価の現れだろうか。
かくして手塚は時間稼ぎのためにも試合に挑み、真田と長いゲームをすることになった。腕を――犠牲にして。
使うなと言われていた。跡部が怒るのは目に見えていた。
だけどここで終わらせたらいけない。当然、勝って全国制覇を成し遂げたいという気持ちが大部分だったが、跡部が越前を連れ帰ってくるまで持ちこたえたい――そんな思いもあったと思う。
――――跡部、俺は死なない。
トスを上げる。青い空が目に入って、今ヘリで空を飛んでいるだろう跡部を思う。跡部のことを信じている。だから彼にも信じてほしいと願いながら、ボールをコートにたたきつけた。
強引で傲慢なプレイだ。そう言われたことを思い出して、少しおかしくなってしまった。
確かにそうだなと、真田からの返球を弾き飛ばしてアウトボールにして思う。
――――戻って来い、越前。お前が言ったんだ、できるということだろうと。
少年の煽るような言葉に触発されて、新しい技を編み出したのだ。教えてやりたい。そしてまた、彼にも強くなってほしいと思う。次代の青学を背負う者として。
肘の色が変わる。自分でも気味が悪い程だが、ここでやめるわけにはいかなかった。ベンチから「無茶だ」だの「もう止めろ」だの聞こえてくるが、聞こえているうちはまだ集中できていないということだなと、手塚はさらに意識を高めた。
打つ。返される。はじき飛ばす。限界ではないのかと誰もが思ったことだろう。
もうラケットを上手く握れないというところで、ネット上を転がったボールは、……手塚のコートに落ちた。
負けてしまったなと残念には思うし、満足はしていないが、できるだけのことはした。これからまた研鑽をつまねばと、対戦相手だった真田と握手を交わした。「貴様とはもう二度と試合したくない」などと言われてしまって、やはり誰もが跡部とは違うのだなと心の中で笑う。
ベンチに戻れば、跡部の姿が見えてほっとした。無事に連れ帰ってくれたらしい。――が、跡部の視線はやはり怒っていた。
「…………使うなっつったよなぁ、手塚ァ」
「了承した覚えはない」
「本気で怒ってんだよこっちはよ」
観客席から手を伸ばし、ぐいと衿を引き掴まれる。至近距離で視線が重なって、この期に及んで高鳴る心臓に嫌気がさした。
「……どんな具合だ?」
十数秒ほど、どちらも譲らないと視線を重ね合わせた後、先に口を開いたのは跡部の方だった。怒気の失せた声は怒気以上に心配そうな音色になっていて、ここで初めて悔やむ。怒らせたことより、心配をさせたことの方が胸が痛んだ。
「見た目ほどひどくはない。酷使したせいだろう」
「フン、その痛み忘れんなよ手塚。テメェの未熟さの証しだぜ」
「ああ、肝に銘じよう。跡部、それで、越前は」
手塚が越前の名を出すと、跡部が一つ目を瞬いて眉を寄せる。その仕草に、嫌な予感がした。まさか、見つからなかったわけではないだろうと。
「連れて帰ってはきたぜ。……ちょっとマズイことにはなってるが」
「まずいこと? まさか、怪我でもしているのか」
「記憶がねえ」
手塚は目を瞠った。記憶がないというのはいったいどういうことなのか。慌て、越前は今どこに? と視線で訊ねかけると、ぐっと強く腕を握られた。
「なにも覚えてねえみてえなんだ。テニスのことも、お前らのことも。気味が悪いくらい殊勝でな。……ああ、だが心配すんな手塚。あの生意気なルーキーが、そうそう簡単にテニスを忘れられるわけがねえ。試合見てりゃそのうち思い出すだろ。テメェは部長らしくどっしりと構えてな」
トン、と胸を叩かれる。跡部の強気な笑みは心強いが、どうしたらいいのだろう。テニスのことまで忘れてしまっているなんて。
視線を動かせば、焦りと不安に満ちた越前の傍に居る桃城が目に入った。
「手塚。……分かるだろ、お前はうろたえんじゃねえ。部長オマエの不安は、そのままヤツら焦りに拍車をかける」
腕を引かれ、耳元でそっと囁きかけられる。それは言われなくとも理解していたつもりだが、改めて指摘されて身の引き締まる思いだ。
「……そうだな。跡部、礼を言うぞ。連れ帰ってくれて、助かった」
今はともかく、越前を連れてきてくれた跡部に感謝をしたい。礼を言われるとは思っていなかったのか、跡部は目をぱちぱちと瞬いて顔を覆った。
「俺様にかかれば、こんなの朝飯前だぜ」
「こういう時はお前が財閥の御曹司なのだと実感するな」
「おい普段は」
「俺にとって跡部景吾は跡部景吾でしかないが」
財閥の御曹司という意識はない。ただテニスに懸ける熱量が同等の友人であり、――想い人だ。
本当のことを言ったつもりだが、跡部はどうしてか顔を覆ったまま項垂れてしまった。何か気に障ることでも言ってしまったかと思うが、告げた音は戻ってこない。怒られない限りは構わないだろうと思うことにした。
「テメェはちょっと……マジで発言に気をつけやがれ……」
呆れたのか、脱力したような跡部の声が聞こえる。それには何も返さずに、越前が記憶を取り戻すのを待った。
越前が、仲間やこれまで戦ってきたライバルたちとのテニスで、無事に記憶を取り戻しコートに戻ってきた。不動峰や山吹、聖ルドルフなど、各校の選手たちが自発的に協力してくれたのだ。ありがたいことである。
その中には、真田や――跡部もいた。やはり跡部は越前を気に入っているのだなと、複雑な気持ちになったのが情けない。それとこれとは、話が別だ。跡部にも失礼だろうと、どうにか己を戒める。
そうして越前は神の子と謳われる幸村精市に勝利を収め、青学の優勝が決まった。
日本一だという動かしようのない事実に胸が躍る。そんなふうに笑うことがあるんだ、と不二に指摘をされ、緩んだ気持ちを引き締めた。
だが、嬉しい。心の底からだ。諦めないでいてよかった。もちろん自分一人の功績ではないし、チームのメンバーに本当に恵まれた結果だ。
「よう手塚。全国制覇くらいで浮かれてんじゃねーぞ」
「浮かれてなどいない」
表彰式が終わって解散というところで、跡部に声をかけられる。正直に言うと浮かれてはいたが、他人に指摘をされるのは面白くないのだ。しかも、全国制覇を逃してしまった好きな相手には。
「医者、ちゃんといけよ」
「ああ、分かっている。お前に怒られるのはごめんだ」
「腕が良くなったら連絡しろ。テニス、すんだろ?」
「……ん?」
手塚は目を見開いた。跡部の方から誘ってくれるとは思わなかった。そもそもあの日の約束を覚えていてくれたなんて。手塚自身は負けてしまったが、条件通り青学は勝利した。また跡部とテニスができるのだ。
「なんだよ、忘れてると思ったか?」
「……いや、まあ……そうだな。それに、今回の試合のことでお前を怒らせ、心配をかけてしまった。誘ってもらえるとは思っていなかったんだ」
「心配させたの悪いと思ってんなら、テニスで返しな。テメェはどうあっても言うこと聞きやしねえってのが分かったぜ」
仕方のないヤツだなんて呆れながらも笑う跡部に、なんと返せばいいのか分からない。極力無茶をしないようにはしようと思うくらいだ。それでも極力、だが。
「ただな、覚えておけよ手塚。俺はどのプレイヤーよりもお前を気にかけてる。一時の感情だけで死ぬんじゃねーぞ」
息が止まるかと思った。死ぬんじゃないぞと言った彼にこそ殺されるところだったが、硬直した体をどうにか溶かして、「またな」と踵を返す跡部の背中を見送った。
項垂れて、額を押さえる。
――――あ、の……男は……!
彼は発言に気をつけろとは言うが、こちらの台詞だ。誰よりも気にかけているなんて言われたら、嬉しいに決まっている。してはいけない期待までしてしまう。
手塚は軽く首を振って雑念を飛ばし、青学メンバーの元へ足を向けた。
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