No.562

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情熱のブルー-006-

情熱のブルー,塚跡WEB再録 2023.03.19

#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #情熱のブルー

 三日、最後のリハビリに励んだ。病院での手続きを済ませて、いちばん早い飛行機に乗った。今日はちょうど…

情熱のブルー,塚跡WEB再録

情熱のブルー-006-



 三日、最後のリハビリに励んだ。病院での手続きを済ませて、いちばん早い飛行機に乗った。今日はちょうど、全国大会の組み合わせ抽選日のはずだ。くじを引くまでに間に合うだろうか。
 青学が無事に全国大会へと勝ち進んだことは伝え聞いていて、信じていたがやはり安堵した。
 全国大会という大舞台で、またテニスができる。
 医師からはあまり無茶をしないようにとクギを刺された。できるだけそうしたいが、どの学校も強敵ばかりだろう。王者立海大付属とも当たるだろうし、油断はできない。
 ――――氷帝は……跡部はどうしているだろう。
 いちばん気にかかるのはそこだ。
 彼らの〝夏〟は終わってしまった。怪我を負いながらも全国大会に進んだ自分が、「テニスをしたい」などと、ともすればいやみにも取られかねないことを跡部に望んで、受け入れてもらえるかどうか。
 そもそもどうやって連絡を取ればいいのか。ふわりと跡部の顔が頭に浮かんで、唐突に顔の熱が上がった。また無意識に跡部のことを考えてしまっている。
 あまりにも強烈な印象を残した試合だったから、頭から離れないのだと思う。そうしておきたい。そうに決まっている。何も問題はない。ともかく跡部のことは全国大会が終わってからだと心に決めた。
 そうして空港から電車を乗り継ぎ、抽選会場である立海大付属の校舎に着いた。
 途中で竜崎に連絡を入れたら、もっと早く連絡しなと怒られた。失念していたのは手塚の落ち度だ。それでもホッとしたような竜崎の声に背中を押されて来たわけだが、抽選はどうなっているだろうか。青学がまだ引かれていないのなら、自身のこの手で引いてみたい。
 ドアのノブに手をかけたら、中から青学の代表を呼ぶ声がした。どうしてか笑い声も聞こえて、若干躊躇う。それでもギッとドアを開け、中の様子を目の当たりにした。
 今まさに、大石が抽選の壇上に向かうところだ。間に合ったと安堵するより早く、たった一度きりのくじは自分が引きたいという欲求が駆け抜けた。
「大石、それは俺に引かせてくれないか」
 声をかけた瞬間、ざわついていた室内がしんと静まりかえる。手塚の声を認識して、大石が振り向いた。安堵と歓喜でくしゃくしゃになった顔が、手塚をも安堵させる。大石が、どれほど頑張って部を支えてくれたかが分かるようだ。
 手塚は壇上に向かって段を下り、駆け寄ってきた大石に頷いた。
「おかえり手塚、待ってたぞ」
「ああ、遅くなってすまない。次は全国だな、大石」
 嬉しそうに頷いて、大石は元いた席に腰をかける。くじを引く役目を果たそうと壇上に視線をやって、途中、息が止まりかけた。
 ――――跡部。
 視界の端に、跡部景吾が映ったせいだ。一瞬だけの交錯を、彼は認識しただろうか。驚いたような表情は、あの日ボールをたたき返した時のものよりも幼く見えた。
 ――――そうか、開催地枠。出られるんだな跡部…………よかった。
 上位枠はもう埋まっていたはずだ。それなのに、敗退した氷帝学園の代表としてここにいるということは、開催地枠としての出場が決まっているということだ。
 くじによっては、氷帝学園と当たることもあるのかと手塚は口の端を上げた。叶わないと思っていた公式戦で、彼のプレイを見られる。胸がざわめいて、指先がそわついた。
 ざわざわと、自分のことを囁く声が聞こえる。噂話は本人のいないところでやるものではと思いつつ、気に留めるほどのものでもない。
「ふん、手塚がなんぼのもんじゃい。ワシのスーパーテニスで――」
「やめとけ。テメーじゃ十五分ももたねーよ」
 ただ、跡部の声だけが鮮明に耳に届く。なぜ跡部が得意げなのだと眉が寄ったが、じわじわと胸の辺りが熱くなってくる。
 ――――なぜ、こんなふうになるんだ。
 顔を見ただけだ。声を聞いただけだ。会話をしたわけでもないのに、なぜこんなにも胸が鳴るのか。
 段を下りる途中、長い足を突き出されたが、そんなものに引っかかりはしない。
「随分と長い足だな」
 そう挑発し返してやったら、高笑いが返ってくる。楽しそうだなと思っていたら、跡部が肩を震わせているのに気がついた。何かおかしなことをしてしまっただろうかと心配にもなった。
 あれ以来初めて顔を合わせる。いや、合わせたというレベルではないが、元気そうでなによりだと思う。タイミングが合えば、連絡先の交換ができればいいと思いながら、生涯で一度きりの、全国大会の抽選くじを引いた。
 氷帝学園はもう決まっていた。勝ち進めば、準々決勝で当たる。それを認識した瞬間、ドクンと心臓が大きな音を立てた。
 湧き上がってくるのは純粋な闘志で、ぐっと強く拳を握る。
 ――――テニスがしたい。思いきりラケットを振りたい。
 欲求は尽きない。抽選会が終わって青学に向かえば誰か相手をしてくれるだろうかと、珍しく心が逸る。
 己を律することがいつもより難しくて、ゆっくりと深く息を吸い込んだ。
「手塚、本当に良かった。もう万全なのか? 大会、出られるんだよな?」
「ああ、心配ない。大石、皆を率いてくれて感謝する。全国大会に出られることを、本当に嬉しく思うぞ」
 席に戻れば、大石がそわそわしながら訊ねてくる。手塚は頷きながらそれに答えた。
 どのような練習をしたのか、どのような試合運びだったのか、あとで聞かせてもらおうと静かに抽選会を見守る。
 大石の顔を見て安堵したが、跡部の姿を認識した時とは全く違う。
 跡部も全国大会に出られるのだと知って嬉しかった。それは好敵手として認識しているからであって、何もおかしなことではないはずだ。
 それなのに、どうしてこんなにもそわそわしているのだろう。同じ空間にいるというだけで、抽選の結果より彼の動向の方が気になってしまう。座った位置からでは彼が見られないということが、余計にそうさせていた。
 ――――終わったら、声をかけるのはおかしくないだろうか。しかし何と言えば……? また戦えることを嬉しく思うというのは、変だろうか……。
 自分から行動をするのはあまり得意ではない。
 普段はどうしてか相手から声をかけられることが多く、テニス以外ではイニシチアブを取るのが上手くなかった。お互いラケットを握っていれば簡単なのに、跡部は制服だ。テニスをする格好ではない。
 どう声をかけるべきか、そもそも声をかけていいものかどうか悩んでいるうちに、抽選会は終わってしまった。大石に声をかけられてハッとしたくらいだ。よほど深く考え込んでしまっていたのだろう。気がつけば室内に人はまばらで、跡部の姿もなかった。
 手塚は失態に気づき、眉を寄せた。悩んでいるうちに対象を逃してしまうなんて。
「さあ手塚、青学に行こう。みんな喜ぶよ」
「ああ……」
 大会中にでも声をかけた方が自然かと諦めて立ち上がり、抽選会に使われていた教室を出る。青学のメンバーに報告もしなければいけないし、彼らの報告も聞きたい。今日は顔が見られただけでよしとしようと、やはり不可解な感情に悩まされた。
「手塚」
 だが、教室を出たところの廊下で声をかけられて目を瞠った。跡部がたった一人でそこに佇んでいたからだ。
「話がある。少し、いいか」
 神妙な面持ちはたぶん珍しいのだろう。
 何かあったのかと心臓が嫌な音を立てたが、せっかく向こうから声をかけてくれたのだ、この機会を逃す手はない。
「ああ、構わない」
 頷きながらそう返せば、跡部はどうしてか驚いたような顔をした。自分から誘っておきながらどういうことだと目を瞬く。
「大石、すまないが竜崎先生への報告を任せてもいいだろうか」
「え、あ、ああ……いいけど、大丈夫かい? 手塚」
 大石が、心配そうに視線をよこしてくる。それは跡部にも向かっていって、手塚はなるほどと胸の内で納得した。あの日の試合のことを気にしているのだろう。容赦なく弱点を攻めてくるような男相手に、平気なのかと言いたいようだ。二年前テニス部の先輩に絡まれていたことを目の当たりにした大石が、心配するのは理解ができた。
「心配は無用だ」
「分かった、何かあったら連絡してくれよ」
 そう言いつつも、大石はまだ心配そうに跡部を通り過ぎていく。気まずそうな顔をした跡部を、手塚は物珍しそうに眺めた。
「トップがこの調子じゃ、苦労してそうだな、大石は……」
 ぼそりと呟かれた言葉が耳に入る。どういう意味だと訊ねてみたいが、ひとまず用件を聞くために跡部に歩み寄る。少しずつ距離が近づくにつれて、鼓動が速くなっていくようだった。


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