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カクテルキッス再録集
カクテルキッス再録集

カクテルキッス―Re;Collection―

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(画像省略)カクテルキッス再録集【装丁】A5サイズ/298P/1800円(イベント価格)/R18【書…

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カクテルキッス―Re;Collection―

カクテルキッス再録集
カクテルキッス再録集


【装丁】A5サイズ/298P/1800円(イベント価格)/R18
【書店】フロマージュブックス様
書き下ろしはありません。

シリーズの再録集です。文章や台詞を少し整えたのみ、書き下ろしは別途新刊として発行。

【収録物】
①2.22のガチャ事情
②ONE NIGHT IN HEAVEN
③愛のひとつも囁けない
④たった一度のI love you
⑤ふたりの約束

すべてWEB再録済みなので、紙で読みたいという方向けの物です。ご了承ください。

#R18 #シリーズ物 #再録 #カクテルキッス #千至

千秒の愛に至る音
千秒の愛に至る音

カクテルキッス―千秒の愛に至る音―

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(画像省略)千秒の愛に至る音【装丁】A5サイズ/68P/700円(イベント価格)/R18【書店】フロ…

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カクテルキッス―千秒の愛に至る音―

千秒の愛に至る音
千秒の愛に至る音

【装丁】A5サイズ/68P/700円(イベント価格)/R18
【書店】フロマージュブックス様
【あらすじ】千景に、もらった指輪のお返しを贈りたい至。二人で選びたいと提案し、街へと誘い出す。危険なことになるのは回避しなければと気負う至に、千景は新たな一歩を踏み出そうとしていた。
※作中にほんのり十座×左京の描写がありますので、苦手な方はご注意ください。


「それで? なんでお前こんなとこにいるんだ」
「いやそれこっちの台詞なんですけど。本気でビックリした」
 この店にいることを千景に言っていたわけではないのに、どうしているのだろう。スマホにもなんの連絡も来ていない。仕事が終わって「これから帰る」とでも入っていれば、この店の名を返していたかもしれないけれど。
「実はここ、俺が使ってる情報屋だからな。彼に連絡をもらったんだ」
 言いながら、千景は先ほどのバーテンダーを指さす。どこまで本当か分からないが、千景なら有り寄りの有りだ。
「――なんてのはどう?」
「信じかけたじゃないですか」
「ハハ、ここは愛の力とでも言いたいとこだけど、まあ偶然かな。一杯だけ飲んで、仕事の名残を消して帰ろうと思っただけだよ。別にお前にGPSなんて仕掛けてないし」
「先輩が言うとコワ。まあ、でも、助かりましたよ。ありがとうございます」
「何もされてないか? 大丈夫?」
 本当に心配そうに髪を撫でてくれる千景に「はい」と返し、ハッとする。千景の方こそ大丈夫なのかと。一仕事終えてきた状態だ、怪我なんてしていないだろうか。
「あの、先輩は……っ」
「ん?」
「……いえ、なんでもないです。……おかえりなさい、千景さん」
「うん、ただいま茅ヶ崎」
 何も言わないということは、何もなかったということだ。至の役目は受け入れて受け止めて、迎えるだけ。おかえりというと五割増しの優しい顔でただいまと返してくる千景の傍にいることだ。
「そうだ先輩、明日空いてます? 土曜日だし」
「なに、デートのお誘いかな」
「……そうですね、そういえば」
「そういえばってなんだ」
「だっていつも一緒にいるから、デートっていう単語に慣れてなくて」
「まあそれは俺もだけど。いいよ、空いてる」
 部署は違えど会社でも一緒、劇団の組も一緒、もっと言えば寮の部屋も一緒。一緒にいない時間の方が少なそうで笑ってしまう。
 こんな状態で、お互い片想いをしていた時期があるというのだから、始末に負えない。
 こんなに愛しそうな顔を向けられて、気づかないはずがなかったのに。
 そしてまた、こちらも同じだったのだから気づいてくれてもよかったはずなのに。
 あり得ないと思う先入観が、フィルターをかけていたとしか思えない。
「何か欲しいものでもあるのか? ゲーセンじゃないだろうな」
「その手があったか」
「おい茅ヶ崎」
「ハハッ、冗談ですよ。半分。あのですね、これのお返し、買いたくて」
 言って、千景に左の手の甲を向けてみせる。そうして右手の人差し指で、指輪を示した。千景はぱちぱちと目を瞬き、驚きを隠せない様子だった。
「……指輪の? お返しってどういう」
「俺は先輩と……千景さんと対等でいたいんですよ。まあ無理ですけど。この指輪だって、千景さんがお金出したでしょ、でも俺だって大事な人に課金したい」
「課金とは」
「そこは言葉のあやで」
 いつものくせでつい、と視線を逸らす。だが言ったことは本音だ。千景に与えてもらうだけの状態ではいたくない。行動力も包容力も、資産だって千景には敵わない。
 せめて気持ちの大きさだけは示しておかないと、情けないことになる。ちらりと千景を見やると、項垂れて手の甲で額を支えていた。
「え、あの……千景さん、そういうの、嫌、ですか……」
 これは盛大に外したということだろうか。千景のプライドを傷つけたのかもしれない。
 余計なことだったか? と思うと同時に、こちらにだってプライドと恋情と愛情があるのだと、面白くない気持ちもわき上がってくる。
「そうじゃなくて……ごめん、なんて言ったらいいのか分からない」
 千景はゆっくりと息を吐きながら、顔を上げて口許を覆い、眉を寄せた。至はぱちりと目を瞬く。気に食わないわけではないらしい。それどころか、これは、と思っているうちに、千景の額が寄ってくる。こつ、と頭がぶつかって、音を立てた。
「――……うれしい。茅ヶ崎、ありがとう」
 こめかみに振ってくる唇と、耳に囁かれた声に、ぶわっと体温が急激に上昇する。
 千景がこんな声を出すなんて、本当に嬉しく思ってくれているのだと、途端に恥ずかしくなってきた。まだ予算も決めていないのに、はちゃめちゃに課金をしてしまいそうで恐ろしい。
 だけどこんなに喜んでくれるなら、それもいいかなんて思ってしまった。
「そ、んなに……うれしい、ですか?」
「うん。俺はそういうつもりで指輪買ったわけじゃなかったからな……そんなふうに返してくれるなんて、思ってなかった」
「千景さんて、いつでも与える側ですよね……」
「いや、俺はいつももらう側かな」
「何言ってんだかこのペテン師が」
 至は乾いた笑いを漏らし、なだめるようなキスを千景の額に与えた。
 こんな小さなキスしかあげられないけれど、受け取ってくれるだろうか。頬にお返しのようなキスをされて、幸福そうな顔をした千景に満足した。
「あの、時計がいいかなって思ってたんですけど。プレゼントでは定番みたいだし」
「ここ最近、時計の雑誌とか読んでたのはそのせい?」
 めざとい、と少し気恥ずかしげに目を瞬いて、至はこくりと頷く。
「今日もちょっとリサーチ行ってたんですけど、一人じゃ選ぶの難しいんですよ。ブランドにはこだわりないって言ってましたけど、何か欲しいものあります? カタログももらってきたので」
「あるよ。今すごく欲しくて、ちょっとやそっとじゃ手に入らないものなんだけど」
「え、それは俺の経済力では無理なのでは」
 千景がこんなふうに明確に示すことは少ない。至は超高級な時計のブランドを思い描きながら、引きつった笑みを浮かべた。
 テーブルに置いていた手に、千景の手が重なってきたことに気がついたのは、耳元で「茅ヶ崎至」と囁かれた時。
「そっ……う、いうのじゃ……っ」
「他の男に口説かせたままで、一日を終わらせてやると思ってるのか?」
「あ、んなの、口説かれたうちにも入らないっていうか、今まさに千景さんが口説いてる状態なのでは」
「こんなの口説いてるうちにも入らないだろ」
 ねえ、と指先で指の間をすいと撫でられる。
「う……」
 至だって、ワンナイトのつもりで言い寄ってくる男の絡みを、一日の最後になんかしたくない。
 それに自分たちは恋人同士なのだし、抱き合いたくなってもおかしくない、おかしくない、絶対だ、と自分に言い聞かせて、諦念を混じらせてこくんと頷く。
「じゃあ、あそこ……行こうか、茅ヶ崎」
「え、あ、はい、……あそこですよね」
 チェックを済ませ、店を出る。
 向かうのは、初めて肌を重ねたあの夜の、はじまりの場所だった――。



 仕事を終えたあとの千景は、好戦的になる。ベッドへ行く数秒の間すら惜しいとばかりに、ドアを閉めた途端に唇を奪われた。
 器用な指先はジャケットのボタンを外して、シャツを引き出したかと思えばすぐに素肌を昇ってくる。
「んっ……ん、ふっ……ぁ、んんッ」
 ぐっと割り込んできた太腿で股間を擦られて、びくりと腰が揺れた。まさかここで、と千景の体を押しやり、吐息の合間に誘導してみる。
「ちか、げさ……ベッド……っ」
「遠い」
「あっ……! ん、んんっ、んぅ」
 そんなわけあるかと抗議したいのに、再び塞がれた口では何も言えない。
 いつだかもこんなことがあった気がする。だけどあの時よりはずっと千景の存在が近くにあって、心音はずっと速くて大きい。
 食われてしまいそうなほど舌が絡み、吸い上げられ、頭がくらくらとしてくる。吐息と衣擦れと、唾液の音しか聞こえない。
 乳首をつままれこね回されて、吐息の温度が上がる。それに気を良くしたのか、執拗にいじり倒してくる千景の指先を、憎らしく思った。
「千景さん、それ、やだ……いっ……あぁ……」
「こうして爪の先で引っ掻かれるの、好きだろ。じれったそうな顔してる。もっとしてほしいって……舐めて、吸って、噛んでほしいって」
「言って……ないぃ……っんん、あ、あ、駄目、だめ……っ」
 口に含まれて、ぞくぞくと快感がせり上がってくる。千景の言う通りなのだが、言葉にされると素直にうんとは言いづらい。どちらにしろされるのだから、否定するより千景を待っていた方が楽でもあった。
 軽く歯で挟まれて、さらに舌先でいじめられて、気持ちよくて仕方がない。
 ガクガクと膝が揺れて、顎が上向く。声を抑えるという概念さえ消え去って、ただ体が望むままに千景の愛撫を受けた。
 チリチリとファスナーを下ろされた向こう側に、形を変えたものがある。下着越しにそっと撫でたかと思えば、次の瞬間にはぐいと引きずり下ろし直接触れられた。
「あっ、あ、あ……だめ、待ってやだ、千景さんっ……」
「やじゃない」
「ベッド、で……っ、だから、駄目、ですってば、ぁ……ん、んッ」
 にちゅ、にちゅ、と淫猥な音が耳に届く。恥ずかしい以前に、立っていられない。もう体全部を投げ出してしまいたいくらいなのに、立っていなければならないのはつらい。何より、千景の与えてくる快感に集中できないのが嫌だった。
「ちゃんと、感じたい……千景さん、お願い……これじゃ、集中、できな……っ」
 千景の手が、ピタリと止まる。それはそれでじれったいけれど、聞き届けてもらえるのだろうかと安堵もした。
「なるほど。抱いてる最中に気を逸らされるのは、俺も本意じゃないな」
 千景はそう言って、いったん体を離す。ずるずると壁を伝い崩れ落ちそうになる至の膝裏に腕を差し入れ、ぐっと腰を上げた。至は思わず「ひえっ」と声を上げ、慣れない視界に慌てる。
「おっ、下ろしてください!」
「下ろすよ。ベッドでね」
 歩くのもままならないお前を待つ余裕があると思うなと言われて、ゆでだこのような顔を隠したくて、千景の首にしがみついた。
 そうしてベッドに下ろされれば、仕切り直しとでもいわんばかりのキスから始まる。
「茅ヶ崎は俺が与えるばかりの側って言うけど、やっぱり俺はもらう側だなって思うよ」
「今のやりとりの、具体的にどこが」
「ぜんぶ」
「えええ?」
 ハテナマークしか浮かんでこない。そのマークも早々のうちに千景の愛撫に吹き飛ばされる。そこかしこに散らされるキスマークの方が多くなって、至は体を震わせた。



畳む


#両想い #ラブラブ #カクテルキッス #シリーズ物 #新刊サンプル #R18

ただの好意かそれとも恋か
ただの好意かそれとも恋か

ただの好意かそれとも恋か

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(画像省略)ただの好意かそれとも恋か【装丁】文庫サイズ/92P/全年齢/500円(イベント価格)【自…

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ただの好意かそれとも恋か


ただの好意かそれとも恋か
ただの好意かそれとも恋か

【装丁】文庫サイズ/92P/全年齢/500円(イベント価格)
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm/items/383416...)匿名性なし
【書店通販】フロマージュブックス様(https://www.melonbooks.co.jp/fromagee/de...
【あらすじ】全国大会後、跡部は物足りない日々を過ごしていた。気まぐれに手塚をテニスに誘えば、意外にも快諾が返ってきて驚く。それでも日が暮れるまで打ち合い、抑圧のないゲームを楽しんだ。気晴らしになったと言う跡部に、誘ってくれてありがたいと手塚は恋を告げてくる。跡部はそれを受け入れる気は当然なくて断るが、手塚は諦める気はないようで――? 旧テニの世界線です。


 手塚は小さくこくりと頷き、理解をしてくれた。手塚とはいいライバルでいたいのだ。それは跡部の本心だが、手塚にそういう気持ちがある以上無理だろうかと、ほんの少し寂しくて、悲しくなってくる。
 緊張が解けてしまったのか、手塚がらしくなくどさりと音を立てて隣に腰をかけてきた。
「では、どうしたら交際してもらえるだろうか」
「――テメェ理解したんじゃなかったのかよ!? ついさっき分かったって言ったばかりだろうが!?」
「提案が却下されたのは分かった。だから妥協案を」
「何も妥協してねえだろ。最終的には俺とつきあいたいってことじゃねーの」
「それはそうなる」
 至極真面目くさった顔で素直に頷かれて、くらりと目眩がするようだ。跡部は思わず屈み込んで頭を抱えた。
「手塚、お前な……」
「可能性が少しでもあるならつけ込んで、……すまない言い方を誤った。攻めてみた方がいいだろうと思って」
「つけ込むんじゃねーよ。可能性なんざ欠片もねぇ」
「欠片もか」
 ああ、と大きなため息とともに返してやる。それには「そうか」と返ってきたが、先ほどのことを考えると、理解したというだけで諦めたというわけではないのだろう。
 テニスで心地の良い疲労を感じた後にこんなことで疲れることになるなんて、思ってもみなかった。跡部は体を起こし、髪をかき上げた。
「俺様の美貌に血迷うヤツがいるのは仕方ねえが、男からってのはあんまり気分のいいもんじゃねーな」
「……すまない。俺も、好きになろうと思って好きになったわけではないんだが、お前からしてみたら、そうだろうな」
 肩を落として手塚が小さく呟く。
 心なしかしょんぼりとしているように見えて、跡部は気づかれないようにぱちぱちと目を瞬いた。いつも強引なプレイで相手や観客を巻き込んでいく男が、跡部景吾の言葉ひとつでこうもしおれてしまうなんて。
 手塚には悪いが、面白いものを見たと感じてしまう。
「まったく面倒なこと言い出しやがって。俺はテメェにそういう勘違いさせる態度取ってた覚えもねぇ……ん、だが……」
 言いかけて、ふと思いとどまる。指先を額に当てて記憶を掘り起こしてみるが、恋に発展してしまう態度を取っていなかったとは言い切れないような気がしてならない。
 好敵手として認識していたし、試合会場で顔を見れば声をかけてもいた。それはライバルとしての挑発でしかなかったけれど、わざわざ近くに行ってまでというのはやりすぎだったのではないだろうか。執着と取られても仕方がない。越前リョーマとの試合でも、頭のどこかに手塚のプレイが存在していたのも事実だ。
 他校の選手相手に、自分から話しかけることは少ない。手塚だけは違う。それを自覚していなかったのは認めるが、断じて恋心からではない。
 しかし、跡部のその態度から周りが勘違いする可能性はあったのだと今初めて気がついた。それで囃し立てられて祭り上げられて、手塚も勘違いしてしまったのだろうか。
「おい手塚よ、俺様はな、別にテメェのことは」
「気分を害させてすまない。何しろ初めてのことで、勝手が分からないんだ。誰に相談すればいいかも分からない。跡部は困るだろうと思っていたんだが、隠しておくのは誠実ではないと思ってのことだ」
 勘違いをさせたのなら詫びねばならないと思った弁明を、手塚は遮ってくる。この物言いからするに、周りはともかく彼自身は跡部の感情を変なふうに解釈したわけではないらしい。ホッとした反面、あれは少しも特別なことではなかったと思われているようで面白くない。複雑な気分だった。
「テメェいったい俺様のどこに惚れたんだよ」
 好敵手とはいえ、普段の生活はお互いまったく知らない。ふとした仕草や価値観に触れて恋に落ちるほど、共に過ごした時間があるわけでもないのだ。学園生活でそういう時間が多いのならばまだしも、いつ、いったいどこに惹かれたのだろう。
「どこ……」
 訊ねた言葉に、手塚は腕を組んで考え込んでいる。すぐに出てこないというのは、多すぎて分からないのか、それとも言い出せないほどマズイ部分なのか。
 ――――コイツが跡部のコネや財力云々なんて言うはずもねーが、顔なんて言ったら張り倒してやるぜ。
 整った容姿というのは惹かれるひとつの要素だろうが、そんな理由で恋を告白してこないでほしい。そんな男相手に気を揉んでいる時間が惜しいのだ。
 跡部はそのわずかな懸念と苛立ちを眉間のしわに刻む。責めるような眼差しで、手塚の答えを待った。
「テニス、だろうか?」
「――は?」
 ややあって、振り向いた手塚が思いも寄らなかった答えを告げてきた。いや、思いも寄らなかったというよりは、接点がそれしかないのだから当然でしかない。選択肢にもしていなかった。
「だろうか、ってお前な……訊いてんのはこっちなんだよ。なんで疑問系なんだ」
「あまり理由を考えなかった。普段のお前を知らないし、他に何を挙げればいいのか分からない」
「俺のことを何も知らねえのに、よくもまあ好きだなんて言えるな。テメェはプレイスタイルだけでなく恋愛スタイルまで強引で傲慢なのかよ」
「お前のテニスに触れてしまえば、好きになっても仕方がないと思うが」
 呆れて物が言えないと息を吐き出すように笑ってやれば、さらなる追撃を受ける。ぐっと言葉に詰まった。
 テニスと人格がイコールで結ばれているのもどうかと思うが、嬉しくないわけではなかった。跡部のテニスには、恋をするにふさわしい価値があるのだと、恥ずかしげもなく言われているのだ。
 少しばかり、くすぐったい。
「それに、その理論でいうなら、俺のことをよく知りもしないのに付き合えないとは言えないんじゃないか?」
「屁理屈こねんな、次元が違うぜ。俺の美技が観衆を惚れさせるってのはまあ間違いねえがな、手塚よ。要するに俺とテニスがしてえってことだろうが。それはただの友人とか、ライバルでも成り立つぜ」
 跡部自身大会を経て、尊敬するプレイヤーは増えた。対戦はできなかったものの観戦してうずうずした選手や、受けてみたいと思う技はたくさんあった。もう公式戦では当たらないからこそ、焦がれるような思いだってある。
 手塚のそれも、同じものではないのか。
 たった一度対戦したあの試合。頂上決戦と言われているのも知っている。あの試合を上回る熱戦も多々あるが、多くの選手たちの胸を打っただろうことには変わりがない。跡部の中でも、ただひとつの特別な試合だ。
 跡部にとって手塚が特別な相手であることは否定しない。
 手塚にとっても跡部が特別になってしまっていることも、否定はしない。
 しないが、テニスに焦がれるのと相手自身に焦がれるのとはまったく違う。
 そう諭してやったというのに、手塚は面白くなさそうに眉間にしわを刻んだ。
「成り立たないな。少なくとも俺は、ただのライバルにキスをしたいとは思わない」
 即座に否定されて、絶句した。まさか手塚国光の口からそんな単語が飛び出してくるとは思わないだろう。違和感だらけだ。
「キ、………………ス、とか言うのかよ、お前が」
「心配しなくても、無理やりどうこうするつもりはない。怖がるな」
「だっ……誰が怖がってんだよ。……少し、驚いただけだぜ。少しな」
 思わず強張ってしまった体を、深呼吸ひとつでなだめる。
 しかし、困った。手塚は頑なに恋情だと示してくる。キスがしたいなどと、人並みの感情も持ち合わせていたんだなと若干的外れなことを考えた。健全な男子中学生らしくて微笑ましいことだ。相手が自分でさえなければ。
 無理やりどうこうするつもりはないという彼の言葉を信じたいが、信じ切れるほど手塚国光という男を知らない。
 もちろんイメージというものはあって、その中で彼がそんなことをする男だとは思っていない。そもそも恋愛感情をきちんと認識できる男だとは思っていなかったのである。これは跡部のデータ不足だ。
「もちろん、純粋にテニスプレイヤーとして尊敬もしている。テニスにかける情熱は見ていて心地がいいし、負けたくないという思いも強くなる」
 膝の上でぐっと強く拳が握られるのが見えて、跡部はそっと視線を上に上げる。前を見据える横顔は、跡部も惹かれて止まないテニスプレイヤー・手塚国光だった。
 テニスに関する思いは同じなんだよなと、呆れにも似た歓喜が膨れ上がる。
「お前とテニスをしたいという思いも嘘ではない。それでも跡部のことを考えていると、ふとした瞬間に触れたくなる。抱きしめたくなるんだ。これが恋でないというのなら、俺は本当の恋を知らなくても構わないと思う」
 振り向いた視線は、まっすぐに向かってくる。
 ひとつひとつ、音を確かめるように呟かれる言葉はするりと耳に入り込んで、跡部の中に留まってしまう。
 ここまで言われてしまっては、否定するのは野暮というものだ。
「……本当に、好きなのか、俺のこと」
 跡部は最後にもう一度、確認した。
「ああ、好きだ」
 答えは分かっていたけれども、揺るがない手塚の恋情を受け止めるには、必要なプロセスだった。
「そうか」
 短くそう返し、ふうーとゆっくり息を吐く。膝の上で手を組んで、こくりと唾を呑んだ。


#片想い #塚跡 #新刊サンプル #シリーズ物

永遠のブルー
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(画像省略)永遠のブルー【装丁】文庫サイズ/264P/R18/1500円【書店通販】フロマージュブッ…

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永遠のブルー

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【装丁】文庫サイズ/264P/R18/1500円
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【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm/items/377821...
【あらすじ】
手塚の怪我について負い目を感じている跡部だが、「お前とテニスがしたい」と言われ自分の中の厄介な想いに気づく。こんな勝手な感情は告げられるわけがないと必死で心を押し殺しながら、好敵手として接していた。けれどそれは、手塚の一言で崩れてしまう――。





 なぜお前が膝をついているんだ。
 跡部景吾は、瞬きをするのも忘れてその男をネット越しに見つめた。
 中学生男子テニス・関東大会。初戦の試合だった。シングルス1、多くの学校が部長を据えるこのゲームは、跡部と手塚の初対決でもあった。
 手塚国光は、青春学園テニス部部長だ。
 国内の中学生プレイヤーならば誰もがその存在を知っていると言っても過言ではない。寡黙ながらも正確で冷静なプレイスタイルには跡部も一目置いていて、戦いたい相手ではあった。当然ながら自分の力を見せつけて圧勝するものとして。
 だがその認識は誤っていた。
 冷静に状況を判断して時には妥協もするだろうと思っていた男は、ただチームを勝利に導くために自分の腕さえ懸けるような、とんでもない男だった。
 分かりやすく弱点を攻める跡部に、『遠慮するな、本気でこい』などと煽るようなことまで言って、実際本気でやらなければこちらがやられると思わせる。『それでも俺が勝つ』とでも言いたげな球筋が腹立たしくて、跡部も全力で返した。
 いつしか、弱点を攻めていたことなど忘れていた。
 手塚が激痛に顔を歪めて肩を押さえ、膝をついた瞬間に沸き上がってきたのは、怒りと焦燥感。
 自分が弱点を攻めていたにもかかわらず、なぜだ、と思った。なぜ今この瞬間なのだと、身勝手にもだ。
 もう少し早ければここまで心技ともに昂ぶっていなかっただろう。もっと遅ければ、必ず自身の勝ちという結末を迎えていたはず。
 そもそも持久戦など受けて立たずに退いていてくれれば、所詮その程度かと嗤(わら)ってやれたのに。
 攻め立てたのは跡部で、選んだのは手塚だ。
 互いの間にあった糸が、ぷつりと切られたような気がした。
 青学のベンチで、他の部員たちに棄権を促されている中、跡部はただコートで待った。
 納得できない。
 ――――こんな形で終われるわけがねえ。俺たちがこんなところで終わっていいはずがないだろう!
 ぐっと強くラケットを握る。燃え上がった心はあの男でなければ鎮められない。
 ――――出てこいよ、手塚。手塚。……――手塚ァ!
 祈り、怒り、信じて待った。こんな終わり方では納得できないのはお互い同じだと根拠なく思って。
 いや、根拠はあった。手塚が打った球のひとつひとつにだ。
 果たして、手塚は部員たちの反対を聞き入れず、親友と生意気な後輩の後押しを受けてコートに戻ってきた。
「待たせたな、跡部。決着をつけようぜ」
 背筋を、何かが駆け抜けていったような気がした。武者震いに似た歓喜。
 やはり同じ気持ちだったと、ラケットを握り直す。
 決着をつけなければ前に進めない。いや前ではない、上だ。お互い部長同士で、チームを率いている以上責任がある。勝って次の試合に進むのは自分たちだと、それぞれ思っていたはずだ。負けるつもりでコートに立つプレイヤーなどいやしない。
 だがこの時ばかりは、個人としての闘志が渦巻いていた。お互いにしか分からない機微だったとしても、それは事実だった。
「なんだ手塚ァ! このサーブは!」
 球を打ち返す。激痛に顔を歪め、肩も充分に上がりきらない相手のボールを、容赦なく打ち返すなんて非情だと責める者もいるだろう。始めのリターンエースを見ていてそれを言うならば、眼科に行けと言ってやりたい。
 そもそも、手を抜くべき場面ではない。それは手塚に礼を欠く。手塚は激痛に耐えてまで、勝つためにコートに戻ってきた。容赦がないのは手塚の方だ。あのボールを受けてみれば分かる。この期に及んで、負けるつもりなど毛頭ないことに。
 手塚の息が上がっている。跡部の息も乱れている。
 どちらも引くということを知らない男だ。その事実を、観戦している誰もが初めて知った。相対しているお互いさえも。
 こんなにがむしゃらで熱いプレイをする男だったなんて。こんなアイツは見たことがない――近しい相手すらそう言うのだ。今までろくに言葉を交わすこともなかった状態では、当人たちだって同じ思いを抱いているだろう。
 自分の中にもこんな必死さがあったのかと、自分自身に驚いてさえいるかもしれない。
 跡部はそれを自覚していた。幼い頃イギリスで同年代の少年たちに負け続けていた時だって、ここまで必死になった覚えはない。
 自分自身の未熟さに腹を立てて技術を磨いたが、あの時とは全然違う。己の内にあるすべてのもので挑まなければならない相手だ。
 間違いなく、この先の人生で無二の試合になる。直感でそう感じた。
 体も、心も、魂も、比べるもののない試合になると分かる。
 だからこそ打ち込む球に最高の力を込める。誰になんとそしられようと構わない。
 この球を受ける相手に――手塚には分かっているはずだ。
 トスを上げる直前に交錯した視線で、手塚がわずかにグリップを握り直したことで、それが自分の独りよがりではないと確信ができた。
 たとえこのタイブレークがどれほど続いたとしても、自分を――そして、手塚がテニスに懸ける想いを裏切ることのないように、すべての力をもってプレイをしよう。
 ――――手塚、ありがとよ。今ここでお前と戦っていなければ、お前が全力で挑んできたりしなければ、俺は俺の進化を自分で止めていた。
 一瞬たりとも気など抜けない。全神経をボールと手塚の動作に集中させているのに、それでも横を抜かれる。仕返しに足元を撃ち抜いてやっても、すぐ次の手に備えなければならない。
 一ポイント取っても、次は取られる。全力で打っているのに、向こうも全力で打ち返してくる。
 だが不思議と腹が立たない。悔しくはあるが、余計に気分が高揚した。魂が吼(ほ)えたような気分を味わう。
 いつしか、審判のカウントの声も聞こえなくなっていた。
 聞こえるのは、コートを踏みしめる音と、強烈なインパクト音。互いの咆哮と、荒れた吐息。それだけだった。
 いつまで続いたっていい。
 日が暮れたって構わない。
 ずっとこうして、球を交わしていたい。
 だが終わりというのはいつかくるもので、ポイントを取るために打った手塚の零式は彼の思惑に反した軌道を描き、跡部のラケットがそのボールを拾い返す。その際に倒れ込んだ跡部の反応が遅れる。
 手塚が打ち返してポイントを取られ、まだタイブレーク状態が続くものと思われた。だが手塚の打った球が跡部のテリトリーにまで届くことはなく、ネットに捕らえられて――落ちた。
 ゲームセット! という審判の声で、周囲の音が戻ってきたように思う。
 ああ終わったのか。終わってしまったのか。
 跡部は立ち上がって、ネット際に歩んできた手塚の顔を見た。相変わらず表情は読みづらく、この勝敗をどう思っているのか分からない。
 跡部はじっと手塚を見据え、彼の背負うものに思いを巡らせた。
 勝ちは、勝ちだ。そして、負けは負けだ。
 だがそれでも、差し出された右手を握り返して、高く掲げてみせる。
 お互いが勝者で、お互いが敗者だと。
 周りが驚いているのが空気で分かる。手塚すら驚いているようなのが手のひらを通して伝わってくる。
 他にどうもできなかったのだと、跡部自身らしくないことを理解していて、長くはそうしていられない。
 ゆっくりと手を放せば、「跡部」と小さく呼ばれる。だが何も聞くつもりはなくて、揃って審判への礼を終わらせ自陣へと戻った。
 ベンチに腰をかけ、息を整える。
 ここまでとは思わなかった。手塚という男が。跡部景吾(じぶん)という男が。
 満たされた気分だ。そう思う傍から、まだ足りないと思う自分がいる。
 まだ、もっと、高みへ行ける。恐らく同じ思いを抱えている男がいるから。
 だが、と跡部は吐き出した息を飲み込んで止めた。
 ――――次の補欠戦、恐らく負ける。手塚が目をかけている新人だってえんだから、相当な腕の持ち主だろう。日吉まで回ることを想定していなかった俺のミスか。
 日吉も二年の中では優秀なプレイヤーだが、まだメンタル面に未熟なところがある。次代の氷帝を背負うには、ここを乗り越えられるかどうかにかかっている。
 ふと顔を上げると青学ベンチの手塚が目に入った。何をしていやがる、と眉間にしわが寄る。早く病院に行けと叩き出してやりたい。
 ネット際で握手をした時だって、わずかながら左手が震えていただろう。その肩はすぐに治療をしなければいけないのではないのか。周りの連中も、いったい何を悠長に構えているのだ。
「おい、てづ……」
 思わず腰を上げかけた時、気づく。手塚がじっとコートを見据えていることに。
 後輩である越前の試合を、余すところなく見届けなければならないと。その勝利を信じ、熱望して。
 跡部は上げかけた腰を下ろし、ふっと口許を緩めた。
 そうだ、信じて観ないでどうするのだと。これは個人戦ではなく団体戦なのだ。率いているキングが周りを信じなければ、誰もついてこない。
 自分がするべきことはした。自分自身も想定外に熱くなった試合は日吉の闘志を刺激しただろうし、準レギュラーですらない部員たちにも、何か響くものがあったはずだ。そして自分のペースで心技ともに磨いていくきっかけになっただろう。それでいい。後はここでどっしりと構えているべきだ。
 それがキングたりうる者の使命。
 ――――勝ってこい、日吉。今お前の持てるすべてでぶつかってこいよ。
 信じてここで待っている。
 跡部はいつものしたたかな笑みをたたえ、ちらりと手塚を見やった。
 周りを信じられるかどうか――自分たちの勝負はまだ続いている。青学と氷帝の勝負であり、頂点同士の勝負でもある。
 ――――同じなんだろ、手塚。背負うものは俺もお前も変わらねえ。てめぇとの決着は、まだついちゃいねぇぜ!
 どよめきやインパクト音が響く中、跡部はふっと視線を上げて目を細めた。
 まだ昇っていける。あの高みへ。あの瞬間の快感を忘れることなどできやしない。
 ――――ああ、なんて……鮮やかな青をしてやがる。
 夏に向かう色だ。
 日吉の――氷帝の敗北がきまったのは、それからしばらくの後だった。


「手塚、九州やて?」
 手塚が療養のために九州へ向かったことは、人づてに聞いた。
「ああ、そうみたいだな」
 跡部はそう返すしかできず、ふいと顔を背ける。
「見舞い、行かへんの」
 忖度も何もなく無遠慮にそう訊ねてくるのは忍足で、ある程度予測のできたものだった。
「九州までか?」
「跡部なら金の心配はあらへんやろ。自家用ジェットでも使たらすぐなんとちゃう?」
 暗に行かないと答えたつもりなのに、懸念事項はないとばかりに続けてくる。
 確かに金銭的な問題はない。ヘリでもジェットでもすぐに使える立場にはある。
 生徒会やテニス部のことで時間がないと言っても、この男は「跡部がそんなつまらん言い訳するやなんてなあ」と言ってくるに違いない。そして実際、調整できないわけでもない。
「行って何するってんだ、テニスができるわけでもねえのに」
「よう言うわ。朝から晩まで気にしとるくせに。詫び入れたいんやないんか?」
「詫び、ねえ……」
 手塚が療養に行ったのは、跡部との試合で痛めた肩の治療のためだ。
 罪悪感は、ある。
 弱点を攻めて潰しにかかったのは跡部なのだから。だが跡部にとって誤算だったのは、肩に負担がかかっていると理解しつつも手塚が退かなかったことだ。
 なにも、本当に再起不能にしようとしたわけではない。選手生命にも関わる部分だ。およそすべてのプレイヤーが、その先を考えて棄権するか、攻め急いで墓穴を掘るかだと思っていた。今まで相手にしてきたどの選手もそうだった。
 それなのにあの男は、肩の不調を抑え込んでまで持久戦を挑んできたのだ。
 読み切れなかったことで、手塚の肩を破滅させた。
 詫び、で済むのかどうか。
 もし今後テニスができなくなったりしたら――どうすればいいのか。あれほどの選手を、自分が死なせてしまうのか。
 九州には確か、青学大附属の病院があったはずだ。そこに罹っているのだろう。
 これが跡部家の息がかかった施設なら最優先にしろと手を回すところだが、……と思いかけて、踏み留まる。
 治療を必要としている人はなにも手塚だけではない。それこそ一生をふいにする怪我を負っている患者だっているだろう。それを押し退けて治療を優先させろなどとは、口が裂けても言えやしない。
「手塚がそんなもの受け入れるかどうか……」
 口許に苦笑を浮かべて、忍足に答える。望まれるなら詫びでもこの先の生活補償でもするが、手塚はそれを受け入れないだろう。「必要ない」とにべもなく言ってのける姿が、目に浮かぶようだ。
「お前がそないに苦しそうな顔するんやったら、やっぱりあの時止めといたら良かったわ」
 けど、とそこでいったん言葉を止める忍足を振り仰ぎ、そこに苦笑する友人を見つけた。
「なんやあの時は、止められへんかった。あないに必死にボール追う跡部やなんて、そうそう見られるもんとちゃうしなあ。手塚に関しての読み違いはあそこにおる全員がそうやったろうけど、跡部も大概やで。観たかったんや、宿敵同士のまたとない試合。止めへんで、堪忍な」
「……宿敵同士?」
 跡部は目を丸くする。何の不思議もなく出てきたその単語が、ストンと自分の中に落ちてきて、じわりと体中に染みこんでいく。
「なんでそこで驚くん、自分。変なこと言うたか?」
「い、いや……そうじゃねえが、アイツが俺を宿敵として認識したように見えたってのか?」
 確かに跡部は手塚をライバルとして意識していた。だがあの試合まで彼とはろくに言葉を交わしたこともなかったし、手塚が他人をそう意識しているようには見えなかったのだ。
「俺のことはあくまで敵対校の部長だとしか思っていなかったはずだぜ」
「そないなどーでもいい相手とあないにアツい試合繰り広げるんかいな」
「……手塚だからだろ」
「分からんなら、本人に訊いたらええんとちゃう?」
「連絡先を知ってると思うか?」
「せやから見舞い行って直接訊け言うてんねん。自分やったら、宿敵に見舞い来られたら嬉し……いや、ちゃうな、跡部の場合は。発破かけにきたんかってテンション上がって、それまで以上にリハビリ頑張んのやろな」
 忍足は、どうしても跡部を見舞いに行かせたいらしい。
 一度くらいは顔を出すべきだと思うが、それでテンションが上がる手塚など想像もできない。本当に宿敵と思ってくれているなら悪くない気分だが、当の手塚はそれどころではないだろう。
「男らしゅうないで、跡部」
「アーン?」
「あの試合からずっと手塚のこと考えとるくせに」
 男らしくないとは聞き捨てならねぇなと煽るようにすごんでみたが、次に忍足が発した言葉に瞠目し、息を呑んだ。
 ずっと手塚のことを考えている――それは、事実だ。その事実に今気がつかされただけで。
「…………それは、仕方ねえだろ」
 肩の怪我は。治療はどのくらい進んでいるのか。今も痛むのか。次の試合には間に合うわけがない。青学はどうしているんだ。この先テニスはできるのか。
 日がな一日、考えるのはそんなことばかりだ。
 手塚がどう思っていようと、跡部が怪我のきっかけを作り一因になったのは間違いない。その跡部が手塚のことを心配するのは、なんらおかしなことではないはずだ。
「気にかかることがあるのに、行動に移さんてのは男らしゅうないて言うてるやん。毎日そないに眉間にしわ寄せられてたら敵わんで」
「眉間にしわだと?」
「自覚しとらんのか、跡部。部室になんか来とらんと、はよ見舞いに行きや」
 言いながら自身の眉間を揉む忍足に、跡部の眉根が寄る。それに気がついて舌を打ち、顔を背けた。
 手塚のことを考えている時、いい気分でないのは仕方がないにしても、周りに悟らせたどころか気を遣わせていることを不甲斐なく思った。
 跡部はふうーと盛大にあからさまなため息をつき、ジャケットを脱いでネクタイを緩め、着替えを始めた。それを見て、忍足の方こそあからさまにため息を吐いた。
「ジャージで行ったかて、手塚とテニスはできんで」
「自主トレだ、バァカ。これ以上てめぇのたわごとなんざ聞いていられるか」
 制服の替わりにバサリとジャージの上着を羽織って、跡部は更衣室を後にしようとする。ドアを開ける直前、口許に笑みを浮かべて振り向いた。
「気を遣わせてすまねえな、忍足。今この瞬間からは、そんな気遣いは捨てな」
 体を翻したこの瞬間からは、もう周りに心配をかけるようなことはないと暗に含み、足を前へと踏み出す。それは氷帝のキングとしての一歩だ。
 キングの背に、忍足のため息は届かなかっただろう。
「あの日で氷帝(オレら)の夏は終わったのに、お前の夏はあの日に始まってもうたんやな、跡部。なんちゅう皮肉や」
 そんな呟きさえも。

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(画像省略)恋をしている【装丁】文庫サイズ/86P/R18初めて出した塚跡本です。時系列的には全国終…

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【装丁】文庫サイズ/86P/R18
初めて出した塚跡本です。時系列的には全国終わった後くらい?
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm/items/330445...
【書店通販】フロマージュブックス様(https://www.melonbooks.co.jp/fromagee/de...
【あらすじ】
手塚は、恋人である跡部にちゃんと気持ちが伝わっているのか不安に思っていた。想う気持ちは大きいのに、明け透けに言葉を伝えてくる跡部に比べて何も返せていない。いつ何のきっかけでこの想いを自覚したのか思い返し、きちんと伝えようとするけれど――。





「手塚、打つだろ」
「ああ。少し待て、これを提出してくる」
 その日、学園同士の交流だとかで合同で生徒会が招集された。報告書を作成し終えるや否や、当然とでも言いたげな跡部が窓から顎で外を指した。
 強いプレイヤーと打てるのは純粋に嬉しい。関東大会の試合を経て、お互いを好敵手と認識し合った相手ならなおさらだ。
 手塚は顔に出さないまでも、跡部と打ち合うのを楽しみにしていた。
 全国大会でも氷帝学園と当たったが、彼ともう一度公式戦を行う機会がなかったせいもあるだろう。
 チームとして勝敗は決したものの、根に持つような様子も見せず好敵手として球をかわしてくれる彼に、好感は持っていた。
 遠慮も何もなく強いサーブを打ってくるのも、手塚ゾーンに対抗しようとしてくるのも、楽しくてしょうがない。それは跡部の方も同じようで、彼と打ち合うと必ずと言っていいほど長い時間を要した。
「手塚、まだやるのかい?」
 案の定、今日も長いタイブレークに突入していたが、不二に声をかけられる。
「邪魔をして申し訳ないけど、校門の鍵締まるよ。家の人も心配するんじゃない?」
 気がつけば他の部員はすでに帰宅しているようで、誰もいない。跡部との打ち合いに時間がかかることに、部員たちも慣れてしまったのだろう。
「もうそんな時間か」
 トスを上げようとしていた手を下ろし、手塚はネットの向こうの跡部に視線を移した。
「跡部。今日のところはこれで終わりにしよう。どちらが勝っているということもないし、ちょうどいいだろう」
 水を差しやがってとでも言いたげに眉を寄せたものの、跡部はラケットを下ろす。
「手塚、テメェの家族ごと俺様の家に引っ越せ。そうすりゃ時間なんて気にせず打てる」
 跡部が言うと、冗談かそうでないのか分からない。
 だが、家族に心配をかけてしまうという部分を酌んでくれたことに感謝した。
「跡部、明日は?」
 言って、手塚は自分で驚いた。確かに跡部と打ち合うのは楽しいが、毎回跡部が押しかけてくるからであって、自分の方から求めることはなかったのに。
 すぐ傍で、不二が小さく「へえ」と呟いたのも、珍しいと感じたからだろうし、ネットの向こうで跡部がぱちぱちと瞬いたように見えたのも、そういう理由だろう。
 少し居心地が悪いと感じたその時、跡部が後ろの方に転がっていたボールをラケットで拾い上げた。面でトスを上げ、ポンと打ってよこされる。
 手塚はそのボールをとすりと胸で受け止め、ラケットに乗せた。
「また明日な、手塚」
「――――」
 瞬きと、呼吸を忘れた。
 いつもの勝ち気な口調だったが、その顔が楽しそうで、嬉しそうで、少しの間動けなかったのだ。跡部がコートを去ったその瞬間まで。
「手塚、ボクは初めて聞いた気がするよ。人が恋に落ちる瞬間の音というものを」
 聞き慣れない単語に、思わず隣にいた不二を振り向く。まさか自分に言われたのだろうかと視線で訊ねたら、ふっと笑う声で返された。
「……………………何を言い出すかと思えば」
 恋、だなんて。
 その感情の名前は知っている。だけど、今の自分には必要のないものだ。
 テニスをしていたい。テニスがないと生きていけないなどとは思わないが、テニスだけをしていたいと思うことはある。それほどに、自分の人生に食い込んでいた。もっと上を目指したい。恋なんてものにうつつを抜かしている暇もない。
「跡部が俺とテニスをしたがってくれていることは嬉しく思うが、けっしてそういった不埒な感情ではない」
 跡部は尊敬するべきプレイヤーで、学校が違う以上は敵対者で、そもそも同性だ。
 今はテニスに全てを懸けたい。
 その思いは跡部だって同じだろう。同じだからこそ、挑み合える。
「ボクは恋情が不埒なものだとは思わないよ。手塚も普通の男子中学生だったんだなって、嬉しささえ感じる」
 てっきり本当にテニスにしか興味がないのだと思っていた。そう言われて、間違った解釈ではないと思うが、と視線だけで答える。
「いいじゃないか手塚。跡部だってキミに好感は持ってるだろうし、アプローチしてみれば」
「不二」
 部室に向かいながら、諫めるために名を呼ぶ。不二の中では、すでに確定事項となってしまっているらしい。面白半分といった様子ではないが、ありがたくない世話だ。
 跡部に対する気持ちを穢すな。
 そう形になって飛び出しそうだった音を、手塚はすんでのところで飲み込んだ。
 ――跡部に対する、気持ち……?
 不思議な感覚だった。否定をしたいのに、否定したくない。
 跡部に対して持っている感情が、好意か悪意かと言ったら、当然好意の方だ。しかし悪意ではないというだけで、恋ではない。
 彼の、本気のテニスに対する真摯な思いを嬉しく思っている。ただそれだけだ。
 あの時、全力で受け止めてくれた彼に対する、純粋な感謝と尊敬――恋ではない。
「手塚、本気で怒ってるね」
「分かっているなら、今後軽はずみな発言は控えることだな」
 不二からは何も返ってこなかったが、追求されることもなく、手塚は息を吐く。
 跡部が打ってよこしたボールを受け止めた時の、胸の音には気がつかなかった振りをして。



「手塚。お前、次の部長は決めてんのか?」
「ああ、決めている。竜崎先生とも話し合った」
 いつものように打ち合って、フェンスにもたれながら水分を補給する。お互い部を率いてきた長ではあるが、次の世代に託さなければいけない。
「跡部のところは部員がたくさんいるから、大変だろうな」
「ハッ、今のいいな手塚。氷帝のじゃなく、俺のってとこがよ。だがそんな俺様も、さすがにずっと部長でいるわけにはいかねえからな」
 一年の頃から率いてきた部員たちも、次の世代に移っていく。感傷的になっているのか、少し自嘲気味に上がる口の端を珍しいと思った。
「跡部の後継というのは、本当に難しそうだ。……いろいろな意味で」
「テメェに言われたかねーな。技術や統率力を、どうしても比べられちまうだろ。だがそれを撥ねのけて乗り越えられるヤツを選ぶんじゃねーか。お互いに」
 跡部も跡部で、後継をもう決めているようだ。お互いにと付け加えられた言葉が、手塚の視線を跡部に向けさせる。
 こんな時、跡部と知り合えて良かったと思う。環境もプレイスタイルも異なるのに、共感できる部分が多くあった。それこそ、お互いにだ。
 そうだといいと胸の内で思いながら、ボトルに口をつける彼をじっと眺めた。
「しかし、分からねえもんだな。お前とこんなふうに頻繁に逢うようになるなんてよ。生徒会の件だって、テニス通して知り合ってなきゃ断ってる」
「それはそうだな。最初はうちの部員たちも驚いていたようだが、今はお前が押しかけてくることに、もう慣れきっている」
「くくっ、一人くらい観客がいてもいいんだがな。手塚、もう一ゲームやろうぜ」
 跡部がフェンスから体を起こし、ラケットを握る。コートを顎で指し、いつもの挑戦的な瞳を向けてきた。
「勝つのは俺様だ!」
「……俺は負けない」
 手塚もラケットを握り、コートへと足を踏み出す。
 胸が逸る。血が滾る。
 ボールを打つたびに、ボールを打ち返されるたびに、言いようのない高揚感がわき上がってくる。
 その高揚感を込めた球が、跡部の足下を撃ち抜いた。息を止めたような彼の一瞬の表情。転がったボールを追った視線。
「やるじゃねーの、手塚ァ」
 そして向けられた、好戦的な瞳。
 手塚は息を飲んだ。
 背筋を駆け抜けていった何かに気を取られ、跡部の反撃に動くことができなかった。
「アーン? 俺様の美技に酔いでもしたか?」
 転がったボールを追うことすらできない手塚に、跡部が声をかけてくる。
 茫然と――いや、愕然とした。
 硬直した三秒。手塚は眉を寄せ、ようやくボールを振り向く。指先で拾い上げ、ぐっと握りしめる。その拳が震えているのを、跡部には気づかれたくなかった。
「すまない、何か、少し……悪寒のようなものを感じて」
「ああ、俺様の美技にだろ。……ってわけでもなさそうだな。汗の処理ミスったんじゃねーのか手塚」
 跡部はラケットを肩に担ぎ、ひょいっとネットを飛び越えてくる。もうゲームをするつもりはないようだった。
「今日は切り上げるぞ。体の不調を甘く見るんじゃねえ」
「…………いいのか。俺の方が勝ってたが」
 ぐっと言葉につまった跡部だが、視線を左右に泳がせて正面に戻し、不本意そうに眉を寄せてチッと舌を打つ。
「仕方ねえから、今日は勝ちを譲ってやるぜ」
 そう言って通り過ぎ、バサリとタオルを放ってきた。勝負にこだわる跡部が、勝ちを譲ってまで体調を優先してくれたことに驚くが、それ以上に嬉しくて苦しい。
「ああ、そうだ手塚。明日はちょっと家の用事があって来られねえんだ」
「そうか」
「悪いな。今日は送っていくぜ、今車を呼ぶ」
 言いながら携帯端末を取り出す跡部に、手塚は首を振った。
「いや、申し出はありがたいが、遠慮させてもらおう。歩きたいんだ。寄るところもあるしな」
「そーかい。じゃあ、またな手塚。肩冷やすんじゃねーぞ」
 厚意をやんわりと押し返しても、跡部は機嫌を損ねることなく、むしろ気遣ってくれる。手塚は「ああ」と返して、跡部の背中を見送った。
 細く長く、息を吐き出す。口許を覆う手が、心なしか震えているように思えた。
「……跡部……」
 本当は寄るところなんかない。歩くことも鍛錬の内だとは思っているが、断った本当の理由はそんなことではなかった。
 まさかこんなことになるなんて。
 先ほど、体を駆け巡ったものの正体に気がついてしまった。どれだけ否定しようとしても、一度自覚した感情は体の中に根付いてしまう。
 もっと近くで見たい。もっと近くで射貫かれたい。
 ――触れたい。
 手塚は間違いなく、跡部のあの好戦的な瞳に欲情したのだ。
 欲情。
 試合中の興奮や高揚感とは違う。試合なら、触れたいなんて思わない。抱きしめたいなんて考えもしない。
 あの情熱をもっと深く知りたいと思ったことはあるが、こんな熱は欲しくない。
 くそ、と手塚は珍しくそう呟いて、項垂れて額を押さえる。不二の言っていたことを、こんな形で自覚してしまうなんて。
 跡部を目で追ってしまうのは、ボールを打ち返す仕種を見るためだ。
 打ち合う時間を作ろうと予定を調整するのは、そうしないと跡部が不機嫌になるせいだ。
 今日は行けないと連絡が来るたび気持ちが沈むのは、勝負が持ち越されたからだ。
 体が熱くなるのも、胸が騒ぐのも、流れる汗に目が行ってしまうのも、すべてテニスにつながっている。
 そう言い訳をしてきた日々が、ついに終わりを告げてしまった。

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