華家
-HANAYA-
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No.208
NOVEL,PSYCHO-PASS,狡宜 2014.09.07
#両片想い #無自覚 #監×監
「狡噛」公安局を出る直前、背後から声をかけられた。狡噛はそれに振り向いて、少し複雑な思いを抱える。「…
NOVEL,PSYCHO-PASS,狡宜
favorite いいね ありがとうございます! 2014.09.07 No.208
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「狡噛」
公安局を出る直前、背後から声をかけられた。狡噛はそれに振り向いて、少し複雑な思いを抱える。
「ギノ、お前も今帰りなのか。当直お疲れさん」
振り向いたそこには係違いの同僚が立っていて、さすがに疲れた顔をしていた。
「ああ、ちょうど報告書も提出が終わったしな」
彼を待った狡噛の立ち位置で、肩が並ぶ。ほんの少し、わずか数センチだけ彼の方が背が高いと実感するのはこんな時だった。
「しかし、今日の事件はまいったな」
ため息混じりの宜野座の声に、ああ、と狡噛も同意する。狡噛が正面玄関から局を出るのは珍しい。普段なら地下の駐車場に停めてある車で通勤しているからだ。
だが、今日未明に起きたシステムダウンで、道路が稀に見る渋滞だったのだ。現代の車両はオートドライブモードが搭載されていて当然で、それに乗る者は形ばかりステアリングを握りアクセルペダルとブレーキペダルに足を乗せるだけ。いや、もうそうしなくても車は勝手に動いてくれる。行き先を設定すれば、道路の状況や天候さえシステムが考え導いてくれる。
それが当たり前になっているせいで、そのシステムに不具合が発生すれば混乱を極めるのだ。
交通整理にドローンを動員しても間に合わないくらいだったらしく、そんな中でくるまで出勤などしていられない。
家から歩けない距離でもなし、朝の運動にもちょうどいいと徒歩で出勤したのだ。
だがおかげでシステムが回復したというのに車がないため帰りも徒歩である。
「俺は昨日車だったから、徒歩なら送っていくが」
24時間当直勤務していた宜野座は車がある。が、狡噛はそれを断った。今あんな狭い半密室でふたりきりになるわけにはいかない。
「たまには歩くよ」
「…………なら、俺も歩いて帰るかな」
宜野座がそう言い出したのには驚いた。別に気を遣わなくていいぞと言ったら、少し話したいしと返ってきて、それを無碍に断るわけにもいかなくなった。
結局ふたりで歩いて帰ることになったが。そういえばこんな風にふたりきりで歩くのは本当に久しぶりだ。
「道路も渋滞が解消されたな」
「長引かなくて良かった」
「まあそうだが……今後の課題ではあるんじゃないのか? システムが正常であることに慣れすぎて、各機関さえ混乱したんだ。またこんな事態がないとも限らないだろう」
狡噛は、ふっと口の端を上げる。宜野座はひどく真面目で、頑固だ。職務に忠実であろうとする意志は堅く、学生時代から変わらずまっすぐに前を向いている。
変わらないんだな、と心の中で思って、横顔を盗み見た。
「それに狡噛、お前今日、様子がおかしかっただろう」
責めるような口調で振り向いた宜野座とそこでばっちり目が合ってしまって面食らう。逸らそうかどうしょうか迷って、瞬きでごまかした。
「……そうか?」
「ああ。今日は市民たちのストレスが上がりっぱなしだったからな、出動が多くて疲れていたのかもしれんが、……お前が潜在犯を撃ち損じるのは珍しい」
失態というほどのものではないが、今回のシステムダウンでストレスが値が上がりすぎてサイコパスを悪化させた潜在犯を、ひとり撃ち損ねた。部下の執行官が仕留めたおかげで大事にはならなかったが、凶悪な犯罪者だったらどうするのか。
狡噛もそれはわかっている。撃ち損ねた原因も知っている。
一瞬、錯覚したのだ。
あの半フレームの眼鏡と、短くて柔らかそうな黒髪の男と、学生時代の宜野座が重なって。
よく見れば……いや、よく見なくても似ても似つかない人相だったのだが、昨夜見た夢がマズかったのだろう。
「……今度ヘマする時はお前の耳に入らないようにするさ」
狡噛は肩をすくめて笑い、宜野座の真面目な責めをやり過ごす。そういう問題じゃないだろうと案の定怒る声が聞こえたが、今はその声さえ起爆剤のように思えた。
昨夜、宜野座を抱いた。――夢の中で。
起きた時は世界の終わりかと思ったほどに動揺していた。宜野座はずっと大事な友人だと思っていたし、短くもないつきあいの中でそういった感情を抱いたことなどないと思っていた。
なのに、狡噛は夢の中とはいえ自身の欲望をぶつけたのだ。
きっと欲求不満だったんだと自分を納得づけようとした矢先の錯覚。
正直今は宜野座の隣を歩いているのも後ろめたい。欲求不満だというなら、自分の好みの女性が出てきてもいいはずなのに、よりによって親友である彼を、なんて。
狡噛はちらりと宜野座を見やる。彼はまだ今回の失態についてぶつくさ文句を垂れているようだが、正直内容など耳に入ってこない。
あの動く口唇に何度キスをしただろうか。あの首筋に幾度かぶりついただろうか。
そんなことばかりが思い起こされる。
「狡噛、聞いているのか?」
「……え、あ、いや、すまんまったく聞いてなかった」
「なんだと!? お前……っもう少し取り繕うとかすればまだかわいいものを……!」
「だから謝っただろう。で、なんだって?」
横顔に見とれて、抱いた時のことを思い出していたなんてとても言えやしない。
「だから……何か悩みがあるんだったら、聞くからと」
少し決まりが悪そうに呟く宜野座に、胸が締め付けられるのを自覚した。
まさか、それを言うためにわざわざ徒歩での帰宅を選んでくれたのか。
こみ上げてくるなにかを確かに自覚して、狡噛はそれが漏れ出さないように口を覆った。
ああ、これか。
声に出さずに、思う。
「狡噛? なんだ、やっぱり悩みがあるのか? お、俺では相談に乗れなくても、カウンセラーとか、ほら、プログラムあるだろ」
「あ、いや、だ、大丈夫だ……」
黙り込んでしまった狡噛を案じてか、宜野座がのぞき込んでくる。その至近距離に、狡噛はらしくなくうろたえた。
ドクドクと心臓が鳴る。あまりに新鮮な感情に、気持ちが追いついていかない。まさかこんなに突然知ることになるなんて、思ってもみなかった。
「すまんギノ、本当に大丈夫だ。少し寝不足だったからな、そのせいだと思う」
それでもどうにか平静を装って、ごまかしてみせる。まずは宜野座に悟られないよう自分で気持ちを整理しないといけないのだ。
「……本当だな?」
「悩みがあったらちゃんと吐き出すから。とはいっても今まで悩みらしきものを抱えたことがないから、そうなったら面白いけどな」
「お前本当にムカつくな。心配した俺が馬鹿みたいじゃないか」
宜野座は呆れたようにそう言って足を速めてしまう。多分に照れ隠しも混じっているのだろうが。
狡噛はそんな宜野座のあとを追う。肩を並べて、言った。
「心配してくれてありがとうな、ギノ」
「……別に、お前の様子がおかしいと周りだって迷惑するからな、仕方なくだ」
素直に認めようとしない彼がおかしくて、また笑ってしまう。頭をはたかれて、いつもどおりの自分に戻った。
そうしてしまうと名残惜しい。宜野座とはあそこの交差点で別れなければいけないのだ。
「じゃあ、明日遅れるなよ狡噛」
「ああ、おやすみギノ」
だけど明日も逢える。狡噛は交差点で立ち止まり、右方向へ曲がっていく彼を見送る。
ふうーと息を吐いた。
突然に気づいてしまった。
この感情は間違いなく、そう名付けるべきもののはず。
これがダチの終わりの始まりか、と狡噛は諦めと幸福が入り交じった笑いを浮かべた。
#両片想い #無自覚 #監×監