No.454

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ふたりの約束-025-

カクテルキッス04 2019.08.04

#千至 #シリーズ物 #ウェブ再録 #記憶喪失 #カクテルキッス

「オレはこれを片付けてくる。至、……エイプリルに話すかどうかは、任せる」「待って密、その仕事、ここで…

カクテルキッス04

ふたりの約束-025-



「オレはこれを片付けてくる。至、……エイプリルに話すかどうかは、任せる」
「待って密、その仕事、ここで片付く程度のものなの?」
「平気……オレは実働の方が向いてるけど、できないわけじゃない」
 そう言って、密は部屋の一つに籠もってしまった。そこに何があるのかは、至は知らない。
 ここで知っているところと言えば、このリビングと、寝室と、バスルームくらい。あとはキッチンを少々。
「任せるったって……俺だってほとんど知らないのに」
 ここまで来た以上、千景には知ってもらわないといけない。困惑している千景に、何をどこまで、どこから話そうか。
「えーと、何か飲みます? ビールと日本酒以外はあるみたいなんで」
 以前ここに来た時に、千景にそう言われたことを思い出し、キッチンへと足を向ける。その後を、千景もそっとついてきた。
 ティーバッグの紅茶がある。それにブランデーでも少し垂らしてやろうと、ケトルに水を入れた。
「至」
 咎めるような口調で呼ばれ、至は千景を振り向くことができない。さすがに彼も、尋常なことではないと察しているのだろう。
「ねえ、至」
「……はい」
「さっきの、俺と至が付き合ってるっていうの、たとえ話じゃないんだろ」
「――……えっ、そっち!?」
 千景から投げかけられた、疑問符のつかない言葉に、思わず振り向いてしまう。
 てっきり、密の口にした〝エイプリル〟のことを考えているのだと思ったのだが、違ったようだ。あの怪しげなメールのApr.と結びつけるのは容易なことだろうに。
「至、本当のことを話してくれ。俺と至は――付き合ってた?」
 千景の指先が、カップを用意する至の手に触れてくる。確信を持って指を絡めてくる千景に、これ以上の?は吐き通せなかった。
「……はい」
 肯定して俯き、目を閉じて息を吸い込む。
 そうして顔を上げた時には、もう迷いなど消えていた。
「やっぱり、そうだったんだ」
「ちゃんと話しますから、向こうで待っててください。逃げたりしませんよ」
「お湯が沸くまで時間がある」
 落ち着いてゆっくり説明しようと思ったが、千景は促してくる。思っていたよりせっかちなタイプなのだろうか。違和感が襲ってきたけれど、
「俺が至のこと気になるのは、おかしなことじゃなかったんだよな?」
 不安げに、絡めた指に力を込めてくる。そこで至は気がついた。自分の中に渦巻く感情に、思い悩んでいたのだろう。記憶をなくす以前には付き合っていたと分かって、安心したのかもしれない。
「先輩……」
「至を好きだと言ってもいい?」
 まっすぐ視線が降りてくる。そんなにストレートな言葉で訊ねてくる千景が新鮮でもあったし、本当に覚えていないのだなと複雑な気分でもあった。
 湯が沸いて、二人分の紅茶を入れ、それぞれのカップを手にリビングへと戻る。ソファに腰をかける位置は、ものすごく近かった。
「いや近いわ」
「恋人だったんだろ、普通じゃないのか」
「……俺たちの場合、普通じゃなかったかもしれません」
 至はテーブルにカップを置いて、膝の上で両手の指を組んだ。
「どういうこと?」
「今まで?吐いててすみません。俺と先輩は、確かに付き合ってました。体の関係もあったし、俺は先輩のことものすごく好きだった」
「……何か問題があった? ひょっとして、今密が何かしてるのも、関係してるのか」
「別れたんですよ、俺たち」
「え!?」
 千景が珍しく大きな声を上げる。
 数秒続く沈黙は、にわかには信じられなかったからだろうか。
「先輩が事故に遭う前ですね。結構長いことセフレで、ようやく叶ったのに、恋人でいられた期間は十日ほどしかなかった」
「ど、……どうして」
 困惑する千景に、至は項垂れてガシガシと頭を掻く。
「こっちが聞きたい。ホントに突然だったんですよ。いきなり飽きたから別れたいなんて言われて! 俺のことは忘れてほしいなんて言いやがって! それで自分の方が忘れてるんだから、笑い話にしかならんわクソが。あー……腹立ってきた、馬鹿」
 別れを告げられた時のことを思い出して、胃が痛む。
 ちゃんと納得できる理由を聞こうとした矢先に、千景が事故に遭った。
 結局聞けずじまいで、千景の記憶は戻らない方が幸せだなんて考えていたせいで、胸の奥に閉じ込めていた不満と不安が、一気に押し寄せてきた。
「だいたい、なんで最後のセックスがあんなに激しかったんだよ。翌日キツかったの知ってます!?」
「いや、俺に言われても、あの、ごめん」
「あんなセックスしといて飽きたとか、信じるわけないだろ、もうちょっと上手く?吐いてくださいよ!」
「え、あ、はい」
 隣にいる千景にそれをぶつけても、彼は〝知らない〟のだから、仕方がない。
 記憶にございませんという、わざとらしい責任逃れをしているわけではないのだから、今の千景に当たっても仕方ないことは分かっている。
 千景の困惑はそのまま音にされて、怒気が失せた。


#千至 #シリーズ物 #ウェブ再録 #記憶喪失 #カクテルキッス