No.377

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たった一度のI love you-019-

カクテルキッス03 2018.08.19

#千至 #シリーズ物 #ウェブ再録 #カクテルキッス

 そうして、必要な荷物を取りに、みんなでホテルへと向かう。「わあ、すごい星……! 綺麗」「本当ですね…

カクテルキッス03

たった一度のI love you-019-


 そうして、必要な荷物を取りに、みんなでホテルへと向かう。
「わあ、すごい星……! 綺麗」
「本当ですね」
「うむ、詩興が湧くよ」
 シトロンを無事に連れて帰れる喜びと、王宮への期待感は、星で埋め尽くされた夜空で拍車がかかる。建物を飾る優しいライトアップの光と、空から降ってくる星の光。
 胸が痛むほどに美しい光景の中を、浮き足立つメンバーたちのかなり後ろから、至は千景の隣を歩く。
 千景の足取りがゆっくりだ。一仕事終えて満足しているのか、空を見上げる横顔は、いつもより優しいものに見える。
「良かったですね、先輩」
「ん?」
「家族。みんな守れて」
「一時はどうなるかと思ったけど。お前のせいで」
「まだ言う」
「一生言うかもな」
 ドキ、と胸が鳴った。千景にそんなつもりはないのだろうが、一生、言える距離にいるということかと、照れくさくて口許を覆い、顔を背けた。
「でも、よく考えたら、状況判断は上手いんだよな、茅ヶ崎は。ゲーム脳っていうか、ゲームで鍛えたせいなのか。実際、危なっかしいと思ったことは何度かあるけど、絶対に駄目だっていう行動はしなかった」
「え……」
「袖の下にしてもな。有効な相手とそうでない相手、ちゃんと見極めてただろ」
 まさか、千景に褒められるとは思わなかった。確かに、ゲームでは状況判断の素早さと正確さが肝となってくる。気づかないうちに、それを発揮していたのだろうか。
「それに、生意気にも、俺が危ないことしないか見張ってただろ。怪我なんかしたらただじゃおかないって、睨みつけてきてた」
 笑い混じりに、千景が音にする。それまで気づかれていたのかと、至は気まずさに足を止めた。千景についていった理由のうちの一つは、それだった。
 守るべき家族が傍にいれば、千景はめったなことをしないだろう――罪も最小限、怪我などもってのほかだと。
 至はどうしても、千景を無傷で家族の元へ帰らせたかった。罪を犯すことさえいとわない彼に、家族のために、家族に言えないことをさせたくなかった。
 あからさまに表情に出したつもりはなかったのに、どうして千景には分かってしまうのだろうと、胸が締めつけられた。
「普通はあんな状況じゃ、足がすくんで普段どおりに動けないもんだけど。立派に相棒してくれた」
 ぶわ、と熱が上がる。
 至は項垂れて額を押さえ、息を何度も何度も飲み込んだ。あふれ出てきてしまいそうな想いを、そうすることでしか我慢ができない。
(無理、もう……無理、だめだ)
 気持ちが高ぶって、千景に言われた言葉が嬉しくて、もうどうしようもない。
「茅ヶ崎?」
 立ち止まってしまった至を不思議がって、振り向きかけた千景の背中に向かって二歩ほど歩み、彼の肩に額を押し当てた。
「……先輩、俺、今から戯れ言吐きますけど、聞き流してくださいね」
「え?」
 カタカタと、顎が震える。喉が、泣き出したいほどに痛い。それ以上に心臓が痛くて、抑えていられない想いが、それを凌駕する。
「――好きです、千景さん。俺を連れてってくれて、ありがとうございました」
 一生、言わないと思っていた。言わないと決めていた。千景を困らせたくない。拒絶されたくない。
 何より、千景と触れられる時間を、終わらせたくなかった。
 千景の体がびくりと揺れたようなのが、触れた肩から伝わってくる。
(ああ、うん、これで、終わる)
 至は押し当てていた額を離して体を起こし、唇を引き結んで足を踏み出した。
「ち、が、さき」
 千景を通り過ぎる瞬間、かすれた声で呼ばれた気がしたけれど、立ち止まってはいられない。踏み出す一歩を大きくして、千景の傍を離れようと試みた。
「茅ヶ崎!」
 だけど千景に手首を取られ、それ以上一歩も行けない。至は俯いて、声を絞り出す。
「聞き流してくださいって言ったでしょう」
「聞き流せないから引き留めてるんだ、茅ヶ崎、今のは」
「分からないほど鈍くないでしょ、先輩! あんなこと、何度も言いたくないですよ!」
 千景の顔を見られない。言うつもりのなかった言葉を言ってしまった。自分の意志の弱さを実感して、至は歯を食いしばった。
「笑ってくれても、いいですから、手、放して……!」
「茅ヶ崎、落ち着け、俺の話を」
「やめてくださいよ、同情とか、そういうの、余計に惨めになるだけ――」
「聞け茅ヶ崎! 一度しか言えない!!」
 ぐい、と強い力で引かれ、至の足は地面で踊る。あ、と声を上げる暇もなく、千景の力強い腕の中に、閉じ込められていた。
 背中に、千景の温もりを感じる。肩口に、千景の髪の感触を覚える。抱きしめてくる腕がほんの少し震えているようにも思えて、至はそこから動けなくなった。


「……お前を、……愛してる、茅ヶ崎」


 絞り出すような千景の声に、目を見開く。息が止まったかのようだった。
 ぎゅっと強く抱いてくる腕の強さは、その想いの強さを表しているようで、至はカタカタと顎を震わせる。
 お前を、愛してる。
 誰を? 俺を?
 千景の声を頭の中で反芻して、至は自分の状態を改めて認識する。
 背後からがっちりと抱かれ、せめてこの言葉だけは聞いてほしいと願う千景の、静かな呼吸が聞こえる。
(先、輩)
 至はゆっくりと自身の腕を持ち上げ、抱きしめる千景の腕に触れてみる。
 消えていかない。これは確かに現実だ。
(……千景さん)
 逃げないからとなだめるように千景の腕を撫で、そっと外させて、千景の右手と自分の左手を重ね合わせ、指を絡めた。
 千景の腕の中でゆっくりと体の向きを変え、正面から互いの顔を確認する。
 どんな顔をしているだろうかと思っていたが、いつもと変わらない。変わらないほどに、いつも想っていた。お互いそれが〝日常〟だった。
 どうして、こんなに簡単なことに気がつかなかったのだろう。どちらからともなく唇を寄せ、満天の星の下、触れるだけの口づけを交わした。



#千至 #シリーズ物 #ウェブ再録 #カクテルキッス