華家
-HANAYA-
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No.460
NOVEL,A3!,千至 2019.09.26
#ラブラブ #両想い #千至
千景が部屋に足を踏み入れると、ルームメイトが死んでいた。 いや、正確には死んだような形に突っ伏して…
NOVEL,A3!,千至
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千景が部屋に足を踏み入れると、ルームメイトが死んでいた。
いや、正確には死んだような形に突っ伏していた。
「……茅ヶ崎?」
いつもの部屋着、いつものちょんまげ、頭にはヘッドホン、手には携帯端末が握られている。呼びかけても返事はないが、呼吸は聞こえてくる。深刻な事態ではないようだと、千景はジャケットを脱いでハンガーにかけた。
「へんじがない。ただのしかばねのようだ」
千景が帰ってきた気配は伝わっているだろうに、微動だにせず突っ伏したままの至の頭から、ひょいとヘッドホンを取り上げる。
「ふえ」
「可愛くない。何してるんだ」
「死んでました」
「お線香上げた方がいい?」
「もうちょっといたわってください。先輩のせいなのに」
「わけが分からない」
至は上体だけ上げて理不尽な悪態をついてくる。今帰ってきたばかりの千景に、なんの仕打ちだろうか。放っておくかとネクタイに指をかけたところで、至が口を開いた。
「先輩のソロバージョン聞いたら死ぬしかなかった。案外優しい声してますよね」
ぱちぱちと目を瞬く。そういえば新入り四人組で歌った曲を、ソロバージョンで録り直したものがあったはず。それのことを言っているのかと納得した。
「なるほどきゃにめ勢か」
「いや全店舗買いました。特典は逃したくない。それでCDは順番に聞こうと思ったんですけど、我慢できなくて初っぱなに聞いちゃって」
「ふぅん。ところで、案外ってどういうことかな、茅ヶ崎」
「ひえ」
まあ自分がそれほど優しいとは思っていないけど、と心の中で思って千景は至の前にしゃがみ込む。至は体を起こして座り込み、端末の画面をついと撫でた。
「だって、ペテン師は格好いい成分が多いじゃないですか。こんなに優しい声たくさん聞けて、ほんとに死んだ。またもっと好きになったので、先輩のせいです」
「…………可愛いとか思ってないからな」
「嘘つき」
至は楽しそうに笑う。可愛いどころか愛しいと思ってしまったこの気持ちは、声に出してあげた方がいいのだろうが、それはそれで負けたような気がして悔しい。
「茅ヶ崎は、たぶんカンパニーでいちばん俺のいろんな声を知ってると思うけど?」
からかう予定で顔を覗き込めば、さっと頬が染まり、視線が泳ぐ。稽古の時や会社にいるときとは全く違う種類の声だと、言わなくても伝わっているらしい。
「どんな声がお好みかな?」
「決めろって言うんですか」
むくれた顔を見せてくれた恋人に、ほんの少しすっとした思いで立ち上がろうとしたけれど。
「俺のいちばん、知ってるくせに」
「え?」
「千景さん、イく時俺の耳元で〝茅ヶ崎〟って呼ぶから。あの声、俺の中でいちばんですよ」
してやられた。千景は苦虫を噛みつぶしたような顔で、至の体を引き上げる。
車に引っ張り込んでそのままホテルに向かっても、責められるいわれはないはずだ。
「じゃあ、存分に堪能しろ、茅ヶ崎」
今夜は何度、彼の名を呼んでやろうか。千景は欲望にまみれた指先でステアリングを撫でた。
#ラブラブ #両想い #千至