- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
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あまく、やわく
これから出張なんだ。
千景がそう言うのを、至はどこかで分かっていた。
というのも、ここがあまり使われない非常階段の踊り場だったりするからだ。みんなワンフロアの移動でさえ面倒がってエレベーターを使うものだから、ヒミツの逢瀬はいつもここ。
時刻と場所の指定をしたLIMEが飛んできた時点で予想はしていて、それを裏切らない言葉に安堵しつつもやっぱり寂しい。
「どれくらいですか?」
「四日」
「……長いですね」
四日の出張を長期と捉えるか短期と捉えるかは、相手との関係次第。別にどうでもいい相手ならば、そもそも気にしたりしない。恋人が相手ならば、たとえ一日でも長いと感じてしまう。
至は残念そうにしょんぼりと俯き、長く息を吐いた。
そんな至を見て、千景は苦笑する。そんな寂しそうな顔をしないでほしいと。
「連絡入れるから」
「はい……」
「稽古出れなくてごめんってみんなに言っておいて。誰かに何かあったら必ず連絡するように」
「俺が寂しくて死んじゃうのもですか?」
「そうだな」
千景がぐいと力強く抱き寄せてくれる。素直に身を預け、四日も感じられなくなる体温を存分じ味わった。
「茅ヶ崎、俺も寂しいのちゃんと分かってるのか?」
吐息とともに、千景の方からも残念そうな甘い声。ぞわ、と背筋が震えた。
「千景さん耳元でそういう声出さないでください」
「どうして……」
どうしてと言われても、照れくさいしむずむずするし何より軽いハグだけでは足りなくなってしまう。それを分かっていて、千景は耳朶を唇に挟むのだ。はむ、と柔らかく食まれ、かじ、と軽く歯を立てられては、本当に物足りなくなる。
至は少し体を離して耳を遠ざけ、責めるように千景を見つめ返した。
それでも千景は涼しい顔をしていて気にくわない。仕返しでもしてやろうかと、怒ったままの表情で千景にキスをした。
そうして、後悔。
触れるだけではやっぱり足らない。唇を舌先でつつき、入らせてとおねだりし、緩んだそこに入り込んで仲良しな舌の挨拶。舐めて、絡めて、時には噛んで。
「千景さん、気をつけて行ってきてください」
「うん。寂しくなくても電話しといで、茅ヶ崎」
そっちがするんじゃないのかと文句を言いたいところだが、お許しが出たのだからここぞとばかりに甘えてやろう。
#両想い #ラブラブ #千至 #ワンライ
ただ、静かに触れて
「今日、遅くなる」
千景が、ルームメイトである至にそう言ったのは、朝の通勤途中だった。
「そうなんですか? じゃあ好き勝手実況しとこ」
「お前はいつも好き勝手に実況してるじゃないか」
同じ劇団に入っていて、同じ寮に住んでいて、さらに同じ部屋ともなれば、こんな会話は日常茶飯事だ。
「えぇ? 一応気は遣ってますよ? 先輩日付越えるギリギリに戻ってくるから、毎回その前には終わらせたりね」
「……涙が出るほど嬉しいね。実況中に入ると付き合わされるから」
「まだ根に持ってる。前に無理やり引き込んだの、怒ってるんですか」
「怒ってないよ、別に」
本当に? 至がそう訊ねると、信号待ちの隙に、ふっとキスがかすめていった。
「怒ってない」
「……いきなりするのやめてもらえませんかね」
「口許笑ってる、茅ヶ崎。嬉しいときは素直になった方がいいぞ」
「呆れてるんです!」
こんなところで、と言いつのるも、千景は肩を揺らして笑うだけ。結局千景に敵うことなんてなくて、至はいつも諦めるのだ。
「遅くなるって、出張ですか。予定入ってましたっけ?」
恋人の予定は聞いているつもりでも、急に変更になるときだって多々ある。それは至も同じことで、たとえばデートの約束がふいになることも。仕事の大変さと重要さは分かっているから、怒れない。
今日は特に約束をしていたわけではないけれど、千景と過ごす時間が減るのはやっぱり寂しいなと思った。
「…………」
「先輩?」
「…………飲み会」
千景が沈黙したのが気にかかり、促してみれば、ためらいがちにそんな言葉が返ってくる。至は目を瞠った。
「飲み会、ですか」
「うん」
千景は、基本的に飲みの席を断っている。飲めないというわけでも、酒乱のケがあるというわけでもない。自分に必要ないことに時間を割きたくないタイプのようだった。
それは至も同じで、できることなら会社の飲み会など避けたい。そんなものに参加している時間があれば、ゲームをしていたいのだ。千景だって、ネットサーフィンをしたり大好きな激辛料理でも食べにいきたいのだろう。それは、とても共感ができた。
だから、そんな千景が〝飲み会〟に行くということは、本当に珍しいことだった。しかも、そんなふうに眉間にしわを寄せてまでとは。
至には分かってしまう。これはイレギュラーなのだと。嫌でも、参加しなければいけないものなのだと。
じっと前を見据え、至は口を開く。
「……〝仕事〟ですか?」
親しい人たちとの飲み会ならば、そんなふうに眉は寄せない。会社の飲み会だとしても、乗り気じゃないだけでこんな顔は見せない。
となれば、答えはひとつだった。
千景の、もうひとつの顔である、危険な仕事の方に違いない。
沈黙が、肯定を示していた。
(なるほど)
至は、恋人のそんな状況を非難するでもなく、かといって擁護するわけでもなく、ただひとつ瞬いて、許容する。
「ホテル、いつものとこでいいですよね」
「……ああ。悪い、茅ヶ崎」
そうしてふたり、車の中でエリート商社マンの仮面を被って出勤した。
LIMEで、部屋番号だけ送信しておいた。既読マークはつかないが、〝仕事中〟なら当然だと、ゲームをしながら彼を待つ。
ライフの回復時間などを計算しいくつかのゲームを掛け持ちで進め、そろそろ日付が変わろうか、という頃。
部屋のインターフォンが鳴る。ルームサービスは頼んでいないから、彼が来たのだと分かった。至は寝転がっていたベッドを降り、足早にドアへと向かう。ロックを外し、一仕事終えてきたのだろう千景を迎え入れた。
「先輩」
なだれ込むようにして足を踏み入れた千景を、まずは抱きしめる。
やはり、酒のにおいはしなかった。
代わりに、彼にしては珍しい埃っぽさと、ほんの少し――血のにおい。
いったい何をしてきたのか、誰を傷つけてきたのか、訊くつもりはない。千景自身の心の疲弊が分かるからだ。
千景は、至に噓をつくことだってできたのに、〝仕事〟なのだとあえて悟らせた。だけど至は行かせないと止めることも、頑張ってと送り出すこともしない。
いつも、いつも、ただこうして抱き留めるだけだ。
「お風呂、一緒に入りましょうか。今日は俺が髪洗ってあげますね」
千景は何も言わずに、ただ頬をすり寄せてくる。ぽんぽんと背中を叩いてさすり、千景の前髪をかき分け、現れた額にキスをした。
「怪我しないで俺のとこに戻ってきてくれた、ご褒美です」
「……うん」
「さ、お風呂入ってもう寝ましょ。一晩中ぎゅーってしててもいいですよね」
「暑くないか……」
「そういうとこですよ、ノーロマン」
ふ、と千景が吐く息の重さが変わる。至は満足そうに笑い、千景をバスルームへと引っ張り込むのだった。
#両想い #千至 #ワンライ
みんな知らない
休憩スペースで、至は微糖の缶コーヒーを飲んでいた。
本当はコーラが良かったけれど、それは駄目だ。なぜか寮にいるようなスイッチが入ってしまう。職場でそれはまずいのだ。何しろ至は筋金入りの猫かぶり。別に悪気があるわけではないし、仕事や人間関係が円滑になるための手段としか思っていない。
苦みのあるコーヒーはそんな意識を保つためのアイテムだ。
だけど、ひとつだけ、至を素に戻してしまうものがある。
「ね~、見たぁ?」
「見た見た! 今日絶対いいことある!」
「だよね、超レアじゃん、卯木さんの笑顔とか~」
休憩室の外をご機嫌で歩いていく女性社員たちの会話に、危うく口に含んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
(は?)
至は眉間にしわを寄せる。
これだ。至を素に戻してしまうもの。
「そもそも海外行ってること多いから、社内で見られることも少ないよね」
「それ~! 最近は出張少なくなったけど」
「同じフロアでよかった~目の保養だわ~」
(先輩、なんかレアキャラ扱いになってる)
ガチッ、と飲み口を軽く噛んで、話題の人物を思い浮かべた。
卯木千景。職場では先輩であり、劇団では仲間であり、個人的には恋人だ。
彼の名前が出てくると、途端に猫がかぶれなくなる。だからできれば、会社では彼に逢いたくない。名前も聞きたくない。
(うそ。逢いたい……顔、見たい)
最初に好きになったのは、絶対に自分の方だ。千景を包む毒のような闇に、どうしてか惹かれた。
「この暑い中爽やか笑顔だった~幸せ~」
「ホントだよね。ベスト暑くないのかな? 腰ほっそ」
「卯木さんが汗かいてるとこ見たことなくない?」
ないね~などと言いながら、女性たちは休憩室の前を通り過ぎていく。至はハア、と息を吐いた。彼女たちは、千景のいったい何を見ているのだろうと。
確かにあのうさんくさい笑顔は爽やかに見えるだろう。それが千景の仮面であるというのに。寮で見せるのとは全然違う。
しかし一人の女性についてはどこを見ているのか。暑くなる前まで着用していたジャケットを脱げば、確かに体のラインが浮き彫りになる。見んな、ときつく目を閉じて、不愉快さを散らそうと試みた。
(確かに見た目細く見えるけど、わりと筋肉ついてるから! あんなのでガンカン突かれるこっちの身にもなっ……――)
そこまで思って、ハッと我に返る。まだ仕事中だというのに、千景との濃密な時間を思い出すのはよろしくない。とても平静ではいられなくなる。
(やば……この間のが、ちょっと、激しかった、から)
ついうっかり、と視線を泳がせるけれど、頭から離れていかない。ホテルのベッドの上で、千景のあの体に乗っかられる自分というのが、いまだに現実だとは思えない。
片想いだと思っていたのに、そうではなかったと知ったときの衝撃。なかなか手を出してくれなかったこともあり、千景と恋人同士であるということが、夢みたいに思えるのだ。
だからだろうか、いけないと思うのに、千景とのことを必要以上に思い出してしまうのは。
(先輩だって汗かくし……首筋とか、おでこ、すごい色っぽいんだよね……)
会社の誰も知らないことかもしれない。千景は汗まで調節できるのか、仕事中に汗で不快そうにしているところは見たことがない。だけど、そんな彼もちゃんと汗をかく。
ベッドの上で、至を組み敷き、髪を湿らせ、汗を落とす。
茅ヶ崎、と吐息のように呼ぶ声に、荒れた息に、顎から落ちてくる汗に、感じてしまうことを、彼はきっと気づいてる。
体の間で互いの汗が混じるのを、幸福に思っていることも。
抱き寄せた肌に浮かんだ汗をぺろりと舐めるのが、わりと好きなことも。
不謹慎にも稽古中に、運動で浮かぶ汗にドキリと胸が鳴ってしまうことも。
きっと、全部知っているに違いないのだ。
(駄目だ、やっぱあの人のこと考えて平静でいられるわけなかった)
顔どころか、体が火照る。
至は携帯端末を取り出して、LIMEを立ち上げた。
今日時間があれば、と誘おうとして、失敗する。
『あと2時間、我慢してろ、茅ヶ崎。何があっても定時で上がれよ』
文字を打ち込む前に、千景からのメッセージが画面に現れた。当然すぐに既読マークがついて、え? と至は首を傾げ、ハッとして顔を上げた。
休憩室の前の廊下、会議資料らしきものと携帯端末を持った千景の姿。
よこされる目配せは、いさめるようでも、なだめるようでもあった。
もしかして見られていたのだろうかと思うと、恥ずかしくてしょうがない。こんな言葉を送ってくるということは、顔に出ていたに違いないのだ。千景との濃密な行為を思い出していた破廉恥な思いが。
千景は休憩室に入ってくる様子はなく、そのまま歩みを進める。会議室の方向だなと気がついて、至は急いで文字を打ち込んだ。
『会議、ちゃんと終わるんですか、定時に』
『ああ。そんな余計な心配するくらいなら、明日足腰立たないかもって方を心配しておくんだな』
誘った以上千景も定時で上がれるのだろうなと言質をとったつもりだったが、そう返されてしまって撃沈した。
それならそれで、せいぜい密度の濃い時間を過ごさせてもらおうと、残った仕事を片づけに休憩室をあとにするのだった。
#両想い #千至 #ワンライ
ねがいごとひとつ
中庭が、いつものごとく騒がしい。
この劇団に入団して、ここで過ごしていくと決めてから、およそ騒がしくなかった日などないのだが、今日は一段と騒がしいような気がした。
今日は7月7日、七夕という日らしい。
その行事の由来などは知っているが、そういったお祭り騒ぎに参加しようなどと、今まで思わなかった。そもそもがそういう行事に疎かったし、たまに知ったものがあっても任務だったり、独りきりだったりと、なかなか体験することがなかったのだ。
(アイツがいたら、やってたのかな。密も引っ張ってきて、短冊に願い事とやらを書くんだろう)
千景は、リビングや談話室で書いた短冊を我先にとつるしに行く劇団のメンバーたちを少し離れたところから眺め、あの時離れるまで一緒にいた大切な家族を思い起こした。
織り姫と彦星が年に一度逢えようとも、もう二度と逢えない大切な家族。反吐が出そうなほど胸くそ悪い組織に属していながらも、あの時は確かに幸福だったと、千景は唇を引き結んで拳を握った。
今この瞬間が、幸福でないわけではない。
あんなことをしでかした自分を受け入れてくれたこの劇団には感謝しているし、命に代えても守り抜くと決めている。
だけど、寂しい。
あの男がいないことが、とても、寂しい。
もし彼がここにいたら、満面の笑みでみんなの輪の中に混ざっていただろう。彼にみんなを逢わせたかった。みんなに彼を逢わせてみたかった。
「っしゃ、会心の出来」
楽しそうな声が聞こえた。千景がそちらを振り向けば、今まさに短冊を書き終えたらしい、茅ヶ崎至の姿。
意外だなと思った。至が、こういう行事に参加するなんて。職場での彼はもちろん、ここでの彼はゲームにしか興味がないのかと思うほど、引きこもりだ。それでも恋人関係になってからは、外に出るようになったのだとか。しかし外とは言っても、結局は屋内に行くようなものだから、日を浴びないのは変わらない。
「茅ヶ崎も、短冊つるすのか?」
「まあ、便乗しなきゃソンですし? 一年に一度、恋人に逢えて織り姫も彦星も浮かれてくれてるうちにね」
「……へぇ。あんまりかわいげない答えだな」
「ハハッ、かわいげとかワロス」
成人した男に、と至は肩を震わせる。曲がりなりにも恋人なのだから、多少は可愛いと思うこともあるのになと、口には出さないで千景はため息だけ吐いた。
「それで、なんて書いたんだ。随分時間かかってたみたいだけど」
「ん? コレです」
「……〝単発SSR祈願〟?」
至は千景に得意げに短冊を向けてみせてくる。いったいどんな壮大な願い事が書かれているのかと思ったら、なんてことはない、いつもの茅ヶ崎至だった。これは果たして安堵していいものかどうか。
「ちょうど、そろそろ推しのイベントが始まるんですよね。だからこうして祈願を」
「お前……俺をノーロマンだのなんだの言うくせに、そっちも大概ロマンがないぞ」
「うるさいですよ。推しのSSRは究極のロマンです」
「はいはい」
言って、至は短冊をつるしに笹の方へ向かっていく。そんな彼を笑顔で迎える他のメンバーが、なんとも微笑ましい。至も楽しそうな笑顔で、ここは彼にとっても居心地のいいところなのだろう。
そういうところだからこそ、自分をさらけ出した願いを書けるに違いない。
自分の背で届くところにつるせばいいものを、空に近い方がいいと思ってか、少しかかとを上げて笹に手を伸ばしている姿が、携帯端末の画像フォルダに収めたいくらいに可愛らしい。
無意識に口の端を上げるけれど、彼を愛しいと思えば思うだけ、後ろめたさと寂しさが体の中に降り積もる。
大切な人が、傍にいなくて寂しい。
それなのに、笑っていられることが後ろめたい。
こんなに簡単に幸福になっていいはずがないのに、湧き上がってくる温かな想いがある。
それと同時に、簡単に願い事が書けてしまう至を羨ましいとさえ思う、黒い気持ちが這い上がってくる。
「ねえ、先輩の短冊見つからなかったんですけど、ちゃんとつるしました?」
「自分の終わったのになにをしてるのかと思ったら、探してたのか?」
短冊を無事につるし終わって、満足そうな顔をしているかと思ったが、千景のもとに戻ってきた至は不満そうな顔つきだった。いや、不満というよりは、不安そうだった。
探し足りなかったかなと、笹を再度振り向く至に、安心させてやろうという思いで口を開いた。
「心配しなくても、お前は見落としてないぞ茅ヶ崎。俺は短冊書いてないから」
「え?」
恋人の短冊を見落としてたまるかという思いでもあったのだろうと、千景は笑いながらそう続けた。だけど予想に反して、至はさらに不安に駆られた顔つきで振り向いてきた。
「書いてないって……なんでですか? 短冊、まだいっぱいありましたよ? 真澄なんか、一枚じゃ足りないって3枚くらいにびっしり監督さんへの愛の告白書いてて……や、あれは願い事になってないけど、さらに二つ並べるとハートになるってヤツもあったし」
「うーん、願い事とかないっていうか、思いつかなくてね」
白紙の短冊がなかったわけではない。今からでも書きに行こうと、指先を掴んで引っ張りかける至をやんわりと制した。
「願い事……ないんですか……?」
「そうだな。まあ、大抵のことは自分でなんとかするし」
ひとつ噓をついた。願い事がないわけじゃない。叶いそうもない願いがあるだけで。
願い事なんか書けやしない。あの楽しそうな輪の中に入っていく勇気もない。
「紙切れに書いた願い事が叶うなら、俺は何枚でも――」
何枚でも書くのに、と言いかけて、ハッと口をつぐんだ。
「いや、なんでもない」
「……ない、の、か……」
「茅ヶ崎?」
「…………なんでもないです」
至は掴んでいた千景の指先をするりと放して、俯いて顔を背ける。寂しそうで、残念そうで、いったいどうしたのかと訊ねかけたけれど、パッと上げられた顔に遮られた。
「さすが、ノーロマン先輩ですね。ま、先輩に短冊の願い事とか、ハードル高かったんでしょ」
「あのな茅ヶ崎」
「俺、部屋に戻りますね。デイリー課題まだ終わってなくて」
肩を竦めて、至は本当に部屋へと戻っていく。もしかして願い事を確認してからかいたかったとか、こっそりサプライズで叶えたかったとか、そういうことをしたかったのだろかと考えてみるも、至自身の願い事も大概ロマンがなくて、そんなに可愛らしいことを考えているとは思えなかった。
千景は、不思議に思いつつも、ハードルが高いのも事実だなと苦笑して、綺麗に飾られた笹を振り仰いだ。
その日の夜、月にかかっていた雲も空気を読んで退散し、空には綺麗な天の川が流れた。
なぜかいつもよりほんの少し豪勢な夕食を団員みんなで楽しんで、それぞれが思い思いに過ごし――たと思う。
ただ、至の元気がないなと思ったのは、千景だけだろうか。笑ってはいるものの、ぎこちないような気がした。ため息も、多かったような。
どうしたんだ、と訊いていい間柄ではある。会社での先輩後輩であり、ルームメイトであり、それ以上の関係でもあるのに、しょんぼりと落ち込んでいるように見える背中に、どう声をかけていいのか分からなかった。
「千景」
不意に呼ばれて、千景はそちらを振り向いた。相変わらず気配のない、御影密だ。彼も、大切な家族のひとり。
「なんだよ」
「見せたいものがある」
「はァ?」
昔からの癖もあり、密に接する時は他の団員より雑な対応をしてしまう。あの頃の日常を思い出せるせいか、変えようとは思わない。密と仲がいいですもんねと、至がたまに頬を膨らませるのも知っているが、至が本気でどうにかしてほしいと願っているわけではないことも知っているから、密との距離感を変えようという思考はなかった。
「見せたいもの?」
「外。っていうか、屋根……」
「屋根? 意味が分からん、ひとりで寝てろ」
「千景が見なきゃいけないものが、ある。……登れない?」
「ふざけるな」
密の方も大概扱いが雑で、遠慮のなさが浮き彫りになる。だけどこれは、本当に昔からだ。
彼が――オーガストがまだ、生きていた頃からの。
千景は密に挑発されるがままに、2階の回廊から軒に手をかけ、壁を蹴り上げて体を宙に舞わせ、屋根に手をついて降りる。密の方も軽い身のこなしで登ってきた。ふたりでこうしていると、組んで任務に就いたことを思い出す。
だが、心なしか嬉しそうな横顔は、そんな昔を懐かしむためではなかっただろう。
「それで、なんだ。二人で月見でもないだろう」
「あれ、さっき見つけた」
「は? 笹じゃないか。見つけたもなにも、昼間からずっと飾ってあるだろ」
密が指を指したのは、寮の壁に沿わせるように立てられた、笹。2階を覆い、屋根にまでかかっている。大きいわけではなく、少しでも空に近いようにと、大分底上げして立てられているせいだ。
だがその笹は、千景だって見ている。立てるのを手伝わされもした。それなのに、密は何を見つけたと言って人をこんなところまで駆り出したのか。
「あそこの短冊。緑色の」
「え? ……ああ、誰だあんなとこに」
「立てる前につけたんだと思う……至が」
密が口にした名前に、千景は目を瞠った。
笹の、ひどく先端の方に、エメラルドグリーンの短冊が見える。下からでは絶対に確認できない位置だ。笹の色と相俟って、あると知って見なければ埋もれてしまいそうなものでもある。この屋根の、この位置からしか、見られない。
「え、でも、茅ヶ崎の短冊、違うヤツだったけど……」
「2枚書いたんじゃないの……名前ないけど」
「は? 名前がないんだったら、アイツのとは――」
「さっさと読んで、千景」
オレは早くここで眠りたいと続ける密に、部屋で寝ろと悪態混じりに返してやりつつも、風に揺れる短冊を注視してみた。
〝先輩の願い事が叶いますように〟
目を見開く。
これは確かに、茅ヶ崎至しか書けないものだ。この劇団で卯木千景を〝先輩〟と呼ぶのは、彼しかいない。
千景は、心臓から沸騰した血がせり上がってくるような感覚に襲われて項垂れて頭を抱えた。
至の元気がなかった理由はこれか、と理解できてしまう。
せっかく願い事が叶うようにと祈ったのに、千景はその願い事がないと言ってしまったせいで、無駄になってしまったと落ち込んだのだろう。それでもなんでもないように振る舞って、いつも通りゲームにいそしむふりをしたのか。
そう思うと、彼がいじらしくて仕方がない。
本当の願いをかけらも知らないで、無責任にも叶うようにと祈ってくれた彼が、どうしようもないほど愛おしい。
「アイツは俺を昇天させたいのか……」
願いはひとつだった。
もう一度オーガストに逢いたい。
そのためには、彼がこちらに降りてくるか自分が昇天するしかないのだが、別の意味でも昇天しそうである。
「馬鹿なヤツ……」
「千景、ニヤニヤしてて気持ち悪い」
「うるさい、アイツには言うなよ」
「マシュマロ」
「…………明日買ってきてやる」
「楽しみ」
千景はひょいと器用に屋根を降り、迷うことなく103号室へと向かった。
「どこ行ってたんですか?」
「ん? ちょっと」
部屋のドアを開ければ、ソファでいつも通りゲームを楽しんでいるように見える至の姿。それでも指先の動きがいつもより鈍くて、無駄に落ち込ませてしまったんだなと、千景は反省することしきり。
「願い事ね、あったんだ」
「え? そうなんですか……って、は!?」
そんな至の隣に腰をかけ、肩に頭を預けた。こんなことをするのは初めてかなと思ったら、間違っていなかったようで、至があからさまに動揺してゲーム機を床に落とした。
「あ"ッ、やべっ……」
「……拾わなくていいの?」
「え、あ、あの、でも」
至はそれでも、拾おうとしない。きっと拾おうとすれば千景の頭がずれてしまうからに違いない。触れていたい、触れられていたいという思いがあるようで、千景はホッとして口の端を上げる。
同じ思いだと。
「あの、それで、先輩の願いって……?」
「話せない」
「は?」
「今はまだ、話せないんだ、俺の願い」
「何それ」
「だから、話せる時がきたら、聞いてくれる? 茅ヶ崎」
「焦らしプレイキタコレ」
できることなら叶えさせてあげたかったのに、とでも思っていそうな横顔をちらりと盗み見て、千景は続ける。
「茅ヶ崎はマゾだから大丈夫だろ」
「マゾプレイはゲームに限ります」
「うーん、まあ、死ぬ時くらいには、言えるかな?」
「いつだよおつおつ」
「鈍いなあ、やっぱりお前もノーロマン」
「意味が分かりません」
「その時まで、ちゃんと一緒にいろってことだ」
「え、は、…………え?」
千景は、至が意味を把握できるまで待ち、彼が驚嘆で口を覆ったのを確認して、その手を剥ぎ取って唇にキスをした。
願い事はひとつだった。
ひとつだけのはずだった。
増えた。きっとこれから、彼の傍でもっと増えていくに違いない。
いつかまたオーガストに逢えるまで、傍で、ともに――。
#両想い #千至 #ワンライ
こういうところ
水曜日は、ノー残業デー。
の、はずだ。それなのにどうして、まだデスクにいるのだろう。
茅ヶ崎至は、パソコンの前で大きなため息を吐いた。
来週取引先の企業相手にプレゼンがあるのだが、うまく資料が上に通らない。訴求力が弱いだのもっと分かりやすい説明が欲しいだの、無理ではない難題がぽんぽん飛んでくるのだ。いったいどこまでを求められているのか、終わりが見えない。
だけど仕事はこれだけではなくて、かかりっきりになれないのがつらいところである。日々の仕事をこなしてから、空いた時間で資料を作らなければならない。
ゲームのデイリー課題をこなすのは得意だが、仕事はやる気が出ない。
そうやって後回しにしてしまったツケが、今、こんなところで。
この仕事がなければ、今頃は寮で美味しいご飯を食べて、面倒くさいけどお風呂に入って、笑い声の聞こえるあの空間でゲームを楽しんでいただろうに。
そう思うと、この資料にOKを出さない上司が恨めしくも感じられた。
「何が足りないんだよ、マジ殺したい」
タン、と乱暴にエンターキーを押す。もちろん、同僚たちが全員返ってしまっているからこそ出る悪態だが、たったひとり、それを聞いている男がいた。
「口が悪いな、茅ヶ崎」
「――先輩!? は? な、なんで……とっくに帰ったはずじゃ」
会社の先輩で、劇団の仲間である卯木千景が、背後から声をかけてくる。気配なんかまるでなくて、文字通り飛び上がりそうなほど驚いた。もっとも、至に人の気配が探れるかどうか、そもそも分からないところだが。
しかし千景は自分の仕事を終えてとうに退勤しているはず。なぜここにいるのだろうか。
「帰ったよ。お前がまだ帰ってこないみたいだったから、戻ってきた。さっきLIME入れたのに」
「え? あ、すみません、気づかなかった」
言われて携帯端末を確認してみれば、確かに千景から心配するようなメッセージが届いている。
見ていなくてよかったと思ってしまった。
何しろたまにデレるこの恋人は、至の心を簡単に持っていってしまう。仕事どころじゃなくなるはずだ。
「どこで詰まってるんだ。今日残業ナシの日だろ、サビ残するとまずいんじゃないか」
「そう言われても、上がGOサイン出してくれないんですから……」
正直どこで詰まっているのかも、自分では分からない。上の求めるものが、少しも見えてこないのだ。
「見せて。それと、ちゃんとメシ食え。テイクアウトの買ってきてやったから」
「カレーじゃないですよね」
「カレーがよかった?」
「昨日三食カレーだったんで、それは嫌です」
「だろうね。この時間だし、お茶漬けだよ。出汁茶漬けの店、近くにできてただろ」
言って、千景は至の前にビニール袋を差し出してくれる。使い捨て容器に入ったご飯と具材、そして温かなお出汁。
「あそこ、テイクアウトやってたんですか……ありがとうございます」
その温かさは千景の優しさと相俟って、疲れた心を癒やしてくれる。至はありがたくその差し入れをいただき、白飯の上に焼き鮭を乗せてお出汁をかけた。食欲をそそるほのかな匂いが、体中に染み渡ってくる。
「ふぅん……なるほどね」
その間に、千景は至の作ったプレゼン資料を見てくれている。その言い様は、やはり千景の目から見ても何かが足りないのだと知らされた。
「やっぱ、駄目そうですか?」
「駄目というか、伝わりづらい、かな。これS社だろ、あそこは古株多いから、少し頭が硬いんだよ」
少し待ってて、と千景は資料をプリントアウトして、改善案を提示してくれる。こんなところを見ると、千景はやっぱり〝先輩〟なのだなと、変なところで感心してしまった。請け負っている取引先が違うせいか、直接指導を受けたことはなかったが、千景の成績が良い理由が少し分かった気がする。
「B社の時は、若手が多かったんだろう。新しいモノを受け入れようとする思いがたぶん強くて、契約取れたんだと思うぞ」
「あ、……確かにそうだったかも。じゃあ、ここもう少しシンプルにした方がいいですよね」
「そういうこと。違う会社なんだから、それぞれに合った資料を作った方がいい」
「情報収集も仕事のうち、ですか」
先輩の専売特許ですねと付け加えると、勝ち気な笑顔を向けられた。
卯木千景のこういうところが、無性に腹立たしい。腹立たしいほど、胸が高鳴る。心が疲弊していたことも忘れて、千景に甘えてしまいたくなる。
「先輩、ほんとずるい……」
「そう? 言っておくけど、こんなことしてやるのお前だけだぞ」
「余計タチ悪い」
「お前が俺にときめいてるのは分かったから、それ早く食べて。資料直したら、早く出るぞ。運転は俺がしてやる」
至れり尽くせりで、いっそ気味が悪い。千景に何かあったのだろうかと、不思議に思って視線を向けてみれば、手首につけた腕時計をトントンと指された。
「早くお前にキスをしたい。せっかくノー残業デーだから、時間多く取れると思って、待ってたんだぞ」
絶句して、顔を赤らめる。きっと彼の運転する車がまっすぐ寮に向かうことはないのだろう。
やっぱり卯木千景のこういうところが、無性に腹立たしいと思いつつ、至は残った出汁茶漬けに手を伸ばすのだった。
#両想い #千至 #ワンライ
休日の過ごし方
日曜日は好きじゃなかった。
いや、ある意味好きだったけど、嫌いでもあった。特に夜だ。この時間が終わってしまえば当然次は月曜日が来て、出勤しなければいけない。それが苦痛だった。働きたくない。ゲームだけしていたい。なんとか不労収入で生活したい。
徹夜でゲームするのもいいんだけど、それで仕事失敗したら大変なことになる。外面だけはいいから、疑われるようなことはないんだけど、約一名だませない相手がいるんだ、今は。
いや、だませないっていうか、さらけ出しちゃってるっていうか。
卯木千景は、職場の先輩だ。だから俺の仕事中の姿を知っている。その上、MANKAI寮のルームメイト。つまり寮での俺の姿も知っている。だますのは絶対に無理だ。
加えて、俺の隣で寝ているこの人は恋人でもあって、そもそもだましたいという感情がない。
職場での姿も、寮での姿も、ベッドの中の色んなあれも知っていて、全部受け止めてくれる。そんな人いるなんて思わなかった。
だから最近は、日曜日も好き。
仕事で疲れて帰る金曜日、体力が残っていればベッド行くけど、忙しい時期は無理になる。体力つけろって怒られるんだよね。解せぬ。
土曜はゲームを楽しむ日。部屋にこもって好き勝手ゲームしていても、先輩は怒らないし邪魔しない。最近は万里も先輩が部屋にいることに慣れて、以前みたいになった。
そうして、夜からこの日曜の朝にかけての時間が、俺にとっては至福のひととき。
ゲーム楽しんで鋭気やしなって、夜は先輩の運転でラブホに向かう。通勤に車使うときは俺が運転するから、先輩の運転するとこ見られるのは嬉しい。やっぱね、俺も免許持ってるのに先輩の運転で出勤すんのは気が引けるしね。
何より、先輩の運転に見惚れた状態で出勤なんかできるわけない。絶対に顔が緩んでる。
そんなだから、こんな時間、すごく好き。
先輩が俺の隣で眠ってくれている。最初にこの寝顔を見たときは、嬉しさで死ぬかと思った。俺も先輩も、他人と深く関わるのが苦手だ。それなのに、無防備に寝顔をさらせる、さらしてくれるっていうのは、劇的な変化だと思う。
先輩、眼鏡してる時もいいんだけど、眼鏡してなくてもかっこよくてね。正直顔面もチート。マジ腹立つ。
少し汗に湿った髪が、先輩の額を隠す。俺はそれをそっと撫でて短く息を吐いた。
「先輩、起きてるでしょ」
「うん」
やっぱり、と呆れれば、ようやく先輩の目が開く。見慣れていてもおかしくないのに、全然慣れない。俺をじっと見つめてくる目に胸が高鳴る。
「おはよう、茅ヶ崎。お前は俺の寝顔眺めるの好きだな、本当に」
「別に」
「ふぅん?」
否定はするけど、やっぱりごまかせない。事実なんだからしょうがないけど、楽しそうに笑う先輩に腹が立つ。俺だけすごく好きみたいだろ。
「俺は好きだけど。茅ヶ崎が、なんかネコみたいに無意識にすり寄ってくるのも可愛い」
そうでもなかった。先輩も大概俺のこと好き過ぎだった。
「今日、朝ご飯どうします?」
「お腹減ってる?」
「……ちょっと」
「ああ、そうか、昨夜は少し激しくしすぎたから」
「そういうことを言ってんじゃないんですけど」
「なるほどもっと激しくてもいい、と。了解した」
「そんなことも言ってません!」
ああ、いやだこの人、絶対に分かっててやってるに違いない。そういうとこが好きなあたり、もう救えないけど。
「シャワーして、どこか食べに行こうか」
「いいんですか? 今日は暇なんですね」
「この間朝までいられなかったこと、根に持ってる?」
「別に」
「……今日はずっと一緒にいられるから、そうむくれるな」
ぱち、と目を瞬く。そうか、今日は一緒にいられるのか。だったらむくれてる時間が惜しい、さっさとシャワーしよう。体のあちこち痛いけど。
「先輩のおごり?」
「ちゃっかりしてるな。別にいいけど」
「ははっ、おねだり上手って言ってくださいよ。先輩の機嫌がいい内に言質取っとかないと」
「お前ね……。でも、いいな、こういうの」
「え?」
「ゆったりした日曜日、茅ヶ崎とデートするの好きだから」
さて一緒にシャワーしよう、と先輩がベッドを抜け出す。
困った。日曜日、もっといっぱい好きになる。
#両想い #ラブラブ #千至 #ワンライ
きみがほしい
先月の売上データを分析して、会議に使う資料を、ひとまずの体裁を整え誤字脱字だけチェックして、上書き保存した。
右下に表示される時計をちらりと見やり、至は周囲に視線を走らせる。みんな自分自身の仕事に忙しくて、誰もこちらを気に留めてなどいやしない。ふ、と小さく息を吐き、できるだけ不自然でないように腰を上げた。
ちょっと飲み物買ってくる。そう隣の同僚に声をかければ、おー、と気の抜けるような声が返ってきた。しかし助かった。ここで、「俺のも買ってきて」などと言われていたらと思うと、席を離れる理由の選択肢を間違えた自分自身が情けない。
このミッションはどうしても完遂しなければならないのだ。誰にも見咎められず、切り抜けてこそ、意義がある。
そう思いつつ、逸る心臓を周りに気取られないように足を踏み出した。
(落ち着け。落ち着け、焦ったら駄目だ。変に思われる)
誰にも引き留められませんように。そう思いながら踏み出す足が、震えているように感じる。膝のあたりがむずがゆくて、手の指先が冷えているような感覚さえあった。
ドキン、ドキンと胸が鳴る。呼吸も心なしか浅くて、唇が震える。
(大丈夫だ、気づかれない)
至はフロアを抜けて廊下を歩き、人がいないことを確認してから階段へと続くドアを開けた。いつもより重く感じる鉄扉は、緊張しているからに違いない。
踊り場から身を乗り出して、上階に人がいないことを確かめる。そして、下の階にも。ほっと息を吐いた。
自社ビルであるからか、社員たちのフロア移動は大抵がエレベーターだ。ワンフロアでさえそうする者たちが多く、朝や定時直後は大変な混雑になる。健康のためにと自分のフロアまで階段で頑張る者もいるようだが、仕事中はどうしても疲れていて、エレベーターになるらしい。
至にはそれが有り難かった。
心置きなくゲームができる。
あまり褒められたことではない。というか、バレたら確実に叱責を受けるだろう。至とて、そこまで見境なく就業中にゲームをするわけではない。喫煙者が煙草休憩にいくくらいの頻度でしかないし、今の時期は忙しいのだ、いつもならまず仕事を片付けるのを優先する。
だけど先ほども述べたように、このミッションはどうしても完遂しなければならないのだ。
至は焦る足でフロアを二階分ほど降りる。手すりから再度上下階を見上げ、誰も来ないことを確認した。
ポケットから携帯端末を取り出し、アプリを立ち上げる。ここは電波があまり良くないが、そうも言っていられない。
邪魔をされたくないし、イケメンエリートで通っている自分が、こんなものにハマっているなんて知られたくない。恥ずかしいわけではなく、後々面倒なことになりそうなのだ。猫を被るのも楽じゃない。
そうして立ち上がったアプリのホーム画面を眺め、至はコクリと唾を飲んだ。もう少しでメンテナンスに入ってしまう。するなら今しかない、タイムリミットが迫ってきていた。
(今度こそ……きてくれますように)
至がタップしたのはデイリーの課題でも特別イベントでもない。
それは、限定スカウトのページ。推しキャラのスカウトガチャが、今日までなのだ。もっと詳細に言えば、あと五分ほどで終わってしまう。
至はできるだけ何も考えないように、石を消費して十人のスカウトができるボタンをタップした。
(来い、来い来い来い、来い)
「来いッ……!」
スカウトのキャラが揃い、くるくると画面の中で踊る。スキップはできるのだが、このスリルと期待を楽しむには、うずうずしながら眺めるのがいちばんだ。
だが、結果は敗退。
「…………ッソが! 排出率もっと上げろよ!」
いや、SSR一枚とSR三枚があればまずまずの結果ではあるのだが、至が欲しいのはそれではない。
チッ、と盛大に舌を打ったところで、人の気配。至はハッとして端末を持った腕を下ろし、息を潜めた。
どうも、下の階の社員数名が、会議後に頑張って階段を使おうとしているらしい。なにも今日いまこのときに頑張らなくても! と悪態を吐きたい気分だが、至はただじっと祈った。ここまで上がってきませんようにと。
祈りが通じたのか、社員たちは会議の結果をグチグチと呟きながら、階下に降りていった。
ほう……っと安堵の息を吐く。
「落ち着け、落ち着け、あと二回……三回、できる」
タイムリミットまでもう少し。迷っている暇はない。至はもう一度スカウトボタンをタップした。目当てのカードが出ない。出ない。課金する時間はあるかどうか。
「もう一度……っ!」
石も、時間も、もうこれが最後かと思われた。
九人ハズレ、最後の一人が明かされる。至は目を見開いた。
それこそまさに、待ち望んだ推しのカード!
「――ッしゃあ! キタコレ!!」
思わずそう叫んだ。ここは寮の中ではないのだと我に返り、口を押さえる。だけど仕方がない気がした。ずっとずっと欲しかったものがやっと手元にきてくれたのだから。興奮するなという方が無理だ。ひとまずスクリーンショットを撮っておくことにする。
「良かった……!」
口許が緩む。安堵して、力が抜けていくようだ。
だから、油断した。
「いけないなあ、仕事中にゲームか? 茅ヶ崎」
上の方から声が降ってくる。ぎょっとして振り仰げば、すぐ上の手すりから見下ろしてくる男がいた。
「せっ……んぱい」
思わず声がうわずる。千景は楽しそうに笑みをたたえて階段を下りてきた。
どうして、なんでここに。そんな思いでいっぱいである。
何しろ、
「先輩……明日まで出張だったんじゃ……」
千景は今ここにいないはずなのだから。ドキンドキンと鳴る胸を静める暇もなく、千景は踊り場から回り込んで至の一段上で立ち止まった。
「早く交渉済んだからな。食事の誘い断って、帰ってきた」
「さすが、優秀ですね」
どうにも照れくさくて、ふいとそっぽを向く。携帯端末を早いところしまわねばと慌てたのが、いけなかったのかもしれない。千景に端末を持った手首を取られた。
「デスクにいなかったから、ここかなって当たり付けてきたけど、本当にゲームやってるとはね」
「う……」
「口止め料は何をもらおうか」
「意地が悪いですよ、先輩」
「仕事中にゲームする方が悪い」
ぐうの音も出ない。確かに、至が全面的に悪いのだが、素直には認めきれない。
「だって仕方ないでしょ。全然こなかったんですから。今日のメンテ前までがリミットだったんです」
見逃してくださいよ、と少し不機嫌顔で呟く。このミッションだけは逃したくなかったのだと、説明してやりたいが、したくない気持ちもあった。
「そんなに欲しいカードだったのか? SSR?」
手を離して千景はため息を吐く。至はコクンと頷いて、覚悟を決めた。仕事まで放り出す人間だとは、たとえ事実でも思われたくない。
「先輩が悪いんですよ……」
「俺? なんで」
至は端末を操作し、撮ったスクリーンショットを千景に向けてみせた。千景はひとつ瞬いて、目を丸くする。
「先輩のSSR……どうしても四枚欲しくて」
欲しかったのは、卯木千景のSSR。普段見られない笑顔が、どうしても欲しかった。
しかしどうせなら完凸させたいし、だけど開花前も取っておきたい。そうなると、自然と四枚必要になってくるのだ。イベントは無事に完走したけれど、欲求は深かった。
「あのね茅ヶ崎……」
千景が、呆れとも照れとも取れそうな声音で名を呼んでくる。恥ずかしくてしょうがない。照れくさくてしょうがない。
「お前には本物の俺がいるのに」
「出張ばっかりの人が、よく言う」
「俺がいない間それをオカズにするのか?」
「なっ……あ、のねえ、そういうことじゃないんですよ、先輩のSSRが俺の端末の中にあるってのが重要でそういう、やらしい、ことは……、先輩、このカードの唇やらしすぎません?」
「したんだな」
「………………一回だけ」
至は恥ずかしさで、たまらず項垂れた。手の甲に当てた額が、熱いように思う。
「ちがさき」
千景の甘ったるい声が、耳のすぐ傍で聞こえる。思わず肩を揺らせば、ちゅっと音を立てて耳朶にキスをされた。
「四枚そろえるの、もしかして課金したか?」
「……まあ、ちょっと」
「茅ヶ崎の〝ちょっと〟は信用ならないよね」
「…………これくらい」
言って、掛けた金額分の指を立ててみせる。千景にとっては想定外だっただろうか。それとも想定内だっただろうか。腰に腕を回されて、体が密着した。
「せ、先輩ここ職場」
「お前に言われたくない」
「んぅ」
唇が重なる。唇を吸われる。唇に歯が当たる。
そっと開けばゆっくりと舌先が入り込んできて、誰も来ない階段で長いキスをした。
「茅ヶ崎、お前が〝俺〟に課金した分、今夜お前の体に返すから」
くらり。
目眩のするような甘い声で囁かれ、至は甘い息を吐き出した。
#両想い #ラブラブ #千至 #ワンライ
ネコと甘いもの
「金曜日のネコ」の続編
なんの面白みもないホテルだった。だけど、面白みなどこの際どうでもいい。体を重ねる大事な恋人がいれば、どこだって構わないのだ。
「さて、どうしようか。シャワーする?」
千景はネクタイのノットに指をかけて緩めながら、どこかそわそわした様子の至に話しかけた。すると彼は楽しそうに笑って振り向いてくる。
「それよりキスが欲しいにゃん。うんと熱いヤツ」
ぱち、と目を瞬く。そのお遊びはまだ続いていたのかと。
ネコが苦手だという千景相手に、ネコの鳴き声を付け足して会話に混ぜてくる初めての恋人に、呆れよりも愛しさがこみ上げてくる。
「ふふ、冗談ですよ先輩。シャワー、しましょ、……っ」
そんな至をぐいと抱き寄せて、唇のすぐ傍で囁いてやった。
「熱いキス、いらないのか?」
答えを聞く前に、唇を重ねる。驚いたのか、ほんの少し見られた抵抗も、すぐに和らいで応えてくれた。機嫌がいいなと思うのは、彼の指先が遊ぶように腕を撫でてくるせいだ。ジャケットの感触としわを楽しむように動く至の指は、やがて背中に回り、千景の体を強く抱きしめてきた。
「んっ……んぅ、はぁ」
ぺろり。
左から右へ、右から左へと唇を舐めてやると、じれったそうに息を吐きながら誘い込んでくる。舌を捕らえさせ、ちゅうと吸われてからようやく、千景は本格的に至を味わった。
あまい。
先ほどのカクテルの余韻だろうか。グラスの縁につけられていた砂糖を舐め取ってもらったけど、やはり彼の唾液と混じる甘さは不快ではない。むしろもっと深く味わいたいとさえ思う。
上顎を舌先でつつき、のけぞる至に唇を押しつけて、余すところなく暴いてやろうと吸い上げる。びく、と震える腰を撫で、なだめるように、煽るように舌をあまく噛んだ。
「先輩……」
とろけたような瞳で見つめられ、シャワーなどしている余裕もなくなる。至の腕を引いてベッドに倒れ込み、お互いにタイをほどき合い、脱がせ合った。
「今日……どうしたんですか? 嬉しいことばっか」
「言ったろ、頑張ったご褒美」
「んっ……はは、マジか」
プレゼンを頑張ったご褒美なんて建前で、ただ抱きたがった欲を包み隠す。至は今イチ理解していないような気がするのだ。こんなに好きになってしまったこちらの恋心というものを。
「あと、茅ヶ崎が可愛いことするから」
「……何かしましたっけ、俺」
「〝にゃん〟」
面白そうに目を細めて応えてやると、あ、と思い出したように息を吐いた。元は至の小さな悪戯だったのだろう。立ち寄ったバーで千景の苦手なネコの真似をした彼が、どうにも可愛くて仕方がなかった。それと同時に、あんな店で不用意な発言をしたせいで、向けられるぶしつけな視線に苛立った。
「苦手ってのも、噓なんですか?」
「噓じゃないよ、別に。抱かれるより抱く方がいい」
「……だからそういう話じゃなくて!」
ネコの意味を違う物に変えて答えれば、あからさまに不機嫌な顔で怒鳴りつけてくる。嫉妬されるのが心地良いなんて、彼に恋して初めて知った。
「怒ってるところも可愛いな、茅ヶ崎」
「はァ!? ……よ、酔っ払ってます?」
「キスオブファイア一杯で酔うと思ってるのか。本当のことを言ってるだけだ」
指先で至の体のラインをなぞり、先日つけたキスマークがほんのり残っていることに口の端を上げ、その隣に新たな痕を付け足した。
「動物のネコが苦手なのも、抱く方がいいってのも、茅ヶ崎を可愛いと思ったのも、全部本当だぞ」
面映ゆそうに、至は眉を下げる。千景は人差し指を彼の唇に押しつけて、ねだった。
「ほら茅ヶ崎、にゃんは?」
もっと聞かせてほしいと上から見下ろす。至は困ったように視線を泳がせてから、唇の隙間でちろちろと舌先を遊ばせ、千景の指先を舐めた。
「……にゃあん?」
「うん、可愛い」
正直、猫耳やコスプレといったものには興味がない方なのだが、相手次第なのだなとここで知る。
「……苦手、ってのは?」
「苦手だよ。何を考えているか分からないし、言葉が通じない。どう接したらいいか悩むんだよね」
「いやネコの言葉が分かるとか三角くらいしかいないんじゃないですかね」
「茅ヶ崎、にゃん」
「はいはいにゃんにゃん」
呆れぎみに返してくる至の胸に手を滑らせ、つ……と指先で愛撫した。
「ぁ……っ」
「だからネコは苦手。でも、茅ヶ崎のことはよく分かるからな。俺の指にどう反応して、何を欲しがってて、どうしたらもっと可愛くなるのか。全部知ってる」
そこに避ける理由はない。至の頬が真っ赤に染まる。ずるい……なんて呟く唇さえ愛しくて、思わず口づけた。
「んにゃむ」
ネコともヒトとも取れる声が上がって、千景は笑ってしまう。
「茅ヶ崎、覚えておいて。ネコも甘いものも、お前限定で大好きだから」
恥ずかしさに耐えきれず、至は両腕で顔を覆ってしまった。そんな彼の胸に優しく口づければ、
「……にゃあん」
可愛い恋人が、甘ったるい鳴き声を聞かせてくれた。
#両想い #ラブラブ #千至 #ワンライ

ビカ、と鮮烈な光を放った数秒後に、ゴロゴロガゴンと空が騒音を響かせた。
「うわっ……えげつない……」
至はそれに会社の廊下の窓で遭遇し、思わず肩をすくめる。雨だという予報はあったが、ここまでになるとは予想していなかった。
「今の、どこかに落ちたかな」
横から声をかけられて、振り向きもせずに窓の外を眺めた。声をかけてきた相手も同じように立ち止まって、ガラスに打ちつけられる雨を眺めているようだった。
「ひどい降りになりそうですね」
「そうだな……茅ヶ崎、今日車だっけ?」
「あー、はい。定時で上がれそうなら、一緒に帰りましょ」
「うん。俺は問題ないけど、そっちは大丈夫なの? 予算案、できあがってないんじゃなかったっけ」
視線だけで、隣に佇む恋人――千景を見やれば、愉快そうな顔で覗き込まれた。千景の言う通り書類の提出どころか完成もしていない状況で、締め切りは本日17時。あと2時間もない。
「い、今からやろうと思ってたんです」
「はいはい、ちゃんと待ってるから。頑張れ」
そう言って、千景は至の手の中にチョコ菓子を落としていく。
コンビニでよく見かけるものだが、千景が食べているところなど見たことがない。それはそうだ、彼は甘いものが好きじゃない。自分のために買うことはないし、彼に好意を持っている女性たちはもっとお高いスイーツを贈ってくる。
となれば、これは。
(やばい、可愛い、どうしよう)
千景が、仕事に行き詰まっている至のために買ってくれたものだろう。ランチの際に買ってきたのだろうが、これを持ってレジに並ぶ千景の姿を想像して、どうしても口許が緩んだ。
(がんばろ。ちょっぱやで終わらせて、ご飯誘ってみようかな。今日なら激辛カレーの店でもなんでもつきあえる)
至は辛いものは苦手だが、そこは気持ちの問題だ。小さな菓子でも至のために選んで買ってきてくれたのだから、次は千景の好きなものをあげたい。
ゲームのために働いている至だが、終わったあとのことを考えて、嫌な仕事にウキウキ気分でデスクへ戻っていった。
「残業10分とはね」
エレベーターを降りてエントランスへと向かう。結局定時ぴったりに上がることはできなかったけれど、残っていた仕事量を考えればかなり頑張った方だ。
「待たせちゃってすみませんでしたねっ」
「いやいや、許容範囲だろ」
くすくすと面白そうに笑う千景の横を、同僚たちがお疲れ様~と通り過ぎたり、今帰りなんだ~ともったいぶった視線を投げかけてくる。相変わらずの人気者で、恋人としては鼻が高い。
やきもちを妬くこともあるけれど、今日はハッピーな気分でこっそり優越感に浸っていた。
「けど、本当に雨がひどいな……さっきちょっと止んでたのに」
「止んだの一瞬でしたね。今日車にして良かったわ~、駅まで歩くとか無理」
「スーツ濡れるしな。どうしても、足が。茅ヶ崎、ちゃんとクリーニング出せよ」
「……はーい」
車とは言え、敷地内の駐車場までは徒歩である。水が跳ねて裾が濡れるのはどうしようもない。
ビカビカと元気に光る空と、降りしきる滝のような雨。ときには風も吹いて、傘など無用の長物になる瞬間も。エントランスには、いつこの雨の中足を踏み出そうか迷っている同僚たちがたくさんいた。
「茅ヶ崎、走れる?」
「頑張ります」
「ハハッ、転ぶなよ」
そんな同僚たちの合間を縫って、至は千景とともに駐車場へと向かって駆けた。相合い傘をしたいなんて可愛らしいことを言える状況でもなく、一人一本ずつの傘を差して。
「あぁ~逃げ切った」
「お疲れ」
なんとか車に乗り込んだ数秒後、また雨足が強まった上に、強風も加わる。この視界の悪さでは運転も危険で、少し時間を置くことにした。
「先輩、ご飯どうします? もうちょっとマシになったらどこかで食べていきません?」
「そうだなぁ……雨だし、ちょっと憂鬱な気分飛ばしたいしね」
「雨、嫌いですか?」
「外に出てるときの雨はね。こうして中で見てる分にはそれほどじゃない。茅ヶ崎は雨嫌いじゃない?」
至は例によって携帯端末でいつものゲームにログインし、ミッション開始している。そんな中での会話も千景は気にならないらしく、車の外の雨の音を楽しんでいるように感じた。
「雨は別にいいんですけど、雷は滅べ派」
「へぇ? もしかして、こわ――」
「オンゲとか実況配信してるときに停電にでもなったら死ぬ」
「そっちか。さすが茅ヶ崎だな」
呆れたような笑い声が聞こえる。至にとっては重大で重要な事項だが、千景には理解しがたいだろうか。
「なんですか、怖いからとでも言えばよかったですか? すみませんね可愛くなくて」
「いや、茅ヶ崎は可愛いけど」
「はっ?」
聞き慣れない言葉が聞こえてきて、至は思わず助手席の千景を振り返る。
千景は、からかうふうでなく至をじっと眺めていた。ドアに腕を乗せてこめかみを指先で支える仕草がなんとも様になって、無駄に胸が跳ねる。
「可愛いよ。俺があげたお菓子ひとつでウキウキするところとか。俺と帰るために仕事頑張って早く終わらせるとことか、たまんないよね」
「酔ってます?」
「まだ飲んでない」
「たまに全力でデレるの心臓に悪いんですけど……動悸が激しい」
おかげでミッションが完了しなかった、と諦めてゲーム画面を閉じ、ステアリングに突っ伏す。
「じゃあ治そうか」
「へ?」
肩を掴んで体を起こされ、職場の駐車場だというのに、千景の唇が重なってきた。驚く暇もなく手のひらが心臓のあたりに当てられて、唇を撫でるように舌先が通っていく。
「先輩ここ駐車場……」
「この土砂降りじゃ見えないだろ」
「っていうか悪化したんですけど」
ジャケットを除けてシャツ越しに触れてくる手のひらは、どう考えても煽っているとしか捉えられない。恋人にこんなことをされては、食欲より性欲が湧いてきてしまう。
「雨……少し弱まってきたかな」
「はい」
「……行こうか」
千景は頬にキスをくれた。それは夜が始まる合図。
雷じゃ、ゲームをするのも怖い夜。
#両想い #ラブラブ #千至 #ワンライ